今日も酒保は賑やかです!   作:深海魚

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今回は三話に分けて話を書きます。
その際、毎回視点を変えるので読み辛かったらごめんなさい。

北上視点です。

少し修正しました。


双子が特訓する場合

 どうしてこうなっちゃったかなぁ…。私はもう何度目になるかわからないため息をもらした。

 私の両隣には駆逐艦が歩いており、後ろには店長がニヤニヤしながら3歩下がって着いてくる。キッチリ3歩というのがまた、ウザイ。

 私はもう一度ため息を吐いて、不本意ながら演習場へ向かうのだった。

 

 数時間前のことである。

 

 「あ~、ぬくいわぁ~~」

 

 「ゴーヤ、今日からここで暮らすでち……」

 

 この日、私は店長が一足先に炬燵を出したと姉から聞き、その恩恵に預かろうと彼の部屋に訪れていた。

 なお、伊58こと、ゴーヤは私が訪れた時には既に炬燵に潜っていた。ちなみに、彼女ら潜水艦、潜水空母は店長が資材のやりくりをするために、提督からその指揮を任されているため、ここ酒保棟に住んでいる。

 

 「んだよ、久々に顔見せに来たと思ったら炬燵かよ。多摩じゃあるめえし。」

 

 とりあえず、悪態を付く店長。まあ、いつものことである。

 

 「その多摩から聞いてやってきたんですぅ~。」

 

 「でち~~」

 

 私の返事を聞きつつ、店長も炬燵に入ってミカンを剥き始める。そんな感じで、私たちがぬくぬくしていると、扉が音を立てて勢いよく開いた。

 この扉さえ開かなければ、私は余計な面倒を背負い込まずにすんだのに…。

 

 「「店長はいるだろうか?」」

 

 扉を開いたのは長月と菊月の睦月型、9月コンビだった。二人は店長を探していたようだ。

 

 「「寒い、閉めろ(でち)」」

 

 「「す、すまない……」」

 

 とりあえず、扉を閉めさせた。寒いのはイケナイ、温度が逃げるのダメ、絶対。

 

 「それで、お前らは何しに来たの?特注か?」

 

 「いや、違う。あぁ、でもついでに後でお菓子の注文を受けてくれ。」

 

 店長の質問に答えたのは菊月であった。長月がそれに続ける。

 

 「んんっ。実はだな、最近姉の水無月が遅れて着任した自分は皆より弱いからもっと強くなりたいと言っていてな。」

 

 「なあ、水無月って確か、既にあいつらより練度高くなかったか?」

 

 長月の話を聞いた店長が私にこっそり耳打ちしてくる。私は、大井っちから聞いた前線志望の新人駆逐娘達の練度を思い出す。

 

 「たしか…30くらいだったと思うよー?ちなみにあの子たちは遠征志望だったから20くらいね。」

 

 水無月と目の前にいる二人の練度を店長に伝える。店長はしばらく思案顔でいたが、まっいいかと呟いてから二人と私を一瞥して言った。

 

 「よし、北上はきょうだ…提督にどこでもいいから演習場の許可を貰ってこい。俺の名前を使ってもいい。それと大井と龍驤を手が空いてるようなら呼んできてくれ。それと終わったらここにいる面子を迎えに来い。」

 

 どうやら、二人の話を受けるようだ。しかも私も参加するようで雑務を全て押し付けられた。

 

 「えぇ……、ダルい。」

 

 「……間宮羊羹3つ。」

 

 「酒保の新作スイーツも添えてね。」

 

 よーし!訓練頑張るぞ~!

 

 「大変でちね~」

 

 他人事のゴーヤ、だけど私は知っている。この艦娘(社畜)が楽をできたことなど一度も無いということを。

 

 「ゴーヤはバシーとオリョールで今回使う資材の調達を頼む。無論、拒否権は無い。」

 

 「でち!?」

 

 どんまいゴーヤ(笑)。さて、じゃあ私は提督室に行くかな。

 私は二人に詳しい訓練内容を説明し始める店長とまだでちでち言ってるゴーヤを置いて、酒保を後にした。

 

 

 

 「提督~痛っ!?」

 

 私が提督室の扉を開いた瞬間、何かが私の額を打った。

 

 「いつもノックをしろと言っているクマー!」

 

 「やあ、北上さん。何か用かい?」

 

 どうやら姉の球磨がペンを投げたようだ。提督は動じることなく、作業をしながら用件を聞いてきた。

 ちなみに、この鎮守府では秘書官は固定ではなくローテーションで行う。なお、艦娘側は秘書官を辞することができるが提督側に拒否権はない。

 とりあえず提督に店長からの依頼を簡潔に伝える。

 

 「店長が特訓するからどっか適当に演習場を貸してくれってさ」

 

 「また、えらい急だね。球磨、今どこか空いてる演習場はあるかい?」

 

 球磨が演習予約と書かれたノートを手に取り、確認する。

 

