ソードアート・オンライン・リターン
第十五話
「
この日、
陣頭指揮を執るのはキリトとアスナになり、
「みんな、そろそろ奴らのアジトだ。
キリト達は討伐とは言え、出来る限り捕縛を目的として動く予定だ。
勿論、最悪の場合は殺さねばならない可能性も出てくる事は百も承知、だが殺す事に躊躇いがあるこちらとは違い、向こうは殺す事に躊躇いなど何も感じないだろうから、その差が人数差をひっくり返す可能性も考えられる。
「万が一、奴らにグリーンが居て、それを殺してしまってオレンジカーソルになっても安心してくれ、作戦終了後に後方部隊が直ぐにカルマ回復イベントを受ける準備をしてくれている、勿論殺せとは言わない、出来るのなら捕縛して欲しいし、殺すのが怖いなら……俺が責任を持つ」
どうしても殺さなければならない事になってしまえば、最悪の場合はキリトが殺すと、暗にそう言われて、戸惑う者が多数居る。
キリトの人柄は攻略組の人間なら知らぬ者は居ないと言われるほど、お人好し、責任感が強すぎる、他人の背負わねばならないものすら一人で背負おうとする馬鹿、そんな認識をしているものが大半だ。
だからこそ、誰よりも優しい彼に、人を殺すなんて真似はさせたくない、否…リアルで確実にキリトより年上であるはずの自分たちが、年下のキリトにそんな業を背負わせる訳にはいかないと、誰もが気合を入れた。
「アスナ、情報は洩れてると思うか?」
「判らない、キリト君たちが団長会議でラフコフ討伐の話し合いをしたって情報なら洩れてる可能性もあるけど、それ以降の詳しい日時なんかは全部メールでやり取りしてたし、流石に襲撃日時までは知られて無いと思うけど…」
「交代で罠の準備をしている可能性も、考えられるか」
キリトとアスナの脳裏に過ぎるのは前回の
「今回は、こちら側に死者を出さずに終わらせたいな」
「そうだね」
前回より日数的には早いタイミングでの討伐になったので、
それはこちら側にも言えることだが、今回はキリト率いる黒閃騎士団のメンバーも居る上に、前回の倍の人数が居る、前ほどの被害は出ないと思いたい。
「各自、ツーマンセル以上で行動するんだ! 行くぞ!!」
『応!』
キリトの号令と共に進軍が始まった。
時折出てくるモンスターを蹴散らしながら進んでいると、キリトの索敵にモンスターとは違う反応が引っ掛かった。
「みんな気をつけろ! 近くに居るぞ!!」
キリトの言葉に全員が索敵を最大まで行った。そしてある程度索敵のスキル熟練度が高い者はキリト同様にモンスターとは違う反応をキャッチした様で、武器を構えて襲撃に備え始める。
「……来た!」
やはり襲撃を予想して何日も前から張り込んでいたらしい。多くのオレンジカーソルプレイヤー…
「攻撃開始!!」
『おおおおお!!!!』
幸いにも数の上ではキリト達の方が圧倒している。戦闘が始まってから今の所死亡者は出ておらず、次々と
ここまでは順調だが、キリトは油断無く周囲を索敵すると、アスナの背後で気配を感じて咄嗟にエリュシデータを構えながらアスナの後ろから襲い掛かる刃を受け止めた。
「チィッ!」
「ジョニー・ブラック!!」
子供の様な外見をした男、毒ナイフを使う厄介な相手だ。だが、実力という点で言えばキリトの足元にも及ばない。
「はぁ!!」
「うわっ!?」
簡単にナイフを弾き飛ばして腹に蹴りを入れると、ジョニー・ブラックは小柄な体型を生かして吹き飛ばされながらも一回転しながら着地する。
すると、その彼の後ろから
「PoH、赤目のザザ……」
「やっとお出ましみたいね…」
「Ho-Ho-Ho、随分と暴れてくれたじゃねぇの」
「ああ、もう殆どのメンバーは拘束させてもらった。後は、お前達だけだ」
右手にエリュシデータ、左手にシャドウロードを持って構えるキリトと、ランベントライトを構えるアスナ、攻略組最強夫婦を前にして三人は戦うつもりなのか武器を構える。
キリトは他の討伐隊に…アスナにすらも言っていないが、この三人については今日、この場で殺すつもりでいた。
元々殺人ギルド、オレンジギルドの発祥、というよりも先導したのはこの三人であり、彼らは最初期から積極的にPKを楽しんでいたのだ。だからこそ、危険な人物、典型的な殺人快楽症で、それを自覚しながら受け入れた度し難い存在、生かしておくわけにはいかない。
