悟空「オラの?」緑谷「ヒーローアカデミア!」   作:須井化

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前回までのあらすじ

どこにでもいる無個性少年緑谷出久。

彼は将来の夢であるヒーローを目指すべく日々修行を積み上げていく!

遂に幕を開けた雄英体育祭!!予選・本選共に順調に突破していく緑谷少年!

体育祭の最後を飾る第3種目、その気になる内容は生徒16人による勝ち残りガチンコトーナメント戦!!

1回戦第8試合、緑谷少年は麗日少女と激しい戦いを繰り広げる無事制する。

とうとう本戦トーナメントは2回戦が始まろうとしていた…!

更に向こうへ!PlusUltra!!!


第30話

無数の岩石の山々が上空から降り注ぐ。

 

空かさず彼女は手と手を合わせ自分の重力を無にする。落下すると同時に相手を場外負けにさせる魂胆だ。

 

(こんだけの量!!迎撃にしろ回避にしろ隙は必ずできる!)

 

(その瞬間に超必で距離つめる!!)

 

(私も…勝って……デク君みたいにっ!!!)

 

 

 

 

 

 

だがその後彼女の目に映ったのは無残に破壊し、塵と化される岩石の光景であった。

 

まだ相手はこれっぽっちも本気を出しちゃいなかった。それでも尚、自分が今可能な限りの最大限すら通じない。

 

もう立つ事さえも叶わぬ状態であった。試合など続行できるような気力など……

 

 

(それでも…っ!せめて1勝!!)

 

(デク君にだけでも!!)ダダッ

 

 

最早決勝云々の事などどうでもよかった。

 

もう再起不能になってもいい、家族にこの1勝を捧げたい。

 

そう思い相手に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

【父ちゃん、母ちゃん】

 

声が掠りつつあったものの、ミッドナイトは確かに彼女の口からそのフレーズがこぼれたのを聞き取った。

 

その一言で大よその彼女の心境を察する事は出来た。

 

 

もしこのまま彼女が試合を続行したら?

 

仮に戦えるような容態では無かったと判断すれば身を削ってでも両親に勝利を貢献したいという彼女の気持ちを踏みにじる事となる。

 

だが、まだ続けるという彼女の要望を聞けば、その娘にとっても、その周りに人等にとっても更に酷な結果が待ち受けるのは必至であった。

 

 

もう…感情論で進めてはならない話だった。

 

 

つぶっていた目を静かに開き、ミッドナイトは1つの決断(ジャッジ)を下す。

 

 

 

ミッドナイト「……麗日さん行動不能」

 

ミッドナイト「緑谷君、2回戦進出」

 

 

 

 

 

 

 

試合後、麗日さんはすぐにタンカに乗せられ保健室へと運ばれていった。

 

終了間近までは微かに意識があったのだが審判の指示を聞いた途端、表情が硬くなりそのまま気絶したのだ。

 

これで一通り1回戦の対戦は全て終了した。10分後再開次第、2回戦開始となる。

 

どれもこれも想定外の勝敗結果となり、観客は困惑する。これで更に今後の戦況が読みにくくなった為だ。

 

 

「こりゃどえれぇラインナップだな…確かにインゲニウムとイナズマンの対決もとんでもねぇけど」ザワザワ…

 

「正直常闇優勝はかなり有力説だったんだがなぁ」

 

「まぁ相手が相手だからしゃーなし。創造だろ?確か」

 

「そもそもヘドロん奴が出てこなかったのがなぁ…本選までかなり活躍してたし」

 

「なんだかんだ言って…やっぱりエンテヴァーの息子さんかそばかすの野郎が1番可能性高そうだよなぁ」ザワザワ…

 

 

 

彼等の話題はA組一色。他の科はおろかB組の生徒にさえ誰も期待など抱いていなかった。

 

散々な始末にB組の人等は皆呆れ果ててしまう。

 

円場「……何だかなぁ」

 

円場「俺等だって手を抜いていたつもりは無いんだがよ…どうしてこうも差がつくかね」

 

円場「鉄哲はまだA組と張り合ってたからそれ相応の実力はあるけど」

 

