悟空「オラの?」緑谷「ヒーローアカデミア!」   作:須井化

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…………

あやっべ焦って1分前に送ってもうた………

鉤括弧の説明だけしますわ

緑谷(なんでそれだけ…?)

「」←通常の台詞(喋っている)

()←心の中の台詞

『』←回想時の台詞(多分)


本編始まります……

後さらば2016年。





ChapterⅠ-episode1 プロローグ
第1話


 

 

人間には不完全と完全の2種類が存在する。

 

僕はそれの中では不完全な人間の部類に入るんだろう。

 

「……はぁ」

 

ため息をつきながら携帯を取り出し直様ヒーロー関連の情報を検索する。

 

ちょっとした気分転換だ。

 

習慣というか日課というか悪い癖になっていた。

 

僕は緑谷出久、しがない中学3年生。

 

どこにでもいるごく平凡な受験生だ。

 

……っていう訳でもないか。

 

緑谷「ん…?」

 

操作し始めてから数分後、ようやく携帯から離れた僕の目に映ったのは1人の女の子だった。

 

女の子「…」

 

何やら困った様な顔をしていたので周りを見回すと

 

緑谷「ははぁん…あれだな」

 

風船の紐が木の枝にかかっていて取れなくなっていたのだ。

 

多分ここでそもそも少女に気を留めない人や知った所でって顔で通り過ぎる人が大半だろう。

 

でも自分は馬鹿正直で困っている人は放っておけないタイプだ。

 

そのまま見過ごす訳にも行かなかった。

 

緑谷「んしょ…」グイッ

 

身体を伸ばし風船を掴もうとする……

 

が1ミリ身長が足りない!!

 

緑谷(僕のバカ〜)

 

緑谷(でも取らなきゃ……)

 

そう思いつつプルプル身体を震わせながら手を伸ばし続けてた……

 

 

 

その時だった

 

「よっと」パシッ

 

突如人を覆えるんじゃないのかって位巨大な手が僕の前に現れた。

 

緑谷「うわわっ!?」

 

余りに突然の出来事だったもので腰を抜かしてしまった。

 

ビビり過ぎにも程がある。

 

こんな光景慣れっこだろ。

 

「はい。今度は離すんじゃないぞ?」

 

女の子「うん!」

 

颯爽と登場した少女は風船を女の子に渡しいとも容易くミッションクリアした。

 

風船を持った女の子は直様道路を走っていった。

 

「………へへ」

 

少女もまた、僕に一礼するとその場を去って行った。

 

緑谷(……これが格の差ってやつか…)

 

緑谷(はぁ………)

 

……身体の巨大化?この世界じゃ然程珍しい事じゃない。

 

 

 

 

 

事の発端は中国で起こった。

 

生まれた赤ん坊が発光したというニュースが世間を騒がせた。

 

それ以降人々に様々な突然変異が巻き起こっていった。

 

後にこの事態は【超常】と名付けられた。

 

今や【超常】現象が見られる人間の数は世界総人口の8割にまでに至る。

 

そしてある時人々は身体に宿されたその超能力・特殊体質を利用し、トンデモないモノを実現させてしまった。

 

誰しも一度は憧れたあの空想上の存在に…

 

 

 

 

 

緑谷「……」

 

懲りずに再度携帯で調べ物をする。

 

緑谷(さっきのオレンジ髪の人…カッコよかったな)

 

緑谷(恥ずかしい所見られちゃったなぁ…)

 

緑谷「…ヒーローか」

 

その単語を口にする度、学校にいた時の事がフラッシュバックする。

 

 

『てめぇが何をやれるんだ!?』

 

 

緑谷「……」

 

一旦立ち止まり俯いてしまう。

 

目の前にあるのは小さなトンネル。そこはとても暗く一筋の光も見れやしない。

 

今の僕の状況とぴったり一致する。

 

緑谷「何やってんだろ…」

 

下を向いたままとぼとぼ歩いていく。

 

緑谷(……誰が何目指したってその人の自由だろ…)

 

緑谷(別に()()()()()()()なれない職業って訳じゃないんだし)

 

緑谷(……でも)

 

頭の中で色々考えている内にいつの間にかトンネルを抜けてたらしい。

 

日が眩しい。

 

まるで四面楚歌の僕を照らしているかの様に太陽は輝いていた。

 

緑谷「……そうだよな」

 

緑谷「()()()決めたもんな」

 

緑谷「周りの言う事なんか気にすんな!!」

 

