ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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風邪、完治!


第二十三話 「ラフコフの残党騎士」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第二十三話

「ラフコフの残党騎士」

 

 アインクラッド攻略も遂に75層に到達していた。

 キリトとアスナは久々の休みという事でユイとルイを連れて48層のフラワーガーデンに遊びにきている。

 いつもは22層の自然を森林浴していたのだが、今回は一面花畑のフラワーガーデンも良いだろうという事でユイとルイも連れてきたのだ

 

「わ~、綺麗なところですねー」

「お姉ちゃん、走ると、危ない…よ」

 

 花畑に興奮して走り出すユイを窘めながらも、ルイも何処か楽しそうだ。連れて来て良かった、子供達の笑顔を見ているとそう思う。

 

「2人ともあんなにはしゃいで…可愛いー」

「ああ、連れて来て良かったよ」

 

 花畑に飛び込んで遊ぶ二人が可愛らしいと夫婦揃って笑い合っていると、ユイが唐突に何かを作り始めた。ルイもそれに習ってユイに教わりながら同じものを作り始める。

 

「パパ! ママ! こっちに来てください!」

「お父さんとお母さんに、プレゼント…」

「え、わたし達に?」

 

 二人の所に歩み寄り、言われるがままにしゃがむと、ユイはアスナの、ルイはキリトの頭の上に花冠を載せた。

 ユイの冠は作り慣れているのか、随分と綺麗な出来で、ルイの方は初めて作ったからだろうか、何処か歪だが、ルイの気持ちが込められている。

 

「わぁ、綺麗な冠だねー」

「ありがとうな、ユイ、ルイ」

「「えへへ」」

 

 キリトがユイとルイの頭を撫でると姉妹揃って母みたいな笑い方をする。だいぶルイも家族に馴染んできて、キリトやアスナの仕草を真似始めてきていたみたいだ。

 お返しにと、アスナが花冠を作り始めたので、キリトも一緒に作り始めた。作り方については子供の頃に妹と一緒に作ったことがあるので、知っている。

 

「はい出来た。ユイちゃん、おいで」

「俺も出来た、ルイ、おいで」

 

 アスナが作った物をユイの、キリトが作った物をルイの頭に乗せると、二人とも嬉しそうに笑った。

 それから、ユイとアスナが手を繋ぎ、キリトがルイを肩車しながら散歩を続けて、安全エリア内をぐるりと一周する。

 

「今日は楽しかったねー、ユイちゃんとルイちゃんはお夕飯何が食べたい?」

「お肉を使った料理が良いです!」

「わたしも、お肉…お父さん、お魚ばっかり」

「うぐっ!?」

 

 確かに、釣りが趣味になったキリトがしょっちゅう魚を釣ってくるので、黒の剣士一家の食卓は魚料理が多い。

 偶に肉もちゃんと出てくるのだが、最後に食べた肉料理は思い出したくも無いスカペンジトードの肉を使った料理だったので、ちゃんとした肉を食べたいと子供達はご所望だった。

 

「キリト君、如何する?」

「ふ、ふっふっふ…良かろう、ならば俺のラッキーをユイとルイにもお見せしようではないか!」

 

 そう言ってキリトが開いたのはアイテムメニュー欄だ。その欄をスクロールすると、一つの食材アイテムの名前が出て来た。

 

「ちょ、これって…ラグーラビットの肉!? またゲット出来たの!?」

「おう! 昨日、74層のフィールドに遊びに行った時にな、偶然にもラグーラビットを見つけて、仕留めた」

 

 74層のフィールドに遊びに行くというのも如何かと思うアスナだが、キリトのレベルを考えれば安全マージンも十分なので、特に問題は無いと判断。

 それよりも、まさかS級食材であるラグーラビットの肉を再び入手出来たキリトの運に驚きを隠せないでいた。

 

「今日はこれでシチューを頼むぜアスナ」

「わーい! シチューですー!!」

「シチュー…お母さんのシチュー、好き」

 

 これは決まりだった。本日の夕飯はS級食材ラグーラビットの肉を使った温かシチューとサラダだ。

 そろそろ夕方なので、帰って早速夕飯の支度をしようと転移門に向かったキリト達は22層コラルの村に転移、安全圏を出てログハウスへ向かうだが、途中でキリトの索敵に何かがヒットした。