鉄哲「……おだてんなっつの。紙一重でも敗けは敗けだ」

 

鉄哲「俺の特訓が生半可だった証拠だよ」

 

拳藤「いやいや、どう考えてもあっちが強すぎるだけだと思うのですが」

 

鉄哲 円場「「………」」

 

彼女らしかぬ言動に一瞬きょとんとする2人。鉄哲君は間も無く拳藤にこう問いかける。

 

鉄哲「なんでお前はそう言い切れんだよ、拳藤」

 

鉄哲「ただの自己満じゃ何の意味も成さないんだぜ?」

 

拳藤「そりゃお前…下校時刻過ぎても運動場借りて自主練してる特訓バカのどこが生半可だよ」

 

拳藤「逆にアンタ怒られてんじゃん」

 

鉄哲「っ…んなするのA組の奴等なんかしょっちゅうだろ!!」

 

何故覗いていたんだという疑問が浮かんだと同時に気恥ずかしさまで覚えた鉄哲君は焦って反論する。

 

 

拳藤「そんな事無いさ。お前は誰よりも人一倍努力してる」

 

拳藤「お前の良い所だと踏んでるぞ?少なくともあたしは」

 

鉄哲「そっそんな事ねぇよ…」

 

拳藤さんの言葉を聞き、少し顔を赤らめつつ彼女の意見を否定する鉄哲君。素直に喜べば良いのに…自分が言っても説得力ありませんね。

 

鉄哲「きっとあいつらは俺達よりも過酷なトレーニングをしてるに違いねぇ」

 

鉄哲「俺はまだまだ努力不足だったって事だよ」

 

拳藤「……」

 

 

 

それを聞くと拳藤さんは席から立ち、鉄哲君の頭を撫でるように自分の手を添えた。

 

 

拳藤「だったら証明してみせるよ」

 

拳藤「努力の量ならB組(ウチら)の方が優ってるて…」

 

拳藤「あたしがA組(あいつら)に…鉄哲(お前)に教えてやるよ」

 

 

そう言い放つと拳藤さんは彼の頭から手を離し、何処かに向かって歩いていった。はて…まだ試合まで時間はかなり残っているが…

 

鉄哲「拳藤……」

 

不思議に思いながらも、鉄哲君はその何とも逞しい背中を見届けていき彼女の優勝を強く祈念する。

 

 

物間「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、リカバリーガールから麗日さんの手当てが終わった事を聞くとすぐに彼女がいると思われる控え室へ向かった。

 

 

今更ケリがついた勝負の事を精神的にも身体的にもボロボロな人に向かって掘り返すのはどうかと思う。

 

 

 

…いや……だからこそ行くんだろうが!

 

麗日さんは()()()、僕の事を気にかけて病院に留まってくれた。何時間もの間彼女は僕の隣で見守ってくれていた。

 

慰めが敗者にとって最大の侮辱だって事は重々理解している。

 

それでも……何かしら彼女に伝えられる言葉だってあるはずだ。

 

 

 

 

 

緑谷「…」ガタガタガタ…

 

とか意気込んでドアまで来た結果これだよ。麗日さんとは他の人等と比べてそこまで険悪な空気にはならなかったからそういう意味での安心感はあるけどさ!?

 

いざ喋ろうとすると話す話題が思いつかない。

 

緑谷(落ち着け…落ち着け)

 

緑谷(いつも通りなんとなく話せばペースも戻る……平常心平常心…)

 

という風に自分に暗示をかけて優しくドアノブを掴んだ。

 

 

 

 

 

 

ガチャ…

 

 

麗日「あ、デク君」

 

緑谷「…………………と」

 

 

 

扉を開くと麗日さんがにっこりとこちらに笑顔を見せながら僕を迎えてくれた。良かった…思ったよりも元気そうで。

 

何か話そうとするがやはり言葉が詰まってしまう。とりあえず何かしら喋らなければ…!

