悟空「オラの?」緑谷「ヒーローアカデミア!」   作:須井化

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前回までのあらすじ

どこにでもいる無個性少年緑谷出久。

彼は将来の夢であるヒーローを目指すべく日々修行を積み上げていく!

遂に幕を開けた雄英体育祭!!予選・本選共に順調に突破していく緑谷少年!

体育祭の最後を飾る第3種目、その気になる内容は生徒16人による勝ち残りガチンコトーナメント戦!!

準々決勝最終戦、緑谷少年は切島少年に苦戦を強いられるも何とか撃破。

とうとうベスト4が出揃った。

準決勝が迫る中緑谷少年は再び拳藤少女と遭遇するのだが…?

更に向こうへ!PlusUltra!!!






第35話

前のめりになって倒れそうになった…確かにその筈だったんだ。だが何故か身体はそれに逆らうように後ろに引っ張られた。いや…この場合…

 

【引っ張ってくれた】のか?

 

怯えるように身体がプルプルと静かに震えている。これは拒絶反応?生命の危機を感じたからなのか?或いはもっと()()()()が関わっている…?

 

 

 

 

地面にぺたんと座り込んだまま僕は呆然とするしかなかった。今何が起こったのか?そして何故こんな状況に陥ったのか不思議でならなかった。

 

試合の疲れからか頭が真っ白になり、しばらくポカンとしていたと思うと前から可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。

 

 

拳藤「…大丈夫?」

 

 

意識が戻った瞬間、目の前にしゃがんでこちらの顔を見つめる彼女の姿があった。

 

間近で見てもやっぱり綺麗だな…髪サラサラ?だし肌に汚れの1つも見当たらない。純白かよ…あ。後顔も

 

 

って何の観察してんだ自分…!

 

気がつけば、顔と顔が至近距離まで近づいていたもんだからめちゃくちゃ動揺してます。ええ…

 

あーっと…それでなんて言ったっけ今この娘…

 

緑谷「…ぇっ…ぁぅ」

 

あまりにも唐突の事だったから焦って返事をしようとしても呂律が回らず、聞き取れない。めちゃくちゃ慌ててます。ええ…

 

拳藤「うん…」スリスリ…

 

緑谷「ひゃふっ!?」

 

ボソボソと呟く中、いきなり拳藤さんが僕の脚を触り出す。え…これボディタッチ!?え?これ普通ポジション的に真逆じゃないっすか拳藤さん!?

 

男性らしかぬ高い声で悲鳴をあげてしまう自分…恥ずかし。

 

拳藤「……怪我は無さそうだな」

 

拳藤「悪いね。驚かして」

 

緑谷「……ぇ……」

 

ようやく触り終わってほっとするのも束の間。なんと今度はこちらに手を差し伸べてきた。

 

え……っとこれあれか?つまり…

 

握れと?

 

緑谷「だだだだ大丈ぶヒトリでオき上がれっからううううん」

 

流石に同学年の女子の体を自分の手汗で汚す程の度胸は持っていません。すぐに拒否した。

 

拳藤「あ〜杞憂だったかな。すまんすまん」

 

緑谷「こちらこそ…心配かけちゃって」

 

緑谷「後少しでぶつかりそうだったし」

 

ふぅ…ようやく平静が戻ってきたぞ。いつもの調子で会話を続ける。顔は未だ紅いだろうがな。

 

緑谷「え、えっと…拳藤さん?一応確認だけどさ…」

 

緑谷「ここ、1の方なんだよね?…控え室」

 

拳藤「ん?」

 

今更だが解説しておくと基本、トーナメントのブロックで前半の方…いわゆるくじの番号で言う所の奇数側の人は1番の控え室&入場口を、後半の方(偶数側)の人は2番の控え室&入場口を利用する事になっている。

 

まぁ途中で1、2番入れ替わったりで面倒くさいけどねこの方式。

 

準々決勝の3回戦で勝った拳藤さんは準決勝の後半戦、つまり第2試合の1人目として選ばれた人だ。

 

故に彼女が使えるのは1番目の控え室の筈なのだが…

 

 

ドアの前に貼ってある張り紙に目をやるとそこには2という数字が…

 

拳藤「あれま…間違ってしまったか」

 

拳藤「誰もいないから違和感感じなかったわ」

 

頭を掻きながらキョトンとしている拳藤さん。可愛らしい格好で構わないのだが、先生方や観客の人達が混乱してしまう可能性があるからなぁ…

 

緑谷「あの…それで出来れば1の方の控え室に移動してくれないかな」

 

緑谷「ほら…ごちゃごちゃされると困るだろうし」

 

拳藤「ヤダ」<メンドクサイ

 

なんてワガママな!

 

…とは言え女子の手を煩わす訳にもいかないか。【ならば自分が】と仕方なく2番の控え室の方へ足を運

 

ガシッ

 

 

緑谷「……」

 

拳藤「…」グィィ…

 

緑谷「………」ギリギリギリ

 

拳藤「待て待て待て…別にあんたが別の控え室に移動する必要は無いだろ」

 

ハイ第2のボディタッチ発生ぇぇぇ!!ねぇ引き止めるの強引過ぎじゃないっすか!?呼び止めるならまだしも何故掴む!?今握手は頻度や拒否したばっかりですよ!?

 

緑谷(あ、でも手首だからセーフか…)

 

緑谷(………)

 

女子が自分の右手首を握っているという状況をようやく認識した僕は頬を真っ赤に染めあげる。急いで拳藤さんの手を振り払おうと必死に足を動かすが…

 

緑谷「ふんぬぐぐぐ……」ギリギリギリ

 

拳藤「ちょ痛…休憩しに来たんならこっちの部屋で一緒に休みゃいいだろ!」

 

 

腕を引っ張った事により僅かに彼女との距離が離れただけで身体はほとんど前に進めない。

 

こちらが拳藤さんとは真逆の方向に力を入れるとなると、当然(何故か)部屋に迎え入れようとする拳藤さんはこちらの力に反発して自分の方に腕を引っ張るだろう。

 

…何が言いたいかって……

 

 

 

界王拳使ってないとはいえ本気で相手の身体引っ張ってるんだぞ?なのに…

 

なんでビクともしない?

 

それだけじゃない。彼女の腕の力がいくら強かろうが上下左右に腕を振り回せばすぐに拳藤さんの手は外せる。

 

 

 

 

緑谷(……)ミシッ…

 

緑谷(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃっ!?)ギリギリギリギリ

 

緑谷(今ミシッつったぞミシって!!どんな握力だよ!)

 

緑谷(後腕引っ張ってるから尚更痛ぇええええああっ!!)

 

このままだと冗談無しに手首折れる、というか右手が引きちぎられます。壊れてしまいます。

 

それ位やばかった。女子に手を掴まれるという精神的ダメージもあったが何より驚いたのがその筋力。拳藤さん自身も痛いと言っていたから多分最低でも彼女は僕と同等のパワーの持ち主という事になるが……

 

 

参考に言っとこう…個性使った砂藤君と対人してた時にはこんな力出てませんでしたよ彼。

 

 

 

緑谷「…………ん?」

 

緑谷「ね、ねぇ…拳藤さん?」ギリギリギリ

 

拳藤「何?ってかメチャクチャ腕が痛いんですけど…」グィィ

 

緑谷「今なんて言った?」ギリギリギリ

 

拳藤「だっ…だから面倒くさいなら2人で一緒に控え室1に居たらいいだろって言ったの!」グィィ…

 

緑谷(………)

 

『面倒くさいなら2人で一緒に控え室1に居たらいいだろって言ったの!』

 

緑谷(……)

 

『2人で一緒に控え室1に居たら』

 

緑谷(?)

