悟空「オラの?」緑谷「ヒーローアカデミア!」   作:須井化

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前回までのあらすじ

どこにでもいる無個性少年緑谷出久。

彼は将来の夢であるヒーローを目指すべく日々修行を積み上げていく!

遂に幕を開けた雄英体育祭!!第1種目の障害物競走もぶっちぎりの1位で予選通過!

第2種目の騎馬戦でも八百万・拳藤少女、常闇少年と共に数々の奇襲を退け、1000万P保持を達成。

見事1位で本選突破となり、本戦へとコマを進める事となる。

そして体育祭の最後を飾る第3種目、その気になる内容は生徒16人による勝ち残りガチンコトーナメント戦である!

更に向こうへ!PlusUltra!!!



第26話

レクには参加せず神経を研ぎ澄ます者。

 

息抜きをしながら緊張を解きほぐそうとする者。

 

それぞれの思いを胸にあっという間に昼休憩+レクリエーションの時間も終了。とうとうお待ちかね?の最終種目の時がやって来た。

 

一部の先生方がせっせと会場設営をする中、トーナメント表を決めるべく本戦出場者の15人が入口付近に集結した。無論A組女子は体操服に着替え直して戻っていたが。

 

 

 

 

……15人?

 

ミッドナイト「レクリエーションも終わった事ですし…それじゃ早速くじ引きで組み合わせ決めてくわよー」

 

ミッドナイト「早く決めないと1回戦の人が急を要して負担が増えてしまうので騎馬戦1位チームからちゃっちゃか引いてってもらうわよ」

 

以前までテレビ等で観戦する側でしか無かった筈が今回はその大舞台での活躍の披露だ。汗を垂らし緊張しながらも期待を胸に膨らませワクワクしている切島君。

 

切島「トーナメント…毎年テレビで見てた舞台に俺等が立つのか!」

 

切島「腕が鳴るぜ!」

 

毎年が毎年こういう方式とは限らないが大抵最終種目はサシで競っているというのは恒例というかお約束というか。

 

まぁそんなこんなでくじを引こうとする訳なんですが勿論気になる事があったので今の内に突っ込んでおこう。

 

 

緑谷「あの…すみません。ミッドナイト」

 

ミッドナイト「何かしら?緑谷君」

 

緑谷「その…かっち……爆豪君はどこにいるんですかね…?」

 

 

そう、この場にいる筈のかっちゃんが居ないのだ。彼の事だから遅れるとか…そういうのはあり得ないと思うのだが。

 

ミッドナイト「あー……と」

 

ミッドナイト「少しゴタゴタがあって彼今気絶中」

 

ミッドナイト「現状参加できるような状態ではないので今回は棄権扱いとします」

 

緑谷「そうです……か」

 

数十分前かっちゃんの気が小さくなっていたからまさかと思ってはいたが…一体何をしでかしたんだかっちゃん。

 

 

不安と疑問が頭をよぎりながらも今は仕方ないと自分に言い聞かせすぐ納得させた。さぁ今度こそくじ引

尾白「あ、先生!俺からもお願いします」

 

今度は尾白君が手を挙げ発言し始める。コレは質問というより提案…意見に近いかな。

 

 

 

尾白「本戦、辞退させてください」

 

緑谷「!?」

 

 

まさか、2種目とも勝ち上がりここまで来ておいての棄権宣言。そんな事をする理由や原因など誰も思いつく訳もなく、皆は尾白君に今の発言を撤回するよう説得し出す。

 

麗日「お、尾白君!なんで!?」

 

麗日「折角プロに見てもらえる場なのに!」

 

尾白「騎馬戦の時の記憶…終盤までホントに微かに覚えている程度しか無い」

 

尾白「恐らく奴の個性が…」

 

そう言い放つと普通科のとある男子生徒を指差し、奴という人物を示唆する。

 

…そういえば居たね…心操君のチームに、尾白君。

 

尾白「ここが重要なチャンスの場だって事は重々承知している」

 

尾白「この機会をフイにするのがどれだけ愚かだってのもよく理解しているつもりさ」

 

 

 

