ソードアート・オンライン・リターン
第三十二話
「子を持つ親の試練」
リーファとシノンがアインクラッドに来て一週間が経った。
既に攻略は78層までが完了しており、僅か1週間で2層もクリアするという順調な進み具合と言える。
リーファは現在、レベルが65に到達したという報告を受けており、攻略組合流も先が見えてきた状態で、シノンの方も、最初はリーファと同じレベルだったのが現在は67と、リーファを若干だが上回っていた。
勿論、キリト達高レベル組みから見れば然したる差は無いに等しいのだが、順調なのは変わらないので、今後のレベル上げに期待している。
「そして、俺とアスナはアインクラッド初のレベル100越えか」
「キリト君が104、わたしが102だからねぇ」
他にも、クラインが99になっているので、もう間もなくクラインもレベル100台に到達する。
「90層までは俺達も安全マージンが安心だけど」
「うん、他の人たちだよねー……」
攻略組の平均レベルも漸く90になった。だからレベル的には申し分無いのだが、モチベーションが75層攻略以来下がっているのは明確だ。
キリトと並ぶ攻略組のリーダー的存在にして、3人居るユニークスキル使いの一人、ヒースクリフが茅場晶彦だったという事実と、100層のボスが彼だという事、それらが攻略組のモチベーションを下げてしまっている。
「それに……」
「ああ、未だに見つからないな…ストレア」
茅場晶彦が言っていたMHCP02ことストレアは、未だ発見出来ずにいた。
何分、容姿不明で名前しか判明していない状態で探すには流石に無理があり、情報屋のアルゴをして発見には至っていない。
「まぁ、その内見つかる事を祈るしか無いよな」
「うん」
それから、次に二人が話し合う内容は今回、新たに攻略組への参加を希望してきたギルドの事についてだ。
新興ギルド、ティターニア。人数こそ風林火山と同等レベルではあるが、事前情報では全員が高レベル、高ステータスの強力なプレイヤーが集まったギルドとの事なのだが。
「そんなプレイヤー、今まで聞いた事無いな」
「そうなんだよねー…勿論、レベル上げして急に名を挙げて来た可能性もあるから、そこまで変ではないけど」
「リーダーの名前が確か、アルベリヒだっけ?」
「うん、明日わたしとディアベルさんが面談する事になってるの」
強力なギルドが攻略組に参加してくれるなら、勿論歓迎したい。
現状の攻略組を鑑みると、彼等が参加してくれる事で全体の士気も上がってくれるだろうし、高レベル、高ステータスなら攻略も今までよりペースが上がる。
「ねぇ、キリト君も明日参加しない?」
「面談にか? いや、俺はそういうの苦手だし……」
「大丈夫、キリト君は居てくれるだけでいいから。直接面談するのはわたしとディアベルさんだし」
「う~ん……まぁ、いいけど」
結局、明日の面談にはキリトも参加する事になった。
元々コミュ障のキリトではまともな面談など出来るわけが無いのだが、ただその場に立っているだけで良いのであれば、特別断る必要も無いのだ。
「ただいま戻りましたー!」
「ただい、ま……」
「おう、戻ったぜキリト、アスナさん」
丁度話し合いが終わったところで、クラインと、一緒に散歩へ出かけていたユイとルイが帰ってきた。
最近はエギルだけでなく、クラインやディアベル、グリセルダが頻繁に来てユイとルイと共に外で遊んでくれるから助かっている。
「おかえりユイ、ルイ、楽しかったか?」
「はい! クラインおじさんが肩車してくれたんですよ!」
「高かった…楽しい」
「そっか、サンキューなクライン…ユイとルイ、我侭言わなかったか?」
「いんや、二人とも良い子達だからなぁ、俺も楽しかったぜ」
最近はクラインもユイとルイにクラインお兄さんと呼ばせようとしなくなり、クラインおじさんと呼ばれる事に慣れたのか、名前を呼ばれるたびに頬が緩んでいる。
子供が好きなのだろう。弟分であるキリトの娘たちだからこそ、余計に可愛いとクラインは述べていた。
「そういえば、ユイちゃんとルイちゃん連れて村に行ったときなんだけどな…新しくこの層に引っ越してきたプレイヤーが二人見て驚いてたぜ」
「あ~、ユイちゃんもルイちゃんも攻略組ではもう顔馴染みだけど、下層から来る人は知らない人も多いもんねぇ」
「だな。それでよ……ユイちゃん達がプライベートチャイルドだって事で説明しといたけど、いいよな?」
「いいよ、別にプライベートチャイルドは結婚したプレイヤーなら条件満たせば平等に与えられるイベントなんだし」
やはり、2年もこの世界で暮らしていると子供が欲しい、家族が欲しいというプレイヤーが多いようだ。
結婚というシステムはそういう意味では相応しいのだろうが、生憎SAOの女性プレイヤーは少ない。有名な攻略組の女性プレイヤーはアスナやユリエール、グリセルダなどだが、その三名はいずれも結婚しているので、中々に結婚というシステムを利用出来るプレイヤーは居ない。