 

『 ふ た り で い っ し ょ に 』

 

 

 

拳藤「どうせ()()()次の観戦しないんだろ?だった……」

 

拳藤「…お?緩くなった」グイッ

 

拳藤「……んー……」

 

緑谷「」プスプス…

 

 

僕の頭から白い煙がモクモクと立ちのぼる。あー…こりゃショートしてますね、脳。

 

 

 

 

 

本戦トーナメント準決勝…

 

これに勝てば最終試合、決勝戦に進出し晴れて頂への道の第一歩を踏む事が出来る。

 

まぁ…その通りあくまで決勝の前座勝負…それに辿り着くまでの1ステップでしかない。

 

……そう。たかが1ステップだ。

 

 

 

 

マイク「っYAAAAAA!待たせたな野郎共!!」

 

マイク「気づけばこのガチンコトーナメントも3試合を残すのみとなった!!」

 

マイク「ほんじゃま早速!準決勝前半戦開始と行くぜ!!」

 

ワァァァア…

 

 

マイクの放送が開始したと同時に大勢の観客から嵐のような歓声が巻き起こる。

 

胸の鼓動が高鳴り、既に人々の血は騒ぎ出していた。

 

午前中の観戦よりも明らかに熱気が何倍も高まっていた。

 

 

 

悟空「なんかさっきより客増えてねーか?」

 

悟空「気の数が始めよりも大分多くなったぞ」

 

マイク「そだな。今年の1年は敵襲来にあったにも関わらず生き残った優秀な奴らって事もあって例年より期待値が高くなるのは当然さ」

 

マイク「ま、観客数の増加も想定内だけどよ…それにしてもこの増えようはおかしいだろうよ」

 

マイク「午前中の2倍にはなってるぜオイ」

 

悟空「ほー!すげぇなそりゃ!」

 

悟空「まぁこんなワクワクする戦い見せられて心動かされねぇ方がおかしいけどよ!」

 

悟空「あーー…オラも参加したかったなぁ体育祭」

 

マイク「お前がいるからひとまずOKとは言え、今回のレベルの高さから見りゃ冗談無しに巻き添え食らいそうでゾクゾクするのですが」

 

どうやら今年の体育祭は例年より生徒・バトル共に多数の人から高い評価を得られている様子。

 

成る程。道理で昼休み中に人の数が急激に増えた訳だ。まぁ全身プルプルと震わせてるマイク先生にとってはそれ所じゃないって感じだが。

 

開催中は会場への途中入場も勿論許されているので観客の中には最初自宅で様子を見て、気が向いたら雄英へ足を運ぶって人も多いらしい。その逆も然りなのだが珍しく今年はまだ途中退場した者は1名も居ないらしい。

 

それ程までに今回の体育祭は注目されているのだ。特に1年の部は…………

 

 

こんな風に

 

 

 

 

切島「っかぁぁクソ痛ぇぇええ!!」

 

全身を襲う痛みに耐えながらもゆっくりと椅子に腰を下ろす切島君。

 

僕が保健室から出てった後程なくして彼も治癒をしてもらいにやってきていたらしい。

 

葉隠「あ、お帰り〜切島」

 

麗日「す…すごかったよ切島君!メチャ熱かった!」

 

切島「すごいも何も…今回もあいつの圧勝だよ」

 

切島「今回は一泡吹かせたかったってのによぉ!畜生!」

 

切島君は左手をギュッと固く握りながら必死に悔しがる。麗日さんも似たような決着だったから無理に明るく振舞っているのが分かっていて尚のこと心苦しいんだよな…

 

麗日「…それにしても包帯の量多いねぇ」<半ミイラ

 

切島「これだけ派手に暴れられただけでも勲章物よ。正直もっとあっさり決着つくと思ったぜ」

 

切島「それなりの意地だけは見せたつもりだけどな」

 

芦戸「……」

 

芦戸(…そうかな…)

 

芦戸(多分、切島は…緑谷を一泡も二泡も吹かせたと思うよ)

 

葉隠「……」カキカキ…

 

葉隠「…お手洗い行ってこよ」ガタッ

 

薄っすらと笑いながら感傷にふけると、葉隠さんはさりげなくその場から立ち去っていった。

 

 

切島「とりあえず、今は観戦に集中だな!よく観察してあいつらにリトライだ!」

 

麗日「うん!リトラる!」

 

切島<リトラる…

 

 

 

「……あのぉ〜」

 

麗日「え?」

 

 

もうじき轟君と上鳴君が入場して準決勝が始まろうとしている中、突然麗日さんの横から見知らぬ男性が話しかけてきた。

 

5月というもう春とは言えない気温の高さに似合わない格好をしており、全身を灰色のコートで覆っており、顔もフードを頭に被せ隠している。

 

…要するに名状しがたい不審者のような者ですね分かります。

 

急に呼びかけられた麗日さんは思わず動揺するが構わず男は話し続ける。

 

「ここぉ…って…1年A組の生徒の方々のベンチ……ですよね?」

 

緊張しているのか途切れ途切れに言葉を放っているので聞き取りづらいが…どうやら彼は1年A組の雄英生に用事があって来たらしい。

 

ドギマギしながら麗日さんは心細く返事をする。

 

麗日「あ…はい。そうです…けど」

 

「あ!も、もももしかして隣にいる方は…」

 

切島「お…おお?」

 

隣にいる方…つまり切島君の姿を確認するや否や彼は身体を震わせながら指を差す。

 

切島君も男性が話している人物が自分である事だと理解するとその男のように自分の事を指差して反応する。

 

コートの男性は気弱な声色とは一変し、声を荒げながらこう言った。

 

「今し方活躍していた切島鋭児郎君ですか!?」

 

切島「…は…?」

 

「いやぁ!私貴方の厚い闘志と熱い闘姿に心が惹かれましてね!すごく興奮モノでしたよ!ええ!!なんせ優勝候補優勝候補と祭り上げられていたあの緑谷君をあそこまで追い詰めていたのですから!流石は障害物競争で10位、騎馬戦でも2位という好成績で這い上がってきたトップの実力者と言えましょう!あぁぁ…っと要は私は君に1度会ってみたかったのですよ!君を間近で見てみたかったのですよ!君と是非話してみたかったのですよ!!!」

 

切島「………」

 

 

この時、切島君は1つだけ察せた事がある。

 

こ い つ は や ば い

 

無論自分の活躍を賞賛されて素直に喜べない筈が無いのだが、それ以上に何かこう…褒め方?が何というか…

 

まるで緑谷(ぼく)のような喋り方なのである。間髪入れずにとにかくマシンガンを撃ちまくるようなトーク法…とにかく気味が悪かったのだ。存在自体も勿論の事、その性質も……

 

 

……ただ……

 

 

切島「あ…えっと…スね」

 

切島「う、嬉しい限りっス!ありがとうございます!!」

 

それらを差し引いても自分の戦績を称えてくれている男性に僕が言う程の抵抗感は感じていなかった。そもそもの話、僕のマシンガントークも然程気に障る事は無かったっぽいしね。

 

「終盤まで活躍する人程会い辛くなってしまいますからねぇ…急いで来てみて正解でした」

 

「あの拳打一つ一つに込められていた覇気!!遠くからですが私にはちゃんと伝わってましたよ!!」

 

切島「マジっスか!?きょ、恐縮スよ…」

 

「個性を使用しながらもあのシンプルな殴り合い!ーっっっごく感動しました!私感動いたしました!!」

 

「大事な事なので2回言わせていただきます!」

 

切島「いやいや!俺なんてまだまだ未熟者ーーー」

 

 

麗日「…」ワイワイ…

 

 

この時、麗日さんは1つだけ察せた事がある。

 

こ い つ ら は や ば い

 

会って1分足らずですぐに打ち解け会った男性2名。地味に包容力があるのもどこか僕に似てる所があるとか無いとか…

 

もはや拳銃一丁では二丁の機関銃の間に横槍ならぬ横銃は入れられないと判断した麗日さんは途方に暮れながらもその光景をただ呆然と眺めるしかなかった。

 

「それにしても試合が始まる前に来れてよかったです!楽しいお話になりました!」

 

切島「お…俺もっス!今後も応援よろしくお願いしますっ!!」

 

切島「ほれ!最後に、漢同士の誓いの握手!!」スッ…

 

「っはい!」ガシッ

 

フード男の去り際、互いに熱い握手を交えた2人は暑い陽射しに照らされながらも厚い友情を誓い合った。

 

たった2、3分でこんなドラマチックなシーンが展開されるとは…流石切島君。漢だね………

 

それ以外にも色々突っ込みたい所があるけどね。

 

麗日「……友情ってこんなホイホイ作るもんやったっけ」

 

耳郎「あらら。切島…()()から触れに行っちまったよ」

 

麗日「自分から…ってどゆ事?響香ちゃん」

 

耳郎「実は今のコートさん、昼休みん時も来てたんだよねぇ」

 

耳郎「ベンチ(ここ)に」

 

麗日「!?」

 

耳郎「そん時上鳴が声掛けられてさぁ…」

 

 

『わー…本戦進出した上鳴君ですね!』

 

『あ…握手お願いします!!』

 

 

耳郎「って言われたモンで…あいつすぐ調子乗るからノリでやっちゃったんだよね」

 

耳郎「熱狂的なファンなのは結構だけどさ」

 

耳郎「あんな見るからに胡散臭い若い兄ちゃんとって…なんか危険な香りがプンプンするけどなぁ」

 

麗日「…ま、まぁ否めん…けど」

 

麗日(……あれ…そいや…爆豪君?)