尾白「でも皆力を出し合って争ってきたこそのこの座なんだ」

 

尾白「訳も分からないまま皆と同列に並ぶなんて俺には到底できない所業だ」

 

葉隠「き、気にしすぎだよ尾白君…!例え自分ではそう思っていたとしても、だったら本戦でそれ相応の成果出しにいけばいいじゃん!」

 

芦戸「そうだよ!そんな事言ったらあたしなんか全然…」

 

尾白「いや…だからそういう事じゃなくてさ……」

 

めげずにと尾白君をフォローするクラスメイト達だが…それでも彼は、自分は本戦から降りるのを希望すると強く主張する。

 

 

尾白「俺のプライドの話なんだ」

 

尾白「今ここで俺は本戦へ進むのは嫌なんだよ」ゴシ…

 

緑谷「尾白君……」

 

 

横から割り込むように同じく心操チーム内にいたB組の男子生徒が辞退希望を持ちかける。

 

「僕も同様の理由で棄権したい!」

 

「実力如何以前に()()()()()()()()が上がるのはこの体育祭の趣旨と相反するのではなかろうか!?」

 

切島「っんだよこいつら…さっきから!」

 

切島「くぅ〜!男らしいね!」

 

何だか悔しがっているご様子の切島君だが便乗して自分も〜なんてのはやめてくれよ…ややこしい事になりかねん。

 

 

 

とはいえ今の2人の意見は何も間違ってはいない。もっともな話だったと思われる。終わり良ければすべて良しでは済まないのだ。テストでカンニングしまくって100点取るのと同じような事。

 

自分の力で勝ち上がらなければ意味が無いのだ。勿論、騎馬戦などで言えば100%個々の力のみじゃどうにもできない問題が発生するだろうし、敵騎馬の戦力上味方の個性に頼らざるを得ない場合だってある。

 

 

だが終始自分達が行っていた行為すら把握していない始末では騎馬戦の目的でもある他者との連携力等の欠けらすら伺えないだろう。

 

尾白君は棄権をしていた時に涙が流れそうになったのを目を擦り必死に耐えていた。それ程本戦への進出に対する強い意欲はあったのだ。だが最終的に自分のプライドがそれに甘んじる事を許さなかった。

 

約2時間に渡り自分の精神と問いかけ、闘い続けた結果がこれなのだ。さぞ辛い決断であったのだろう。

 

 

で、問題は主審様がそれに許しを与えるのかどうかって事だが…

 

蔑むような眼で2人を見つめているミッドナイト。

 

ミッドナイト「そういうさ…青臭い話は……」

 

 

 

 

ミッドナイト「 好 み !」ビシャァッ

 

1回強く鞭を振り上げ、強い炸裂音を発生させながら了承してくれた。

 

軽。意外とあっさりだった。

 

後は空いた3つの穴をどう埋めるかって話で……

 

ミッドナイト「繰り上がりだとすると小森チームって事になるわね…どう?」

 

という話なのだが、そのチームメイトである女子4人が数秒黙りこく。4人共身振り手振りで軽く話し合いを交え10秒経たずにその答えが返ってきた。

 

「そーゆー話で来るんなら、私達より最後まで頑張った鉄君チームの方がふさわしいんじゃない?」

 

鉄哲「え?」

 

0Pであれば最早希望など無いだろうと結果を見え透いていた鉄哲チームに僅かながら一筋の光が差し込んでくる!

 

「いや….馴れ合いとかじゃなくてさ?」

 

「フツーに」

 

鉄哲「おめぇらぁぁぁぁ……」

 

 

 

 

 

 

こうして鉄哲君と骨抜君、塩崎さんを加えた16人によるガチンコトーナメント。

 

くじ引きにより決まった結果は…

 

 

第一試合 骨抜VS心操

第二試合 轟VS瀬呂

第三試合 塩崎VS上鳴

第四試合 飯田VS青山

第五試合 芦戸VS拳藤

第六試合 常闇VS八百万

第七試合 鉄哲VS切島

第八試合 麗日VS緑谷

 

 

