ガールズ&パンツァー~島田家の長男~   作:園部

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新年明けましておめでとうございます~


5話

「ねえ、島田君そろそろ生徒会に入らない?」

 

放課後。俺は今生徒会でお茶を飲んで勧誘されてる。

 

「そうですね・・・・まぁ構いませんよ。新聞部のゴシップ記事は気にしないことにしますし」

 

「そういえばあの記事って・・・・」

 

柚子先輩がおずおずと聞いてくる。

 

「デタラメですよ」

 

「そ、そっか。・・・・よかった」

 

柚子先輩が安堵してる。関係ないのに心配してくれたんだな。

優しい先輩だ。

 

「なら、正式に生徒会に所属するってことでいいんだな?」

 

河嶋先輩が聞いてくる。

 

「ええ。よろしくお願いします」

 

「なら、今から島田君は副会長ねー。男子代表として扱うつもりだからよろしくー」

 

「分かりました」

 

そして俺の前に書類の束が置かれる。

 

「なら早速で悪いが書類の整理を手伝ってくれ。出来れば夏休み前に仕事は終わらせたいからな」

 

「分かりました」

 

俺は鹿島先輩に教わりながら仕事を熟していく。

ある程度時間が経った時に柚子先輩がコーヒーをいれてくれた。

 

「はい、コーヒー。初日だし無理しなくていいよ?」

 

「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

 

俺はコーヒーを飲みながら作業を続ける。

 

 

作業が終わったので帰宅しようとするが・・・・

 

「あーちょっと待って島田君」

 

「どうしたんです?会長」

 

「今からうちで島田君の歓迎会したいんだけどどう?予定あるなら別の日にするけど」

 

歓迎会か・・・・

 

「大丈夫ですよ」

 

「よかった。じゃあ食材買って帰ろうか」

 

そして俺と生徒会のメンバーで途中食材を買って会長の家に行く。

 

 

「会長って料理出来たんですね」

 

会長がキッチンで料理を作ってる間俺達はリビングで待つ。

 

「当然だ。会長に出来ないことなんてない」

 

「会長料理上手いんだよ~」

 

へーそういうイメージは無かったから少し意外かも。

 

「出来たよー」

 

会長が鍋を持ってこちらに来る。

 

「では、皆飲み物持ってー」

 

会長に言われて俺達は飲み物を持つ。

 

「新しい生徒会メンバーに乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

これは何の鍋だ?

 

「これはあんこう鍋だよ~あんこうは大洗の名産品だからね」

 

食べてみるけど中々美味しいな。

新鮮なあんこうを使ってるんだろう。

 

「折角の会長の鍋だ。味わって食え」

 

そして各人が話ながら鍋を食べたりジュースを飲んだり・・・

 

「会長って料理上手いんですね」

 

「一応言っておくけど鍋以外も出来るからねー。ただ今回は是非あんこう鍋を食べてほしかったし・・・・島田君は料理できるの?」

 

「出来ません」

 

実家じゃ家事は全て家政婦さんがやってくれたし。

裁縫とかは出来るけどな。

 

「そうなの?何でも出来るイメージがあったけどそうでもなかったんだね。いつも何食べてんの?」

 

「コンビニとか弁当屋とか出前とか外食ですね。作れなくても問題ないですよ」

 

「それじゃあ栄養が偏ってしまうよ。そうだ!今度小山にでも作らせに行こうか?」

 

「会長!?」

 

「いや、それは小山先輩に迷惑でしょうし・・・・小山先輩も気にしなくていいですよ」

 

「あ、うん・・・」

 

優しい小山先輩だし気にしてくれてるのかな?

 

「そかそか。じゃあいい機会だし他にも聞いてみていい?」

 

「ええ。答えられる類であれば・・・」

 

「じゃあ待ってねー・・・・普通にやっても面白くないしこれ使おうか」

 

取り出したのは・・・・サイコロ?

