あと、UA1000超えましたね。嬉しみ。
西暦2022年4月2日。
命を賭けたデスゲーム《ソード・アート・オンライン》――通称、《SAO》に1万人というプレイヤーが幽閉されて早、一か月。
この合歓結弦――転生前の名は音無結弦、と日向(ひゅうが)秀樹――転生前の名は日向(ひなた)秀樹もこの1万人の中の二人である。
一早いこのゲームからの解放を望む俺達は前回のフィールドボス戦を自戒とし、攻略の一歩として無理のないレべリングを行っていた。
現時点での俺のレベルは11、日向は12だ。
そして、今日。全プレイヤーに対し、この階層式浮遊上アインクラッド攻略の栄えある1%目たる第一層迷宮区の攻略を実行するという通達が成された。
――翌日4月3日、トールバーナの街における第一層攻略会議。
来る運命の、4月3日。
トールバーナの広場の一角にある劇場めいた建造物内で催された攻略会議には想像よりは少ないが、なかなかの数のプレイヤーが集合していた。
勿論、俺と日向も参加している。集合した意識高いプレイヤーの多くは男性プレイヤーであった。むさ苦しいこと、この上ないだろう。さっき、偶然にも女性プレイヤーを見かけたが、この圧倒的男性占有率に居心地が悪そうにしていた。
そんな中、一人の青年が壇上に立ち、屯する烏合の衆の喧噪をどうどうと宥めていた。年齢は二十歳に近いと思われる。華のある爽やかなオーラを纏った好青年だ。周囲は年齢層の高さ故に、華が欠片も存在しないプレイヤー達ばかりなので、相対的に気品相まった存在感が際立っている。
「はいはい皆さん、お静かに~」
朗らか口調で尚も囃し立てるプレイヤーを宥める青年。一段と透き通った声に、会場が静寂を取り戻すのはそう遅くはなかった。彼が第一層攻略の陣頭指揮を執るのだろうか。若いのに大したものである。
劇場内は議事堂の議会席のように、演壇を階段状の観客席が末広がりに取り囲んでいた。
青年は集まったプレイヤー達を席に座らせるよう促す。皆が席に着いたのを確認すると青年は一言。
「皆、初めまして。俺は《ディアベル》。職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
よく分からないボケをかました。俺と、隣の日向は訳が分からず首を捻っていたが、会場のプレイヤー達には好評であちらこちらから笑いの声が立っていた。
「なぁに言ってんだよ!」
「このゲームにそんな職業はないぞ!」
好意的なツッコミも入る。しかし、先ほどツッコミを入れたプレイヤー達は彼のパーティーメンバーと見受けられる。成程、然れば彼らは会場を盛り上げるためのサクラ的な役割を担っているのか。
「オーケイオーケイ!ちょっとネタに走りすぎちゃったかな?じゃあ今から大事な話をするんで、悪いけどもう一回静かに頼むよ」
彼がそう言うと、会場にはまたもや静謐な空気が流れた。恐るべきリーダーシップだ。
「よし、ありがとう。まず最初の話をするね。予め言っておくけど、あくまでこれは追求しようとかじゃあなくて、少し疑問に思っただけなんだ。それを前提に聞いてくれ」
会場に厳かな雰囲気が立ち込めた。
「一週間前、俺達のパーティーが森フィールドの東にある洞穴――フィールドボスエリアに行ったんだ」
「!!」
「!!」
フィールドボス。その単語を聞いた瞬間、俺と日向は過敏に反応した。正確に言うならブフゥと吹き出しかけた。もし俺達がこの瞬間、口内に飲料を含んでいたら、間違いなく前に座っているプレイヤーの後頭部に向けて毒霧を散布することになっただろう。ざわざわと会場内がざわめき立つ。
「俺のパーティーがボスエリアまで遠征した際の平均レベルが3,4だ。少なくともそのプレイヤーは一週間以上前にボスを倒していたことになるのだから、それは速すぎるステータス成長といえるだろう」
俺と日向の額に冷や汗が浮く。
「いや、別に彼らの抜け駆けを糾弾しようという訳ではない。ただ、それほどステータスが高いパーティーが居るとすれば、今回の攻略において素晴らしい戦力となる」
おぉ……と会場がどよめいた。
「そのパーティーさん!どうか名乗り出てほしいんだ。今この場で挙手してくれるだけで構わない」
その言葉を皮切りにプレイヤー達が一斉に周りを見回しだした。
「おい、どうする日向」
「どうするって……?」
「だから、名乗り出るか名乗り出まいかってことだよ」
「馬鹿言え……!そんなんNoだ。圧倒的No。名乗りを上げた瞬間、吊るし上げだぞ。よく言うだろ……出る釘は打たれるって」
「出る杭は打たれる、な?しかし、秘め事を守り通すのも限界があるぜ。いつか必ず襤褸が出る。ってかレイド組むことになったら即バレだろ」
「げげっ、そりゃ確かに。いやでもよ。こんな衆人環視の中でよ、俺は厭だぜ」
そんな日向の心中を見透かしたようにディアベルが発言する。
「分かった!多分、そのパーティーさんもこんな大勢の中では名乗り出たくはないだろう。俺が悪かった!もし差し支えなければ、そのパーティーさん。この会議が終わった後ででもいいから、俺に自己申告の形で名乗りを上げてはもらえないかな。勿論、強制はしない!」
その発言によって、この件は一度留保となった。行動には出さないが、ほっと胸を撫で下ろす俺達。
「じゃあそろそろ本題に入ろうか。迷宮区の攻略について」
ディアベルの一声で、プレイヤー達の熱気も高まる。
「第一層迷宮区ボス部屋の最大定員は50人。よって俺たちはレイドを組んで戦うことになるけど」
レイドというのは、云わばパーティーを更に統合したチームのことだ。
「ちょっと待って。今、人数を数えるね。にぃ、しぃ、ろぉ、はぁ、じゅう、にぃ……」
ディアベルが二本指を立ててカウントをする。
「……しぃ、ろぉ、はぁ。オーケイ!どうやら四十八人のようだ。全員入れるようだね。じゃあ早速だが、レイド結成のために暫定的なパーティーを決める必要がある。実際のパーティー結成は明日現地で行うけど、顔合わせや親睦を深める意味合いも兼ねて一応この場で面子だけは決めておこうと思う。悪いけど、近くの人達で集まって六人パーティーを八組作ってくれ!」
ディアベルがそう言うと、プレイヤー達は元のパーティーや仲のいい奴らで集まって集団を形成し、そこから弾かれたもの同士が渋々集まってまた集団を形成する。そうやって恙無くパーティーの組は完成していったが、俺達はというと昼はずっとレべリングで狩り場に籠りきり、夜も早朝の早起きに備えて早寝。正直、他のプレイヤーとの交流など一切なく、ただただ余り者と組まされるのを待つばかりだった。
「おや、もしかして君たち余ってるのかい?」
ぼうっとしていると客席の方まで様子を見に来ていたディアベルに声を掛けられた。
「ええ、まぁ」
唐突なことだったのでボヤッとした返事しかできなかったが、ディアベルは
「そういうことなら来てくれ。向こうにも余ってる人達がいるんだ」
嫌な顔一つせず俺達を、その余り者の下へと導いた。