かっちゃんや尾白君が居なくなった事によって更にまた戦況が読めなくなりそうな組み合わせだなこりゃ…

 

轟君と当たるのは決勝のみ。準決勝はなんと高確率でさっきのチームメイトと当たるじゃねぇか畜生。

 

初戦に至ってはなんと麗日さんだ。発表後、彼女数分間その場から動けず立ち竦んでいたのだが…

 

兎にも角にも轟君と会うためにもなんとしてでも決勝まで漕ぎ着かねば!幸い8番目、出番が来るまで結構時間が空いているから対策も立てておくか……

 

 

 

 

 

10分後、ついに本戦専用の巨大な闘技場は完成に至る。真っ平らなスタジアムの地面に液体状のコンクリートが流れ込み、瞬く間にそのステージの形を構成していった。

 

マイク「どうだセメントス!もうスタンバイOK!?」

 

セメントス「オーケーオーケー。もう完了したよ」

 

マイク「サンキュー!」

 

この直方体の体型をしたヒーローこそコンクリートでステージを作製していた張本人【セメントス】。その名の通りセメントの類を自由自在に操れるぞ。雄英教師の中じゃ若手の部類に入ってて人気も高い。

 

マイク「野郎共、準備はいいか(ヘイガイズ、アーユゥレディ)!?」

 

ワァァァア…

 

マイクの咆哮により、会場中の熱狂と興奮は最絶頂に達そうとしていた。悟空さん自身も今回1番の楽しみにしていた事もあり顔のにやけが暫くの間止まらなかった。

 

悟空「いんやー!オラんとこの天下一武道会の比じゃねぇ盛り上がりだぞ!」

 

悟空「オラもこんなデケェ舞台で闘ってみたかったなぁー!」

 

マイク「色々やっては来ましたが!結局コレだぜガチンコ勝負!!」

 

マイク「頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかだ!」

 

マイク「分かるよな!?」

 

マイク「心・技・体…そして知識知恵!」

 

マイク「総動員して命懸けで駆け上がれ!!!」ワァァァア……

 

 

 

ルールはいたってシンプル。

 

相手を場外に落とすか「参った」等の降参宣言をさせるかすればこちらの勝ち。第2回戦へと進められる。

 

リカバリーガール等の医療班も総出で全力対応して下さるので余程の怪我がない限り死ぬ事もない。道徳倫理は一旦捨ておけ。

 

まぁ万が一その余程の可能性があり得た場合クソなのですぐに教員達が止めに入るので注意せよ。

 

あくまでヒーローは敵を捕まえる為に拳を振るうのだ。相手を瀕死状態、ましてや死に追いやってしまっては逆にそいつが敵にになってしまうからな……

 

 

 

 

といった感じに軽くルール説明を終わらせるといよいよトーナメント開始。第1試合に出る選手達が闘技場に姿を現した。

 

マイク「それでは最初の生徒2人の入場だぁああっ!!」

 

マイク「まず一番手!推薦合格者+障害物競走ベスト5入りと結構好成績収めてるこの生徒!」

 

マイク「B組…骨抜柔造ぉおお!!」

 

骨抜「へへ…」スタスタ…

 

 

最初に現れたのは骨抜君だ。両手共に指を強く曲げパキポキッと関節部分を大きく鳴らしながらの登場。気合十分と言ったところか。

 

 

マイク「対するは…ごめん!特に目立つ活躍は無し!!でもヒーロー科を除けば唯一の進出者!」

 

マイク「普通科…心操人使ぃいい!!」

 

次に来たのは心操君。首に右手を添えながらこちらは対極的にだるそうに入場してくる。

 

砂藤「どっちもA組じゃない別の組だから何とも言えねぇ試合ではあるが…」

 

砂藤「注目すべきはやっぱり、あの普通科の奴か?」

 

砂藤「お前あいつのチーム内のメンバーだったのに記憶ほとんど無かったんだろ?尾白…」

 

尾白「………っ…」

 

砂藤「尾白…?」

 

 

問いかける砂藤君だったが尾白君の反応が全然見当たらない事を不思議がり、隣に座っていた彼の様子を見てみると両腕で頭を抱えている尾白君の姿が。

 