 

麗日(いつの間にか居なくなっとる……)

 

麗日「手洗い…かな?」

 

耳郎「……………」

 

 

 

 

 

マイク「さぁお前ら全員!KIIIIIIIIIIIIITE O・DO・RO・KEEEE!!!」

 

マイク「ここまでほぼ瞬殺で試合に決着(ケリ)をつけてきたこの2人組が…」

 

マイク「遂に今、相見えるーー!!!」ワァァァア…

 

マイク「1番ゲートからは轟選手」

 

マイク「2番ゲートからは上鳴選手の入場だぁぁあっ!」

 

 

前述した通り、会場の熱狂は最早最高潮に達していた。観客の誰もが残る4人の生徒に期待を抱き、残る3つの試合に胸を熱くしていた。

 

…この地の文を何回書いた事だろうか。正直な話、いい加減これ書いても凄みが伝わってこないだろうなぁ、うん。

 

期待してるも待望してたも何ももう彼らは始まる前から確信していたのだ。【今年の…特に1年の体育祭はとても劇的なモノになるであろう】…と。

 

今更発狂しただとか雄叫びを上げたとか言っても別に驚く要素は1個も無い筈だ。何故ならば()()()()()()()()()()()()()()()()のが前提だからな。

 

この学校特有の体育祭のプログラムの斬新さもさる事ながら、生徒一人一人の個性的なパフォーマンスが人々をあっと言わせる事など容易い話なのさ。

 

ここまで散々話を脱線してきたが、詰まるところ僕が言いたいのはこの試合も午前中や第1試合、第2試合以上の盛り上がりを見せてくれるだろうという話だ。

 

マイクが説明している通り、彼ら2人のこれまでの活躍ぶりは言うまでもない。こんな白熱する度120%の試合を無言で観るなど以ての外なの

 

 

 

 

ゴォォッ…

 

 

 

上鳴「…」

 

轟「…」

 

 

マイク「……っぁ…ohhh…?」

 

 

 

 

 

()()瞬間まで平然と口を大きく開き、大声を発していたであろう彼らは()()直後、一斉に固まってしまう。

 

両者共に、普段から出ているのと明らかにかけ離れている表情で眉をしかめ、尋常でない程険しい顔つきをしていた。

 

2人の選手が互いに近づいていき、ステージに上がる…たったそれだけの事なのに…

 

 

「…それだけの事でこうも唐突にどエライ緊迫感が生まれるもんかねぇ?」

 

「今あいつらが立っているのは準決勝(ベスト4)っつーとんでもねぇ高さの山だぞ?」

 

「元々本戦まで勝ち残った奴らでスカウトされない方が少数派だけどよ、ここまでやってきたら逆にスカウトを避ける方が難しいって!」

 

「表彰台に立つのも既に確定してる!負けたとしても4位か3位!!もう目的の大半は達成してると言っても過言じゃねぇ」

 

「それなのになんであいつらは…」

 

 

 

「なんであいつらは尚更必死になれんだよ」

 

 

 

 

 

相澤<……俺から見ての話だが、少なくともヒーロー科の中でスカウト獲得したら満足なんて寡欲な生徒は居ねぇよ。

 

相澤<各々、形は違えどオールマイトに憧れ、彼のように1番のヒーローになりたい…1位という頂を手にしたい…

 

相澤<そんな大きい思い背負ってんだ。()()()()方がそりゃおかしいわな。

 

マイク(……オールマイト…ねぇ……)

 

 

 

マイク(俺が雄英(ここ)に入ってきた頃はオールマイトは成り立てのルーキーで世間からの注目度は今に比べりゃ相当低かった)

 

マイク(とは言え、初レスキューの動画の件もあって比較的有名な方だったし、雄英始まって以来の天才児だって位の噂なら腐る程流れていた)

 

マイク(…あの頃…かぁ)

 

 

 

マイク「……改めて思うと…」

 

マイク「とにかく【スゲェ】の一点張りだな、オールマイト(平和の象徴)

 

悟空「…おう。そだな!」

 

マイク「……ぁ…」

 

 

 

実況そっちのけで盟友と雑談を交わしていたマイクだったが悟空さんの返事でようやく記憶の世界から脱出する。慌てて実況を再開しようとするも…

 

そうこうしている内に2人は既にセッティングを終えていたようだ。

 

轟君はミッドナイトに指定された位置にただ立ち尽くすのみである。

 

上鳴君の方はというと……

 

 

 

ミッドナイト「…確かに指定の距離よりは近づくなとは言ったけど…」

 

ミッドナイト「それはそれで危ないんじゃない?上鳴君」

 

上鳴「無論!問題無いっスよ!!」ググッ…

 

轟「……」

 

左脚は膝を直角に曲げ前方へ

 

右脚は対照的に後方へまっすぐ伸ばして試合開始時の構えをしている。

 

というか…

 

 

マイク「クラウチングスタートだなありゃ」

 

マイク「右脚がギリギリ白線に触れているかどうかってとこまで接近してる」

 

相澤<氷は基本電気を通さない…となると決定打はこれまた技の【速さ】によりけりか。

 

悟空「んじゃやっぱ正面突破かぁ?」

 

マイク「でもフェイクの可能性もあるぜ?じゃなきゃギリギリまで離れてる意味ねぇし」

 

悟空「だなぁ」

 

相澤<でもあいつの速さなら別に凍らされる前に場外行けるよな?

 

悟空「だなぁ!」

 

相澤 マイク「「………」」

 

悟空「どっちだろーな!!へへ…」

 

相澤 マイク((こいつムカつく…!))

 

 

 

 

「…勝負はたった数分」

 

「この子達の試合に関しては恐らく10秒も経たず決着するでしょう」

 

「そのたった一瞬の為に命を懸け、それ以上の価値を見出す…」

 

「これだから最近の若いのは怖いんだよねー。何仕出かすか分からないから」

 

「いやー青春って素晴らしー!」

 

()()()姿()に似つかわしくないコメントをしながら女性はランドセルの中からゴソゴソと手探りをし始める。

 

中から取り出したのはなんとタバコ。ポケットに入れていたライターを手にし、箱の中に入っていた一本の紙巻きタバコに火を灯す。

 

「……」カチッ…

 

ボォッ

 

一息吸って一息吐くと、彼女はタバコを口に咥えながら独り言を続ける。

 

 

「ふぅ。それにしても……」

 

「…本当…()()()がすごいわね、あの子羊ちゃん達は」

 

「それでこそ教え甲斐があるってもんじゃん♪」

 

 

そんな時、横(正確には上か?)から警備員の男性に呼びかけられる。

 

警備員「……あ、あの…お嬢ちゃん?」

 

「…え?あ、わたしのこと?」

 

警備員「君が今持っているそれって…」

 

「たばこ…だけど?」

 

「…あ。もしかしてここってきんえんでしたっけ」

 

警備員「ま…まぁそんな所」

 

「ごっごめんなさーい!いつものしゅーかん?クセで!」

 

「お、おトイレですってきます!」ダダッ…

 

注意された女性は直様椅子から離れ、W.Cへ走り去ってしまう。どちらかというと禁煙の事ではなく他の諸々のツッコミをしたかった警備員はその走り姿を後ろから眺める事しか出来なかった。

 

警備員「……いや……おトイレでも駄目なんだぜJS(女子小学生)よ」

 

警備員「つーか…今の……小学生?」

 

警備員「あれ?小学生ってたばこ吸って良かったんだっけか?」

 

警備員「あ、でも最近は身長云々で学生の見分けつかなくなってきてるからなぁ」

 

警備員「ランドセル所持の時点で9.99割方JS(女子小学生)なんだが…ワンチャンありゃJC(女子中学生)?ってか…何にせよ喫煙自体アウトなんだが…」

 

 

 

 

「ちがうちがう。わたしはJS(ジェイスターズ)でもJC(ジャンプコミックス)でもないって」ポンポン

 

JK(じょしこうれいしゃ)!」

 

警備員「…………………」

 

 

ついさっき聞いたばかりのある声、手で触った割には下半身に触れられたという謎の違和感を覚えた警備員はおずおずと後ろを振り向くと…

 

あら不思議。さっき確かに遠方にいた筈のJK(女子高齢者)が。

 

警備員「ひぃぃいっ!?」

 

「ひ…ってそんなおばけでもみたようなかおしないでよぅ」

 

「おばさん、はだはツヤツヤでもメンタルはしわくちゃなんだから」<キズツク!

