スランプで中々進まなかったのですが、漸く第五話の完成です。
ソードアート・オンライン・リターン
第五話
「月夜の黒猫団」
アインクラッド第11層タフト、キリトにとっては前回、初めてギルドに入った地であり、楽しい思い出と苦い思い出の両方がある場所、その一角にある宿にキリトとアスナ、ユイの三人は居た。
「ここだよね? キリト君が初めてギルドに入ったの」
「ああ…まだ、皆は来てないみたいだけど。とりあえず前回と同じ方法で会って、それから交流を深めていくつもりだ」
前回は、レベルを隠していたけど、今回は隠さずに交流するつもりでいる。
キリトが初めて入ったギルド、月夜の黒猫団、彼らのレベルはこの層では平均で、現在レベル45のキリトとレベル42のアスナが異常なだけだが、実力という点で言えば彼らは若干だが心許ないのだ。
月夜の黒猫団の目標は前線組に合流する事、ならば今のままでは彼らは前線に行くのに無理がある。
「あいつらが前線組に来てくれると俺としては助かるんだ。実力とかそういうのじゃなくて、あいつらの持つ空気がさ」
「空気?」
「ああ、あいつらと一緒に居た時、あいつらが前線組に合流出来たらきっと前線組の殺伐とした空気が変わると思ったんだ」
だけど、その願いも虚しく前回は月夜の黒猫団の壊滅という結果に終わってしまった。しかし、キリトは彼らも救うつもりでこの過去へとやってきたのだから、決して死なせるつもりは無い。
「絶対に、死なせない・・・例えあいつらの仲間になれないんだとしても、必ず生きてSAOをクリアさせるんだ」
「うん、きっと大丈夫。だって今度はキリト君一人じゃないんだもん、わたしも、エギルさんやクルミちゃんたちも居るんだから」
ソロでは感じられなかった仲間というものの頼もしさ。改めてキリトはギルドを創って良かったと思う。流石に団長という立場は気恥ずかしいやらむず痒いやら、未だに微妙な感覚なのだが。
「明日は、前回ならあいつらが窮地に陥る日だ。だから助けに行く」
「うん、付き合うよ」
「私はエギル小父様の所でお留守番してますね、パパ、ママ」
ずっと黙って話を聞いていたユイは相変わらず聞き分けの良い子だった。
いつも良い子にしている愛娘の頭を撫でつつキリトは月夜の黒猫団に会うのを何処か戸惑っている自分がいる事に気がついていた。
前回は、自分の所為で死なせた4人と、絶望してキリトを罵倒しながら自害したケイトを思うと、はたして自分は本当にもう一度彼らと出会い、そして触れ合っても良いのかと自問してしまう。
彼らを死なせない為に会う、そのつもりなのに、彼らと会う事でまた死なせてしまうのではないかという恐怖も、心の何処かであるのだ。
「(全ては、明日・・・だな)」
翌日、キリトとアスナは二人でフィールドに出て月夜の黒猫団を探していた。
前回の記憶を頼りに嘗てキリトが彼らと出合った場所へ赴くと案の定、月夜の黒猫団のメンバー全員がモンスターの群れに囲まれているのを発見する。
「アスナ!」
「ええ!」
キリトとアスナは互いに剣を抜き、今にも月夜の黒猫団に飛びかかろうとしていたモンスターに斬りかかった。
揃ってレベル40台の二人の攻撃はモンスターを一撃で葬り去り、次々と他のモンスターを片付けて1分と掛からずに群れを全滅させるのだった。
「・・・大丈夫だったか?」
一息吐いてキリトは月夜の黒猫団のリーダーであるケイタに声を掛けた。
呆然としていた彼はキリトに声を掛けられて我に返り、武器を下ろして頭を下げる。
「あ、ありがとう! おかげで助かった!」
「いや、無事で何よりだ」
「誰も死んだ人は居ない?」
「は、はい! 大丈夫です」
誰一人欠ける事なく助ける事が出来たみたいだ。
そして、キリトはふと月夜の黒猫団で紅一点、サチに目を向ける。やはり彼女を槍から片手剣と盾の装備へ転向する為にこのフィールドに来ていたらしく、サチの装備は安物の片手剣と盾になっていた。
「俺はケイタ、ギルド月夜の黒猫団のリーダーだ。こっちはテツオとササマル、ダッカー、それに紅一点のサチ、よろしく」
「ギルド
「副団長のアスナよ、よろしくね」
自己紹介と挨拶も終えたところで、一度街に戻るという月夜の黒猫団に誘われ、キリトとアスナも街に戻り、彼らと共にレストランで夕食という事になった。
前回同様、月夜の黒猫団を助けた事で改めて御礼を言われ、今回はキリトとアスナが既にギルドの団長と副団長という事で月夜の黒猫団に誘われるという事は無い。
「それにしても二人とも強いなぁ、今レベルってどれくらいなの?」