緑谷「グイッと上見て突き進め!」

 

そう言うと元気を取り戻したのか僕は少しにんまりと笑った。

 

…ただのその場凌ぎの戯言だってのに…

 

そう思いながら。

 

ズズ…

 

緑谷「?」

 

微かにトンネルから発生した音を感知した僕は後ろを振り向いた。

 

すると……

 

 

 

 

敵「Mサイズの…隠れミノ」

 

緑谷「え」

 

グオッ…

 

いきなりマンホールから出てきたヘドロの様な化物が僕を襲った。

 

いや、化物と言うのはおかしいか。

 

普通こういう奴らの事を(ヴィラン)と総称する。

 

って呑気に脳内解説してる暇無ぇ

 

緑谷「ぶっ!?」

 

敵は僕の身体に触れ、体内に侵入しようとする。

 

何が起こったか訳も分からず数秒呆然としてた。

 

そして数秒経った結果僕はこういう結論を出す

 

緑谷(こっ…殺され…!?)

 

敵「大丈夫ー。身体を乗っ取るだけさ」

 

敵「苦しいのは約45秒。直ぐに楽になる」

 

あ、乗っ取るだけですか。なら安心………

 

緑谷(楽になるってそれ死ぬぅぅぅっ!?)

 

本能的に生命の危機を察した僕はひたすら抵抗し始めた。

 

チャプチャプ…

 

緑谷「!?」

 

敵「掴めるわけないだろ!流動的なんだから!!」

 

何とか敵から離れようとするが触れられない以上逃げられない。

 

次第に身体の力が抜けていく。

 

緑谷(息…がっ…)

 

呼吸が出来ず、視力も低下していく。

 

緑谷(死ぬ……)

 

こんな人気のない路地で助けが駆けつける筈もなく…

 

あぁ…こんな事もあったなぁ…

 

と今までの人生を走馬灯の様に振り返り始めていたその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「波ぁぁあああっっ!!」

 

誰かの声が聞こえた。

 

聞き覚えのない声だ。

 

はぁぁぁ?なら幾らでも聞いた事あるが

 

僕の知ってるそれとは全くイントネーションが違っていて…

 

 

ボオオオオッッ!!!

 

 

緑谷(へ)

 

急に僕の目の前に見た事ない物質が現れた。

 

いや見た事はあるけどまだ科学的に作れる様な代物かというと微妙なところであ、でもそういう部類の人なのか?確かその類のヒーロー数人見かけたなぁ。ってか意外とあったかい。

 

その間1.2秒。

 

敵「ぐああああっ!?」

 

ゴオオオッ

 

敵「私はトリよぉぉぉっ!?」

 

緑谷「………………は?」

 

敵は突然姿を現したビーム砲的な何かに吹っ飛ばされ空の彼方に飛んで行った。

 

……最後の台詞なんなんだよ。

 

「ひっえぇ…ちっと気入れすぎちまったか…でも死んでねぇよな」

 

緑谷「……え」

 

数秒前まで最低でも数m離れていた筈の人物がいつ移動したのか僕の目の前に立っていた。

 

「大丈夫か、おめぇ。怪我ねぇよな?」

 

緑谷「貴方は…」

 

ツンツンした頭に、背中に亀と書かれた道着を着ている。

 

身長170cm代後半位の男の人

 

「?オラか?オラは……」

 

 

 

悟空「オラは孫悟空だ!」

 

緑谷「孫…悟空……」

 

悟空「少し聞きてぇ事があるんだけど…」

 

悟空「でぇじょうぶか?」

 

緑谷「…………」

 

 

 

 

 

 

因みに…この後トンネルから移動した数秒後

 

 

 

オールマイト「もう大丈夫だ少年!!」

 

ドガァッ!

 

突如マンホールが吹っ飛ぶ。

 

オールマイト「私が来……」

 

オールマイト「私が…」

 

オールマイト「わた………………」

 

オールマイト「Noooooooo!!!」

 

 

 

 

………別の世界では僕はここでまた別の運命的な出会いをするのだが……

 

それはまた今度ゆっくり話すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「ここはいってぇ何処なんだ?」

 

緑谷「………」

 

数秒程質問の意図を考えてしまった。

 

ただ1つ理解できたのはこの人はここの街の住民じゃない事……

 

あ、後滅茶苦茶強そう

 

先程の出来事の一部始終がまだ整理出来ず戸惑ってしまっている。

 