その顔はとても青ざめており、これから観戦しようという意思が全く見られない。いや寧ろ()()()()()()顔を下げているのではないだろうか。

 

恐らくその時は僕も同様の心境だっただろう。くじの時に言われたかっちゃんのいざこざの事もあり気づけば頭の中で胸騒ぎさえ起こっていた。

 

そんな重苦しい空気に僕等2人が見舞われながらも体育祭は進んでいくワケで…

 

 

マイク「それでは1回戦第1試合開始と行こか!!!双方準備いいな!?」

 

骨抜「へいへい」

 

心操「……()()()か」

 

心操「分かるかい、骨抜柔造。これは心の強さを問われる戦いだ」

 

骨抜「……?」

 

開始の合図がもう始まると言うのに突然心操君がこちらに喋りかけた。骨抜君は首を傾げながらも彼の方を向く。

 

心操「本来強く想う将来(ビジョン)があるのならなり振り構ってはいけないだろ」

 

骨抜「だから何を…」

 

マイク「レディィィィ……」

 

 

 

心操「あの豚は趣旨がどうのとか言っていたけど」

 

心操「チャンスをドブに捨てるなんて唯の間抜けだとは思わないかい?」

 

 

 

骨抜「……は?」

 

一瞬言葉の理解が出来ず戸惑ってしまったが直後に自分なりの解釈は出来ていた。

 

ああ、こいつはさっき棄権した自分のクラスメイトをコケにしたんだ。と

 

 

マイク「START!!!」

 

骨抜「テメェ!今の発言取り消せや!!」ダダッ…

 

友を侮辱されてしまった彼は激昂し、開戦した瞬間心操君に向かって駆け走る。頭に血が上り、顔面に一発食らわせてやろうとでも言いたい気分なのだろう。

 

 

 

 

 

残念ながらもうそれは叶わぬ夢となってしまった。

 

心操「俺の勝ちだ」

 

尾白「終わった…!」

 

芦戸「え?何?もう決着ついたの?なんで!?」

 

尾白「B組の方見てみろ…奴の個性は……」

 

周りにいたA組はその言葉通りにステージ上にいる骨抜君に皆焦点をあてた。すると……

 

 

ピタッ…

 

骨抜「……………???」

 

骨抜(あれ…動かね……)

 

骨抜(な、なんだ…段々…意識が朦朧と…)

 

 

 

なんと走り出していた彼の身体は急に動くのをやめてしまい、ただ呆然とたたずむだけであった。怒りに満ち溢れていた筈の彼の表情は無となり、最早感情が欠落しているという様子であった。

 

マイク「ほ、骨抜完全停止ーー!これは…心操の個性の影響か!?」

 

マイク「全っっっっっっ然目立ってなかったけどさ!もしや彼とんでもない猛者だったのか!?」

 

あまりにも不自然な挙動に理解不能な観客達はざわめき、実況もままならない状況となってしまう。

 

 

構わず心操君は再び骨抜君に語りかける。

 

心操「…お前も…恵まれてていいよなぁ」

 

心操「推薦で楽に上行けてよ…さぞ優越感に浸ってたんだろうよ」

 

心操「なぁ……骨抜柔造」

 

 

 

 

 

心操「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

骨抜「………」

 

クルッ

 

砂藤「なっ!?」

 

なんと骨抜君は彼の命令通り入口向かってとぼとぼと戻り始めたはないか…このままでは場外負けになってしまうぞ?

