やはり俺がその罪の意味を知ろうとするのは間違っている。 作:さめのひと
―その光は、デスゲームの始まりを告げる合図だった。
空が真っ赤に染まり、GM専用のローブを纏ったオブジェクトが現れて、一方的な宣言を始める。
曰く、その言葉の発信主は茅場晶彦であるということ。
曰く、ログアウトできないこの状態こそが、本来の仕様であるということ。
曰く、この世界からの強制切断された場合、ナーヴギアが脳を焼き切り死亡するということ。
曰く、既に213人の人間が既に死亡していること。
曰く、ゲーム内で死亡した場合は現実世界で脳を焼き切られ、死亡するということ。
曰く、そういった状態から開放されるためにはSAOそのもののクリアが条件であるということ。
そして、プレゼントと称して全てのプレイヤーのアバターを現実世界と同一のものへと変化させたということ。
…最後のに関しては嫌がらせかよ。
いや、他の事のほうがよっぽど重大ではあるが。
そして茅場の演説が終わり、街は一気に混迷に満ち溢れた。
「…取るべき行動は一つだな」
そうひとりごちて、俺はアイテムと予備の武器を買えるだけ買い、レベル上げへ向かった。
なぜ俺がその思考に至ったかと言うと、この世界では推奨されていると言うほどでないにしろ、PKが可能だからである。
なので、レベリングは自分自身の身を守るためにも必須である。
実際俺もPKをベータのときにされたことはあるし…
そして、人の悪意は計り知れない。
どうせこんな異常事態だ。茅場に責任転嫁してPKに勤しむ輩は十中八九出てくるだろうしな。
安全圏に引きこもってようが、システムの粗を探してPKしたりする輩はおそらく出てくるだろうし、フィールドに出てるときであっても、MPKは警戒せざるを得ないからな。
そして何より
「…死にたくねぇよ。こんなところで死んでたまるかっ」
俺の本心はこれに尽きる。
いくら現実世界に愛想つかしながら辟易してたとは言えど、小町や戸塚と二度と会えないなんて…
俺は、それだけは絶対に嫌だった。
何よりも、”あの二人”がどうかは知らんが、少なくとも親父とお袋、それに小町と戸塚…ついでに材木座あたりは確実に俺のことを心配するだろう。
「こんなゲーム…あんまりだ」
そう一人呟いて、ベータのときの情報を活かし、また仕様変更を疑いつつ最速でレベリングをする決心をしたのだった。
…本来なら安全マージンをきちんととって、デスペナルティを貰わないように狩りをするのがセオリーだろう。
それも、一回死んだら終わりのデスゲームなら尚更だ。
だが、俺はそれを無視して同格の狩場へ突撃する。
俺が向かった先は
「効率なら、今の段階ならここに勝るところはどこにもねぇだろ」
第一層の迷宮区だった。
俺が迷宮区を選定した理由は4つある。
一つ目は、他のプレイヤーとの干渉、特にニュービーとの干渉を避けるためだ。
流石にベータテスターが狩場そのものを独占してニュービーが死にました、となれば批判は殺到するだろう。
だから、「俺は違うんだぞ」という証拠を予め積み上げることが目的だ。
そうすることで、PKの標的から幾分逃れることは可能だろう。
…完全には難しいだろうが。
二つ目は、第一層においては、若干の効率の良し悪しはあれど、穴場的な狩場があるわけでもなく、そのフィールドの難易度によって経験値効率が変わるからだ。
ベータのときの経験上、第三層以降であればそういったポイントもあるにはあるが、そうでない場合は行ける場合は兎に角敵のレベルが高いところへ向かうのが望ましい。
―ボス戦じゃねぇんだ。逃げようと思えればいつでも逃げれる。
それに、本来の難易度を鑑みれば、レベル5で迷宮区で狩りをするのは特段難しいことではなかった。
無論、ベータ時代の情報ありきなので、極端に難易度が上がってる場合は即撤退もやむ無しとは考えてはいるが。
三つ目は、この階層において俺の武器が得れるクエスト、そして今装備している以上の武器を得るのは不可能ということがある。
確か片手剣あたりなら武器の入手クエストがあったはずだが、俺の使ってる刃棍には存在しない。
強化するにしても、コルとレベルに余裕ができてから効率を上げる方向で問題ないという方針を早々に固められたのは、これまたベータテスターならではの強みだ。
そして四つ目。
これは二つ目の理由にも通ずるところだが、俺のレベルにおいてここ以上に効率が出せるポイントがない。
少なくとも情報がある程度出揃うまでは他の選択肢を考えられない、というのが俺を迷宮区へ駆り立てる一番の要因だ。
…折角腐ってない目を設定できてたんだし、情報収集はもうちょっとまともにやっておくべきだったと、今更後悔するが、それはもうどうにもならない。
俺は俺の身を守るために、今の俺のできる最大限の努力をする。
それ以外の道は、ないのだから。
オンゲ用語解説
【PK】
プレイヤーキル。プレイヤーがプレイヤーを殺害すること。
本来のゲームであればVIPに晒される程度で済むが、SAO内に於いては PK=現実世界でも死 につながるため、非常に悪質な行為。 ”ぴーけー” と呼ばれることが多い。
【MPK】
モンスターを用いてプレイヤーを殺害すること。
PKと違いモンスターを用いるため、格上相手でも殺せはするが、自身も死ぬリスクがある。
SAO内ではオレンジカーソルにならないという利点も併せ持つ。