果たしてこのおじさんは誰なのか?ヒーローとして助けたのか?いや、或いは敵なんじゃ…

 

頭の中で様々な考えが巡りに巡って混乱している。

 

緑谷「こ、ここは…と…東京の…」

 

悟空「……トーキョー?」

 

悟空「随分遠い場所まで飛んでったって事かぁ?」

 

悟空「知らねぇぞそんな街」

 

緑谷「!?」

 

更に驚かされた。このご時世に東京を知らない日本人(日本語ペラペラ…後方言みたいな感じするし)が居るなんて…

 

緑谷「あの…悟空さんは何処から来たんですか?」

 

悟空「え…そうだな…オラはパオズ山ってとこに住んでた!」

 

緑谷「パオズ山…?」

 

悟空「スッゲェ田舎だから多分知らねぇと思うけど」

 

緑谷「そんな所あるのか…?」

 

全く聞いた事の無い場所だったので急いで検索してみるが…

 

緑谷「駄目だ…ヒットしない」

 

悟空「……何だそれ?薄っぺれぇ板だなぁ」

 

緑谷「え…………」

 

緑谷(………携帯も知らないのかこの人)

 

悟空「オラ機械の事とか良く分からねぇからな」

 

悟空「はははっ」

 

緑谷(笑い事じゃねぇよ)

 

話していく毎に怪しさが増していくアブナイおじさん。

 

この時点では僕はこういう印象しか受けなかった。

 

結局…一刻も早く交番に連れて行こう、そして家に帰ろう。という考えに至った。

 

次第に交番まで後どの位だろう……という事しか考えられなくなっていった。

 

……ある話題が出るまでは。

 

悟空「…っにしてもさっきの襲ってた奴はいってぇ何なんだ?」

 

悟空「見た感じ人間じゃなかったぞ」

 

緑谷「多分…そういう【個性】を持ってるから…じゃないですかね」

 

緑谷「流動的な身体になるっていう…」

 

悟空「………」

 

悟空「こせー?りゅーどーてき?」

 

悟空「オラにゃさっぱりだ」

 

緑谷「…」

 

ここまで来ると呆れて物も言えなくなる。

 

緑谷(流動的はともかく個性も分からないのか……)

 

今思えば個性を知らないのは当たり前なんだよなぁ…

 

だって個性ってこの世界でしか通用しない呼称なのだから。

 

緑谷「…【個性】っていうのは数十年前から起こった人間の突然変異です」

 

緑谷「火を吹いたり身体が木とか…鉄になったり……」

 

緑谷「その効果は様々ですけど……通常の人間ではあり得ない能力・性質を持ってしまう」

 

緑谷「それを個性って言うんです」

 

悟空「へぇ!そりゃスゲェ!」

 

悟空「道理でオラん所よか強ぇ気がわんさかいるってこった!」

 

悟空「オラうずうずしてきた…!」

 

緑谷(気…?うずうず…?)

 

やはりこの人の言っている意味が理解できず困惑してしまう。

 

田舎者とかそういうレベルじゃないだろ…………

 

………あれ……じゃあ…

 

 

緑谷「悟空さんって…個性持ってないんですか?」

 

悟空「ん?オラそんなの知らねぇし持った覚えもねぇよ」

 

緑谷「……………」

 

緑谷「えええええええっ!??」

 

悟空「え、そんな驚く程の事なんか?」

 

緑谷「そりゃ驚きますよ!じゃあさっきのビームはどう説明するんですか!?」

 

悟空「んー………」

 

悟空「ガキの時に修行したら出てきた」

 

緑谷「……かか……か」

 

個性も無い人がビームを出す……

 

そんな前代未聞な事態を目の当たりにしていたのかと口を大きく開いて静止してしまった。

 

悟空「どした?そんな口開けっと顎外れっぞ」

 

緑谷(誰のせいだよ!!)

 

緑谷「んな馬鹿な…どんなに過酷な修行したって人間からビームなんて…」

 

悟空「ビームじゃねえぞ?」

 

悟空「気功波!!!」

 

緑谷(そんな事聞いてんじゃねぇよ )

 

悟空「出るモンは出るんだって」

 

悟空「オラの知ってる奴じゃ出してるの2、30人はいっぞ?多分」

 

緑谷(あんたの知り合いどうなってんだよ!!)