「俺が45、アスナが42になってる」
「凄い・・・私たちの倍近く…」
因みに
「どうやったら11層まででそこまでの高レベルになれるんだ?」
「基本的に迷宮区をずっと潜ってばかりだったり、フィールドでエンカウントしたモンスターを徹底的に狩っていればなるよ、俺もアスナも、ギルドの皆もそうしてる。まぁ、安全マージンは確りしておかないと出来ない事だけど・・・俺達は攻略組だから、その辺は徹底してる」
月夜の黒猫団の安全マージンはギリギリで安全レベルといったところで、彼らが攻略組を目指している事は知っているが、今のままではかなり心許ない。
「攻略組かぁ・・・なぁ、俺達も実は攻略組を目指してるんだけどさ、どれくらい鍛えれば良いのかな?」
「基本的にレベルは問題ないと思う。ただ安全マージンは少し心許ないよ、わたしからの意見だけど、安全ギリギリだと攻略組としては不安だらけ、安全マージンをもっと上げないと最前線に行ったら直ぐに全滅する」
攻略組の人間の意見に、彼らは言葉も出ない。だけど希望はある、安全マージンを上げれば問題ないのだから、それをこれから上げる努力をしていけば良いのだ。
「えっと、キリトにアスナさん・・・他のギルドの人にこういうことを言うのは申し訳ないんだが・・・少し、俺達を鍛えてくれないか?」
ケイタの言葉に、寧ろキリトは願ったり叶ったりだ。彼らが最前線に来ると言うのなら、鍛えるのも吝かではない。
「俺とアスナ、二人で皆を鍛える事になるけど、泣くなよ?」
「そ、それって・・・厳しいのかな?」
サチが少し怯えた表情を見せるのに心が痛くなる。だけど心を鬼にしたキリトはイイ笑顔を彼女に向けた。
それが答えとなったのか、サチも含めた全員が顔を青くする。
「一週間で最前線に出られるレベルにするから、覚悟しておけ」
キリトの宣言は正に死刑宣告にも等しかった。
第11層のフィールド、草原が広がるこのフィールドの一角に、キリトとアスナ、月夜の黒猫団のメンバー全員が来ていた。
近くには森もあるこの場所はレベル上げなどに絶好なスポットとして一部では有名な場所であり、当然ながらキリトもそれを知っていた為、彼らをこの場所に連れて来たのだ。
「サチ、そこでソードスキル」
「は、はい!」
メイス使いのテツオがカマキリ型のモンスターの鎌を弾いた瞬間、傍で見ていたキリトの指示で片手剣と盾を持っていたサチがソードスキルを発動してカマキリの懐を斬り裂く。
更にカマキリの背後に移動していたササマルが槍を突き刺す事でカマキリのHPバーが0になり、ポリゴンの粒子となって消えたのを確認し、月夜の黒猫団全員に経験値が割り振られた。
「う~ん・・・」
「キリト君?」
「あ、いや・・・なぁサチ」
「何かな?」
今までの戦いを見ていて、キリトはサチの現在の装備に疑問というより違和感を抱いていた。
確かに彼女には微かな才能はあるのかもしれないが、少なくともそれは片手剣で活かせるものではない。
「サチ、たぶんだけど片手剣は向いてないと思うんだ・・・元々は槍だったっけ?」
「うん・・・でもウチのギルドって前衛がメイスのテツオだけだから、もう一人欲しいって事で私が」
「そこだよなぁ・・・」
正直、サチは槍の方が向いている。だけどそうすると月夜の黒猫団で前衛が出来る人間はテツオ一人になってしまうし、盾役が居なくなってしまうのだ。
他のメンバーが片手剣と盾装備にすれば良いのではないかと思うが、他のメンバーの戦い方を見てもお世辞にも片手剣が向いているとは思えない。
「ケイタ、もう一人くらいメンバーを入れるとか考えてみたらどうだ? 片手剣と盾装備の」
「それは考えたんだけどなぁ・・・正直、募集しても来てくれないんだよ」
手詰まりだ。だが、この問題を何とかしない限り彼らが前線組に来るのは危険過ぎる。
前線組入りを目指している以上、向いていないと判っていながらもサチを片手剣と盾装備で鍛えるか、もう一人メンバーを入れる事を考えなければならない。
「因みにキリトのギルドは如何なんだ?」
「俺とアスナを入れて現在14人のギルドで、片手剣の俺、細剣のアスナ、片手剣と盾装備、槍使い、斧使い、両手剣使い、刀使い、大型バックラーとメイスの防衛型、凡そは揃ってるな」
平均的にバランスを取れる様にしているので、現在の
今後は今の初期メンバーを中心に部下となる人間を数多く募集して団員を増やし、後方支援の職人プレーヤーも参入させての大規模作戦もこなせるギルドへと成長させる事を考えている状態だ。
「パワー、スピード、ガード、全てにおいてバランスの取れたチームになっている自信はあるな」