 「クマ~、今だと第七が空いてるクマ。ただあそこは入渠施設から一番遠いけど、大丈夫かクマ?」

 

 「ん~、たぶん大丈夫かな。お風呂は店長のを使えばいいし。」

 

 「それじゃあ、第七を使ってもらおうか。ここに詳しい人数とかを記入お願いね。」 

 

 「ほーい。」

 

 必須事項をノートに記入し、提督に渡すと提督が目を通し、何かを付け加えたあと、判子を押してくれる。

 

 「はい、手続き完了っと。ついでにバケツ2個と実弾使用の許可も出しといたよ。どうせ、義兄さんの訓練なら実弾使うでしょ?」

 

 「話がわかるねぇ~、ついでに大井っちと龍驤さんの呼び出しもやってくれるとありがたいんだけど……」

 

 そう言って私は球磨のほうをチラッと見る。あまり言い過ぎると、今度は姉の拳が飛ぶ可能性がある。 

 

 「チッ、仕方ねえクマ。」

 

 ギリギリセーフなのようだ。とりあえずやることやったので酒保に戻ることにする。

 

 

 

 「え、なにこれどうしたの?」

 

 酒保に戻ると、長月と菊月が白くなって燃え尽きていた。視界の隅ではゴーヤも同様に燃え尽きているがコレに関しては割愛する。

 とりあえず私はこの惨状を引き起こしたであろう犯人に事情を聞いた。

 

 「訓練内容とそれにともなって消費する資材を説明しただけだ。」

 

 「あぁ、なるほど……」

 

 この二人はこの人の特訓を受けるのが今回初めてなのだろう。私や大井っちも初めてのときは、あまりの内容にこうなった経験があった。

 

 「ちなみに、内容を聞いても?」

 

 「あぁ、構わん。お前にはかなり働いてもらうからな」

 新作スイーツの試食以外にも頼むべきだっただろうか?

 

 「んで、内容だがまずは菊月からだな。菊月は大井、龍驤から限界より少し上の攻撃を3分間受けてもらう。それを避けきるか避けつつ反撃できれば合格だ。合格したらさらに厳しい攻撃を受けてもらうがな。もちろん不合格ならやり直しだ。」

 

 聞いた瞬間、菊月が肩を震わす。無理もない、特訓という名前でなければ私刑といっても差し支えない内容である。

 

 「そして、長月にはお前とガチのタイマンを張ってもらう。」

 

 「……どこまでOK?」

 

 駆逐艦が相手である。流石に制限があるはずと思い、恐る恐る聞いてみる。

 

 「どこまでもだ」

 

 淡々と答える店長。双子は涙目になり互いに抱きあって震え……泣きだした。

 さすがに本格的に泣かれると困るので私は双子の前でしゃがみ目線を合わせる。

 

 「「…?」」

 

 双子は一瞬泣き止んだが、また泣き出しそうだ。

 

 「ねぇ、辞めちゃいなよ。辛いと思うよ?」

 

 なるべく優しい声音になるよう努めて、声をかける。フルフルと双子は一緒に首を振る。

 

 「泣くほど恐ろしいんでしょ?震えちゃうほど恐ろしいんでしょ?」

 

 さっきより少し早口でもう一度語りかける。

 

 「…泣いてない!!」

 

 「…ふ、震えてない!」

 

 こちらを睨み、声を上げる長月と菊月、先に声を出せる長月はやっぱり姉なのだろう。

 

 「じゃあさ」

 

 ここで一旦区切る。今度は二人の目をしっかりと睨み付け、息をしっかりと吸う。

 

 「立てよ。」

 

 低く、鋭く言い放つ。

 

 「「ッ!!」」

 

 双子は勢いよく立ち上がる。その瞳はまだ不安に揺れている。だから……

 

 「お前たちはなんだっ!!」

 

 問う。この問いは彼女等がこの鎮守府で一番始めに聞かれる問いである。

 

 「私たちは敵を駆逐する矛でありますっ!!」

 

 長月が答える。

 

 「私たちは国を守る盾でありますっ!!」

 

 続いて菊月が答える。

 

 「それだけかっ!!」

 

 さらに問う。

 

 「「私たちは誇りある睦月型駆逐艦、長月(菊月)でありますっ!!」」

 

 「よろしい、これより訓練を開始する!」

 

 「「ハイ!!」」

 

 涙も震えも止まった。瞳は真っ直ぐ前を向き、先程の弱々しさは微塵も残っていない。私はそのまま部屋を出る。その後ろを双子と1人は追いかける。そして、今の自分を振り返り、柄じゃない…とため息を1つ。

 

 「あぁ、駆逐艦ウザイ」

 

 聞こえないよう一言だけ呟き。演習場へ向かった。




事後報告になり申し訳ありません。
現在、作者は実習中です。
そのため、亀更新がさらに遅れ、ナメクジ更新となります。
読者の皆さんにはご迷惑をお掛け致します。
重ね重ね、大変申し訳ありませんでした。

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