 

 

マイク「えっ…ちょ!?骨抜君ジュージュン!?」

 

マイク「これ大事な緒戦だよ!?盛り上げてくれよ!?なぁ!」

 

風呂敷が広がる前に畳みに行ってしまっているこの試合に誰もが慌てふためき、もう目もあてられもしない有様であった。

 

そんな混乱しているマイクに相澤先生が液晶越しに助言を与える。っていうか、あ…おはようございます。

 

 

相澤<だからあの入試は合理的じゃねぇって言ったんだ

 

マイク「うおおっ!?起きてるならさっさと反応してくれイレイザー!」

 

マイク「で?こりゃ一体何がどうなってんだば・YO!?」

 

テンションの高さにウザいウザいと呟きながらも悟空さんにある資料の提示を頼んできた。

 

悟空さんは隣席のマイクに十数枚あった紙資料を手渡した。

 

 

マイク「…ーんとナニコレ」

 

相澤<決戦進出の16人のメンバーの簡単な成績表(データ)だ。昼休みん時予め孫さんに渡しておいた。

 

相澤<参考程度に見るだろうと思ってな。急遽3人追加はエライ骨が折れる作業だったが。

 

マイク「さっきから喋らねーと思ってたらこんなん見てたのかよ」

 

悟空「へへ…つい見入っちまってよ」

 

照れ隠ししている彼の様子にやれやれと呆れるマイク。早速骨抜君と心操君のデータ2枚を取り出し比較をしてみる。

 

マイク「ええと…骨骨…あた」

 

マイク「骨抜は思った通り普通にいいって感じ成績だな。体力テストでも上位に挙がってる」

 

マイク「心操の方は……?」

 

あのー…マイク先生、そろそろ解説に戻ってくれないと何が何だか分からないんですが…

 

マイク「……普通科の中じゃ中位どころか…下から数えた方が早いじゃねぇかよ」

 

マイク「これなら言っちゃ悪いが…他の普通科とかサポート科の方がまだマシな能力じゃ…」

 

悟空「……マイクマイク」

 

資料に見るのに集中してしまっているマイクに悟空さんがトントンと右人差し指で彼の肩を叩いて目を覚ませる。

 

はっと我に返ったマイクは直様マイクロホンを片手に実況を再開しようとする。

 

マイク「さ、さぁ!少し中断しちまったけど命令忠実な骨抜選手に挽回のチャンスは……」

 

 

 

 

 

だが、その時にはもう既に試合は終了していた。

 

心操「お前らには分からないだろうね」

 

心操「けど、こんな個性でも夢見ちゃうんだよ」

 

心操「さぁ…負けてくれ」

 

 

ザザッ…

 

骨抜「…………!!」

 

ようやく意識が戻ったかと思うと周りが冷たい視線でこちらを向いているではないか。

 

何が起こったのかと思い、足元を見てみると…

 

 

 

 

左脚がしっかりとライン外の地面を強く踏みしめていた。その白線は生死の境界線。つまり……

 

彼は場外に出てしまった訳だ。

 

 

ミッドナイト「骨抜君場外!!」

 

ミッドナイト「勝者!心操君!」

 

 

その瞬間、その人に、その試合の勝敗の審判は下った。だが…待っていたのは観客の歓声ではなく、固まってしまった人々の姿だけであった。

 

骨抜「……な、何だよ…これって……つまり…」

 

心操「敗けだよ」

 

 

 

心操「君は敗けたんだ。底辺の俺に」

 

その一言でようやく彼は理解した。自分は為す術も無く…いや…為そうともせず敗北を喫したと。

 

そして…故意的では無いとはいえ、友が作ってくれた千載一遇のチャンスを一瞬にして蔑ろにしてしまったという事を。

 

 

 

骨抜「……う…っ…そだ……」

 

ドサッ…

 

 

自分が為損じてしまった過ちに沈鬱してしまった彼に立つ気力など残っておらず、その場に崩れ落ちた。気絶してしまった骨抜君は至急特別保健室へと運び込まれていく。

 

体育祭は年々基本的に校舎を完全閉鎖している為、スタジアム内にこうしてリカバリーガール出張所を置いている。普段に増して怪我人大量な事もあり通常の保健室よか広いんだってさ。

 

会場中の観客がどよめく中流石のマイクもこの急展開についていけず絶句してしまう。

 

マイク「い、一部始終、解説が追いつけやしなかった…!」

 

マイク「どういう…」

 

悟空「あいつの個性(能力)だよ」

 

マイク「!?」

 

悟空「心操…だっけか。多分、あいつは相手が強けりゃ強い程そいつが心操にとって格好の獲物なんじゃねぇんかな」

 