 

「アスナ、止まってくれ」

「キリト君? ……っ!」

 

 アスナの索敵にも漸くヒットしたらしい。直ぐにアスナはユイとルイを抱き寄せていつでもランベントライトを抜けるよう構えると、三人の前でエリュシデータだけ抜いて構えるキリトを見つめた。

 エリュシデータを構えたキリトは索敵をフルに活用して、ヒットした相手が何処にいるのかを看破、その場所に向けて声を掛ける。

 

「おい、そこに居るのは判ってる。出て来い」

 

 キリトに声を掛けられて出て来たのは、血盟騎士団の鎧を来た一人の男、キリトとアスナもよく知る最悪の男、クラディールと、3名の男性騎士だった。

 

「お久しぶりです、閃光の姫君」

 

 クラディールはキリトを無視してアスナの方を向くと、アスナの異名の一つ、閃光の姫君の名でアスナを呼ぶ。

 

「何か御用でしょうか? 血盟騎士団のクラディールさん」

「いえ、今日こそ貴女を我が血盟騎士団に入団させようと思いまして、参上した次第です」

「そのお話なら、今まで何度もお断りした筈です」

「いやいや、諦めるわけにはいきませんぞ? 貴女のような高貴なる女性は我が血盟騎士団にこそ相応しいのです。そこの薄汚い黒なんかが団長を務める底辺のギルドには、貴女という宝石は相応しくない」

 

 薄汚い黒、クラディールは何かとキリトをそう呼んで蔑んでいた。クラディール曰く、アインクラッドの宝石とも呼ぶべき至高なる閃光アスナに寄生する薄汚いゴキブリ、それがキリトなのだとか。

 

「さあ! 我が血盟騎士団は閃光の姫君の入団を歓迎致します! そこな薄汚い黒など捨てて、お嬢さん方と共に行きましょう!!」

「いい加減に、してください」

「何ですと?」

「あなたの様な他人を貶す事しか出来ない最底辺の男なんかより、キリト君の方が何億倍も良い男だって言っているんです」

「なっ!?」

 

 一瞬でクラディールの顔が真っ赤に染まり、その瞳に憎悪の感情が浮かび上がった。

 同時に、腰に差していた大剣を抜き、キリトに向けると、憎悪の感情を隠そうともせず後ろに立つ男三人にも剣を抜かせてキリトに向けさせる。

 

「貴様の様な雑魚が、至高の宝石に寄生プレイをしているだけの雑魚プレイヤーが私たちの至高の宝石を汚すなど、許されない事だ! やはり貴様は此処で殺して、アスナ様を我が血盟騎士団に迎えるしか無いようだな」

 

 クラディールと、後ろの三人の男がアスナを見る目には、明らかな欲情が見て取れた。しかも、その視線はユイとルイにも向けられている。

 大方、アスナを血盟騎士団に迎えた後は無理やりにも肉体関係を迫ろうとしているのだろう。更に、ユイとルイにまで手を出すつもりで居るのなら、最早キリトは黙っているわけにいかない。

 

「いい加減にしてもらおうか、クラディール…お前のしている事、全てヒースクリフには報告済みだ。厳罰が下されたくなければ、早急に帰って、二度と俺達の前に姿を現すな」

「ふん、その時は団長と副団長、それに幹部会を殺せば良い。私が新団長となって血盟騎士団の全てを掌握し、女性団員は私の奴隷としてやるのだ!」

 

 ついに本性を表した。しかも、最低な本性だった。確かに、クラディールのやろうとしている事は倫理コード解除設定を行えば可能だし、寝ている相手であれば睡眠PKの様に相手の手を動かして倫理コード解除設定を行えば簡単だ。

 実際、睡眠ハラスメント行為として、アインクラッドで少なくない性的暴行被害は出ている。何故か、倫理コード解除設定の方法が、前回とは違い広く出回っている為、その様な被害が出ている。

 