 

「出目によって質問するよー。じゃあまず質問内容を事前に書いてっと・・・・じゃあ早速始めようか」

 

会長がサイコロを投げて出たのは3。

 

「3かー・・・・・『今まで付き合った人数は?』だって」

 

「すみません0です」

 

「そうなんだ!へー・・・・」

 

あれ?小山先輩が嬉しそうだけど何で?

 

「にしても0かー・・・・ちょっと意外だねー」

 

「なんでしょうね。友達止まりみたいな感じじゃないですか?義理チョコとかは貰えるんですけどその程度です」

 

「(ホントに義理チョコなのかなー?」

「(恐らく気づかないだけなのでは?)」

「(多分そうなんじゃないでしょうか?)」

 

ヒソヒソ話されると気になるな・・・・

 

「じゃあ次は河嶋振ってー」

 

「私ですか?」

 

「皆1回ずつ振ってもらうよー」

 

「そうですか・・・・では」

 

次の出目は5

 

「えっと・・・『大洗に来た理由』ですか?会長にしては抽象的ですね」

 

「正確には何でうちの学園を志望した理由だよー」

 

ふむ・・・・

 

「大した理由はありませんよ。高校はどこでもよかったのでダーツで決めました」

 

嘘だけど

 

「ふーんじゃあそういうことにしておくよ。最後に小山!」

 

「は、はい!・・・・ではいきます」

 

出た目は1。

 

「これが最後の質問かー『生徒会に入ってよかった?』だってさ」

 

「そんなのまだ分かりませんよ。でも退屈はしないと思ってます」

 

「そっかそっか!」

 

 

 

俺が生徒会に入っていくらか経った。

期末テストも無事に終わって明日から夏休みに入ろうとしている。

 

「終わったー!」

 

「なんとか無事に乗り越えたな・・・」

 

俺達は今掲示板の前にいる。

なんでもこの学校では成績と順位が貼り出されるみたいだ。

 

「私84位!」

 

沙織は中間くらいか

 

「私は19位ですね」

 

華は上位か

 

「俺は2位か」

 

トップは満点か。凄いな。

 

「え!秋人そんなに成績いいの!?」

 

沙織に驚かれたが、そんなに以外か?

 

「凄いですね~」

 

「でもトップには勝てる気しないな」

 

「満点ですものね。でも4点差じゃないですか」

 

トップの名前は冷泉麻子か。名前的に女子っぽいな。

 

「やっぱりトップは麻子か~」

 

うん?

 

「沙織ってトップのやつと知り合いなんだ」

 

「知り合いっていうか小さい頃からの幼なじみ。今度機会があったら紹介するね」

 

ちょっと気になるけど、そのうち紹介してくれるならその時を待つか。

俺達は教室に戻って席につく。

 

「ねぇ。夏休みどうする?」

 

沙織が俺と華に聞いてくる。

 

「私は実家に戻りますね。夏休みが半分くらいになったら戻りますが・・・」

 

「俺も華と似たようなもんだな。色々行くとこあるし戻るのは華より遅いけど」

 

「そっかー。やっぱり皆そうだよね・・・・どこかに遊びに行きたかったんだけどなー」

 

「なるべく早く戻れるようにするさ」

 

多分だけど。

 

「絶対だよ!」

 

「私もなるべくそうしますね。家の都合にもよりますが・・・・」

 

そして夏休みが始まる。

 

 

「兄様お帰り!」

 

俺は実家に帰り愛里寿からの腹ダイブを喰らう。

 

「げふ!・・・・ただいま愛里寿。俺があげたボコグッズ大事にしてるみたいだな」

 

「うん!毎日着けてるよ!」

 

俺が送ったボコグッズ「髪留めVer」を愛里寿は毎日着けてくれるらしい。

愛里寿に手を引かれ中に入ると誰もいなかった。

 

「あれ?母さんは?」

 

「母様は仕事だよ。今は私と早苗さん(家政婦)だけ」

 