悟空「何たって心操の個性は………」

 

 

 

悟空「()()だかんなぁ…」

 

マイク「洗脳……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回も話した通り、昼休みの時に僕は一度尾白君に呼び出されている。彼もまたUSJ騒動の後から全く言葉を交えてなかった。轟君に続き一体何事かと冷や冷やして彼に会った所…

 

 

 

尾白「すまなかった!この間はお前の事を全く顧慮せずに…かなり悲しませてしまったと思っている!」ペコッ

 

尾白「俺からも一つ、お詫びを言わせてくれ!!」

 

いきなり土下座された。マジかよ。

 

まさか八百万さん以外にもこんなに僕を受け入れてくれている人達がいるとは思わず、相当仲間に恵まれている自分に至福を感じた。

 

その反面、度重なる謝罪に再び怒りを覚えつつもまた蛙吹さんの時みたいになりかねんと思いなんとか気持ちを押し殺す。

 

緑谷「い、いいんだよ…気にしなくても」

 

緑谷「僕自身皆の気持ちを理解し切れなかった所もあるしさ……」

 

緑谷「……ってあれ、今もしかして…俺も…て?」

 

彼の言葉に違和感を感じ取り、少し問いかけてみた。()()()…ってそれじゃまるで他に誰かが謝りに来たのを知ってるような言いぶり…

 

尾白「えっと…実を言うとね……」

 

尾白「大分前、お前食堂で何か怒鳴っていただろ?2週間位前だっけかな…」

 

尾白「そこ出くわしちゃってさ俺」

 

緑谷「!?」

 

尾白「最初は刺激せん方が良いだろと知らんぷりしていたんだけど」

 

尾白「その後下膳してる時に蛙吹さんが泣きついてきてね……」

 

 

『私……緑谷ちゃんに嫌われちゃった…』

 

『取り返しつかない……酷い事しちゃったよ…』

 

『どうすれば良いの!?尾白ちゃん!!』

 

 

緑谷「……」

 

予想していたよりも深刻な状況に陥ってたんだな…彼女。騎馬戦の時はいつも通り呼びかけていた感じだったけど…

 

そう言われてみればさっき八百万さん以外誰も僕に話しかけてなかったからなぁ…

 

尾白「多分敢えて俺に相談したとか…そんなんじゃなくて誰でも良いからすぐに助けてもらいたかったって気持ちが強かったんだと思うんだ」

 

尾白「蛙吹さん、お前に怒っていた所か、何を聞いても自分のせいだの一点張りで…」

 

尾白「相当思い詰めていたらしい」

 

ちゃんと彼女と話をしていれば…そう悔やむばかりだった。蛙吹さんの気を楽にしようとしたのが仇になってしまった…くそ……!

 

 

ただでさえ話すのは久しぶりだから気まずい上にこんな話ときたもんだ。何も考えずゆさぶって追求しようとした自分が馬鹿馬鹿しい…

 

殺伐とした空気になってしまった所を何とか切り替える為に話題を変えようとする尾白君。

 

 

尾白「っと…話が脱線したな。話したい事は他でもない」

 

尾白「お前も知りたいであろうあの普通科の奴の事だ」

 

緑谷「あ…騎馬戦の時一緒にいた男子だよね?あの人ってどういう……」

 

…と喋りかけたが待った、色々突っ込ませてくれ。何故態々戦う可能性のある相手にそんな貴重なネタを提供するのか…それじゃ自分が不利になるだけじゃないか。僕に話してどうしようと…

 

尾白「まぁ…話を聞いてくれ」

 

尾白「つまる所俺はお前に期待してるんだ」

 

緑谷「僕……に?」

 

尾白「ああ…轟とかはああ言ってて事実俺も否定し切れた訳じゃない」

 

尾白「だけど俺的にはお前が優勝するんじゃないかと踏んでいる…いや優勝してほしい。俺的にはな」

 

緑谷「……」

 

 

 

ええええ!?いや!お気持ちはありがたいんですが!尾白君だって優勝したい筈でしょ!?それに何か僕やたらと過大評価されてません!?ん!?