 

ツッコミ所満載で何処から言えばいいか分からないぞこれ

 

緑谷「……悟空さんってどれ位強いんですか?」

 

悟空「さぁ…?オラ自身この身体に戻ってから闘ってねぇからなぁ」

 

悟空「惑星ぐれぇは壊せるんじゃねぇかな」

 

緑谷「」

 

一瞬証明してくださいって言おうとしたがやりかねそうだから止めておいた。

 

緑谷「ど…どうしたらそんなに強くなれるんですか?」

 

悟空「んー……」

 

悟空「とにかく修行したって事しかねぇな」

 

悟空「ガキの頃からオラやる事それしか無かったからな」

 

緑谷「え」

 

悟空「じっちゃんと2人暮らしだったんだけど…………途中でじっちゃん死んじまったからな」

 

悟空「そん後は何もする事無くて暇だったからただ修行してたんだ」

 

悟空「ま、まだそん時はかめはめ波なんて撃てなかったけど」

 

緑谷「………」

 

緑谷(あれ…もしかしてこれって聞いちゃいけなかったんじゃ…)

 

予想以上に悲しい生い立ちだったにも関わらず平然と明るく喋る悟空さん。

 

緑谷(無個性でこんなにも強くなれるのかぁ)

 

緑谷(……羨ましいな)

 

緑谷(………待てよ……あ)

 

緑谷「ごっ悟空さん!まさかヒーロー免許持ってたりとかは…」

 

悟空「……?オラ免許は運転のヤツしかねえぞ」

 

緑谷(やっぱりぃぃいっ!?)

 

読み通りの展開だったので然程驚きはしなかった……

 

訳でもない

 

緑谷「悟空さん!ヒーローでも無いのに敵をやっつけちゃ駄目じゃないですか!!」

 

悟空「ひ、ヒーロー?びらん?」

 

緑谷「この時代その個性を使って悪い事を企んでいる輩が沢山いるんです!それが(ヴィラン)!!」

 

緑谷「で!それを退治するべく誕生した職業がヒーロー!」

 

緑谷「普通敵を倒す為に個性……いやまぁ悟空さんは無いかもしれませんけどそれを使って武力行使しちゃいけないんですよ!!」

 

悟空「…………」

 

悟空「よく分からねぇけどなんで悪い奴倒しちゃいけねぇんだよ?」

 

緑谷「ーっっ!」

 

説明しなかったのは確かに僕のミスだが流石にここまでボケられては流石の僕もキレそうになる。

 

緑谷「さっきも言いましたよね!?個性ってのは様々な種類があるって!」

 

緑谷「場合によっては簡単に人を殺められる力になるんです!!」

 

緑谷「だから公共の場での個性の使用は禁じられてるんです!!分かりましたか!?」

 

悟空「お…おう。多分…わかった、と思う」

 

不幸中の幸い。この会話は他の人に聞かれなかったらしい。

 

人前でこんな事話せたもんじゃない。

 

悟空「つまり!その個性っちゅーもんを使って悪い奴を懲らしめていいのはグレートサイヤマン?みたいな感じの奴だけなんだな?」

 

緑谷「ぐ、グレートサイヤマンっていうヒーローは知りませんけど大方…」

 

悟空「へー…悪者退治しただけで働いた事になんのか。そんな仕事ならオラにだってできっぞ?」

 

緑谷「でもその為の免許を取るのが難しいんですよ」

 

緑谷「ただ強ければいいってだけじゃないですし」

 

悟空「そうなんか…オラも働けるかもしれねぇって思ったんだけどなぁ」

 

緑谷(あ、無職なんだ)

 

もはや反応する気も失せてきていた。

 

悟空「……そういや気になってたんだけど緑谷はどんな個性持ってんだ?」

 

悟空「さっきそれ使わなかったから少し不思議に思ったんだ」

 

緑谷「…………」

 

緑谷「僕は……その」

 

悟空「?」

 

 

 

 

 

緑谷「無個性…なんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

運が良かったのか悪かったのか…

 

僕はこの世代じゃ珍しい何の個性も持ってない人間だ。

 

大分前に流行ってたらしい情報だが…

 

個性の有無の判断をする時に用いる根拠が足の小指に関節があるか無いかっていう研究結果がある。

 

僕には関節が2本あった。

 

まぁ実際個性が発現してる理由等は判明してはいないんだが………

 

『諦めた方が良いね』

 

5、6歳の時に医師にイイのを1発貰ってしまった。

 

 

 

 

 

悟空「?皆持ってんじゃなかったのか?個性って…」

 

緑谷「正しくはほぼ全員…ですけどね」

 