母さんは忙しい人だししょうがないか・・・

 

「あら、秋人様・・・・お帰りなさいませ。長旅ご苦労さまです。お茶の準備をしてるのでリビングにどうぞ。お荷物は私が・・・・」

 

「ああ、早苗さん久しぶり。いつもいつもありがとう」

 

この人は家政婦の早苗さん。年齢不詳。俺が生まれる前から島田家で家政婦をしてくれている。物静かで温厚で優しくて・・・・母さんに意見を言える数少ない人だ。

 

「仕事でもあるし私自身やりたいことですから・・・・愛里寿様もどうぞ。ボコの形をしたゼリーを用意してますよ」

 

「ボコ!?」

 

愛里寿は駆け足でリビングに向かった。

 

「秋人様の分も用意してますよ」

 

「ボコですか?嬉しいけど普通で良かったんだけどね・・・・」

 

「あらら。昔は今の愛里寿様のように真っ先に駆け出してたのに・・・・成長されたのですね」

 

「そこで成長実感するの!?」

 

「ふふ、冗談です」

 

意外とこういうお茶目なことを言う。

俺としては家族となんら遜色ないし・・・・別にいいんだけどな。

 

「じゃあ俺も行くかな」

 

「お荷物は部屋に置いておきます。御用のあるときはベルを鳴らしてください」

 

「了解」

 

俺がリビングに行くと愛里寿がソファーに座って待っていた。

 

「兄様おそーい」

 

「悪い悪い」

 

愛里寿が膨れっ面で俺に文句を言う。

それを適当に謝り俺も隣に座る。

 

「思った以上にボコだな。相変わらずのクオリティ」

 

「早苗さんだもん」

 

俺達はボコ型ゼリーを食べる。

最初に作ったときはあまりの勿体なさに中々食べられなかったっけ・・・

 

「味も相変わらずだ・・・・愛里寿大学の方どう?」

 

「友達は出来ないけど・・・・仲間は出来た」

 

ああ。戦車道か・・・

 

「そういえば大学選抜の隊長だっけ?凄いな。経った3ヶ月で選抜の隊長とか・・・」

 

普通ならあり得ないレベルだけど愛里寿なら納得も出来る。

 

「凄いか分からないけど・・・・頑張りたいな」

 

俺は愛里寿の頭に手を乗せて撫でる。

 

「愛里寿は充分頑張ってるよー」

 

「ううん・・・・・兄様みたいに強くなりたいもん」

 

俺みたいにか・・・・

 

「ま、今は戦車道の事は忘れて・・・・・存分に遊ぼうか!」

 

「うん!」

 

食べ終わった食器はそのままに俺は愛里寿と庭でボコゴッコを始める。

ボコゴッコとは愛里寿がボコの着ぐるみ(手作り)を着て俺が敵役の着ぐるみ(手作り)を着て行うゴッコ遊びだ。

友人には絶対見られたくない家庭の遊びの1つでもある。

ついでに言うとボコの素材には衝撃吸収材を使ってる為結構力を入れて殴ったり蹴ったりしても衝撃を無にする。

以前に俺が愛里寿に手を上げたと勘違いした母さんに本気でブチ切れられたのは記憶に新しい。

 

遊びから1時間。夕方に差し掛かる。

 

「・・・・愛里寿。そろそろやめないか?」

 

「・・・・・うん」

 

俺達は着ぐるみを脱いで新鮮な空気を吸う。

 

「暑すぎだろ!夏場にやる遊びじゃないって!」

 

「戦車の中よりも暑い・・・・」

 

夏場にやるのは始めてだけどこれはヤバイ。

夕方で少しは気温も下がってるのにな・・・・

 

「汗でシャツがベトベトだ・・・・風呂入るか。愛里寿先いいよー」

 

「兄様もベトベトだから2人で入ろうよ!」

 

んー愛里寿の年齢で兄と一緒に入るのはどうなんだろう?