結婚していない有名な同じ攻略組の女性プレイヤーならシリカやリズベット、サチ、ヨルコ、アルゴといった面々が居るものの、サチはケイタと、ヨルコはカインズと付き合っているので、他の男にチャンスは無く、シリカとリズベット、アルゴは意中の男が居るらしいのだ。
「そういえばパパ、ママ、今日お会いしたプレイヤーさんが言っていたんですけど、現実ではどのようにして子供が出来るんでしょう?」
「「……うぇ!?」」
爆弾発言が出た。否、現実でも親が子供に聞かれて困る質問ナンバー1だとは聞いた事があるが、まさか自分達もそれを経験する事になるとは、思わなかったため、あまりの不意打ちに言葉が詰まる。
「え、えええと……アスナ、頼む」
「ちょ、キリト君!? わたしに丸投げしないでよぅ!?」
「い、いや…男の俺が説明するのは不味いだろ!?」
「そ、そうだけどー……」
「え~と、ちょっと不味い雰囲気になってるみたいだから、俺はかえ・・・…」
「「逃がすかぁあああ!!」」
逃げようとしたクラインの襟首掴んで縛り付けたキリトとアスナ。攻略組最強のパラメーターとレベルを無駄に駆使してクラインが逃げられないようにする。
「は、離せぇ! お、俺は関係ないだろ! こういう質問は親の二人が答えろよ!」
「そもそも、お前が不用意な事をユイたちに聞かせるのが悪い!」
「そうです! もうこうなったら一蓮托生ですからね!」
「あのー…それで、子供って、どうやってできるんですか?」
「知りたい……」
「「「うっ……」」」
困った。本当の本気で困った。これならヒースクリフやスカル・リーパーとの戦いの方がまだマシだと思えるほどにピンチだ。
「え、え~とねユイちゃん、ルイちゃん、まず子供を作るにはオプションメニューの一番深いところにある倫理コード解除設定を……」
「ストップ! アスナ!! ユイとルイに何を教える気だよ!?」
「ええ!? だ、だってどうしたらいいのかわからないよぅ!?」
パニックになって子供に教えるべきではない事を教えようとしたアスナを何とか止めたキリトだが、ユイとルイは興味深々と言わんばかりに純粋な目を向けており、その目を見ていると自分達が何故か汚れてしまったような気がしてならない。
「あ~…え~……ユイ、ルイ、その、何で現実での子供の作り方を知りたいんだ?」
「はい、いずれパパもママも現実世界に帰ります。でもパパはわたし達を一緒に現実世界で暮らせるようにするって言ってくれましたから、現実世界の事を少しでも勉強しておきたいんです」
「SAOの、常識しか、知らない……現実のお勉強、沢山」
純粋だった。どこまでも純粋に現実世界の事を勉強しようとしているが故の質問だったのだ。だけど、その内容はあまりにも答え難い。
「それでパパ、ママ、教えてくれないんですか?」
「あ~……アスナ、頼む」
「ちょ! また丸投げ!? ……え~と、その…そ、そう! 子供は夫婦の共同作業によって出来るのよ!」
「夫婦の、共同作業…何?」
「うっ!? それはその……き、キスよ! キスすると、子供が出来るの!」
「キスするとですか…あれ? でもパパとママはいつもキスしてますけど、あれってどういう意味なんですか? SAOではプライベートチャイルドシステムはありますけど、現実みたいな出産システムはありませんよ?」
詰んだ。アスナの苦し紛れの誤魔化しは、ユイには通用しなかった。
もっとも、常日頃から娘の前であろうと人前であろうとイチャイチャして、キスまで堂々としていた二人の自業自得と言えばそれまでなのだが。
「き、キリトく~ん!」
「え、となユイ、ルイ…パパとママがキスしてたのはその…現実に戻った時の予行演習なんだ!」
「予行演習…?」
「じゃあ! パパとママは現実に戻れば直に子供が出来るんですね!」
「「……っ!?」」
まずい、これは非常にまずい事になった。
このままでは現実に戻って、ユイたちの前でキスなんてしようものなら、もしくはキスしてるところを見られようものなら、即座に子供が出来ると思われてしまう。
「アスナ、どうする?」
「も、もう何も思いつかない……」
「つか、お前等、娘の前でキスすんなよな」
ごもっとも、クラインの言う通りだった。
「えっとな、ユイ、ルイ…ママの言ってたキスすると子供が出来るってのは、その…間違いなんだ」
「え? 間違いなんですか?」
「じゃあ、どうやって…出来るの?」
「そ、それは…その、まだ二人には早い」
「そうよ! まだユイちゃん達には早いの!」
「「え~……!」」
「う、そのね? ハッキリ言って、説明するのがとても恥ずかしい事なの! だからパパもママも説明出来ないのよ、だからユイちゃんとルイちゃんがいつか大人になると自然と知る事になるから、今は無理に聞かないで……本当、お願い」
心の底から懇願するアスナとキリト、後ろでクラインが笑いを堪えてるのに気づいて後で制裁を決め込み、何とか二人に納得してもらうのであった。
次回は、皆さん大嫌いなあの男の登場です。