 

「にしてもこまったなぁ…きつえんじょがないとしたら()()()()()()()そとにでてすってくるしかないや」

 

警備員「あっの!僕!仕事あるんで!失礼い

 

警備員「だっ!?」ガシッ

 

どさくさに紛れて去ろうとする警備員の脚を右手で強く握り、捕まえる。

 

「つれないこというね〜。せっかくキミをわたしのせかいへとくべつにごしょうたいしようとおもったやさきにさ!」ギリギリギリ…

 

警備員「あーいや!わ、ワタクシ生憎タバコ嫌いなモノですから!!」

 

「うそはいけないなぁ…そういうの」

 

「あ、たしかにJSじゃないとはいったけどさ!」

 

「私こう見えてSJではあるんだよなぁ」

 

警備員「えっ…?」

 

「一本イッとく?」

 

警備員「……………」

 

この時、警備員は1つだけ察せた事がある。

 

こ い つ は デ ビ ル や ば い

 

 

 

 

さて…長々と茶番を挟みはしたものの……

 

何はともあれ、準決勝…氷VS雷の夢の対決の幕開けだ!

 

マイクは試合開始の合図を始める。

 

マイク「よっしゃ両者共に準備はいいなぁ!?」

 

マイク「まぁ良くなくても始めるけどなぁぁ!!」

 

マイク「レディィィ…」

 

轟「……」

 

上鳴「………」

 

 

 

 

 

 

上鳴(……準備は万端か?)

 

上鳴(毎度思うけど一々その質問が余計なんだよなぁ)

 

上鳴(何度も何度もマメに確認してようやく完璧!っつー時に一抹不安が脳裏によぎる)

 

上鳴(何か忘れちゃいねーのか?何か見落としちゃいねーのか?…途端に怖くなっちまうよ)

 

上鳴(前もこんな事あったなぁ…確かあれは……)

 

 

 

電ママ『アンタ筆記の方も大事だけど、ちゃんと面接の模擬練もしときなさいよ』

 

上鳴『模擬練?』モグモグ…

 

電ママ『電気は重度のコミュ障だからちゃんと雄英の方と話せるか心配だわ…マジで』

 

電ママ『面接で落ちる人だっていない訳じゃないんだからね!?』

 

上鳴『大丈夫だっての!過保護だなぁおい!単なる大げさな自己紹介だろ?楽勝楽勝!』

 

 

上鳴『俺ァ上鳴電気!この雄英高校の頂点を奪りにはるばるやって来た1人の秀才だ!!』

 

上鳴『血液型はO型、埼玉県出身、身長は168cm!因みに誕生日は内緒!!趣味?読書(マンガ)だよ言わせんな恥ずかしい!』

 

上鳴『個性は【帯電】!この世に存在する電気を自在に操る事が可能!痺れるだろ?褒めてもいいんだぜ?お?お?』

 

 

上鳴『ざっとこんなもんよ』

 

電ママ『こいつをどう思う?』

 

電パパ『すごく…上げすぎです』

 

上鳴『まー今のはテキトーにやっただけで本番の時は多少アドリブ入れて対処するから安心なさいな』

 

上鳴『面接なんざ屁ッチャラチャラだっての!ひゃひゃひゃ!!』ガツガツガツ…

 

電パパ『爆笑しながら飯がっつくな…夕ご飯飛び散る』

 

上鳴『へいへいサーセンw』

 

電ママ『……ねぇ』

 

 

電ママ『本当にそのままで大丈夫なの?』

 

上鳴『……ん?』

 

 

 

 

 

回想シーンの所悪いが、もう開始してるぞ

 

マイク「START!!」

 

轟「その気になりゃこんな距離一瞬で凍らせられるよ」

 

 

試合が始まった瞬間、轟君はステージの地面を凍らせていく。いつもの攻め方だな。

 

肝心の上鳴君はというと試合など上の空で少し前の出来事を思い返していた。呑気に上の空眺めていらっしゃる。

 

 

耳郎「ちょ…上鳴!なんで動かないの!?」

 

マイク「なんだ?もう開戦してるのが分かってねぇのか?」

 

悟空「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マイク「動けない…?」

 

上鳴「………」

 

 

 

 

 

『貴方の趣味はなんでしょうか?』

 

上鳴『えっ…読書……夏○(しょう)石の小説にハマっ…てます』

 

『個性は【帯電】…となっていますがこれは具体的にどのような事が可能な能力なのですか?』

 

上鳴『文字通り…電気を身体に……あ、後っ周りに放電位なら……』

 

上鳴(ヤベェェェ!?軽く10回は噛んじまってんよ!俺の初印象ダメダメじゃねーか!!)

 

上鳴(いやいや…落ち着け落ち着け上鳴電気!……テンパらず気楽にやりゃ問題ねぇし!?問題ねぇ!!)

 

上鳴(さぁ次来やがれ!!)

 

『貴方の志望動機は何ですか?』

 

上鳴『え…ど、ドーキ?』

 

上鳴(あー…理由の事ね、ここに希望する理由)

 

上鳴(マズッたなぁ…考えるのが()()()()()から保留にしてた項目だわソレ)

 

上鳴(テキトーにそれっぽい事言ってやり過ごそ)

 

上鳴『っ…とと…お、オールマイト…にその…憧れて……』

 

『何故ですか?』

 

上鳴『へ?』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

上鳴『…』

 

 

 

上鳴(…いや何故って聞かれましてもね。なんとなくとしか言えませんわなそりゃ)

 

上鳴(特にヒーローが大好きな訳でも無ぇし、世界の平和を護りたいなんて大層なポリシーも無い)

 

上鳴(周りが行きたいって騒いでたから釣られて俺も来ただけだ。オールマイトとかに全く興味なしって訳でも無かったしな)

 

上鳴(俺がここで手に入れたいのは何だ…富か?名声か?力か?それとも……)

 

『…………

 

 

 

轟「……?」

 

上鳴(クソッ!やべぇ!やべぇ!何固まってんだよ俺!!)

 

上鳴(ビビるな!動け!じゃなきゃ落ちるだろ!?)

 

上鳴(動け動け動け動け動け動け動け動け動け

 

 

 

 

上鳴「動けやァアァアアアッ!!!」ガァッ!!

 

瀬呂「うっぉお!?」

 

口田(消えた!?)

 

突然雄叫びを上げたかと思うと大きな衝撃音が発生する。その途端上鳴君はいきなり姿を消してしまった。

 

気づいた時にはもう既にステージの地面は全て凍らされていた。しかし、試合開始時に上鳴君が居た地点に目をやるとそこだけ不自然にコンクリートが砕けた跡が残っていた。

 

どうやら凍結される寸前にどこかに避難していたらしい。

 

轟(つっても…フィールド内の地面は俺が全範囲凍らせた筈だ)

 

轟(もし単純に前後左右に走って動いたとしても凍結の速さからしてまず確実にコンクリと一緒にお陀仏だ)

 

轟「って事は上か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダッ

 

上鳴「真後ろだバーカ」

 

轟「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非常に次の展開が気になる所悪いが少し時間を遡って場面を切り替えよう。

 

試合が始まる2、3分前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっきのオレンジ髪の人…カッコよかったな』

 

『恥ずかしい所見られちゃったなぁ…』

 

 

あの日から、ずっと考え続けていた事がある。

 

僕がこうして雄英に通えるのも…というか雄英生徒の一員として相応しい実力を身につけさせてくれたのは他でも無い孫悟空さんだ。

 

だが、悟空さんと会った事自体は単なる偶然。まぁ色々あっての巡り合わせだっただけかもしれないが。

 

ではどうして僕は悟空さんに会えたのだろう。どうして僕はあの時かっちゃんに駆け寄れたのだろう。というかそもそも…なんで()()()に全てが変わったんだ?