まぁ、まだ大丈夫だよな。

 

「じゃあ先行っといて。着ぐるみ片してから行くからさ」

 

「はーい」

 

そうして俺は着ぐるみを片づけて風呂場に向かう。

うちの風呂は広い。無駄に広い。普通に銭湯レベルの広さがある。

本当はそこまで広くなかったが母さんが風呂好きで改築してしまった。

それに合わせて脱衣所も無駄に広くなってしまった。

毎日早苗さんが1人で掃除してお湯を入れて・・・・他にも雇えば負担が少なくなるのに「早苗1人いれば100人分よ。マジで」って言って雇おうとしないし・・・

 

「本当に早苗さんには頭が上がらない・・・・・」

 

脱衣所に着いた俺は脱ぎながらそんなことを考えていた。

 

 

風呂の扉を開けると愛里寿が風呂に浸かっていた。

 

「兄様遅い」

 

「ごめんな。今頭と身体洗ったらそっち行くからさ」

 

俺がシャワーの前に座ると後ろから愛里寿が近づいてきた。

 

「兄様。私が洗ってあげる」

 

「愛里寿に洗ってもらうのは久しぶりだな。じゃあ頼むわ」

 

最初は髪。そして次は身体。愛里寿の好きなように洗われると・・・・

 

「兄様。前も洗いたい」

 

前か・・・・・さすがにないな。

 

「悪いな。前は自分でやる」

 

「何で?」

 

愛里寿って12歳だっけ・・・・妹に性教育とか嫌だし後で早苗さんか母さんに頼んどこう。

 

「自分で洗いたくなったからだよ」

 

俺はスポンジを愛里寿から取り上げて前の方を洗う。

それをジっと見ていた愛里寿がポツリと零す・・・

 

「・・・・・私じゃ気持ち良くなかったのかな・・・・?」

 

そのセリフを聞いた俺はすぐさま行動を起こした。

 

「やっぱり愛里寿がしてくれたほうが気持ちいいな!愛里寿がよければ上半身は愛里寿がやってくれないか?」

 

「うん!」

 

「下半身はやったからお腹や胸よろしねー」

 

タオルをかけて俺の膝に乗って頑張って洗っている。

さすがに愛里寿じゃ反応しないよな?

一応意識を別方向に・・・・

 

「ふぅ・・・・兄様。終わったよ」

 

「ありがとう、じゃあ流して入ろうか」

 

ちょっと焦ったけど無事に終わってよかった。

 

 

風呂に入った後はいつものように愛里寿とテレビを見てる。

すると玄関から音がした。

 

「ただいまー。秋人お帰りなさい。ごめんなさいね。本当は休みだったんだけど急用が入っちゃって・・・・」

 

「ああ、いいよー」

 

「母様。おかえりなさい」

 

「お帰りなさいませ。千代様」

 

早苗さんが母さんから荷物を受け取る。

 

「ただいま。夕飯は食べてきたからいらないわ」

 

「分かりました」

 

そして荷物を置きに部屋を出る。

母さんはそのまま俺と愛里寿によっかかる。

 

「あきとーありすー」

 

どうやら子離れは出来て無さそうだ。

 

「お疲れさん。何かあったの?」

 

「なにもー。そうだ!秋人には明日愛里寿の練習に行ってもらっていい?」

 

母さんが思い出したように俺に言う。

 

「愛里寿の?」

 

どっちだろ。大学選抜のほうかな?

 

「大学選抜のね。島田兄妹対大学選抜っていうのを見てみたいらしいけど・・・・どうかしら?」

 

ふむ・・・・・・俺は愛里寿のほうを見る。

 

「兄様と戦車・・・・・久しぶり。すっごい楽しみ」

 

「OKだ」

 

愛里寿がすごい乗り気だしな。

 

「じゃあ早速連絡しておくわね」

 

そうして母さんが電話をかける。

 

「兄様!兄様!」

 

愛里寿が俺の腹に顔を埋めてくる。

ここまでテンション高いのってボコグッズを初めて買ったとき以来じゃないか?