「へぇ、羨ましいな・・・」
「まぁ、今のメンバーはみんな初期の攻略からの付き合いでギルドを組んだんだけど」
「俺達はリアルで同じ高校のゲーム研究会メンバーだから、あまりその辺の伝は無いんだよなぁ」
最前線に出ていればそれなりの伝は出来上がるものだ。まだ何名かソロのプレーヤーは居るので、彼らも状況次第ではギルド入りする可能性がある。
勿論、黒猫団がソロのプレーヤーを入団させるとなれば最前線に出る必要があり、現状ではそれも難しい。
八方塞な状況、この状況を如何するのか、今後の事は月夜の黒猫団で話し合うと良い。そう言ってキリトとアスナは先に休むのであった。
あれから一週間、キリトの宣言通り月夜の黒猫団のレベルは10も上がり、皆が30台に突入、安全マージンも大分良くなってた現状、未だにサチの武器を如何するのか、新参メンバーを加えるのかといった事は決まっていなかった。
一応、サチは槍も片手剣+盾も出来るよう育てたので、状況に応じて武器の切り替えは出来るが、それでも槍の方が十分向いているというのは変わらず、かといって新入団したいという者が現れるわけでもない。
「もう一週間経った・・・ケイタ、俺とアスナはそろそろ自分達のギルドに戻らないといけない」
「そっか・・・いや、ありがとうな、この一週間・・・二人のお陰で随分と強くなれたよ」
「おう、二人にはすげぇ感謝してるぜ!」
「ありがとう」
「本当にありがとう、キリト、アスナさん・・・」
「サンキューな!」
正直、もう少し一緒に居て現状の問題を何とかしたいと思っていたのだが、いつまでも自分達が居て彼らを助け続けるというのは悪影響でしかない。
だから、名残惜しくはあるものの、キリトたちは自分達のギルドへ戻る選択をしたのだ。
「アスナ、皆は今どこに?」
「2~3日前に先へ進むってメールが来た・・・今は最前線の21層に居るみたい」
「そっか・・・なら俺達も向かって合流しよう」
「うん」
それに、21層を攻略して22層に到達すれば、そこにはキリトとアスナの思い出の家がある。
幸いにも今まで無駄遣いをせず金を貯めてきたので、あの家を購入するだけの資金は十分あるので、22層到達次第、直ぐに購入しに行く予定だ。
「それじゃあ、俺達はもう行くよ」
「皆、元気でね?」
これから最前線に向かう二人を、月夜の黒猫団の全員が神妙そうな面持ちで、でも何処か頑張れと言わんばかりの眼差しで見送ってくれている。
特にケイタは、キリトにとって前回、ビーターの癖に自分達に近づく資格なんて無かったんだと罵倒し、侮蔑の眼差しを向けられた最期があるので、今の眼差しはくすぐったいものがあった。
「また会おうぜ、キリト、アスナさん」
「ケイタも、元気でな」
「また会いましょうね」
最後に、キリトとアスナは月夜の黒猫団全員と一人づつ握手をして別れた。
月夜の黒猫団と別れ、転移結晶の所まで移動した二人は第21層に転移、仲間の待つ宿屋へと向かう。
「あれ?」
すると、宿屋の前でアスナが人影を見つけた。
小さな人影、それは間違いなく二人の愛娘の姿だ。
「あ、パパー! ママー!」
両親の姿を見つけて、ユイが笑顔で走り寄って来て抱きついた。
抱きついてきた娘がなんとも愛らしく、自分達を出迎えてくれたのが嬉しくて、キリトもアスナも一週間ぶりの愛娘をギュッと抱きしめる。
「おかえりなさい、パパ、ママ」
「ただいま、ユイ・・・いい子にしてたか?」
「おかえり、ユイちゃん。エギルさんを困らせたりしなかった?」
「勿論です。エギル小父様がユイは良い子だって褒めてくれましたよ」
流石はエギル、何気に小父様と呼ばれて嬉しそうにしているだけあり、ユイの事を可愛がってくれているようだ。
「じゃあユイちゃんには良い子にしてたご褒美! ママが美味しいお菓子を作ってあげる」
「本当ですか!? やったー!」
アスナに抱き上げられながらご褒美に喜ぶユイだが、ふとキリトの方を向いて、何かを期待する眼差しを向けてきた。
キリトからもユイに何かご褒美を期待しているのだろう。だけど自分から口にするのは憚られるようで、そんな娘が可愛らしい。
「よし、じゃあ俺からのご褒美は、明日一緒に買い物に行って好きな物を何でも一つ、買ってあげよう」
「わぁ!」
翌日、満面の笑みで真新しいぬいぐるみを抱きしめるユイの姿があったのは言うまでも無い。
また、そんなユイの姿を、微笑ましそうに見つめる
次回もオリジナルが入ります。
現状では21層攻略中なので、次回辺りには22層到達してあの家が登場するかも?