1話
プラフスキー粒子、それはガンプラの素材となっているプラスチックに反応する性質を持つ粒子
もう見つかって既に何十年以上も経っている為、ガンプラのみという枠組みは無くなっているらしく、そこらでは戦闘機や戦車、果ては全く別の作品のロボットに乗る者が出てきているくらいだ
そんな私は今でもガンプラを使っている。とはいえ、あまり良い出来とは言えない
他の人間ならもっとマシな機体を造ることも出来ただろう。何せ、ただのミキシングだ
一部パーツを除き、スミ入れ以外の塗装過程もすっ飛ばして、基本的にやったのはただ作って、バリ処理をしただけだ
その癖、武装だけはたんまり積み込んだ機体だ
ただ火力特化にしたつもりではないが、基本的に総合火力は高い機体になってしまっている
それらしい名前を付けてやるのは私の得意分野では無かったので、取り敢えず「ガンダムアンサインド」と名付けた
アンサインド、英語にすれば「Unsigned」と書く。要は無銘という
まぁ、それはさておきだ
試しにこれをガンプラバトルシミュレーターに持ち込み、勝ち抜き戦を試してみた
そしたらどうだ。私のアンサインドは、次々と勝ち抜いていった
来てみたゲームセンターでのランクが低かったのか、それともまぐれなのだろうか、滅多にガンプラバトルをすることはない私は、常連客を差し置いて店内ランキングトップにまで上り詰める程の連勝を重ねた
突然現れた新参者に戸惑うファイター達
私は浮かれてつい口走ってしまった
「何だ? お前達の実力はこんな物なのか」と
今思えば馬鹿馬鹿しいことをしてしまったととても反省している
喧嘩を売られた。そう思ったのか、それまで沈黙を守っていたファイターが私の前に現れた
私のモットーは『来る者拒まず』だ。当然、彼とのバトルに応じた
「言っておくが新参者、俺はこの店じゃトップのファイターだからな」
「そうか。なら思う存分戦えるな」
私はGPベースをシミュレータにセットし、アンサインドを置く
すると、ガンプラは独りでに動き始めた
『BATTLE START』
「ガンダムアンサインド、出るぞ」
◇
推奨BGM:QuickAttack/ガンダムビルドファイターズOST
カタパルトより射出されるアンサインド。フィールドに出ると、そこは砂漠だ
「地上戦か。……さて、奴は……」
アンサインドが地上に着陸した途端、散弾粒子ビームが襲ってきた
「散弾などでは!」
左腕に装備されていたと左肩部の可動型ブレードシールドで防御しつつ後退する
その余所で、アンサインドの上空を舞った機体が居た
「アレか……!」
━RX-121-1 ガンダムTR-1[ヘイズル]
UC.0084、ティターンズがMSの最新技術を評価する為にコンペイトウ工廠にて作製した実験機。ジム・クゥエルをベースにガンダムヘッドを搭載することで戦場に与える心理的影響、さらにはその存在自体が戦局に与える効果を検証した機体のミキシング機体
ベース機体が元々ジム故にジムの延長線上で作られているという話だが、それから未来の進化過程を見てしまえば最早ジムなどではなく、まさにガンダムという名を持った機体だ
◇
「どうだ、見たか! 俺のガンプラを! その名も━」
━RX-121-1 ガンダムTR-1 Custom2[ヘイズル・ノーヴァ]
HGで販売されているヘイズルは全部で3つ
大破して、ジム・クゥエルや本機の予備パーツなどを用いて回収した『ヘイズル改』
本来はただガンダムヘッドを付けただけのジム・クゥエルだったが、試作バックパック『トライブースター・ユニット』を搭載し、ヘイズルの予備パーツを使用した『ヘイズル2号機』
そして、この2号機をヘイズル改と同等の強化パーツへと換装し、さらにサブ・アーム・ユニットや別途テスト中だった装備を換装した『アドバンスド・ヘイズル』
この機体は、3機をミキシングした機体だ
ヘイズル改をベースに、肩や脚部の一部装甲をアドバンスド・ヘイズル、足裏の脚底部補助スラスター・ユニットと両腕部の攻防両用可能の強化型シールドブースターもアドバンスド・ヘイズルの物を装備。先程の散弾もこの強化型シールドブースターによる攻撃だ
バックパックは2号機のトライブースター・ユニットを装備。結果として、推進力に長けた機体となった
「おらおら、どうした! このスピードに着いてこれるか!?」
俺はあの赤いガンダムを相手にスピードで翻弄しながら、2丁のビームライフルを撃ち込んでいく