 

「どうした?そんなに楽しみか?」

 

「うん!兄様と一緒に戦車できるもん!」

 

そこまでテンション高くて大丈夫かな?

そして俺達は明日の為に早く寝た。

 

 

明日になり練習場に行くと、そこには既に大体揃っていた。

 

「おはよう。みんな」

 

愛里寿が挨拶するとメンバーも一斉に挨拶を返す。

 

「その横の人が隊長のお兄様ですか?」

 

隊員の1人が手を挙げて聞いてくる。

 

「そうだ。兄様に粗相したら絶対に許さないから」

 

愛里寿がクールだな。

大方、島田流として舐められないようにだろう。

愛里寿は基本家では甘えん坊だけど戦車道では違う。

 

「へーやっぱり似てるね」

「隊長を男にして成長した感じ?」

「髪の毛が男にしては長い方だけどイケメンだ!」

「DK!DK!DK!」

「ドンキーコング?」

「男子高校生よ!」

 

カオスだ。

あれ?でも見たことあるような人がチラホラ・・・・

 

「静かに!今から兄様の紹介を行う」

 

愛里寿の一喝で場が静まる。

やっぱり隊長だけあるな。

じゃあ挨拶しますか・・・・

 

「島田秋人です。今日は皆様と戦車を乗れるのを楽しみにしてました。若輩者ですがよろしくお願いします」

 

ちょっと硬かったか?

そう思ってるとパチパチ手が鳴る音が聞こえる。

愛里寿が一歩前に出る。

 

「では早速練習試合を始める。2両対20両の殲滅戦だ」

 

え?その差で殲滅戦?

場が騒ぎ始める。

 

「あー・・・・・愛里寿本気で言ってる?」

 

「うん。兄様なら1対20でも余裕だけど私も一緒に戦いたいから・・・・・ダメ?」

 

ミハエル・ヴィットマンじゃないし余裕じゃないよ!なんか愛里寿の俺に対する期待値が異常なくらい上がってないかな!?

でも・・・・・妹に期待されたんじゃやるしかないか。

 

「じゃあ早速準備を始めようか」

 

俺の発言でさらにざわつく。

 

「あ、あのー・・・・」

 

「えっと・・・・」

 

俺がメガネの人に話しかけられる。

 

「ルミです。中隊長やっています。実は初めましてじゃないんですけど・・・・覚えています?」

 

やっぱりそうか・・・・

 

「2年前の高校選抜の・・・・確かあの人とあの人もそうですよね」

 

「はい。アズミ!メグミ!」

 

その二人も来る。

 

「覚えられてるとは思いませんでした。改めてメグミです」

 

「アズミでーす」

 

「よろしくです。あ、俺に敬語なんて不要ですよ」

 

「いやーそう?悪いねー」

 

「ちょっとルミ!」

 

メグミが嗜める。

 

「愛里寿隊長に怒られるわよ!」

 

愛里寿は今戦車の準備をしてここにはいない。

 

「アイツが何言ってるか分かりませんが、マズイようなら愛里寿がいないときだけでも・・・・ダメですか?」

 

その瞬間3人が輪になる。

 

「なにこの可愛さ?」

「さすが愛里寿隊長のお兄様ね」

「2年前は悔しさとかえげつなさが印象に残ってたけど・・・・これは」

 

「あのー・・・」

 

俺が声をかけると3人が振り向く。

 

「・・・・えっと、そうだ!2両対20両って無茶だと思わない!?」

 

メグミさんが俺に聞いてくる。

 

「まぁ、そうですね。でも・・・・・勝算は0じゃないので」

 

3人の雰囲気が変わったな。

 

「そう・・・・じゃあこっちも作戦会議するから」

 