緑谷「10人に8人の割合で個性が発生するので…」

 

緑谷「何も無いって人は稀にしか無い事なんですよ…」

 

悟空「そうなんか…」

 

緑谷「…」

 

また……今日の記憶が蘇る。

 

 

 

『可哀想に。中3になってもまだ彼は現実が見えていないのです』

 

『そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法があるぜ』

 

『来世は個性が宿ると信じて…屋上からのワンチャンダイブ!!!』

 

 

 

緑谷「………」

 

緑谷(そう…だよなぁ)

 

緑谷(この人も現に努力して才能が開花したからこんな力がついた訳で…)

 

緑谷(僕なんかと違って…やれば出来るタイプの天才なんだろうなぁ……)

 

緑谷(………)

 

悟空「緑谷?どうした…そんな顔暗くして」

 

緑谷「っい、いいえいいえ!何でも…」

 

急に声をかけられたので焦って返事をしてしまった。

 

緑谷(そんなに顔に出てたのか…)

 

ポトッ…

 

驚いた拍子に持っていたノートを落としていたみたいだ。

 

悟空「お、なんか落ちたぞ」

 

緑谷「あっご…ごめんなさ…」

 

悟空さんは落ちたノートを手に取って中身を見る。

 

悟空「……??オールマイト?」

 

緑谷「ちょっ!かっ返して下さいよ!」

 

悟空「え…わ、悪りぃ…」

 

悟空さんがノートを差し出すと僕は乱暴に取り返す。

 

あまりにも恥ずかしい内容だったからだ。

 

緑谷「はぁ…はぁ」

 

悟空「……誰なんだ?オールマイトって」

 

緑谷「………オールマイトは…僕の憧れのヒーローなんです」

 

緑谷「オールマイトは…No.1ヒーローとして世間で注目されていて救った人間の数は計り知れないとされています」

 

緑谷「彼が活動し始めてから、年々敵の発生率が低下し存在そのものが悪の抑止力となっているんです」

 

緑谷「世界中の人間にとってオールマイトという人物は【平和の象徴】そのものなんです」

 

悟空「…」

 

悟空「とりあえずオールマイトっちゅーのがなんかスゲェ奴だってのはよく分かったぞ?」

 

緑谷(うんもう黙って)

 

緑谷「…僕は将来ヒーロー目指してるんです」

 

緑谷「オールマイトみたいにどんな危険な状況下でも…困ってる人達を笑って救けられる…」

 

緑谷「そんな英雄(ヒーロー)に…」

 

悟空「………」

 

淡々と話していく内に空気が淀んでいった。

 

自分で言っといて何だが馬鹿らしく感じてきた。

 

こんな事言ったところで何も変わらないのに。

 

緑谷「でも…その為には皆より強くなくちゃいけないし…」

 

緑谷「何より…人一倍勇気がいる」

 

緑谷「人並みの事もこなせないようじゃ…そんなモノになれる訳ない…」

 

更に追い討ちをかけるかの様に嫌な思い出が頭の中をよぎる。

 

『お母さん…』

 

『どんなに困ってる人でも笑顔で救けちゃうんだよ…』

 

緑谷「いや…そもそもなる資格すらないんだ」

 

『超カッコいいヒーローさ…』

 

『僕も…なれるかなぁ』

 

緑谷「無個性なんだから…」

 

自分でも理解していた。

 

周りが正しいんだ。そもそもこんな疑問が出る事自体おかしな話なんだ。

 

自分には出来ない事なんだってそう思っていた。

 

でも何故か話せずにはいられなかった…。

 

1回でもいい、なれるって答えが欲しかったんだ。

 

悟空「………」

 

悟空さんは数秒黙り込むとまた話し始めた。

 

悟空「…なんか勘違いしてっから言っとくけどオラは…」

 

ドオオオンッッ…

 

悟空「いっ!?」

 

緑谷「今のは…!」

 

かなり大きな爆発音が僕らの耳に入ってきた。

 

音がした方向を見ると商店街に人だかりが出来ている事に気付いた。

 

悟空「なんだありゃ…」

 

緑谷(……おいおい)

 

緑谷(つい癖で来ちまったてか…)

 

緑谷(止めとけ今は…虚しくなるだけだって)

 

心の中でそう言い続けながらも身体がそれに抵抗する様にその人混みに近づいていった。

 

悟空「もしかしてまたヴィランっちゅうヤツか?色々出てきて物騒な街だぞ…」

 

緑谷「……あ」

 