 

緑谷「うっ麗日さん…その、怪我は大丈夫?」

 

麗日「ん!リカバリーされた!」

 

麗日「体力削らんよう程々の回復だから多少の擦り傷とかは残ってるけどねー」

 

緑谷「そ…そう……」

 

麗日「かなり体にキタよ!?地味にあのビーム直撃したの初めてだったし!」

 

麗日「なんか高熱で身体が焼かれる〜とかそういう感じかと思ったけど、どちらかと言うと衝撃波に衝突したみたいな?」

 

麗日「青山君のレーザーもあんなものなんかなぁ」

 

緑谷「ご、ごめん…」

 

麗日「いっいや!別に謝罪とか求めてる訳じゃないしさ!?」

 

麗日「寧ろ私とそれだけ真剣に闘ってくれたのはウチとしても嬉しいし…後ビーム面白かったし」

 

緑谷「そう?かなぁ…」

 

 

 

やばい。会話が弾まない。

 

というより麗日さんに一方的に喋らせているようになってるぞコレ。

 

それに口を挟む度に逆に空気が悪化してるような気がするし…もー…

 

麗日「あ、そいえばデク君…爆豪君見た?」

 

緑谷「かっちゃん?……ああ」

 

何の話かと一瞬口が止まったがすぐに()()()()()()()()。何について聞いているのか理解すると僕はうん…とポソリと呟き、小さく頷いた。

 

 

 

 

 

かっちゃんはある理由でトーナメントを抜けたのはご存知であろう。恐らく皆はその原因について気になっていた筈だ。

 

僕から少し説明しよう。

 

 

保健室、リカバリーガールに麗日さんの事を聞くついでにかっちゃんの容態を見に行った。

 

どうやらお昼休憩の時に頭部を強く打撲して気絶してしまったらしい。先生が見つけた時には既に倒れていたらしく、今はベッドで安静中。とりあえず命に別状は無いし、言う程怪我も重傷では無いからホッとした。

 

 

では何故かっちゃんがそんな怪我を負ったのか?2つ目に思った事はこれだ。

 

まずかっちゃんレベルを相手にそんな傷をつけられる人物がいるのか、これが謎だった。性格はああでも実技試験の成績はピカ1の彼だ。上級生かプロヒーロー?多分大半の人はおっかないと思って近寄らないし、本人も気にすら留めない。

 

そしてこれに関連付いて次に不思議だったのは頭部にあるものが染みついていたからだ。

 

 

 

焦げ。

 

そう、爆破の際に生じる焦げが確かに彼の額にしっかりとついていたのである。かっちゃんには爆発は効かないし、あまり意味は無い。

 

だが考えて欲しい。

 

爆発を持っているのはかっちゃんだ。つまり殴ったのは……え?かっちゃん?と意味不明な事態に陥ってしまう。

 

では誰がこんな事を仕出かしたのか…

 

 

 

単純に考えれば物間君なのではなかろうか?コピーできるし、本選の時の復讐と考えれば動機も納得が行く。最初こそ、そうなのでは?と疑いはしたが……

 

いや、そういえば物間君ずっと観客席で頭抱えてたな。本選の敗北が予想よりも精神的に来てしまったようで騎馬戦終わった直後誰よりも早くベンチに戻っていた。1人寂しく菓子パンを食っている様子はマジで涙物でした…同志よ。

 

 

その為一度もかっちゃんと顔を合わせていない…とすると別の誰か?一体誰が?何の為に?

 

その答えは僕達が知らない所で、既に明らかになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場中央部、ステージの上ではいよいよ本戦第2回戦の幕が上がろうとしていた。

 

第1試合は普通科、心操君とヒーロー科轟君のバトルである。

 

マイク「皆お待たせーー!!それじゃ早速今大会トーナメント順々決勝!」

 

マイク「第1試合始めるぜ!FOOO!」ワァァァア…

 

マイク「地味にじわじわと株を上げていくこの男子!!普通科に隠れた天才現る!?」

 

マイク「普通科!!心操人使ぃぃっ!」

 

心操「……」ワァァァア…

 

マイク「対するこちらやたら人気のある天才!!有力な優勝候補者としても名乗りが上がってるぞ!」

 

マイク「ヒーロー科!!轟焦凍ぉぉっ!」

 