アズミさんがそう言って3人とも離れて行く。

どうやら真面目にする気が起きたようで・・・・

 

 

アズミside

 

 

私達3人が戻ると他の隊員たちはダレていた。

 

「あ、おかえりー・・・どうしたの?随分真剣に見えるけど」

 

私たちの目が真剣な目になってるのを他の隊員が気づいてそれに指摘した。

 

「全員聞いて」

 

ルミが真剣になってるので他の隊員も大人しく聞く姿勢を示す。

こういうところはちゃんとするのね・・・

 

「私達から1つだけ・・・・決して油断はしないこと」

 

「は?愛里寿隊長が凄いのは知ってるけど・・・・例えば同じくらい秋人君が凄くてもいくらなんでも無茶でしょ」

 

そう無茶だ。本来なら・・・・・

 

「そうね。でも相手はその無茶を可能にしたことがある人間よ」

 

メグミがそう言うと隊員たちにも思い当たる節があったのか・・・

 

「もしかして2年前の?秋人君が有名になった切っ掛けになった・・・」

 

2年前。中学選抜対高校選抜の試合。

勝率がほぼ0に等しい状況で高校選抜が負けたのは当時ニュースにまでなった。

私達はあの時負けるわけないと思ったけど・・・

 

「でも今回はさすがに・・・・作戦も何もないんじゃ・・・・」

 

1人の隊員がそう言う。

いくら秋人君が戦略に長けててもこっちが数で押し込めば何もできないハズだと思ってる。それもしょうがないけど

 

「でも私達は戦車の乗った秋人君の実力は知らない・・・・・・けど、前に隊長が言っていたわ。『兄様は既に母様を超えている』と・・・・」

 

隊員たちに激震が走った。それも当然だ。

大学選抜強化チームの役員である島田流家元の指導はここにいる皆が受けたこともあるから実力も知っている。

 

「まさか・・・・・愛里寿隊長の身内びいきでは?」

 

「戦車道に関しては愛里寿隊長は一切贔屓しないわ」

 

私がそう断言する。なにより中隊長3人はさっきの秋人の目について思う。

 

「(あの目。全く負ける可能性を考えていなかった・・・・)」

 

「(絶対的な自信。家元と練習試合をしたときも感じたあの悪寒・・・・)」

 

「(少なくても本気でいかなきゃやられるわね・・・・・)」

 

私は言う。

 

「とにかく油断はしないこと。この状態で負けたら家元のメニューがさらに厳しくなるわよ」

 

地獄のメニューと聞いて隊員たちもやる気が出たのか。

本気で作戦会議を始めた。

 

 

アズミsideout

 

 

さて、勝率は0じゃないと言ったけど・・・・

相手は母さんの指導を受けたこともある強者なのは間違いない。

俺は用意された戦車の上で地図とにらめっこする。

 

「愛里寿は何かある?」

 

隣の戦車の上でボコ人形で遊んでる愛里寿に話しかける。

 

「なにも。兄様がいれば全て上手くいく」

 

愛里寿は本気でそう思ってるのかそのままボコ人形で遊ぶ。

 

「策は全部俺任せ?隊長はお前じゃないの?」

 

「兄様がいるなら1隊員として扱って。本当の凄さを私だけじゃなくて皆にも見せてほしい」

 

はぁ・・・・なら集中するか・・・

俺を思考をクリアにして考える。

この感覚。久しぶりだな・・・・

 

「愛里寿・・・・・俺に任せるなら俺の言うことを聞けよ」

 

「もちろん。久しぶりだなぁ・・・本当に久しぶり・・・戦車に乗ってる兄様。凄いカッコイイ」

 

愛里寿が何か言ってるが全て無視する。

作戦は・・・・・・ない。必要ない。愛里寿が俺の要求に答えられるだけの実力があるなら面倒な作戦はいらない。

 

「作戦出来た?」

 

「策なんて必要ない。お前がその場その場で俺の要求に答えられるなら・・・・・特別な作戦は必要ないと判断した。」

 