 

 

 

 

何を考えてもまず最初に拳藤(彼女)の存在を思い浮かべてしまう。

 

あの日、僕が風船を取らず彼女と会ってなかったら、時間差で悟空さんに会えずあのヘドロに殺されていたのかもしれない。いや、オールマイトに追いかけられて必死になって逃走していた筈だ。もしかすると何事も無くまたいつも通りの日常を迎えてそれでお終いだった可能性も高い。

 

ヘドロに突っ込んだ時咄嗟に思いついたのは【かっちゃんが苦しそう。助けなきゃ】それだけだった。だからあの時かっちゃんにもそう言ったのだが、何より僕の背中を押してくれたのはその直前の彼女との出会いだったと思う。【2度とあんな恥をかきたくない】…そんな気持ちが僕にあの時、あの場所で、あの決断をさせた要因だろう。

 

今思えば恥だとかそんなレベルの話じゃなかったし、無意識の内に悟空さんを信頼していたから出来ていたかもしれなかった行動だったが…それでも死にものぐるいで救けに行ったのは間違いじゃなかったと日々を重ねる毎にしみじみ感じてくる。

 

 

 

…とするとこの娘は僕に手綱を引いてくれていたのではないのか?大げさすぎるかもしれないが、ここまであった出来事は彼女の出会い無しに成り立つものではないんじゃないか?

 

数えられない程の多くの【もの】を与えてくれたのかと思うと、彼女には感謝してもし切れない。

 

もし…もしだ。もしももう一度だけあの娘と会えたとしたら…………

 

 

 

 

 

拳藤「おーい。デクー」

 

拳藤さんに肩をユサユサと揺らされ、ようやく目が覚めた。夢の国はもう終わりだよ!と言いたげな絶妙なタイミングであった。黒鼠恐ろしい。

 

とりあえず彼女の声がした右の方向を向くと何とも可愛いらしい笑顔で僕の目覚めを迎えてくれた。

 

お尻がペタンと何かしらの物体にくっついている事と起きた瞬間目の前に映ったのが控え室の壁であった事から、自分は数分失神していたという事がはっきり解った。

 

そしてつい先程まで楽しんでいた(?)夢の国の内容も相まって今自分がどんな状況に置かれてるか理解すると再び顔を赤らめ、動揺してしまう。

 

拳藤「良かったー。いきなり気絶するもんだから怪我させちゃったのかと思ったよ」

 

緑谷「い、いや…ホント、ゴメンね。何度も迷惑かけちゃってるよ今日」

 

拳藤「いいのいいの!1日動きっぱなしだし疲れるのは当然っしょ」

 

すごい説得力の無い台詞ありがとうございます。拳藤さんの陽気な様子からは全く疲労が見て取れませんよ。

 

拳藤「まぁ……」

 

 

 

 

 

 

拳藤「あんたは別でワケありな感じはするけどね」

 

緑谷「!?」

 

拳藤「午前中の時より動きにムラがある。障害物競争の時はもっとこう無駄が無かったていうかスムーズにアクションできてた。特に切島戦の時は受け身ばっか取っててデクずっと攻撃してなかったよね?多分やろうと思えばもっと早くケリはつけられたと私は思うよ。後表情が少し暗い感じだったし…入試とか相澤先生と戦ってた時の方がよっぽど生き生きしてたぞ。楽しめとまでは勿論言わないけどさ、も少し……何だろ、明るくいこう?ほらモチベとか結構影響するだろ?むすっとしたってそりゃ戦い辛いに決まってる。後これ関係ないかもしれないけど昼メシの時八百万以外とは全然話してなかったよね?」

 

拳藤「なんかあったのか?」

 

緑谷「………………」

 

緑谷「???」

 

 

えーっと…どうリアクションすればいいのかな?コレ。ってかウケ狙い?え?そりゃ内容はバッチリ聞き取れたが今の発言、ツッコミ所が1ヶ所2ヶ所が済まねえぞ?う、ううううう…

 

ひとまず途中の内容はすっ飛ばして最後に言っていた言葉だけに着目する。

 

確か昼ご飯の時に………

 

 

 

緑谷「…もしかして、席に困ってたんじゃなくてわざと僕達の所へ?」

 

拳藤「いや?」

 

拳藤「ちょっと野暮用があって遅くなった。それでたまたまデク達のテーブルを見つけただけだよ」

 

拳藤「昼休みの時のお前ら見てて…なんとなくさ、よそよそしい接し方だったから」

 

緑谷「…………」

 

 

大体あの場に拳藤さんがやって来た事自体僕は不自然に思っていた。なんで彼女があんな遅い時間帯に、しかも僕が丁度来たばかりのタイミングでだ。敵情視察だとか、そういう類の企みがあって僕達のテーブルに割り込んできたとばかり思っていた。

 

まぁそのお陰で約3名のSAN値をゴリゴリ削っていかれたなんて死んででも言えないが…

 

思えば騎馬戦の時も、僕が途方に暮れてる時に救いの手を差し伸べてくれたのも彼女だったな。

 

 

不思議な感じだ。

 

まるで拳藤さんがいつも僕の傍で見守ってくれているような……

 

 

 

拳藤「で?クラスの奴らとなんかあったの?デク」

 

緑谷「………あ…え、ん……」

 

しまった!気づかぬ内にボンヤリしてまた思考停止してたよ…この娘を前にするといつも気が動転するんだよなぁ。

 

それで…?何?何かあったって?

 

拳藤「悩みがあるなら私が聞いてやるよ」

 

緑谷「悩み…ね」

 

本当彼女には驚かされるな。洞察力凄い……ってか何でもお見通しというか…

 

見事なまでに図星を突かれるなぁ。

 

緑谷「う〜ん」

 

いざ聞かれると困ったような顔でしばらく黙り込んでしまった。確かに現状八百万さん以外とはまともに話せないとなると相談相手にはピッタリな人物ではあるのだが………

 

緑谷「………」

 

 

 

『僕は君を見限っちゃいないからな』

 

 

『お前の頭脳と戦闘力があるのは()()()しな』

 

 

『俺の分も…頑張ってくれよ、緑谷』

 

 

 

拳藤「どした?下向いて」

 

緑谷「…」

 

 

 

そうだ。別に皆が皆僕を遠ざけようとしていた訳じゃない…というよりもクラスの人達から聞く限り僕を嫌っているような人は1人も見当たらなかった。

 

ただ…日が経つにつれて少なからず変化していくモノもありはした。

 

 

 

意識し始めたのは入試が終わった頃だったと思う。あの位の時から僕は、自分は常人を…それどころか並の敵やヒーローを遥かに凌ぐ実力を得ていたというのを実感していた。

 

口で大きく言えた事じゃないし、自慢する気も全く無いが、これでも自分がこの学校の高1の中じゃ1番に強い生徒だという事ははっきり自覚している。

 

恐らく現在在籍している雄英生で僕と互角以上に渡り合える人と言えば高3の()()()3()位のものではなかろうか。

 

いずれにせよ自分が信じられない程強く成長した事は僕自身嬉しかったし、周りが自分の活躍を見て驚いたり称賛したりする所を実際目にするとかなりの爽快感を味わえていた。

 

 

これがエリートなのか。

 

これが優等生なのか。

 

これが天才って奴なのか。

 

 

 

 

でも……だから…

 

 

だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

雄英に入って実際に色々と奮闘してきたものの、最初は嬉しいと感じていた褒め言葉も次第に複雑な気持ちが入れ混ざってくる。

 

【すごい】だの【強過ぎる】だの…言えば言う程その称賛に価値は無くなっていってしまう。

 

それどころか…その言葉が称賛では無く選り分けているように聞こえてくるのだ。選り分けると言えば聞こえはいいかもしれないが、言うなればこれは自分達と同じ領域に居る筈の者をその分際(ニッチ)から除外しているようなものだ。

 

 

こいつは自分達と明らかに次元が違う。

 

こいつは自分達と圧倒的にレベルが違う。

 

こいつは自分達と何もかも違う。違い過ぎる。

 

 

まるで称えている筈の人物を自分等から遠ざけるように謙って喋っているのだ。

 

そんな言葉を何度も繰り返されたらそりゃ嫌気がさすに決まってる。頻繁に言われるようになれば決まって遠慮しがちに反応を示すのは当然だろ。

 

 

別に大した事じゃない。

 

ただ偶々ツキが良かっただけさ。

 

努力したから結果が実っただけさ。

 

 

他人からすればとんだ侮辱だろう。1年前の自分からしてみれば話し相手をコケにしてるようにも聞き取れる。

 

どうせそうやって心の中じゃ嫉妬している者や悔しがっている者を見て腹抱えて笑ってるんだろ?少し昔の自分だったらこんなの、容易に想像できる背景だった。

 

 

 

 

 

最初は…ただ皆と同じ場所に立ちたかっただけなんだ。

 

近づいていくにつれて皆と対等になれるのがとても嬉しかったんだ。

 

 

 

だけど…結局また皆と距離を作っただけだった。

 

気づけば前よりももっと悪化してるじゃないか。

 

 

『当たった奴も可哀想だよなぁ』

 

 

ふざけんな

 

 

『女の子いたぶって遊んでんじゃねぇよ!それでもヒーロー志望生か!?』

 

 

なんで自分の才能フル活用して頑張って戦ってんのになんで妬まれなきゃいけないんだよ

 

 

『落ちぶれてんなぁ…どいつもこいつも』

 

 

どう考えても理不尽だろうが、そんなの

 

 

 

 

…果たして1年前の自分がこんな感想を言えただろうか?