「ヘッド、俺達に任せてくださいよ~、攻略組最強夫婦とか言っても、所詮は殺しも満足にできねぇお坊ちゃんお嬢ちゃんだ、俺達の方が戦いのカクゴってもんが上ですぜ?」
「世間の、広さ、教えてやる」
「Ha! 任せてるぜ、だけど甘く見るな…黒の剣士は、俺達と同類の目をしてるぜ」
「っ!」
それが戦いの合図となった。キリトとアスナは全プレイヤー最高速度を誇るスピードで走り、アスナはザザを、キリトはジョニー・ブラックを攻撃する。
対する二人はキリトとアスナの速さに自分達の認識の甘さを感じながらもギリギリ武器での防御をするが、それすらも甘すぎた。
アスナは受け止められた瞬間には次の攻撃に移っており、目にも止まらぬ速さのランベントライトによる刺突の嵐でザザを追い詰め、キリトはエリュシデータが受け止められた瞬間にはシャドウロードの刃でジョニー・ブラックの、現実では心臓がある部分を突き刺していた。
「…え?」
「終わりだジョニー・ブラック……お前は、ここで死ね」
突き刺さったシャドウロードを呆然と見ていたジョニー・ブラックだったが、それが引き抜かれてエリュシデータにより身体を袈裟に両断されながら自分を殺した相手であるキリトの、冷酷な瞳に恐怖を感じながらポリゴンの粒子となって消えるのだった。
「ジョニー! 貴様、躊躇い、無いのか!」
「キリト君…」
次の瞬間、ザザは視界が真っ暗になった。意識を失った訳ではない、何故なら彼の両目にはキリトの投擲用ピックが突き刺さっており、それが原因で視力を一時的に失ったのだ。
そして、キリトは何の躊躇いも無く二刀流ソードスキルのダブルサーキュラーで突進しながらエリュシデータとシャドウロードの刃をザザの身体に突き刺し、そのHPを0にした。
「後はお前だけだ、PoH」
「Wow、こいつは驚きだ、まさか本当に同類だとはなぁ…」
「お前みたいな快楽殺人者と、一緒にするな」
「oh、殺すのに躊躇いが無い時点で同類だぜ? まぁ良い、やろうじゃないか同類! 俺とお前と殺し合いを! イッツ・ショウタ~イム!!」
「ショウにすらならないぜ、お前は俺に、傷付ける間も無く殺されるだけだ!」
キリトの剣とPoHの
「イェア!!」
「っ! らぁああ!!」
振り下ろしてきた
「Ho、やるな」
「まだまだぁ!」
デプス・インパクトのメリットは相手の防御力を下げる事にある。PoHの防御力が下がった事で二刀流特有の高速連撃によるたたみ掛けは所々を防がれつつも、先ほど以上にHPを減らしていた。
「Year!!」
「がっ!?」
「キリト君!?」
だが、PoHとてやられっぱなしではない。短剣用ソードスキル、ファッド・エッジをまともに受けてしまい、付加効果である出血により紅い血のエフェクトであるポリゴンが斬られた箇所から止め処なく溢れ出てきた。
「止血結晶は使わせないぜ!」
勿論、キリトも出している暇など無いと判っている。だから出血が致命的になる前に、一気に勝負に出る事にした。
「はぁああああ!!!」
ソードスキルを発動させようとしたPoHの
「なっ!?」
結果、キリトお得意のシステム外スキル、
「……HA、やっぱり、お前は…同類だ、黒の剣士」
「ただ快楽の為に殺すお前と、一緒にするな…俺が殺すのは、SAO攻略の為だ。その障害物でしかないお前達を、殺す事に躊躇う必要は無い」
「偽善、ぶってんじゃ…ねぇよ……坊ちゃん」
それがPoHの最期の言葉だった。
ポリゴンの粒子となってPoHの身体が消えると、キリトはすぐさま止血結晶で出血状態を治すと、呆然とキリトとPoHの戦いを見ていた討伐隊メンバーの方を振り向く。
「これで、
PoHを、大勢が見ている前で殺してしまったキリトを見て、恐怖する者は・・・居ない。ただ、結果としてまだ子供のキリトに殺しをさせてしまった事が、彼らは堪らなく悔しい。
「気にしないでくれ…これは誰かがやらないといけない事だった、あいつ等だけは、あの三人だけは、誰かが必ず殺す必要があった、だから俺が討伐隊を組んだ責任として、やっただけだから」
そう、今にも泣きそうな顔をして言い切るキリトに、慰めの言葉を掛けられる者は…この場には一人しか居ない。
「キリト君、帰ろう?」
「アスナ……」
「今日は、キリト君の好きな物いっぱい作るよ」
「ああ…そうだな」
繋がれた手の暖かさが、キリトの涙腺を緩め…皆が見ている前で、キリトは一筋の涙を流すのだった。
キリト君、PKするの巻き。