「うん。大丈夫だよ。どんな相手だって兄様がいれば・・・・」

 

そして試合が始まる。

 

 

アズミside

 

これはなに?私は目の前の光景が信じられなかった。

味方の戦車20両が秋人君と愛里寿隊長に蹂躙される。

 

「たった2両になにしてるの!」

 

味方の隊員が叫ぶがこれは・・・・・

 

「無理です!動きが不規則だし・・・・捉えられません!」

 

「それに打ったら仲間に当たってしまう恐れが・・・・」

 

そうだ。試合開始早々こっちに向かって2両とも全速前進してきた。

一気に蜂の巣にしてしまおうと思ったけど、こっちの攻撃は一切被弾しなかった。

20両だ。そんなのあり得ない。けど実現されてしまった。

こっちに来たら後は大混乱。下手に打つと仲間がやられるから中々打てないし打っても躱される。既に半分もやられた。

 

「全車後退!」

 

私は全車に後退の指示を出す。

まずは落ち着く必要があったから。

 

「逃がさない」

 

そんな声が後ろから聞こえた気がした。

まさか・・・・・そんな・・・・・。

 

 

アズミsideout

 

 

ちっ、間一髪で逃げられたか・・・

 

「残りは5両。どうするか・・・・」

 

しかし問題はない。

 

「兄様どうする?」

 

「あの中隊長3人の特徴は?」

 

「えっと・・・・バミューダアタックっていう三両一体の技があるよ」

 

なるほど、要は連携技か・・・

 

「じゃあそれ誘ってみるか」

 

「いいの?凄い息の合いようで結構面倒だよ」

 

「いいさ。見てみたいしな」

 

ここで待機してれば痺れを切らしてくるだろう。

少し経つと2両が突っ込んできた。

 

「痺れを切らしたのは他か・・・・愛里寿。1人で相手しろ」

 

「了解」

 

あれなら愛里寿1人で問題はないだろう。

俺は・・・・・

 

「後ろから来てるのはバレバレだ」

 

俺が振り向くと後ろから3両迫る。

 

「バレた!?」

 

「問題ないよ」

 

「私達のバミューダアタックは1人じゃ回避できない!」

 

良い動きだ。日々研鑽を積んでるのが分かる。

 

「なら1人で回避してみせよう」

 

俺は連携技を回避していく。

 

「なんで・・・・」

 

「当たらないの・・・・」

 

ある程度見たな。なら次はこっちから攻めようか。

 

「面白いものを見せてもらったよ」

 

そう言って俺は2両撃破する。

 

「メグミ!ルミ!」

 

2人を心配する声が聞こえる。

 

「兄様!」

 

どうやら愛里寿のほうも終わったみたいだな。

 

「・・・・・降参ですね。参りました」

 

アズミが白旗を上げる。

そして勝負がついた。

 

 

俺達は皆が集まってるところに集合する。

 

「全員揃ったな。では、兄様お願いします」

 

そうして俺は前に出る。

 

「まず判断が遅い。あと何だかんだで油断してたやついたろ。相手が誰であれ油断するな。それと相手は2両だけなんだからまともにやるわけないだろう。もっと疑え。頭を使ってくれ。質問は?」

 

手を挙げるのはメグミ。

 

「あの20両の砲撃の嵐をどう突破したんですか?」

 

「こっちに向ける砲身の角度、速度、タイミング、地形、距離、風向き、風速。そこら辺計算すれば避けれる」

 

「えっと・・・・・計算?」

 

「計算だ。瞬時に割り出すのは安全な場所。だからそこにいれば当たらない。数が多いからって適当に打つな。ちゃんと狙え」

 

「いやいや無理ですって!あの一瞬で計算!?」

 

「兄様なら簡単だ。頭の回転は誰にも負けない」

 

いや簡単じゃない。普通に頭痛くなる。

隊員たちの目がキラキラする。こいつら脳筋か?