目を凝らしてよく見てみるとそこにいるのはさっきのヘドロ敵ではないか…

 

悟空「あ!?あいつまだ動けたんかぁ?」

 

悟空「むー…逆に軽くやりすぎちまったのか?」

 

緑谷(軽くやっといてよかったな…)

 

緑谷「あの…一体何が」

 

見に来た市民に声をかけるとこう返事が返ってきた。

 

「中学生が敵に捕まってんだと」

 

「んでその中学生が抵抗してんだけど誰も手ェつけらんねー状態って訳よ」

 

緑谷「!?」

 

悟空「何だかよく分からねぇけど行った方が良さそうだな…」

 

緑谷「ちょっ…悟空さん!」

 

悟空「何だよ緑谷…早くしねぇと」

 

緑谷「さっきの話聞いてたんですか!?ヒーロー免許持ってない人が敵倒すと警察に捕まるんですよ!」

 

悟空「っんでだよ…オラの技は個性ってのじゃねぇしいいんじゃねぇのか?」

 

緑谷「だとしても暴行罪…いや最悪殺人で…」

 

悟空「ちゃんと手加減すっしでぇじょうぶだって…」

 

緑谷「大丈夫じゃない!!」

 

悟空「じゃあ今襲われてる奴はどうすんだ!?見過ごせってのか?」

 

緑谷「……有利な個性を持っているヒーローがきっとすぐ来ます…」

 

緑谷「耐えてもらうしかない…あの人に」

 

悟空「……でもよ…」

 

悟空「おめぇさっきあいつに殺されかけたろ…」

 

緑谷「……」

 

悟空「自分が助かりゃ結果オーライだってのか?」

 

緑谷「……そういう…訳じゃ…」

 

本当は助けたい…でもまだ僕にはそんな力も権利も無い…

 

だからこれは仕方ない事なんだ。

 

ただ無事を祈って待つ…これが最善なんだ。

 

緑谷(ごめん…ごめんよ…)

 

緑谷(誰かが…すぐ助けに来てくれる…)

 

緑谷(だから…………)

 

 

 

 

「………!!!」

 

緑谷「………」

 

その時僕の目に映ったのは…1人の男の子の顔だった。

 

今にも泣きそうでとても苦しそうな顔だった。

 

こいつがこんな表情をしたのを僕は見た事が無い。

 

 

 

 

 

僕には1人の幼馴染が居た。

 

僕と正反対でどんな事でもやらせたら何でもこなしてしまうそんな天才だった。

 

個性もとびきり汎用性あって…運動神経抜群で…そんでもって頭も良い……

 

でも性格の悪さはピカイチだ。人のノートを勝手に焼いたり知人を死ねと軽く言える位に。

 

ただ感じの悪い奴という印象が強かったがそれは自分が嫉妬していたからかもしれない…

 

 

 

 

 

 

 

ってそんなの今はどうでも良いか

 

緑谷「っっ!!!」

 

ダダッ…

 

気が付けば敵の所に向かって全速力で走っていた。

 

悟空「!?おい…緑谷!」

 

市民「なっ……!」

 

周りの発している言葉が聞こえず【助けないと】それしか考える事ができなかった。

 

敵「あいつっ…」

 

「デクッ…」

 

緑谷(どうするどうするどうする…!)

 

敵の撃退方法やら被害者の救出方法やらをノートを眺めながら考察し始めた……。

 

が何も思いつかない。

 

緑谷「てぇい!!」ブンッ

 

時間稼ぎになればと持っていた荷物を敵に向かって思い切り投げつけた。

 

敵「ちっ…!」

 

緑谷(()()()()()に当たったか…!?)

 

緑谷(っそ…当たって砕けろだ!!)

 

僕は直様敵に突っ込んでいく。

 

緑谷「かっちゃん!?」

 

「何…でテ……メェが!?」

 

緑谷「足が勝手に!」バシャバシャ…

 

喋りながら焦って手探りする。

 

敵「だから触れねえって言ってんだろ!!」

 

緑谷「っ…」

 

緑谷「何でって…分からないけど…」

 

色々理屈はあったと思う。

 

でも頭の中にずっとあったのはこの事だけだった。

 

 

 

 

 

緑谷「君が助けを求める顔してたっ……!!」

 

「っっっ!!?」

 

悟空「………」

 

敵「後少しなんだから…」

 

緑谷「!?」

 

敵「邪魔すんなぁぁあっ!!」

 