◇
「チッ……素早いな……、だがヤツの総合火力は低い。ならば、スラスターを1基でも潰せば!」
アンサインドは予測射撃で210mm対物ライフルを発砲。上手くやれば、威力とその衝撃でシールドブースターの一つは潰れる筈だ
「させるかよ!」
しかし、ヘイズル・ノーヴァはシールドブースターの推力を反転。バックブースター代わりに使用しそれまでの巡航速度にブレーキを掛け、弾丸を回避した
「何だと!?」
「言ったろ? 俺はこの店のトップファイターなんだよ!!」
ヘイズルは両手に持ったビームライフルをアンサインドに向けて撃つ
しかし、アンサインドはブレードシールドで防御するも破られる
「くっ……!」
ブレードシールドはガンダムアスタロトオリジンから流用した装備。本機体の大半がこの機体のパーツを使用している為、一部分にはナノラミネートアーマーが施されている。これはビームを拡散させる効果を持ちビームに対してはほぼ鉄壁の防御力を誇っている
しかし、これはエイハブ・リアクターが発するエイハブ粒子に反応する特殊な金属塗料をMSや戦艦の装甲表面に蒸着させた物であって、アンサインドにはエイハブ・リアクターを装備させていない
故にあまり防御し続けても、いずれは破られる物だ。現に今破られてしまった
「高機動機体が相手では、対物ライフルは効かんか……、ならば!」
デッドウェイトとなっていた対物ライフルをマウントしていたバックパックのアームユニットをパージ
ガンダムアスタロトに付属していたライフルを右腕に装備し、バックパックのもう一つのアームに装備させていたハイパーバズーカを肩に乗せる形で装備
そして、その状態で攻撃をしつつホバー移動を開始する
「射撃武器のオンパレードかよ。まぁ、俺も人の事言えねぇけどな」
お互い射撃主体の装備。懐に入ることも出来ず一定距離を保っている
(近接武器はある程度持ってはいるが、今使うべきか?)
アンサインドのライフルとハイパーバズーカの弾数も然程多くは無い
無駄撃ちするくらいなら、確実に当てていきたい所だ
「手の内を晒したくはないが、仕方あるまい……!」
アンサインドの腰部に装備されていたバインダーから2本のレイピアが自動的に動き、ヘイズルに向け接近していく
「まさか、『ファンネル』か!?」
━ファンネル
別名で『ビット』とも呼ばれるガンダムシリーズではもうお馴染みの装備で、四方八方から射撃をすることが可能。しかし、その代償として、近づけば自身に攻撃が当たることやパイロットに負担が掛かるなどの弊害もある
アンサインドに装備されたそれは、HG
サーベルの柄を2つ装備し、本来結合されていて取り出すことの出来ない予備のバーストサーベルを一つ一つ切り離すことで柄の交換を可能とした
更にその形状がファンネルっぽいという事で、ガンダム00に登場するソードビットの様な役割を持たせ、ビームの射出及びビームサーベルの使用を可能とした
「行け、サーベルビット!!」
2基のサーベルビットはヘイズルに向かって飛んでいく
最高の機動力を持つヘイズルだが、それを持ってしても振り切ることができない
「遠隔武器を使ってくるなんて、情けねぇな!?」
「私としても最後まで取っておくつもりだったのだがな、だがこれは勝負だ。どうなろうと結果が全てだ」
「チッ……テメェ、気に食わねぇな!!」
左腕のシールドブースターでサーベルビットを撃ち落とそうと散弾のメガ粒子砲を撃ち込む。しかし、ビットはその間を縫うように避け、シールドブースターに突き刺さる
「ハッ! 受け止めっちまえばこっちのもんだ!」
「それはどうかな?」
バーストサーベルの柄が刃を切り離し、離れていく
それと同時にシールドブースターに突き刺さったバーストサーベルが起爆した
「ッ!?」
爆発に巻き込まれたヘイズル。大きいダメージではなかったが、左腕部シールドブースターとビームライフルを失う。その隙にもう片方のシールドブースターにもサーベルが突き刺さり起爆しようとする
「まずい!」
先程の状況を見て理解したヘイズルは右腕側のシールドブースターをパージ。爆発に巻き込まれるのを防いだ
単独で空中に居るのが困難になったヘイズルは地上に降り立った。持ち武器は残りはビームライフルとビームサーベルが1つずつだ
対して、アンサインドはどうだ。機体に柄が戻り、新しい刃に取り換えると同時にその状態でマウントされる