 

「じゃあ次。私ルミの質問です。20両の中に突撃したのは相打ちを狙って?それともこっちが打てないことを狙って?」

 

「両方だ。どっちにしろあの状態で中に入ればこっちの勝ち確が決まったようなものだ。実際15両撃破したしな」

 

「じゃあ、あの中で被弾が4発なのは?」

 

「あの距離感なら見なくても敵味方全ての動きを把握できる。ぶっちゃけ見なくても当たらない。当たったのは当たったほうがよかったから当たっただけだ」

 

「それって・・・・」

 

「避けた先が危ないから。当たったほうがマシって話だ。ついでに計算では3発だが、俺の指示がミスって4発になった。ごめんな愛里寿」

 

「いえ、大丈夫です」

 

正直頭割れるくらい脳を行使しすぎた。

 

「他に質問がないなら打ち切るぞ」

 

どうやら無いみたいだ。

 

「じゃあ今日の練習は終わり・・・・らしい。お疲れさまでした。あとタメ口すみませんでした」

 

『お疲れさまでした!大丈夫です!』

 

心が広いなぁ・・・・

練習が終わって俺は片づけの手伝いをする。

 

「兄様。一緒に遊びたい」

 

「こら愛里寿。隊長でもちゃんと手伝いな」

 

練習が終わった愛里寿が俺にじゃれ付く。

じゃれ付かれるのは嬉しいけど他の隊員に示しが・・・・

 

「は~島田兄妹いいわ~」

「超癒される」

「隊長の甘えてる姿超可愛い~」

「秋人君の嬉しいけど困ったような顔もいい!」

「誰かー!写真写真!!」

 

大丈夫そうだな。うん。

恐らくこれからマスコット的扱いを受けるけど、多分嫌われることはないだろう。

 

「秋人君お疲れさま」

 

「ああ、アズミさん。今日はどうもでした」

 

「こっちは負けたけど良い経験にはなったわ。色々ありがとう」

 

「いえこちらこそ。また機会があればお願いしてもいいですか?基本戦車に乗れる機会ってあんまなくて・・・・」

 

「もちろん!うちのとこはみんな大歓迎よ」

 

「よかった。あ、これからも愛里寿のことよろしくお願いします」

 

「ええ、隊長はみんなに愛されてるし心配もいらないわ。それより・・・・」

 

アズミさんの顔が近づいてくる。

 

「ど、どうしたんですか・・・・?」

 

「いえ、戦車に乗ってる時は容赦ないのに・・・・降りたときと違うんだなぁって。うん!やっぱりいいわ!」

 

「ふがっ!」

 

アズミさんの胸に抱きしめられる。

 

「ねー・・・年齢的にそんなに離れてないしお姉さんとどう?「アズミ!!」た、隊長!?居たんですか!?」

 

「いた。兄様の腰を抱きしめてたの見えなかったの?視野が狭くなってるね。今から練習する?」

 

「い、いえ・・・・」

 

「練習したくないなら兄様を誘惑するな・・・・兄様は私と母様のだ」

 

「は、はい・・・・・」

 

アズミさんが俺から離れて行く。

ちょっと残念かも・・・・

あ、ルミさんとメグミさんに怒られてる。

 

「にいさまぁ帰ろう?家帰って遊びたい」

 

「あーでも片づけ終わってないし・・・・」

 

そうすると他の隊員さんたちが気にしないでいいとかやっておくからとか言ってくる。

恵まれてるなぁ・・・・

 

「じゃあお先失礼します。愛里寿も・・・・・ちゃんと礼いいなさい」

 

「うん・・・・・皆ありがと」

 

『愛里寿隊長がデレたー!!!!!』

 

なんというか・・・・いや迫害されるよりはいいよな。

そして家に帰り愛里寿と遊んだ。

夏休みはまだ始まったばかり。




戦車の試合なんてわからなーい

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