敵の痺れも切れたのか僕を殺そうと襲いかかってくる。

 

ヒーロー「ちぃっ!!」

 

ヒーロー「何やってんだ自殺志願者かよ!!!」

 

慌ててヒーロー達が僕の所に向かおうとする。

 

まぁ数m離れてるから無理なんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

1人を除いて。

 

ガシッ…

 

敵「!?」

 

悟空「いっや…危ねぇ危ねぇ…」

 

悟空「何とか間に合ったみてぇだ」

 

間一髪悟空さんは僕とかっちゃんの手を掴み敵の攻撃を停止させた。

 

緑谷「悟っ…空……」

 

振り返って僕の方を向く悟空さん。

 

悟空「………オラ頭悪くて…馬鹿だから…」

 

悟空「法律だとか…個性だとか…全然良く分からねぇけどよ」

 

悟空「困ってる奴は放っておけねぇ…そこだけはおめぇと似てる所かな」

 

緑谷「………」

 

悟空「ったく行くなとか行けとか忙しい奴だなおめぇは……」

 

敵「誰だテメェェ!!」

 

再び敵は攻撃を図ろうとする。

 

緑谷「ご、悟空さん!後ろ後ろっっ!!」

 

悟空「安心しろ。オラ強ぇから」

 

そう言うと手をぎゅっと握りしめ前の方を向く。

 

悟空「………見てな」

 

風が次第に強くなり…大地も揺れ始めた。

 

ヒーロー「これは……!?」ズズッ…

 

市民「何だこりゃ…」

 

悟空「………」

 

悟空「龍拳ッッッ!!!」

 

ドオオオオッッッ…

 

緑谷「ぐあっ…」

 

たった1発のパンチとは思えない衝撃に今にも吹っ飛ばされそうになる。

 

緑谷(こんなに…!?)

 

市民「おい…アレ見ろよ」

 

緑谷「……え………」

 

目の前に映っていたのは破片となり飛び散る敵……

 

 

では無く1頭の龍の姿だった………

 

緑谷(これは幻……なのか?)

 

ゴオオオッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

シュゥゥ…

 

悟空「……っと………いけねえいけねぇ力出しすぎた…!」

 

緑谷「あ……ああ……」

 

市民「………」

 

ヒーロー「…………」

 

突如謎の男が敵を一撃で撃退した…

 

何より

 

オレンジ髪の少女「?」

 

ポタポタ……

 

オレンジ髪の少女「………うっわ…雨降ってきた」ザァァ……

 

今起こった風圧で上昇気流が発生し……快晴だった天気が雨に変わった事…

 

たった一振りで天候を変えてしまった事に誰もが驚きを隠せずにいた…

 

 

 

この後散ったベトベトはヒーロー達に回収され無事事件解決。

 

結局僕はヒーロー達に説教三昧。

 

逆にかっちゃんは称賛された。

 

肝心の悟空さんはというと…

 

悟空「だ…だからオラは……」

 

市民「アンタどこの事務所所属してんだ?」

 

市民「え?さっきの個性じゃねーの!?」

 

市民「ってかこの人自衛団(ヴィジランテ)じゃ…」

 

警察「いたぞ!!敵を倒したっていうツンツン頭の男だ!!」

 

悟空「いいっ!?」

 

見事に尋問攻めを受けていた。

 

緑谷(け、結局何だったんだろあの人…)

 

緑谷(でも…カッコよかったな)

 

そう思いながら今の内と言わんばかりに人混みから離れていった。

 

商店街を出て難を逃れた僕は直ぐに帰ろうとしたが……

 

「デク!!!」

 

緑谷「?」

 

「…テメェに救けを求めてなんかねぇぞ…救けられてもねぇ!!」

 

「あぁ!?なぁ!!1人でやれたんだ!!」

 

「無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ…恩売ろうってか?」

 

「見下すな!!!俺を!」

 

「クソナードが!!」クルッ

 

そう言うと180°回転し走り去って行った。

 

緑谷(……タフネス)

 

緑谷(でも…良かった。救かって)

 

緑谷(これからは身の丈に合った将来を…)

悟空「危ねぇ危ねぇ」フッ

 

またお前か

 

何処からかいきなり再登場した道着男。

 

緑谷「悟空さん!?さっきまで集団に…」

 

悟空「いっやぁぁ…何とかおめぇの気探ってギリギリ瞬間移動できたぞ…」

 

悟空「おったまげた…捕まりそうだったぞ」

 

緑谷「……テレポート?」

 

緑谷(この人怪力だけじゃ無く超能力も使えんの…?)