 

多分、そんな度胸は無い。

 

 

 

 

昔からかっちゃんが他人と距離を置いていたのも、他人に協力を求めなかったのも、他人を傷つていたのも、今ならなんとなく理解ができる気がする。

 

だってさ…

 

そもそもその言い方がおかしいんだよ。

 

 

他人がかっちゃんと隔たりを作っただけだし、

 

他人がかっちゃんを1人で大丈夫って信じ切って放置した訳だし、

 

そうやって他人から仲間外れにされているかっちゃんが1番の被害者じゃないか。

 

 

 

 

 

 

弱かった自分

 

今の自分

 

互いに正反対であるこの2つの立場を両方共に経験した事のある僕だったからこそ、感じる事が出来る1つのもどかしさであった。

 

 

 

 

 

…でだ。結論的に何が言いたかったて言うとなんかここ最近皆とギクシャクしてて、某男性曰く溝が出来ているので何とかしてください拳藤様……的な感じだった気がする。

 

さて、こんな質問を彼女に投げかけた所で一体なんと答えて下さるものか…つーか回答出来んのかコレ。ひとまず内容に少し引いてガンバの3文字で済まされるに100票入れさせていただきます。

 

緑谷(とは言えなぁ…自分1人で頭抱え込んでた所で何の進展も生まれないし)

 

緑谷(何よりこれは拳藤さんと会話ができる数少ない機会(チャンス)…)

 

緑谷(…ってまず【何より】って一体何を考えているんだ僕は!?お門違いな発言だぞ!)

 

緑谷(その言い方じゃまるで僕が彼女のことを………)

 

緑谷(……え……)

 

 

頭の中で色々考えている内に僕はある問題(カベ)にぶち当たる。いや…問題(カベ)というか……素朴な疑問というか。

 

僕は拳藤さんの事をどう思っているのか?否、拳藤一佳という少女は僕にとってどういう人間であるのか?

 

僕を雄英(ここ)へ導いてくれた大恩人か…そりゃそれに違いないけどさ、()()()()()んだよなぁ。もっとこう特別な…かけがえのないって言うの?大切な人みたいな…

 

 

…もしかして僕って拳藤さんの事好

拳藤「ところでさ、デク」

 

 

 

 

 

緑谷「………あ」

 

緑谷「はい。デクです」

 

何かを心の中で言いかけたようとしたその時、拳藤さんは再び僕を呼びかけた。自分の真意に迫ってく事もあってか緊張する余裕すら殆ど失っていた。ぶっきらぼうに返事をしてしまう、

 

 

おい!僕は今なんて言おうとしてたんだ。正気の沙汰じゃねぇよ。むむ…さっきリカバリーガールに妙な事吹き込まれたせいか?言ってる事と言いたい事と考える事と考えたい事が完全にごちゃ混ぜになっているのだが!?

 

そして数秒経って今更気づいた。

 

 

緑谷(相談持ちかけるタイミング無くしちまった畜生ォォオオッ!!)

 

 

【ところで】ってそりゃもしかしなくても話題を転換する気満々ですよね奥さん!?

 

アレか!?いくら待っても返事が無いから異常なしと判断した結果か!?

 

それとも何だ!?いつまで経ってもうー☆うー☆唸ってるだけでウジウジしてるだけのウジ虫だなコイツって見限られたパターンか!?

 

拳藤「赤くなったと思ったら今度は青ざめてんぞ」<信号機か

 

緑谷「ぉぅっ!?」

 

危ねぇ危ねぇ!さっきから脳内がショートしてるお陰で体外の情報が全く入ってこなかった!バッチリ会話放棄しちゃってたよ!

 

とととととにかくまずは拳藤さんが話したがってるから彼女の話を聞かなければ!

 

緑谷「ぇぇと…で、な、何を…だっけ?」

 

拳藤「デクって鉄道好き?」

 

緑谷「………???」

 

緑谷「い、いや…別に好きでも嫌いでも無いけど」

 

拳藤「私、路線図見ると混乱しちゃうんだよね〜。電車?の種類多いから」

 

拳藤「そもそもついこの間まで地元の電車すら殆ど乗ってなかったしさぁ?ウチはバスとか?そっちの方多く利用するし」

 

緑谷「へ、へぇ…」

 

さっきの緊張云々が嘘のように身体から抜け出し、ついつい棒読みで相づちをうってしまう。

 

いや…だってさ、ね?

 

拳藤「副都心線とか有楽町線とか言われても…どこ停まるのかとかどこの地域周ってんのかとかよく分からんのよ」

 

拳藤「駅の名前もパッと見ても分かりにくいしさ?ホラ、山手線ゲームやってる時にリアルに山手線答えてって言われたら困るタイプなの私」

 

拳藤「高田馬場ってなんで高田馬場なのかね」

 

僕に聞かれても困る

 

 

さっきから話の趣旨が理解出来ないぞ?拳藤さん……確かに君が鉄道に苦手意識が少なからずあるというのは分かったけど()()()()()()()()()()

 

なんで急に鉄道の話題を出した?

 

今この場で自分が嫌いだってアピールする必要が何かあったのか?

 

それともやっぱり【なんとなく思いついたから】なのか?この娘に限ってそんな事はしないと思うけどなぁ…

 

何だか興が削がれたような感覚を覚え、段々渋い顔になっていく。返事もポソリと呟くだけでそっけないような反応に変わっていった。

 

これじゃまるで初めて会った人と会話が弾まないコミュ障じゃねーかよ…いや全くもってして間違えた事は仰っていませんが……

 

 

 

 

緑谷(ん……キンチョー?)

 

 

 

拳藤「それにさぁ、停まる所が同じとかザラにあるじゃん。乗り換えとか色々面倒くさいんだよ〜」

 

拳藤「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

拳藤「訳分からんわ」

 

緑谷「い、いやいや…ルート云々の話は別にバスとか…他の車でも言える話だし」

 

緑谷「電車が嫌いって理由には繋がらないんじゃ…」

 

緑谷「…………」

 

 

 

 

電車……ルート…線路………

 

 

拳藤「……()()()()()()()()()()()

 

緑谷「…ぁ〜…」

 

 

なるほど。()()()()()()もあるのか…

 

 

 

 

緑谷「……まずね、拳藤さん」

 

緑谷「線路と駅の名前くらい、皆覚えてるよ?」

 

拳藤「はぐぅえ!?」

 

余程衝撃的な事実だったのか、驚きのあまり目を丸くする拳藤さん。それ程びっくりする事か?コレ…

 

緑谷「そりゃ…僕だって東京の駅名位全部覚えてるし、場所だって把握してるよ」

 

緑谷「学校関連の用事で交通機関フル活用する可能性だってあるからね、大都会だし」

 

拳藤「理解に苦しむわ!」

 

拳藤「私地理苦手なんだよ〜。地図出されると途端に目がくらくらに…」

 

緑谷「それとこれは関係ないでしょ……」

 

緑谷「だって拳藤さん?もし休日友達に遊びに誘われたとかで集合場所が知らない駅の名前だったらどうするの?」

 

拳藤「んな事グー○ル先生の手にかかればチョチョイのチョイよ」

 

緑谷「地図読めるの?地理苦手なのに」

 

拳藤「………」

 

拳藤「ほ、ほら…多少はね?」

 

駄目だコイツ早くなんとかしないと。

 

にしても驚いたな…一見八百万さんよろしくなんでもできる優等生みたいなイメージだったのに苦手な教科とかあったんだな。

 