「テメェ……遠征のつもりだろうが、何処のショップの野郎だ?」
「ただの新参者だが?」
「ジョークのつもりか? これだけの腕のヤツがショップの人間じゃねぇとは思えねぇな」
まぁ、アレだけ勝ち上がっているのだ。思われない方が不思議である
「天性の才能があるとするならば、あり得るだろう。だが、それでも私は初心者だ。それ以上でもそれ以下でもない。となれば、お前も結局はその程度の腕だという事だ」
「よく言うじゃねぇか。だったらば、そのよく喋る口にビームサーベルでも突っ込んでやるよ」
ヘイズル・ノーヴァはバックパックに搭載されていたビームサーベルを引き抜く
「来いよ、さっきのサーベルもう一辺出してみろ」
「……良いだろう、これで終わりだ」
アンサインドのバインダーより刃を接続し直したバーストサーベルが引き抜かれ、こちらに狙いを定め向かってくる
ヘイズルはスラスターを全開にし、迫るサーベルに突っ込んでいく
「馬鹿か、奴はッ……!」
アンサインドの使い手は思わず呟いた
ヘイズルに近づいていく2本のサーベル。恐らく右手に持ったビームサーベルで躱しながら突っ込む気だろう
アンサインドは右肩のジョイントに格納していたガンブレイド・ロングで牽制射撃を行う
しかし、ヘイズルはその射撃をいとも簡単に避けていく
「アレが奴の本気なのか……!?」
徐々に迫る白い機体。サーベルビットで防御をする
しかし、ヘイズルはビットの本体。つまり柄を切り裂き、そして爆散した
「あの状況でビットを正確に……!」
このままビットを使ってしまっては近接戦闘能力が無くなると判断したのか
アンサインドはサーベルビットを手元に戻し、刃をパージ。ヘイズルが迫るギリギリの所で、ビームサーベルを展開
お互いの光の刃が交わる
「ビームサーベルを……!?」
「この一本だけだがな……!」
ヘイズルはトライブースター・ユニットで押し出していく
(この状況ならば……!)
アンサインドは左腕に装備されたシールドを構えつつ、胸部のエアインテークと腰部風フロントアーマーに隠されたミサイルハッチが展開
「!?」
ヘイズルは何か殺気を感じたのか。トライブースターの一つ、プロペラントタンク内蔵のシュツルム・ブースターをパージ。脚部スラスターを利用して後退しようとする
その瞬間、煙幕が2機を包み込んだ
「ッ……!」
怯むヘイズル
その隙を見逃す事無くアンサインドは距離を詰め、シールドで殴りつけようとする
それを見たヘイズルは無意識に左手で受け止める
「貰った!!」
突如ヘイズルのその手が破裂する
「な……ッ!?」
一体何が起こったのか理解する間も無く、アンサインドはシールドを棄て、ビームサーベルをコクピットに突きたてた
◇
━パイルバンカーシールド
それがヘイズルの左腕が破裂した原因だった
炸薬などで、爆発的または瞬間的な勢いにより射出し、敵の装甲を打ち抜く近接戦闘装備
これをシールドに内蔵させた装備である
パイルバンカーは物にも寄るが、ガンダムバルバトスが使うメイスは、そもそも使い捨て装備故に杭その物も消耗品でタイミングを見計らって使用しなければならない
このパイルバンカーシールドの場合は使用後も杭は定位置に戻され、再使用が可能となっている
しかし、搭載されている炸薬もそう多くは無い
その為のシールド内蔵や、そのシールドで殴打することが可能となっている装備でもある
破壊されたヘイズルを持ち、見つめる使い手。そして、勝利し何事も無く帰ろうとするアンサインドの使い手
「待てよ」
「……何か言いたい事が?」
「勝ち逃げなんてさせねぇ」
「だが、君のその機体は既に使えないだろう? それでどうする」
その通り。ヘイズル・ノーヴァはコクピットを貫かれ、修復は完全に不可能な状態だ
そう、だからこそ、もっと強力な、アンサインドに勝てるだけの能力と機体が必要になる
「1週間後だ。1週間後にまた来い、その時はお前を叩き潰すだけの機体と能力を以て相手をしてやる」
1週間。それだけあれば機体も作れるし、練習する時間もある。今の彼は少しでも、新参者を打ち負かす為の力が必要だった
「いいだろう。楽しみにしていよう」
そう言い、名も知れぬ新参者は店を出た
店内最強という称号を持つヘイズル・ノーヴァとその使い手は、その悔しさのあまり手に持っていた愛機を強く握りしめてしまった
名前が無いと余計に表現が難しくてかなりズボラな感じになったかもしれないw
年内には全話投稿予定です