 

緑谷(そういうのって修行云々でどうにか出来るモンなのか?)

 

悟空「すまねぇな…道案内してもらったらあんなのに巻き込んじまって…」

 

緑谷「いえ僕こそ…救けられた身だし…何よりあそこに居た友達まで救ってくれたんだから…」

 

悟空「え、さっきの友達なんか?」

 

緑谷「はい」

 

悟空「だからさっき焦って走り出したのかー納得納得」

 

緑谷「…ごめんなさい。僕が出張ったせいで何度も迷惑かけてしまって」

 

緑谷「偉そうにあんな事言ってたのに…」

 

悟空「……ん…でもよ?おめぇが行かなかったら多分オラも行ってなかったぞ?」

 

緑谷「え……」

 

悟空「おめぇが動いたからオラも動かされたんだよ」

 

悟空「さっきおめぇは力が無ぇから助けらんねぇっつったろ」

 

悟空「それでもおめぇは飛び出してった」

 

悟空「本気でそいつを救けてぇって思うんならそういう風に無意識に身体が動くのが当たり前なんだよ」

 

悟空「あん時のおめぇはあの場にいた誰よりも()()()()

 

緑谷「………」

 

緑谷「でも……僕は」

 

悟空「オラはな、赤ん坊の頃親に捨てられてじっちゃんに拾われたんだ」

 

悟空「出来損ないのクズだったから」

 

緑谷「え………」

 

悟空「落ちこぼれだって努力すりゃエリートを超えられる事だってあるんだ」

 

悟空「実際オラが経験してる」

 

悟空「おめぇが今どれだけ弱くたって修行すりゃオラと同じくれぇ強くなれるし…」

 

悟空「さっきみたいな事だっておめぇにも出来るはずだ」

 

そんな言葉をかけられたのは生まれて初めてだった。

 

僕にも誰かが救える…そんな力があるなんて。

 

心の奥底からある感情が込み上げてきて、つい涙が出そうになった。

 

緑谷「…………そう…なんですかね」

 

緑谷「僕…みたいな人でも……」

 

緑谷「こんな無個性な人でも…救けられるんですかね…?」

 

悟空「………あのな、緑谷」

 

悟空「【個性】ってのは元々出来る出来ねぇってモンじゃねえんだ」

 

悟空「おめぇが個性欲しいってんなら1ついい方法がある」

 

 

 

 

 

悟空「【個性が無くても強えヒーローになれる】……そんな個性を作りゃいいんだ」

 

とても…眩しい笑顔でそう口にした。

 

冗談でも…何でもない…

 

本気で僕の問いかけに答えてくれたんだ。

 

緑谷「………くっ……」

 

緑谷「ううっ……」

 

今まで長い間遠回りしてきたみたいだ。

 

そうだ…なれるとかなれないとか…そんなの関係ないじゃないか。

 

自分自身で確かめればいい……。それが僕の出した答えだった。

 

悟空「お…おいいきなり泣いてどうしたんか…」

 

緑谷「いえ………すっごい……嬉しくて…」

 

緑谷「僕の事…こんなにちゃんと見てくれる人なんて…居なくて」

 

あまりの衝撃に思わず感涙を流してしまった。

 

悟空「……そっか」

 

悟空「でも、今のはあくまでおめぇの努力次第ってだけだかんな?」

 

悟空「これからおめぇを徹底的に鍛えてく……」

 

悟空「オラの修行…ついていけっか?」

 

「架空」(ゆめ)は「現実」に…

 

緑谷「………っ……」

 

緑谷「はいっっっ!!!」

 

言い忘れてたけど…これは僕が最高のヒーローになる迄の物語だ。

 




どうも須井化です。とりあえずあけましておめでとうございます(?)

第1話いかがでしたか?

最初は全部名前表記しようかと思ったけど書いてる途中で断念しました…

原作の大幅コピーは厳禁なので1話丸ごとそのままって訳にも行かなかったけど……

あまりにも中途半端になってしまったァァァ

これ大丈夫だったか?

一応何方かしか見てない人でも楽しめる様に書いていくつもりですが2つとも原作を読んだ方が設定とか理解し易いかも…

何より説明の手間がはぶしょん。

最近寒いですね(棒)

次回の投稿は近日行う予定です。

皆さん過度に期待せずに待つ様に。

2017年、これからよろしくお願いします。



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