轟「……」ワァァァア…

 

 

両者共に真剣な面持ちで相手を見ていた。いや.どちらかというと…睨むの方が近いか。

 

これまで互いに様々な生徒を相手に圧勝してきた猛者同士、相手が一筋縄で行けないような実力者であるのを肌で実感しているのだ。

 

殺気……身体の周りにおどろおどろしい殺気を帯びているのが間近ではっきりと目に映っていた。

 

何より…この勝負に限ってはステージに上がった瞬間からもう試合は既に始まっているのだ。

 

まさに2人にとってこれは選手の心が問われる戦いなのである。

 

 

 

 

心操「…轟君」

 

心操「君、左使ってないでしょ」

 

 

やはり開始前に心操君が喋りかけてきた。1回戦で骨抜君にしたように、轟君も挑発し刺激させ洗脳しようとしているのだ。

 

 

轟「……」

 

心操「じゃなきゃあんな予選や本選で苦戦とかしてないよね?」

 

心操「なんで使わないのかな?なんでかな?」

 

心操「例えば…」

 

マイク「START!!!!!」

 

 

 

 

 

心操「エンデヴァーさんを恨んでたりとか?」

 

 

 

 

 

 

バキバキッ!!!

 

 

 

 

 

心操「…んな……」

 

気づけば全身が氷漬けにされていた。その間、僅か1秒足らず…刹那の瞬間であった。

 

彼は轟君の手によって一瞬で完封されてしまったのだ。

 

 

ミッドナイト「心操君行動不能!轟君3回戦進出!!」

 

マイク「え…」

 

悟空「うっへぇぇ…また一撃かぁ」

 

 

「結局…さっきと()()同じ結果じゃねぇか」

 

「芸無いねぇ…」ザワザワ…

 

一体何が起こったのか…いや、正確には何故こうなったのか訳がわからない観客達は次第にざわついていく。

 

心操君にとって観客や司会の事などはどうでもよかった。今彼が気がかりとしているのは何故轟君が速攻という選択をしたのか?という事だ。

 

第1回戦、轟君は直前にエンデヴァーとの小競り合いがあった事により半ばキレ気味で試合を行っていた。

 

こうした事もあり、【エンデヴァー】というフレーズを入れれば彼の怒りを買う事は十分可能であると考えたのだ。

 

…?そもそもなんでエンデヴァー絡みの事を知ってるのかって?まぁもう少し話を聞いてくれ。

 

もし怒って反射的に攻撃を狙ったとしてもだ…今回と1回戦の明らかな違い……

 

 

凍結範囲が狭い事に矛盾が生じる。今回は比較的被害が少なく、場外ラインから少し氷がはみ出る位なもので範囲を最低限までにおさえているのだ。

 

もし怒りに任せて個性を使用しているのならば1回戦のように巨大な氷塊が出来る程の規模となるはずだ。何故今回は控えめに凍らせたのだろうか…?

様々な疑惑が湧く内に轟君が彼の方へと近づいていく。

 

心操「くっ…」

 

轟「……お前、爆豪使って俺の事暴こうとしたんだろ」

 

心操「!?」

 

まさか…!怒らせるのが目的だと分かっていたというのだろうか?

 

いや、断じてあり得ない。この洗脳(ネタ)は司会の2人から何も発表されていないのだから。では何故?普通科のクラスメイトの誰かがバラしたのだろうか?こんな事をしても何のメリットも得れない彼らが?

 

待てよ…それどころじゃないな。

 

 

なんでかっちゃんが操られていたと彼は分かったのだろうか…?