 

歎美の声はとても嬉しい限りだが非常に買い被っている為少し戸惑いさえ感じてしまう自分…

 

ただ……

 

尾白「緑谷のフォームってスゴイ綺麗なんだよな!何というか…型にとらわれ過ぎず!みたいな…」

 

尾白「ザ・緑谷流って感じで格闘派の俺としてはめっちゃ好感するんだよね」

 

緑谷「へ、へえ…」

 

理由が具体的だからというか抽象的だからというか…よく心には響いてこなかった。まぁ理由の1つは、なんだが。

 

尾白「でだ。要するにこれはお前を見込んでの話だ。これから言う奴に関する情報はお前以外…」

 

尾白「特に本戦に出る14人には一切口外しない」

 

尾白「お前もそうするつもりで話を聞いてくれ」

 

いつもの彼の様子から想像も出来ない程の悍ましげな表情で尾白君はこちらに釘を刺してくる。この時の彼の意図など分かる訳も無く、僕はただ彼の意思を尊重しようと静かに頷き、了解する他無かった。

 

 

 

尾白「いいか。例年通り行けばトーナメント形式のサシ仕様の勝負となる筈だ。まぁまだ発表されちゃいないが」

 

尾白「その場合………ほぼ確実に奴の勝ち試合となるだろう」

 

緑谷「な、なんで…?どういう確証を?」

 

尾白「俺、終盤ギリギリまで記憶がボンヤリとしかなかったんだ。騎馬戦」

 

緑谷「ええ!?それじゃ僕に与えられる情報なんて…」

 

尾白「()()()()って言ったろ。正確には意識はあった」

 

尾白「だけど奴の問いかけに答えた瞬間身体が麻痺したような感覚に襲われて…」

 

尾白「それからハチマキを取られて暫くしたら、鉄哲チームがこっちにハチマキ差し出して終了……」

 

尾白「こんな感じだ」

 

 

敢えてハチマキ取られて標的外になっておいて終盤で取りに行ったのか…って差し出した!?ハチマキを!?

 

尾白「廊下とかですれ違ってた時に耳に入った情報だが…」

 

尾白「『気づかぬ内に青髪で目の下にクマができている普通科の生徒を担いでいた…』とか」

 

尾白「午前中の奴の様子を喋っていたのを聞いてな」

 

尾白「……結論からするにあの普通科の生徒の個性は【洗脳】…だと思う」

 

緑谷「洗脳……」

 

尾白「ああ。あいつと話した瞬間あいつの射程距離圏内だ。すぐに操られる」

 

口を開いた瞬間詰みのバトルとかほぼ無理ゲーな気がします、尾白さん。明かせば明かしていく度に心操君の危険性が自ずと理解してくる。

 

緑谷「ね、ねぇ…それって攻略不可能じゃ…」

 

尾白「だろうな。ましてやタイマンじゃサポートも居ないし敗けたと思った方がいい」

 

尾白「だけど致命的とも言える欠点がこれには2つある」

 

尾白「1つはさっき言った自分の意識が残されている事……だから何だよって思うかもしれんがこれが2つ目に大きく関わってくる」

 

尾白「もう1つは…解除法だ」

 

緑谷「解除法…?」

 

 

 

先述もしたが尾白君は終盤ギリギリまでの記憶が曖昧となっている。逆に言えば何故か終盤の1、2分の間は騎馬戦の記憶がはっきりと脳裏に焼きついているのだ。

 

どうやらすれ違い様に別の騎馬と肩をぶつけてしまった拍子に意識が戻ったみたいなのだ。こうして尾白君はその事からこの洗脳の解除法は【何かしらの衝撃を与える】ではなかろうかという仮説を立てたらしい。

 

 

 

尾白「……とは言え、タイマンの時にその何かしらの外的障害が発生するとは思えないし」

 

尾白「正確にはどの程度の衝撃を与えれば解除できるかも判断できない」

 

尾白「何よりあれがコントロール可の個性なら奴の加減一つで今の前提は覆される」

 

尾白「要するに黙って勝負しろって事だよ」

 

