【SAO×AB】相似形の世界   作:鬱蝉

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話数分けの都合上、ストーリーがぶつ切りになることがありますが、ご容赦ください。


四話 「形式化(パターナイズ)」

今だ!俺は素早く左方向に飛び退いた。

当の《フレンジーボア》は進行方向を変えることなく、突進を続ける。

しかし、その先に剣閃あり。

 

刹那、日向の《スモールソード》は《フレンジーボア》の鼻先から入り、奴の体の中央を真っ二つに断截し、頭から尻までを斬り抜いた。

 

《フレンジーボア》はHPバーを縮めながら俺らの間を突き抜けると、やがてその動きを止めた。同時にHPが尽き、《フレンジーボア》は青白いポリゴンの破片に帰す。

 

「はぁ~倒せた倒せた」

 

「まさか俺のところに突進が来るとは思わなかったね」

 

「おい音無てめぇ、俺を囮にする気満々でその提案をしたのか……?」

 

「おいおいおいおい日向君。俺ァ物覚えの良い方だぜ?しっかり聞いたぞ、『俺も同じことを言おうとしたところさ』ってな」

 

「ぐぅ……」

 

押し黙る日向。

 

「しかし何だったんだ日向。さっき、お前の剣が光ったのは」

 

「ん?知らないのか、あれは《ソードスキル》ってんだぜ?」

 

「初耳だな」

 

すると、日向は呆れたような表情で言った。

 

「おいおい冗談だろ。この《ソード・アート・オンライン》の真髄は《ソードスキル》にこそあるって言われてんのによぉ」

 

「生憎、情弱なんだ」

 

「本当に掛け値なしの情弱だな。良いか?《SAO》にはコンセプト上、一般のMMORPGじゃ定番の《魔法》と呼ばれる概念が存在しない」

 

へぇ――そうだったのか。

 

「その代わりにあるのが《ソードスキル》だ。そして今使ったのは片手直剣用単発横水平斬りスキル《スラント》だ」

 

slant――《傾斜させる》、《斜めに斬る》という意味の動詞。

 

成程、シンプルな割にかっこいいな。

 

「すごいじゃないか日向。そんなものを一体どこで覚えたんだ?」

 

「ああ、さっきはじまりの街周辺で狩りをしてたプレイヤーが使ってたのを見たから見様見真似で覚えたんだ」

 

ふうむ、阿呆の日向でも簡単に覚えられるんなら、余程簡単なものなんだろうな。その《ソードスキル》とやらは。

 

「ところで音無、一つ問題があるんだが」

 

唐突に日向が切り出した。

 

「何だ」

 

「今の《フレンジーボア》だが、二人掛かりでようやっと倒せた。それはいいんだ。だが、今後もそれだとマズい。違うか?」

 

「……ああ」

 

確かに。二人で倒せてもそれはコンビネーションという訳でもなく、あくまで物量による仕事の効率化でしかなく、ましてや個人技量という俎上においては全くの問題外なのだ。

 

このデスゲーム、いつぞ独りきりで戦わねばならぬ時が来るとも知れない。そういう状況下では物量戦の経験値など塵芥同然。

つまり俺らは《フレンジーボア》程度、独力で倒せるようになる必要がある訳だ。

 

「それに、これからの《フレンジーボア》狩りでのレベリングをするに当たって、いちいち二人で相手取るってのは効率がかなり悪い」

 

「ついでを言うなら、奴のプレイヤーロックオンは恐らくランダムだ。これだと俺らの間の経験値の偏差が大きくなってしまう可能性もあるからな」

 

いずれも避けるべき事実であろう。

 

「つまりさっきの回避と攻撃を独りでやらなきゃいけない訳だが」

 

「回避タイミングはさっきので大体掴めた。あとはソードスキルだが……そんなに難しくはなさそうだな」

 

「あぁ、俺はあの回避行動だな。実質俺らのレベルであの突進攻撃を食らったらどのくらいHPを持って行かれるか分からん」

 