「最低だな、アンタ…しかも、ヒースクリフや血盟騎士団の幹部を殺す、か……オレンジになる事も厭わないのか?」

「ふん、所詮はゲームの世界だ! ならばこそ私はこの世界の王になる! 多くの女性プレイヤーは私の奴隷となり、男は私につき従う者以外は皆殺しだ!」

 

 クラディールは前回以上に最低な男に成り下がっていたようだ。いや、前回のクラディールも、アスナに色欲の感情を向けていたようなので、あまり違いは無いのかもしれない。

 溜息を溢したキリトは一瞬でクラディールの真横に移動して手甲を破壊して離脱する。その手甲の下には、見覚えのあるマーク、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の一員である証が刻まれていた。

 

「やっぱりな、お前の言動から何処かのオレンジギルドと関わりがあると思っていたけど、まさか残党だったとは」

「チッ、ああそうだ。私と、後ろの三人はラフコフの残党、血盟騎士団に入団したのもPoHに情報を流す為と、欲望の為さ」

「なるほどな、お前…今までにも人を殺した事があるな…それに、女性プレイヤー暴行事件も、お前に関わりがあるようだ」

 

 もはや有罪確定だ。未だグリーンの彼らを殺すのは不味いので、捕縛を考えてアスナに回廊結晶を用意させると、背中に差したままだったダークリパルサーを抜く。

 

「来いよ、お前等全員…此処で終わりにしてやる」

「舐めるなぁ!!」

 

 クラディール含め4人全員が同時に斬りかかってきた。だが、彼らのレベルはキリトよりも20は下で、戦闘センスもキリトはアインクラッドトップクラス、元々持っている戦いの才能自体が違いすぎる。

 4人の剣を武器破壊(アームブラスト)によって破壊し尽すと、体術スキルを使って一人、二人、三人と気絶させると、残るはクラディールだけとなった。

 

「まだ、やるか? 言っておくが、お前がいくらやろうと俺には勝てないぜ」

「…っ! チッ、出直しだ!」

 

 転移結晶を出して、逃げようとしたクラディールだが、キリトがそんな事を許すはずが無く、エリュシデータを一閃するだけで転移結晶を持ったクラディールの右腕を切断した。

 

「あ、ああ、ああああああっ!? き、貴様ぁああああああっ!!」

「喚くなよ、下種野郎……お前が行くのは血盟騎士団本部じゃない、牢獄だ!」

 

 体術スキルも持っていないのに殴り掛かって来たクラディールは完全に頭に血が上っているかのように我を失っている。そんな相手、キリトにとっては目を瞑っていても勝てるだけの自信があった。

 クラディールの左拳を受け止め、膝蹴りを鳩尾に入れると面白いようにクラディールの身体がくの字になり、ダークリパルサーを地面に刺して左拳を顔面に叩き込む。

 

「がぁああっ!?」

「寝てろ、雑魚が」

 

 仰け反ったクラディールの顔面に、キリトの踵落としが決まり、クラディールの意識が暗転した。

 完全に意識を失った4人を回廊結晶で黒鉄宮の牢獄に送ると、どさくさに転移結晶を拾って自分の物にしたキリトは直ぐにヒースクリフにメールを送る。

 

「お、返信が来た…何々? “ウチの団員が大変失礼な事をした。裏切り者を牢獄へ送ってくれたことに感謝するのと同時に、こちらでも内部調査をさせてもらう。後日、改めて謝罪と礼と内部調査の結果報告をしに伺う”か…んじゃ、更に返信っと…え~と、“ラーメン用意して待ってる”っと」

 

 その後、物凄い早さで返信が来た。内容は『とんこつ味を再現希望ヽ(*´Д`*)ノ』との事、顔文字まで使って喜びを表現するヒースクリフに、キリトは落ち込まざるを得ない。

 

「そこまで…キャラ崩壊してまで、ラーメンが好きか、茅場ぁ」

 

 orz状態になるキリトに、メールを読んだアスナは苦笑しか返せない。彼女もまた、ヒースクリフという存在との付き合いが長い分、内心では物凄い勢いで落ち込んでいるのだ。

 

「と、とりあえず…とんこつスープ、用意しておくね?」

 

 再現出来るアスナに、脱帽した夕暮れだった。




最近、ヒースクリフのキャラ崩壊が楽しくなってきたww

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