 

轟「解説…いるか?」

 

心操「欲しいね」

 

轟「おかしいと思ったんだ。爆豪がその場にいるなら『死ねえ!』とか言って乱入して来ただろうけど」

 

轟「まさか壁に隠れて盗聴なんてあり得ねえって…」

 

心操「気づいてた…のか?」

 

轟「ああ」

 

轟(まぁ話している途中までは気付かなかったけどな)

 

轟「お前は恐らく…相手に挑発して乗ってきた相手が口を開けた時、初めて能力を発揮するんだろう」

 

轟「じゃなきゃああんな戦闘前に必死こいて相手を煽らねぇもんな?それで昼のと合点がいったんだよ」

 

心操「…っ……」

 

 

なんと…1回戦、彼の骨抜君に対する挑発とその後の口振りだけで心操君の個性を見抜いてしまったのだ。なんて鮮やかな名推理…

 

唇を噛み、歯を食いしばる。後ろめたさに強く胸を締め付けられてしまう。

 

 

 

轟「…まぁ、よかったな。煽る前に決着ついて」

 

轟「もし母さんを馬鹿にでもするんだったら…」

 

 

 

 

 

 

 

ガッ

 

轟「 こ れ 位 じ ゃ 済 ま な か っ た ぞ ? お 前 … 」

 

額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げ、唇をひん曲げる。

 

恐ろしい表情であった。今やもう彼に怒りを抑え込むなどという気は一切無いだろう。

 

今にも氷毎その身体を壊すような勢いで彼は心操君の肩部を左手で強く掴みかかる。

 

心操「ひっ…!」

 

恐怖のあまり思わず悲鳴を上げてしまう。タダでさえ体温の低下により身体が凍えてしまっている上に無意識に激しく身体が振動し始める。

 

その怯えている様子を見ると余程強く睨んでしまったのかと思い、少し反省する。

 

轟「冗談だよ冗談。壊す訳ねぇよ」

 

轟「今から溶かすんだよ」ボォッ…

 

心操「…」ガタガタ…

 

轟(そんなに大きく血相変えてたのか?…1回戦から結構取り乱してるな)

 

轟(決勝までにモチベを整えねぇとな。焦りは支障を来す)

 

轟(……あいつの事だ。どうせ個性解除された瞬間に襲いかかったけど)ボォオ…

 

轟(また洗脳されてカウンターでも食らわされたってとこだろ)

 

 

 

 

 

 

 

轟(結局……爆豪自体には聞かれていんのか?それとも…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【控え室】

 

麗日「っにしてもやっぱデク君強いねー!」

 

麗日「完膚なかったよ!!もっと頑張らんといかんな私も!」

 

麗日「負けっぱなしはアカン!」

 

畳んでいた体操着をギュッと強く握りしめ、悔しがる麗日さん。あの…また畳み直し…

 

麗日「あ」

 

緑谷「…大丈夫?」

 

麗日「う、うん…また折り直せばええし…ダイジョブ」BBB…

 

発言にそぐわずしょぼくれた顔になりながら渋々畳み直し始める麗日さん。

 

麗日「うはは…私ったらまたドジしてしもた。こりゃ笑えん」

 

緑谷「…」

 

 

 

 

麗日「いっつもそう」

 

緑谷「…?」

 

急に麗日さんの声のトーンが下がってしまう。

 

麗日「自分がコケるの怖いから誰かに縋って…」

 

麗日「いざ1人になると頭抱え込んじゃって」

 

次第に首が下に曲がっていき、顔が俯く。

 

麗日「それに比べてデク君は凄いよね」

 

麗日「些細な事も見逃さないで物事見通し立てて計画性もちゃんとある」

 

麗日「後…アレ。有言実行ってる」

 

下凸のカーブを描いていた唇が平行線となり、やがて上凸の放物線へと変わっていく。

 

麗日「って…なんでウチ前とおんなじ事言っとるんやろ」

 

 

 

 

麗日「……馬っ鹿みたい、ウチ」

 

 

 

緑谷「麗日……さん…」

 

麗日「……あ、ああっ!ご、ごめ…いきなりシリアスムード作っちゃって…」

 

麗日「また…私が

緑谷「凄いよ」

 

 

麗日「え?」

 

緑谷「凄いと思う、麗日さん」

 

緑谷「ちゃんと自分の事とか、友達の性格とか分析して的確に読み取れてる」

 

緑谷「自分の悪い点を素直に認めるのって…かなり難しいと思う」

 

緑谷「つまり…それができる麗日さんは凄い人って事にならないかな?」

 

麗日「……デク…君?」

 