後、拳藤さんって方向音痴なのね。

 

拳藤「…で、デク」

 

拳藤「さっきの答えは?」

 

緑谷「……」

 

 

 

 

緑谷「ご想像にお任せします」

 

照れ隠しで笑いながらそれだけ答えると、彼女もそれに釣られてニッコリと微笑んだ。

 

拳藤「ちぇっ〜」

 

拳藤「ま、いっか」

 

緑谷「…へへ」

 

 

全く、しらじらしいと言うか…いやらしい女の子だな。君は…

 

最初から理解(わか)ってんなら婉曲に答えなくたっていいだろうよ。

 

結局…そんな彼女のいやらしさにさえ感謝している自分がいる訳だが。

 

いつの間にか喋り方もいつも通りに戻ってるし……マジで不思議な娘だなぁ、拳藤さん。

 

 

 

いつ見てもカッコイイし、可愛いし……なんだろ

 

色々、【スゴイ!】ってなる。

 

たまげたなぁ。

 

 

 

 

 

 

…とまぁこんな風に長々と話していると部屋の片隅に設置されてあるスピーカーからマイクの放送が流れ出す。

 

どうやら準決勝…上鳴君と轟君の試合がとうとう始まるらしい。

 

マイク<っYAAAAAA!待たせたな野郎共!!

 

マイク<気づけばこのガチンコトーナメントも3試合を残すのみとなった!!

 

マイク<ほんじゃま早速!準決勝前半戦開始と行くぜ!!

 

緑谷「あ、前半戦とうとう始まるか」<ワァァァア…

 

拳藤「確かどっちもお前のクラスメイトだろ?」

 

拳藤「正直な所どっちの方が見込みあるよ?勝つの」

 

緑谷「え…ん〜と、そーだな」

 

緑谷「拳藤さんはどう思う?」

 

拳藤「ご妄想にお任せします」

 

緑谷「著作権侵害はいけないよ、拳藤さん」

 

拳藤「参考にしただけだし?つーか著作権あんのかよさっきの!」

 

緑谷「で、結局君的にはどっちを推すの?」

 

拳藤「まぁ今のは冗談なんだが……うーん」

 

 

 

拳藤「じゃあデクの思う方でいいや」

 

緑谷「…僕?」

 

拳藤「おう!あんたと同じ意見にするわ」

 

そう来たか…自分は決まらないから相手に判断を委ねると。困ったなぁ…僕自身確証がある訳じゃないし大した根拠も無いんだが………

 

 

緑谷「……上鳴君は強い。速さだけなら多分ここの学校の生徒でもピカイチだと思う」

 

緑谷「電撃が氷相手じゃ轟君には通じない。とするとやっぱり今まで使ってきた隠し玉で攻めていくんじゃないかな?」

 

拳藤「それって逆に言えばビリビリ君の取れる行動がその隠し玉しか無い以上幾らでも氷君は対策が取れるって事じゃないの?」

 

緑谷「そう。ここで彼の取るべき最善の行動はフィールド内の地面を全て凍らせる事」

 

緑谷「そうすれば上鳴君はたちまちカチンコチンだ」

 

拳藤「タチマチカチンコチン…って」

 

拳藤「でもビリビリ君って触れられたのにも気付かない位のスピードあるんだろ?だったら凍結される前に瞬殺される気がするけど」

 

緑谷「うん。もし開始直後に隠し玉が()()()()()()()完全に彼の出来レースだ」

 

拳藤「すぐに出せれば…?」

 

緑谷「…どうしてこんな事言うかっていうと、2回戦の時の上鳴君の様子がおかしかったからなんだ」

 

拳藤「ん?見たような見てなかったような…」

 

緑谷「彼は飯田君が蹴る寸前に隠し玉を発動させた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったにも関わらずだ」

 

拳藤「…あー。確かに」

 

緑谷「ここから導き出される答えは1つ…

 

 

緑谷「技の副作用だ」

 

拳藤「副作用?」

 

緑谷「ああ。恐らく上鳴君の隠し玉は【使えば使う程スタートダッシュが遅れる】…そういうデメリットがあるんだと思う」

 

緑谷「つまり、技の効果自体は変化が生じないけど脳が動けと命令を発して身体が反応する時間が1.0秒、1.5秒、2.0秒って感じに長くなってしまう」

 

拳藤「なるほど。発動に時間がかかると」

 

拳藤「でもなんでんな事分かったんだ?」

 

緑谷「…1回戦の直後、上鳴君突然消えたろ?」

 

拳藤「あー!確かフッと消えて2、3秒でお前らんとこの席戻ってきてたアレか!」

 

緑谷(なんで知ってるの!?)

 

拳藤「だったら尚更おかしくない?なんで彼自分の首を絞めるような事してるの?」

 

緑谷「………そう。そこだよ」

 

緑谷「【試合外で使う程の余裕がある】…つまりこの技にデメリットなんかありませんって偽りのメッセージを送ろうとしたんだよ」

 

緑谷「普通あんなチートじみた技使うなら何かしら弱点がある筈だ!って皆捜し始めるでしょ?」

 

緑谷「ああやってアピールすれば少なくとも、見た人は多用してもヘッチャラだって思うよ」

 

緑谷「実際拳藤さん今聞くまではあの技に弱点があるなんて思ってもみなかった事でしょ」

 

拳藤「ふむふむ」

 

緑谷(…あれ?そうでもなかったりする?)

 

拳藤「でももしエンジンがかかるの遅いんだってんなら早くかければいいだけじゃないの?」

 

拳藤「流石にスタートの【ス】が聞こえてから発動すりゃ試合開始前に動く事は無いんじゃね?」

 

緑谷「あのマイク先生だよ?気が変わって【STAAAAAAAART】とか【SUUTAAARTOOO】とか言うかもしれないじゃん」

 

拳藤「そりゃあり得な…くもないか」

 

緑谷(……そういう意味では成る程。ある意味マイク先生が適任だった訳だ、アレは)

 

緑谷「ま、出遅れるとは言うもののそれも1秒かそれ以下の誤差に過ぎない」

 

緑谷「なんせ飯田君のレシプロでケリをつける前に発動できてしまってる」

 

緑谷「それでまた時間が長くなったとしても、精々エンジンがかかるまで3秒かかるかかからないか…」

 

緑谷「それまでに轟君が凍結できるかがかなり鍵だよ」

 

拳藤「…………へぇ…………」

 

拳藤「もしさ、上鳴が轟の凍結避けたらどーすんの?」

 

拳藤「そん時は轟の負け?」

 

緑谷「……そうだね…」

 

緑谷「僕の読みが正しければ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方の志望動機は何ですか?』

 

上鳴『………』

 

(……返答なし、と)

 

(見込みなしかな。動機でオールマイトが〜はもうかなり聞き飽きたよ。もう少し凝ったの考えな)

 

(まぁ面接がボロボロでも成績が良ければ或いは…)

 

上鳴『救けたい』

 

『?』

 

上鳴『救けたい…友達(ダチ)がいるんです!』

 

上鳴『そっ…そいつトラブル遭って今入院してるんスよ!』

 

上鳴『元々病弱?だったのか知らねぇけどなんだ…いわゆる植物状態で』

 

上鳴『何言ってもちっとも笑わねぇしちっとも悲しまねぇ…です』

 

上鳴『だから俺もオールマイトみたいになって…』

 

 

上鳴『()()()()()()()()()()()()()()……!!』

 

『……』

 

(今作ったアドリブジョークか?にしては出来すぎてるし……)

 

 

(随分と気が込もってるじゃないか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダンッ!!

 

 

轟君の頭上を飛び越え、即座に彼の背後に回り込む上鳴君。(じめん)に着地すると共に強く踏み込み、轟君の背中に飛びかかる、

 

轟(後ろ…!?)

 

耳郎「完全に意表を突いた…!」

 

芦戸「ファイト〜!上鳴やっちまEEE!!」

 

 

彼の足音でようやく轟君が後ろにいると気がついたが、時すでに遅し。もうその時には上鳴君は轟君の間近にまで迫っていており、右脚を後ろに振り上げ攻撃の態勢は完全に整えられていた。

 

 

上鳴(ありがとよ轟…お陰でスゲェ()()()()()()()思い出しちまったよ)

 

上鳴(お前とアイツに勝って、1番になれば…俺は少しだけ夢に近づける気がするよ!!)