「でも、はじまりの街でPotは買えるだけ買ったんだろ?」

 

Potーーつまりは回復ポーションのことである。

 

「それはそうなんだが。最悪、一撃も有り得るだろ?」

 

「あぁーー」

 

流石にこんな序盤フィールドで低レベルプレイヤーのHPを根こそぎかっさらって行くような鬼畜仕様にはなってはいまいと思うが、これはデスゲーム。一度の死が我が身を永遠に幽明を異にさせるのだ。慎重にならざるを得ないだろう。

 

「もうすぐだな」

 

日向の言うとおり、長く続いていた林が途切れ、その先は広大な平地となっていた。

西フィールドだ。

 

「夜間になると、《Mob凶暴化》と言ってMobの攻撃力と敏捷性が幾分か跳ね上がるようだ。暗くなり始めたら即刻街に帰るようにしようぜ」

 

「分かった」

 

俺は了解する。

そう話していると、西フィールドの一角で光がパッと散り、《フレンジーボア》がPopした。

 

「うわ出やがった!」

 

「日向、まずここは俺にやらせてくれ」

 

そう言って俺は前にでる。

《フレンジーボア》はアクティブなのか、そこそこの距離があったものの、俺を捕捉すると直ちに駆け出した。

 

「よし来た来た」

 

先の戦闘で回避タイミングは把握済み。俺は日向を真似て剣を横水平に構える。

脇目も振らず突進を仕掛けてくる《フレンジーボア》を闘牛士さながらにすれすれでひらりと躱し、剣を水平に薙いだ。

 

その初動動作をシステムが《スラント》の発動トリガーと認識し、剣が光を帯び出す。このまま奴の鼻っ柱に叩き込んでやる。《フレンジーボア》の体高は俺の腰ほどしかない。故に、俺の斬撃姿勢は野球のスイングのように構えた位置よりやや下を通過する下向きに凸の放物線を描くことになるのだが。

 

「ちょっ、うお、うわっ」

 

俺の意思に反して剣が勝手に動き出した。

斬撃線は構えた高さから微動だにすることなく振り抜かれ、燐光を撒き散らし、あっけなくも《フレンジーボア》の背を掠めるだけだった。無論、《フレンジーボア》は無傷である。

 

「おい何だよコレ!剣が勝手に動くとか聞いてないぞ!」

 

見当違いとは分かっていながらも、俺は日向に苦言を呈した。

 

「あれ、行ってなかったっけか?《ソードスキル》は一種の攻撃アシストなんだぜ?システムで定められた構えと初動動作を取った場合に自動的に剣を運んでくれるっていう仕様なんだ」

 

「はぁ?じゃあ何だ。俺は自分の思い通りに剣を振ることすら許されないのか?」

「物も言いようだなおい。まあそうなるが」

 

「アレンジも?」

 

「そもそも出来るもんじゃないだろ」

 

「嫌だぜ、折角の必殺技なのにシステムの言いなりだなんて」

 

「いや寧ろβテストじゃ、どんな物覚えの悪い奴でも簡単に必殺技が出せるからって人気だったらしいぜ、そのシステム」

 

「確かにお前みたいな阿呆には丁度いいかも知れないがなぁ……」

 

「お前さっきから何だよ!?俺に何か怨みでもあるのか!?」

 

日向が軽くキレた。俺はそれを適当に流す。しかし、厄介だな。このオートシステム。いっそマニュアルに切り替えられないのか?レースゲームのドリフトみたいに。

 

さっき簡単って言ったが、前言撤回だ。これは手を灼きそうだよ。

《フレンジーボア》は勢いを止めることなく、今度は日向に向けて突進を続けた。恐らく俺が突然視界から外れたことにより奴のシステム内では俺の存在が無かったことになり、暫定的な次のターゲットとして日向が選ばれたのだろう。

 

「まぁ見てろよ音無。俺が手本を見せてやるからひょぉんッ!」

 

——いーつもひーとりーであーるいてーた——

 

《フレンジーボア》の突進で日向が木の葉のように吹き飛ばされた。

 

気のせいだろうか。今、頭の中でその光景がスローモーションでプレイバックされた気がした。しかも変なBGM付きで。

 

しかし、大丈夫かアイツ?ついさっき自分で一撃も有り得るとかって言ってた癖に。これで死んだとしても向こうにはNPCしか居ないからな?

