西暦2022年4月3日午前11時21分。
第一層迷宮区前には既にレイドメンバーの大半が集合していた。
「やぁ、《オトナシ》」
余裕を持って駆け付けた俺と日向だが、四人のパーティーメンバーは既に現着していた。
「皆、早いな」
「ああ、俺達は20分前から来ていた」
……俺達はどちらかといえば遅い方だったのか。
「んじゃ、早速だがパーティーを組もうぜ」
クラインが快活に宣言する。
「そうだな……ん、そういえばキリト。パーティーの掛け持ちって可能なのか?」
「いんや、不可能だ。パーティー、レイド、ギルドのいずれも複数に所属することはできない」
「そうか……じゃあ日向。一旦俺達のパーティーは解消するか」
「何だお前達、既にパーティー組んでたのか?」
「まあな」
「それじゃあ話は早い。俺達がお前達のパーティーに加わればいい話だ」
それは手間も省けて、願ってもない話だが。
「いいのか?」
「と言うと?」
「パーティーリーダーは日向だぞ」
「あぁ……それは問題だな」
「何の問題だよッ!?というかキリト、お前が俺の何を語る!?」
唐突に話に割り込んでくる日向。それを見て俺とキリトは笑った。このキリトというプレイヤー、既に日向の扱い方を理解していた。タメ口だけど。
そんな訳でリーダーの日向と四人の間でパーティー加入の手続きが行われ、俺の視界の端には《Kiritoさんがパーティーに参加しました》《Asunaさんがパーティーに参加しました》《Kleinさんがパーティーに参加しました》《Beatriceさんがパーティーに参加しました》という通知が立て続けに流れてくる。
「よし、これでOKだ。あ、一つ言っとくが、ドロップアイテムは話し合いの後、山分けだからな」
「当然じゃあないのか?」
キリトの発言に疑問をもった俺がその意を問うた。
「いや、ルーレットで決めるという手法もあるらしい。ま、禍根を残すようなやり方はしたくはないがな」
「同感だ」
と日向。ふぅん、そういうやり方もあるのか。
やることはやったし、特段他にすることもないので後は適当にストレージや自分のステータスを確認しながら刻限を待った。
午前10時30分。
時間ぴったりになって迷宮区の入口前から柏手を打つ音が聞こえた。ディアベルである。
「はいはい皆!全員集まったようだね。それじゃあ今から各パーティーをレイドに統合するからリーダーは俺の所に来てくれ!他のプレイヤーはちょっと待ってて!」
そう言われてディアベルの周囲にわらわらと集う八人のプレイヤー。驚くことにその中にはキバオウもいた。おいおい大丈夫かアイツ。昨日の体たらくで人頭が張れるのか。
暫く待機していると、視界の端に通知が。
《自分のパーティーがDiavelのレイドに参加しました》
メニュー画面を開くと新規にレイドという項目が追加されている。それを開くとレイドに参加している八パーティーが《○○のパーティー》という表記法で表示された。更に各パーティーをタップで開くとパーティーメンバーのレベルとHPが一覧で表示される(それ以上の情報は無い)。
試しに俺達のパーティーを開いてみる。日向のレベルは把握しているが、他の四人のレベルは未だに知らない。
キリトは14、アスナは13、クラインは8、ビーチェは9。クラインがマージンギリギリで、驚くべきことにキリトは俺達より3つもレベルが高かった。一体どこでどんなモンスターを狩れば、そうなるのか。
「皆!」
戻ってきた日向がパーティーメンバー全員に声をかける。
「ポーションの配布だ。基本、スイッチの際に後方支援組が回復をしてくれるからほとんど使う機会はないが、念のためだと」
そう言われて、俺は日向から回復ポーションを受け取る。まぁ、相応の量である。
「はい皆注目!」
一番前でディアベルが柏手を打ちながら声を上げた。
「事前準備が思いの外、早く終わったから予定を繰り上げてフロアボスの攻略に行こうと思う。異存はあるかな?」
無論、そのような者はいない。この雰囲気で異を唱えるような肝っ玉の強い奴はいないだろう。
「じゃあ昨日の会議で決められた隊列をとってくれ」
ディアベルの指示に従い、比較的低レベルのパーティーを高レベルのパーティーで前後を挟むよう、単縦に並ぶ。
俺達は最後列に配備され、右横のパーティーはキバオウのものだった。
副リーダー的立場として日向の右側に立っている俺に、俺の真横で仁王立ちしてふんぞり返っているキバオウが話し掛けてきた。
「おいアンタ」
「…………」
関わったら負けだ。
「おい聞こえとんのか」
「…………」
「お前のことを言っとんのじゃワレェッ!」
「あ、俺ですか」
「他に誰が居るっちゅうねん!」
全くその通り。流石に無視は不味かったか。
「それで、何の御用件で」
「アンタ、名前は何ちゅうんや」
「……《オトナシ》です」
「そうか、オトナシ。覚えとけや。この落とし前はいつか付けるからなッ」
「俺との落とし前を付けるより、βテスターとの蟠りを解くことを優先されては?」
「ぐっ……」
それっきり黙り込むキバオウ。ふと左脇腹を突っつかれ、その方を向く。
「大丈夫か……?相当恨み持たれてるようだが、後ろからブスリと刺されたりしないか?」
と、小声で心配してきたので、
「大丈夫だ、安心しろ」
そう言っておく。
それでも不安そうにしていたので、気紛らわしに軽いジョークを持ち掛ける。
「これはとある小説からの引用だが、日向。第二次世界大戦時の帝國陸軍では帝國海軍よりも上官の、部下へ向けた暴力や嫌がらせ、厳罰行為が少なかったという、何故だか分かるか?」
「………………」
日向は暫しの間、沈思黙考する。
「……いや、分からねぇ。で、答えは何なんだ?」
「部下から恨みを持たれてしまった上官はある日、戦場にて、背後から謎の銃撃を受けて死んでしまうらしい」
「怖ぇわッ!笑えねぇッ!」
とんだブラックジョークだった。
「よし!隊列は組めたね。早速迷宮区に入ろうと思うけど、その前に皆のレイド全体の士気を上げる意を込めて俺から一言言わせてほしい」
ディアベルは天高く拳を突き上げ、
「諸君!茅場の野郎に屈するなッ!何としてでもこのフロアボスを打ち倒し、はじまりの街で今尚恐懼する人々に希望を与えようッ!」
割れんばかりの声で叫ぶ。それが伝播したかのようにレイドメンバーの中からも鬨の声が上がった。
FGOに嵌ってしまった……