ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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お待たせしました! リターンの三十話です。


第三十話 「妹」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第三十話

「妹」

 

 76層東の森でキリトは妹の桐ヶ谷直葉…リーファと再会して、現在は彼女を連れてアスナと共に22層コラルの村へ転移していた。

 未だ装備品以外に何も持っていないリーファに幾つかのアイテムを分け与え、ついでに団長権限で黒閃騎士団へ入隊させた後、詳しい話をする為に自宅へ行く事になったのだ。

 

「へぇ、ALOとは違って歩かなきゃいけないのは不便だけど、SAOの中もいい景色が沢山あるんだぁ」

「ああ、でもいいよなALO…だっけ? 空を飛べるんだろ?」

「うん! フライトエンジンっていうのを搭載していて、連続で10分は飛ぶことが出来るんだよ」

「すごいねー、わたし達も飛べればいいのに」

 

 SAOは魔法の存在しない世界なのだから、空を飛ぶなんて魔法染みた事は不可能だ。精々大幅にステータスアップした筋力による跳躍を出来る程度で、自由に飛ぶことなど出来ない。

 

「それにしても、お兄ちゃんって家まで買ってるとか、随分とSAOに馴染んじゃったんだね……」

「ん、まぁ…2年も過ごしてたらな、流石に順応するよ」

 

 キリトとアスナに限ってはSAO歴4年という兵なのだが、二人に限らず2年で随分とこの世界に慣れてそれぞれの生活を営んでいる者ばかりだ。

 最初こそ絶望していた者たちも、今ではこの世界での生活を楽しんでいる者も出ているくらいだから、人間の順応力というのは凄まじい。

 

「ね、お兄ちゃん」

「どうした?」

「お兄ちゃんってこの世界で最前線で戦ってるって、さっき聞いたんだけど…」

「おう」

「後で、手合わせしてもらえるかな? あたし、これでも剣道で全国ベスト8になったんだよ」

「へぇ、凄いじゃないか! そっか、向こうではスグも中学…3年か?」

「そうだよ、もう受験生なんだから」

 

 受験生、本来であればキリトやアスナにもあったであろう身分だ。特にアスナはこの世界に囚われた当時が丁度受験生という立場だったのもあり、余計に懐かしく思う。

 そして、同時に受験生であるはずのリーファがこの世界に事故とは言え囚われてしまったのが心苦しくもあった。

 

「だ、大丈夫だよ! それに残り25層なんでしょ? なら受験にも十分間に合うって!」

 

 そう言ってくれるのはありがたいが、やはりデスゲームに最初から参加している者としては、完全に割り切るのは無理だ。

 と、そうこうしている内にログハウスが見えてきた。既にクラインは自分のギルドの方に戻っているという話なので、今はユイとルイが二人で留守番をしてくれているから、直ぐにでも二人に会いたくなった。

 

「ただいま」

「ただいまー!」

「お、おじゃまします…」

 

 ログハウスに入り、キリトとアスナ、リーファを出迎えてくれたのはキリトとアスナに飛びついてきた天使たちだった。

 

「パパ! ママ! お帰りなさい!」

「ん、お帰り…お父さん、お母さん」

 

 ユイがキリトに、ルイがアスナに抱きついて、キリトとアスナも二人をギュッと抱きしめた後に脇の下へ手を入れて持ち上げながら再び胸に抱擁する。

 もう、出掛けて帰ってくる度に必ず抱きつくようになった愛娘たちが可愛くて可愛くて、このままいつまでも抱きしめてあげたい衝動に駆られるのだが、今はお客様も居るので自重することにした。

 そして、そのお客様であるリーファはというと、驚愕で目を見開き、ワナワナと震えながらキリトとアスナを…否、その二人に抱きつく天使たちを見ていた。

 

「ぱ、パパ…ママって……お父さんって、お母さん…? え、えええええええええっ!?」

「? パパ、お客様ですか?」

「初めて、見る人…」

 

 初めて会うリーファに、二人は首を傾げてキリトとアスナを見上げた。

 説明を求める視線に苦笑しながらキリトはユイとルイを先にリビングの椅子に座らせてリーファも来客が座るソファーに座るよう促す。

 

「あの、お兄ちゃん…あの子たちって」

「これから説明するから、少し待ってくれ」

 

 キッチンに向かったアスナが人数分の紅茶を用意して持ってきてくれたので、キリトとアスナもそれぞれ自分のソファーに腰掛けると早速だがリーファにキリトとアスナの関係、それからユイとルイの事も、本当の事を少しだけ暈して説明を始める。

 最初は真剣に聞いていたリーファだったが、段々と表情が強張り、驚愕し、ユイとルイを交互に見つめて、最後に何故か涙目になってキリトをキッと睨みつけてきた。

 

「えと…スグ?」

「お兄ちゃん、随分とSAO楽しんでるんだね」

「い、いや…まぁ、こっちで2年も生活してたらそれなりに生活基盤も出来るっていうか…」

「それにあたし、いつの間にか……」

 

 叔母さんになってるし、という言葉を飲み込んで、ジト目でキリトを睨むリーファにたじたじとなってしまうキリトだった。

 そんな夫の情けない姿を見かねてか、アスナが助け舟を出すようにリーファの空いたカップに御代わりの紅茶を注ぐと、口を開く。

 

「所で、リアルの方はどんな感じなのかな? この2年、全くリアルの方の情報なんて入ってこないから少し気になってたんだよー」

「え、リアルの方ですか? えっと、デスゲームが始まった頃は凄くドタバタしてました。テレビなんてどのチャンネルもSAOの話題ばっかりで、後は警察がアーガス社に強制捜査を入れたとか、茅場晶彦が指名手配された、とかでした」