緑谷「は、はぁ……」

 

尾白「……()()()()()()()()()

 

緑谷「……?」

 

何か意味深な台詞を吐いたような気がしたが気にしない方がいいだろうとこの時はそのまま流してしまった。尾白君の言っていたそれは正にこの第1回戦の事を指していたんだ。

 

 

ため息をつき、しばらく黙り込んだと思えば再び彼はこの前の蛙吹さんの事について話し始める。

 

 

尾白「蛙吹さん……彼女、途中で『また1人になっちゃう』とか『バラバラは嫌』だとか呟いてた」

 

緑谷「?……」

 

尾白「前に蛙吹さんに何があったのかは知らないが俺自身、こんな険悪な雰囲気のクラスの中授業受けるのは御免だ」

 

尾白「何たってこれは()()()()()()()()()()()()()じゃないんだからさ」

 

尾白「そうだろ?委員長」

 

緑谷「……ああ」

 

尾白「だったら最後まで勝ち上がって俺達に見せてくれよ」

 

尾白「あの時……お前の判断は全て正しかったって証明をよ」

 

尾白「俺の分も…頑張ってくれよ、緑谷」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在に至る訳だが…

 

とっにかく衝撃的だった。嬉しいとか、驚いたとか…色々感じたけどさ。こうも人望が厚いと…どちらかというと嬉しさよりも怖さが増すけどね。あいや!自慢する訳じゃないんだけどさ…

 

こう、背負われているって実感が湧いてくる。蛙吹さんと尾白君と…2人の希い託されちゃったからなぁ。敗けてられないって緊張感が増しに増して胸がはち切れそう…というか。

 

オールマイトってこの何億倍もの圧力がかかっていると思うと改めて凄いなぁとも思ったよ、うん。言葉がうまくまとまらないけど。

 

 

けどさ……

 

 

『お前らには分からないだろうね』

 

『けど、こんな個性でも夢見ちゃうんだよ』

 

 

心操「……」ザワザワ…

 

緑谷「……夢か…」

 

 

満更他人事でも無かった。あの言葉…あの姿…まるで1年前の僕のようじゃないか。

 

僕には彼の想いが辛い程理解できてしまっていた。だが同情はただ当事者にとっての皮肉にしかならない。

 

…僕は彼とトーナメントで当たった場合どう接していけばいいのか……考える事などできなかった。

 

 

 

 

強く、されど小さい心操君の想いなど他の観客に届きなどせず、第1試合は一瞬にしてその終止符を打たれたのであった………

 

 

 

 




世界よ…

須井化(わたし)が(帰って)来た!!

須井化です…はい。

今回久々に時間通りに投稿する事が出来ました。因みにまだ2期1話見れてません…(´;ω;`)
あ、超もちょくちょく見てるよ(震え声)

後6、7試合分書くと言ったな、あれは嘘だ。

いや正直全部書けないにしても2、3試合分は書きたいと思ってたんですが…キャラの掘り下げにどうも手間取ってしまいまして…

まぁ尾白君の活躍増加に免じて許してくだせぇな。

後、心操君の個性って意識無くなるんじゃないのー?って言う人いると思うんですが。

バッチリ漫画では緑谷君記憶あるし、本人もそれに関して違和感感じてなかったので作者側のミスとして捉えてます。(ファンブック?知らんな)

何にせよオラアカとしての定義としては
【心操君レベルではまだ精神を完全に支配するにまでは至らない】
と言う風にさせていただきます。
(でもやっぱりあれってただのOFAが齎した効果ってだけなんかなぁ…心操君は()()()()()()効かないって言ってたけど)

後ケロインが1番ケロインしてる希ガス…ここら辺は。何か壊れかけてるですが大丈夫なんですかねぇ( ^∀^)

いかがでしたか?



次回は1回戦前半〜第5試合目位かなぁ。

デンジャキがウェイウェイ!する話なのでお楽しみに。

後拳藤さんも出るのらー!




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3月29日(水)以内に第27話の投稿を予定しております。多分時間帯は夜なんじゃないかな!?
お楽しみに!



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