緑谷「今日だってそうだ。君は僕が界王拳を使わざるを得ない所まで追い詰めた」

 

緑谷「それは君が僕をよく観察して研究できたからこそだと思う」

 

緑谷「それにさ…………」

 

 

 

 

緑谷「多分、2()()を使おうとした生徒って麗日さんが初めてだと思う」

 

麗日「……」

 

緑谷「だから…さ……えと…あれだ」

 

ごめんね?お疲れ?惜しかったね?僕は一体どう声をかけたらいいのだろう…

 

緑谷「〜」

 

麗日「?」

 

 

 

 

緑谷「……()()()()()

 

麗日「…っ!」

 

緑谷「こうして麗日さんと本気で向き合える事無かった…」

 

緑谷「最後の技も正直ビビった…ハラハラドキドキした」

 

緑谷「何だろう…いつの間にかわくわくしてた…」

 

緑谷「だから………ありがとう、麗日さん」

 

麗日「……」

 

緑谷(うわぁぁぁまた滑っちまった畜生ぉぉぉ……)

 

元気付ける為にそれっぽい事言ったがコレは引かれるんじゃないのか?何カッコよさげにドヤ顔しながら正論みたいな迷言垂れ流してんじゃ自分この野郎ぉぉぉ!?

 

ごめんなさい麗日さん!悪気は無かったんです!だから許し

麗日「ウチも」

 

緑谷「…?」

 

 

 

麗日「ウチも楽しかった」

 

麗日「ありがと、デク君」スッ…

 

緑谷「……」

 

 

 

彼女は握った右拳をこちらに向かって差し出した。先程まで落ち込んでいた麗日さんに笑顔が戻ってきた。

 

 

そちらがそう来るなら…快く便乗させていただこうじゃないか。

 

緑谷「うんっ」

 

ガッ

 

 

僕はゆっくり右拳を近づけ、少し気持ち強めに彼女の右拳にぶつけた。

 

緑谷「…ひひ」

 

麗日「ははっ」

 

 

いつぶりか……僕等はいつの間にか笑い合っていた。

 

本当…さっきまでの暗さが嘘のように明るく接していた。

 

 

 

そんな時、マイクから次の試合のアナウンスが入ってきた。

 

 

マイク<ヘイ!トーナメント2回戦第2試合をこれから行うぜ!

 

マイク<史上最速のスピードバトルだ!見逃すんじゃねえよチェケラ!

 

話したい事はもう済んだしキリも良かったので観客席に戻る事にした。

 

それにしても…切島君達と轟君達の試合見れなかったのは痛いなぁ……いつの間にか第1試合終わってたんだ。

 

緑谷「っと…それじゃ僕この後も多分すぐ回ってくるからそろそろベンチ戻っとくよ」

 

麗日「うん!荷物整理終わったら私も見に行くから!」

 

麗日「ガンバ!」ガチャ…

 

麗日さんからの熱いコールに手を振り答えながら静かに控え室から出ていった。

 

麗日「……」

 

 

 

 

 

 

麗日「はぁ…」パカッ

 

 

足音が無くなるのを見計らい、麗日さんは先程鳴っていた携帯電話を取り出す。

 

携帯を開き、直様さっき無視してしまった発信主の電話番号にかけた。

 

麗日「…」プルルルル…

 

プッ

 

 

<おーお茶子!やっと繋がりはったわー!

 

麗日「父ちゃん…ごめんな。さっき話してて取れんかった」

 

<いやいや!こっちも忙しい時にすまんなー

 

<テレビ母ちゃんと見とったよ!ホンマ凄かったわー!

 

<惜しかったな!よう頑張った

 

麗日「惜しくなんかない。凄くもないよ」

 

麗日「最後焦りすぎたし、あそこからの打開策なんもあらへん状態やった」

 

麗日「最初から勝ち目の薄い戦いなのは変わりなかった」

 

<むぅ…父ちゃん難しい事よう分からんけどそうなんかぁ

 

<でもお茶子?別に今失敗したって取り返せるんやで?来年も再来年も体育祭ある筈やろ?