「へぇ、やっぱりそれくらいの大事にはなるんだね」

「はい、後はSAO被害者の人たちは今、全員が病院に移送されてます。お兄ちゃんも、多分アスナさんも、今頃は病院のベッドで点滴を受けながら眠ってますよ」

「ってことは、やっぱりあの大切断事件って俺達の身体が病院に移送される際に起きたんだな」

 

 SAO開始から数週間後に起きた全プレイヤーの意識の空白時間、あれはリアルの方で回線が一時切断されて病院に移送された際に起きた事で間違い無いらしい。

 4年間、恐らくはそうだろうと思いつつ確証が持てなかった疑問もこれで漸く解決した。

 

「なぁ、スグ…母さんと父さんは、元気にしてるか?」

「うん、お母さんもお父さんもSAOが始まった当初は凄く落ち込んでたけど、今はもう大分持ち直して、普通に仕事してるよ」

「そっか…良かった」

 

 ずっと、両親の事は気になっていた。

 4年前まで家族と距離を空けていたキリトだが、この世界で生活していく内に心境の変化が起きて、家族というものが如何に大切なのかという事を学んだのだ。

 アスナの両親については知る術が無い事が申し訳なく思うが、それでもキリト自身の両親の近況が聞けたのは、やはり嬉しい。

 

「あの、パパ…」

「ん? ああ、そうだな…スグ、まだちゃんと紹介してなかったから今するよ。こっちの黒髪の子がユイ、隣の白髪の子がルイ、二人は俺とアスナのプライベートチャイルドって扱いで、まぁ娘だって思ってくれれば良い」

「初めまして、リーファさん。パパ…キリトの娘のユイです」

「はじめ、まして…ルイ、です」

「あ、うん…えと、よろしくね? ユイちゃん、ルイちゃん」

 

 扱いとしては姪という事になるユイとルイに、リーファは15歳で叔母になったのかと、内心ショックを受けつつもユイとルイの手を取り握手をする。

 こうして間近で視てみると成る程、顔などはキリトにもアスナにも似てないが、それでもキリトの娘だというのが何となく理解出来る点が多々見受けられた。

 ユイは何となく瞳の輝きがアスナに似ているし、ルイの眠そうな瞳は昔のキリトを彷彿とさせる。義理の親子とは言え、一緒に過ごしていると似てくるものなのだろうか。

 

「あ、でもユイちゃんの雰囲気はアスナさんに似てるし、ルイちゃんはお兄ちゃんに似てるのかな」

「えへへ…」

「ん…」

 

 因みに、寝起きのユイはキリトによく似ていて、ルイはアスナに似ている。というより、それぞれ同じ仕草をしていると言っても良いだろう。

 

「ユイ、ルイ、リーファは俺の妹になるんだ」

「パパの妹…ではユイたちにとっては叔母さんですね!」

「おばっ!?」

 

 言葉には出さないようにしていたのに、ユイがハッキリと言葉に出してしまったため、リーファが崩れ落ちた。

 こうして時々空気の読めないことを平然と口にする辺りは、父親に似たのかもしれない。変なところは似ないで欲しいと思う母親は苦笑してリーファの肩に手を置く。

 

「それでアスナ、ちょっと真面目な話なんだけど」

「え?」

「スグ…リーファがALOにダイブしようとしてSAOに来てしまったのは、恐らくは混線が原因だと思う。ってことはだ…リーファ以外にもALOにダイブしようとしてSAOに来てしまった人が居るかもしれない」

「あ……」

 

 そう、その可能性は十分考えられる。

 リーファの話ではまだALOの会社で扱っているのはSAOとALOだけだという話だ。ならばALOから流れてくる人が他にも居る可能性が高い。

 偶然にもリーファだけがコンバートしてしまったなどという可能性は低いと見ていた方が無難だろう。

 

「じゃあ、ギルドの方に連絡しておくね、明日から他のゲームからコンバートしてきちゃった人を捜索してもらわないと」

「ああ、聖竜連合と軍の方にも伝えとく」

 

 血盟騎士団に伝えないのは、まだあそこが完全に持ち直していないのが理由だ。

 団長であるヒースクリフが茅場晶彦だったという事実と、その彼が抜けてしまったことでギルド内部が随分と揉めていて、とてもではないが現場に出られる状況ではないのだとか。

 攻略の際には副団長が何とか指揮を執って参加するとは言っていたので、今はそれ以外の事を持ちかけるのは不味い。

 

「あ、えと…あたしはどうしたら?」

「一先ずスグは黒閃騎士団に入団させたし、明日はギルドホームの方に案内するよ、だから明日一日は俺とアスナと行動してくれ」

「わかった」

 

 ギルドの幹部連中には紹介しておくべきだろう。

 黒閃騎士団……白黒(モノクロ)騎士団結成当時からのメンバーなら詳しい話をしておく事で期待以上の働きを何も言わなくともしてくれるのだ。

 

「よし、それじゃあそろそろご飯作るねー、リーファちゃんも今日は泊まるんでしょ? 何か食べたい物ってあるかな?」

「いえ! そんなお構いなく!」

「気にしなくて良いよー、何か好き嫌いは?」

「特には…」

「わかった! じゃあもう少し待っててね」

 

 その夜、アスナの絶品過ぎる料理の味に女としてのプライドがズタズタに引き裂かれ、打ちひしがれる風妖精(シルフ)の少女が居たのは、言うまでもないだろう。




次回はギルドホームへ向かうのですが、その途中で……。
ゲームを知っている人は展開が予想できるかも?

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