 

 

 

上鳴(()()()を救ける…その道を1歩前進できる筈なんだ!!)

 

 

後頭部近くにまで上げていた右脚を勢いよく前へ蹴り上げる。轟君が上鳴君の位置を確認しようと首を左に回し振り返ったその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

バギィッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(偶々、夜遅くに起きてしまったのだ)

 

(もう既に皆が寝静まっている筈の2時頃に)

 

(特別尿を足したかったわけでも無く、なんとなく起きてしまったのだ)

 

(今思えば、無意識に只ならぬ狂気を身体で感じ取っていたのかもしれない)

 

(隣にお母さんがいない。もうこんなに遅い時間なのにまだ寝ていないのか)

 

(ひとまず寝室を出て台所へ向かうと何やらやかんで水を沸く音が耳に入ってくる)

 

(この時間に誰が火を使っているのだろう。興味本位でそれを覗きに行くと……)

 

 

 

『お母さん…私ヘンなの…もうダメ』

 

『子供達が…日に日にあの人に似てくる…』

 

轟『?』

 

(お母さんがどうやらおばあちゃんと電話で話していたようだ)

 

(会話はボソボソと小さい声で呟いているだけで細かくは聞き取れなかったが……)

 

 

(…ひどく、悲しそうな声で喋っていた事だけはよく覚えてる)

 

 

『焦凍の…あの子の左側が…』

 

『時折醜く思えてしまうの』

 

ボコボコッ!

 

轟『!?』

 

 

(お母さんの精神とシンクロするかのように水が激しく噴き出していた)

 

(一瞬やかんの火が危ないよと言おうとしたが…)

 

(それよりもお母さんの言っている言葉の意味が気になって仕方がなかった)

 

 

『私…もう育てられない…』

 

『育てちゃ…ダメなの』

 

 

(育てちゃいけない?何を言っているんだ?自分達を見限るのか?)

 

(何があったかは分からない。でも心配だ。助けてあげたい)

 

(そう思ってお母さんに呼びかけた)

 

 

轟『お…母さん?』

 

『…』

 

クルッ

 

轟『っ!!』

 

 

(振り返ってお母さんが俺に見せたその顔は…)

 

(想像を絶するものだった)

 

 

 

ガシッ………

 

 

 

 

 

(翌日、気づけばお母さんは姿を消していた)

 

 

轟『お母さんは…?』

 

エンデヴァー『お前に危害を加えたので病院に入れた』

 

エンデヴァー『全く…大事な時だと言うのに…』

 

轟『……』

 

 

(大事な時?お前はお母さんの話を何も聞かずすぐに追い出したのか?)

 

(お前ににとってお母さんは何なんだ?)

 

(お母さんが壊れる事よりも打倒オールマイトの方が重要なのかよ)

 

 

 

(ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな)

 

 

(お前のせいだ…このクソ親父のせいで、俺の家庭は完全に崩壊した!)

 

(……いや……)

 

 

 

 

轟『う…ぁ…お゛え゛!!」ドバッ…

 

ドサッ

 

エンデヴァー『立て。こんなものではオールマイトはおろか雑魚敵にすら…』

 

『やめて下さい!まだ五つですよ…』

 

エンデヴァー『もう五つだ!邪魔するな!!』

 

バシィッ !

 

轟(お母さん……)

 

 

 

 

 

(俺に力が無いから)

 

(お母さんを護るだけの力も無い俺自身の責任なんだ)

 

(左眼の火傷(この傷)は…証だ)

 

(昨日までの自分の非力さをその眼に焼き付け、刻み込み)

 

(今日から俺はお母さんと共に、強くなる…っ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上鳴「……なん…で」

 

轟「……」

 

 

 

上鳴君の渾身の蹴りの一撃は確かに轟君の左頬にヒットした。

 

だがそれは轟君をダウンさせるには至らなかった。それどころか、轟君は立ったまま微動だにせず彼の態勢を崩す事すら上鳴君の攻撃ではままならなかったのである。

 

マイク「…な、何が起こった…」

 

マイク「なんで轟はあの蹴り食らって何ともねぇんだよ…モーションさえ見えないキックだってのに」

 

相澤<…ありゃ何ともないというより…()()()()が正しいわな

 

マイク「え?」

 

悟空「…轟の足元見てみな」

 

 

悟空さんの言う通り轟君の下半身に注目すると……

 

彼の両脚はステージと同様に凍らされており、見事に地面から離れないよう固定されている。

 

 

砂藤「…はは。そりゃコンクリと接着してたら吹っ飛びようが無ぇわな」

 

常闇「音速にも引けを取らない速度の蹴りの衝撃を食らって壊れない氷も中々だが」

 

常闇「諸に蹴りを受けた轟が顔色一つ変えないのが何より恐ろしいな」

 

耳郎「…か、上鳴…」

 

 

 

 

轟「…お前の技のデメリットは知ってたよ。それを誤魔化すために1回戦の後無駄に多く使用してたのもな」ガシッ

 

上鳴「っ…!?」

 

轟「お前の事だ。確実性を求める為に速さで挑もうとしたみてぇだが…仇になったな」

 

轟「無難に最大電流無差別放電を使ってりゃこんな事にはならなかったかもしれねぇけどな」

 

上鳴「おいおい…まだ5秒はコレ継続でき

轟「遅い」

 

 

今しがた轟君が右腕で捕らえた右脚首から上鳴君の身体を凍結し始める。勿論身動きが取れる訳も無く…

 

 

上鳴「は…はは……時間切れ(タイムアップ)、か…」バキバキ…

 

 

マイク「があああっ!最速王、遂に敗れる!!決勝戦への切符勝ち取ったのは…くぅぅうっ!!」

 

マイク「轟焦凍!!!!」

 

轟「…」ワァァァア…

 

完全に上鳴君を氷漬けにし、圧倒的な差を見せつけた轟君。

 

勝ちを手にしたにも関わらず無愛想な表情なのは彼にとってこの勝利は些細なものでしかない為か…

 

或いは……

 

 

 

 

 

轟(緑谷…折角ここまで来たんだ)

 

轟(こんなステージで負けちゃ承知しねえぞ?)

 

轟(首長くして待ってんぞ)

 

スタスタ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドナイト「とりあえずさぁ、轟君」

 

ミッドナイト「ステージの氷溶かそっか」

 

轟「あ、やば。上鳴スマン」ピタッ

 

上鳴(こいつ後でぶっ飛ばす…)




果たして首を長くして待ったのはどっちだよって話だよ。

ハイハイ、須井化ですよぅ!

久々に書いてみたらなんと22000字以上消費していたでござるの巻。

まぁ今回も今回で重要な場面ばっかなんでしゃーんなろー!

それにしてもランドセルJKと謎のフード男って誰なんですかねぇ。多分13割方ランドセルJKはオリキャラだと思いますが。

多分この期間にめだかの学校読んでたと言えば納得する人もいるでしょう。というかその人がモチーフだしね。後正確にはめだかの学校じゃなくてめだかの投書箱だがな。

え、じゃあフードの人誰かって?

<そんな事知るか
<宇宙の悪魔さ!

<シシャモは黙って働いてロット…
<お、俺たちサボってる訳じゃねぇぞ!じっちゃ(ry

何だか外が騒がしいが気にしないでおこう。

デンジャキ(以下{+0w0-])と轟っちとの戦闘シーンとかどうでしたか?複雑な所もあったりして分かりにくかったりしなかったり…

一応{+0w0-]の家族はまだ判明してませんよね?もし登場してて性格がかーなーりー違う!だったらご指摘の方よろしくお願いします。

本当はデクと拳藤さんの開始まで行きたかったけどここら辺がキリ良しかと思って切りました。後正直3万近くまで書く余力無いっす。

後……

鉄道無駄にdisって申し訳ありませんデシタァァァ!悪気があった訳じゃないんです!というか別に嫌いじゃないわ!!アレ!物語の都合上?だからしゃあなし!

<フゥ、シャザイオワタァ…(´・ω・`)

というか今回量多かった分雑になったとかありましたか?これ正直大部分訂正入れるとなるとかなり精神的にクル…



次回もそれなりに多くなるのが予想されますので気長にお待ちください。まぁ多分番外編挟んでだけどね。

後明日中言ってちゃんと期日から日が変わるまでに投稿できたよ。成長したんだよ褒めて褒めて(≧∇≦)




<まるで成長していない…
<という訳だぁ!





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