 

麗日「勝ち進めばそんだけ。色んなタイプへの対応とか見せられんねん」

 

麗日「一戦、しかもあんなボロ負けじゃスカウトされるかどうかも怪しいわ」

 

<……

 

<何を生き急いでんや?お茶子

 

麗日「…」

 

<お茶子?

 

 

 

 

 

 

 

 

幼き頃の小さな思い出だ。

 

『え?ウチの事務所に入る!?』

 

『うん!ウチ大っきくなったら父ちゃんと母ちゃんのお手伝いする!』

 

『ん〜…気持ちは嬉しいけどなお茶子』

 

(ウチら)としちゃ(お前)が自分の夢叶えてくれた方が何倍も嬉しいねん』

 

『んだらお茶子にハワイ連れてって貰えるしなー?』ナデナデ…

 

 

 

 

頭を優しく掻き撫でるその父の手は言葉では表せない程の温もりを少女に与えていた。

 

少女はこの時決心した。ほんの少しでもいい、両親にできるだけ多くの幸せを同じように与えてあげたい、と。

 

いつしか約束した父との()()()()()を1秒でも早く果たしてあげるべく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗日「ぅえっ……くっ……」

 

麗日「ウチ…ウチィ……」

 

麗日「父ちゃ……ぁちゃを…」

 

麗日「支えなきゃって……約束もしたのに…」

 

麗日「だめなこだ……うち…」

 

<まーたもう!お茶子は〜…身体張って無理せんでもええんやで!?

 

<そんななる位優しいお茶子は

 

 

<絶対に良いヒーローんなるって俺分かっとるもん

 

 

 

 

 

 

 

何だか胸騒ぎがすると思ってドアの横で待機してたのは正解だったかはたまた誤りだったのか…

 

緑谷「……」

 

 

「ひっく…っ…!」

 

<だから泣くなお茶子…な?

 

 

 

 

電話の内容は細かくは聞き取れなかった。

 

麗日さんが必死に涙をすすっている音だけが僕の耳に強く響いてくる。

 

 

 

 

駄目なのはどっちだよ。

 

結局僕は彼女の背中を押す事が出来なかった。

 

寧ろもっと苦しめる結果にさせたかもしれない。

 

 

自分が励まされておきながら…僕は麗日さんの心を傷つけ、極限にまで追い詰めてしまった。

 

もっと僕が彼女の事を考えてやれていれば……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他を蹴落としてでも這い上がらなければならない。

 

そりゃそうだ。多の競争を乗り越え、ようやく辿り着くのがNo.1ヒーロー…平和の象徴(オールマイト)なのだから。

 

 

 

 

でも…でも……

 

 

 

 

 

 

緑谷「勝てばそれが正しい…って理念は」

 

緑谷「結局、敵達のやっているそれらと何ら変わりの無い事じゃないのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




須井化です…はい。

遅れてまさかの6時間後投稿。その代わり内容は厚く(なっている筈)となっておりますのでご了承を…

え?薄い方が良かった?…………(・U・)
※今更文字数見ると久々の8000字代だったり…

今回は麗日主軸の轟VS心操+α。

何か心操のバトルが雑臭かったかも…これの構成するの多分体育祭編で1番怠い作業だぞ?

何故かB組のシーンを作りたかった。前回はA組は出張るの多かったからね、しょうがないね。

こうして書いてるとさぁ…


麗日めっちゃ可愛ええなぁ。

ていうのが今回の8割方の感想。

いかがでしたか?



次回は飯田っちとデンジャキとのウェイウェイ!バトル。

八百万と拳藤は…どだろ?量的に中途半端になるの見え見えなんだよなぁ。

もし書かなかったら……あのお方で削るしか無いな。

<ダニィ!?で、伝説の…超ペロリスト……!




何か意見等ございましたら感想・メッセージで気軽にご相談ください。か、風邪になったデク君の看病したい人募集中!4/15日までだから急いで書くべし!?

4月12日(水)以内にに第31話の投稿を予定しております。今回の件もあるからその分もしかしたらいつもより早く投稿するかもです。
お楽しみに!

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