 

「おい、大丈夫か?日向」

 

「あー、生きてる、ギリギリで……」

 

日向にフォーカスして見ると、日向のHPは4分の1程が持ってかれていた。

 

「日向!早く立て!」

 

《フレンジーボア》は日向を照準したままだ。

 

「分かってるさ……」

 

日向は痛いのを堪えるようにして立ち上がった。

 

「くそ、ゲームなのにそこそこ痛ぇな」

 

悪態をつく日向。

 

「日向、回復は」

 

「まだ問題なさそうだ」

 

「分かった。日向、俺が口頭で回避タイミングを告げる。それに合わせて避けろ!」

 

「オーケイ」

 

即座に日向は了解した。

 

《フレンジーボア》はあたかも間合いを見定めるように日向と数瞬睨み合う。日向はその間に《スラント》の構えを取った。《フレンジーボア》が地面を蹴る。

 

日向に肉薄する猛猪。まだだ。まだ回避の刻じゃない。ビビって逃げるなよ。恐らくだが、これはビビって逃げてしまうとドツボに嵌まってしまうタイプの敵だ。奴は基本、ギリギリで回避するか、倒すかしない限り、目標をロストすることはない。中途半端に逃げ続ければ、犬に追いかけられる子供めいて延々の鬼ごっこが続く。そして奴は人間よりも足が速い。待つは、死のみ。

 

《フレンジーボア》が日向と数十センチ程の距離まで接近した。

 

「今だ!」

同時に日向が横っ飛び回避。同時に《スラント》発動。日向はきちんと振り初めの構えの高さを《フレンジーボア》の顔の高さに合わせており、あとはシステムが日向の《スモールソード》を導き、敵モンスターを絶命に至らしめた。ポリゴンの破片が散る。

 

「やったな、日向」

 

「ありがとよ、音無」

 

そう言って、近づいてきた日向とグータッチ。

 

「さて、俺もソードスキルに慣れなきゃな」

 

すると再びフィールドの一角でPopの光が立った。

 

「お出ましだ。次はお前の番だぞ、音無」

 

「あいよ」

 

俺は敵の現れた方角を見やり、俺は一歩進み出る。アクティブMobである《フレンジーボア》がこちらを一瞥し、近づいてきた。俺は《スラント》の構えを取る。

そして、突進開始。

 

肉薄する猛獣を危なげなく、しかしすんでのところで回避し、構えの高さは《フレンジーボア》の顔の高さ程。水平に薙ぐという初動。それらをシステムが感知し、剣が燐光を纏う。

 

——《スラント》ッ!

 

俺の剣はシステムアシストに導かれ、敵の鼻先から入り、尻に抜けた。

両断。

突進の制動距離をある程度進んだ《フレンジーボア》はHPバーを全て削られ、0と1に還る。

 

「やったぜ」

 

俺は喜びを口にする。

 

「やったじゃねぇか」

 

傍に寄ってきた日向も俺を賞賛した。

 

「ありがとよ」

 

俺も素直に答える。

 

「じゃあ、これからは個々人でレベリングをすることにしようか」

 

「そうだな」

 

「あと、分かってると思うが、回復Potは危うくなったらすぐ使えよ。出し渋んなよ?」

 

「分かってるよ、お前こそだろ?」

 

「これはまだ大丈夫の範疇だ。んじゃ暗くなるまで、散開!」

 

俺らは各々別のポイントに散ってレベリングを始めた。




話数分けの都合上、ストーリーがぶつ切りになることがありますが、ご容赦ください。

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