この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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アルマちゃんは人類至上主義


この神様に農民の力を!

初クエストに向かったお兄ちゃん……カズマを遠くから見送り、私もクエストをギルドで受けてきた。

 

農場で草刈である。

 

……なんだよ、文句あるかい?

 

受付のお姉さん、ルナさんというらしい彼女の善意によって私はソロでのモンスター討伐クエストを受けることができない。よって、こういったお手伝い系の仕事しか回してもらえないのだ。

 

農場はアクセルの街の外にある、かなりの規模の広大な農地だった。畑で野菜を育て羊を放牧しており農家の住まいを中心の柵がぐるっと囲っている。その広さは……向こうが霞んで見えないなー。

 

ただの草刈と笑ったやつ。今すぐ来てみろ。そして手伝え。足腰が愉快に笑い出すことになるぞ? この世界に農耕機械などない。全て手作業か家畜が動力の農具を用いている。で、草刈なんてものは草刈鎌を装備しての手作業だぞ?

 

「アルマちゃんは手際がいいね」

 

「息子さんの教えがいいからですよー」

 

この農場の息子さんである。歳は三十五歳。熊のように大きく、うさぎのように臆病な人。そう感じさせる雰囲気の男だ。今もリスのように縮こまって足元の草を刈っている。独身。奥さんは………そんな酷いこと私には言えない。

 

この農家はおじいさん、おばあさん、息子さんの三人で経営しているようで。冒険者ギルドに草刈のような簡単なクエストが届けられているのも単純に人手不足なため。

 

私が刈っている場所だって羊の放牧場の手入れだ。

 

「ゴメンねアルマちゃん。うちに働き手がもう少しいればねぇ」

 

「いえいえ」

 

「お前が嫁さんでもこさえてくれてればアルマちゃんも楽できてたんよ」

 

「か、母さん!?」

 

農場のご主人の奥さんであるおばあさんだ。私たち三人で羊の世話をしながら草刈作業を行なっている。

 

ややこしいので私はおばあちゃんと呼んでいます。

 

というか、私達三人がこっちで作業していていいのかな? これじゃぁ向こうの畑はおじいさんだけになってしまうのでは……?

 

そう思い、柵の向こうにある畑を見やると、

 

「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほい!!!!」

 

鍬を高速で振るって畑を耕すおじいさんが………見なかったことにしよう。

 

残像が見えるほどの高速耕しなんてなかった。うん。

 

それにしても、私は何時になったらモンスターの討伐を行えるのだろうか? ソロではダメだと言われているのならどこかのパーティーに混ぜてもらえばいいのだが、そう頼んでみると皆が断るのだ。

 

まだアルマちゃんには危ないよ、と。

 

見た目の幼さ故か、どうにも子供扱いされているような気がする。事実、子供の姿なのでしょうがないのだがこれでは調査にならない。しかし、人が定めたルールなのだとすれば従う他なく、私が破れば周りに迷惑にもなる。

 

ここは一つ、何かしらの実績を作るしかなのだろうか? モンスターの討伐を任せてもらえるような実力を残せば周りも心配はしないだろう。

 

しかし、どうするか。

 

別に一人で街の外に出て適当なモンスターを仕留めてくればいいだけのことなのだが、それだと門番への言い訳を考えなくてはならなくなる。馬鹿正直にモンスターを倒しに行きたいんです、などと言えば通せんぼ、詰みだ。

 

ならば虚偽を用いて騙すか? いやいや、私は『理』を定める神だぞ? 私が嘘を許せばそれは罪ではないということだ。そんな『理』に合わぬことはできない。

 

「……じゃぁどうしようかな?」

 

「何がだい?」

 

おっと。

 

「この刈った草をどうすればいいのかな、と」

 

「あぁ、纏めて燃やして灰にするから一端籠に移して運ぼうか。倉庫に行って取ってくるよ」

 

「あ、なら私も行きます」

 

息子さんと倉庫へと向かう。農具が詰まったそこは薄暗く足元も見辛い。内部を勝手知ったる息子さんが先導し、竹製で出来た籠は直ぐに見つかったのだが。

 

倉庫の片隅に、油がたっぷりと染み込まれた布でグルグル巻きにされた長物が無造作に置かれているのを見つけた。長さにして約三メートル。アルマ二人分よりも長かった。

 

「なんですかこれ?」

 

それがなんとなく気になり、ひょいと持ち上げる。

 

「あ、アルマちゃん。その辺に布に巻かれてる長いのあるから気を付けて。重いから足に躓くと危ない……し?」

 

「え? …………………………」

 

「え? …………………………」

 

布に巻かれた長いソレを片手で持ち上げるアルマと、それを見て固まる農家の息子。

 

互いに瞬き一回。そっとアルマはそれを地面に置く。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「今持ち上げてなかった!?」

 

「目の錯覚です」

 

「それ大人が四人がかりで運ぶやつなんだよ!?」

 

「へー、なんなんですこれ?」

 

ひょい!

 

「もう完全に持ち上げてるよね!?」

 

「あ、……今の無しで」

 

「うん、もうそれでいいよ」

 

自分のステータスを忘れてやっちまったと後悔するアルマ。これが冒険者か、と幼くとも常人を遥かに超える怪力に唖然とする農家の息子。

 

しかしアルマは一つ勘違いしていた。

 

「(私みたいな低いステータスでも持てるのに農家の方は大人四人がかりじゃないと持てないなんて……やはりモンスターの驚異は冒険者が頑張って防がないとッ!)」

 

自分のステータスは一般的な駆け出し冒険者程度しかないのだと思っていた。

 

「それは作物の豊作を願って、近隣の農家たちが金を出しあって作った御神刀だよ」

 

「これ武器なんですか!?」

 

「違うよ? 神様にお祈りする御神体みたいなものだよ」

 

なるほど。まぁ人の子が使うには大きすぎるしな。いや、待って。それでも大きすぎないかい? 

 

「カエル退治に使えないかと、皆が張り切っちゃったんだよ。畑から出土した鉱石とか沢山持ち寄って」

 

「……皆さん農家ですよね?」

 

「農家だよ?」

 

………んん? 

 

「あ、そうだ。アルマちゃん、スキルアップポーションあげようか? 御中元で沢山貰ったんだけど、うちじゃ使わないからねぇ」

 

「農家ですよね!?」

 

「だから農家だよ?」

 

スキルアップポーションとは、その名の通り冒険者のスキルポイントを増やす魔法の飲料である。どんなルートで農家が手に入れるんですか!?

 

「農家を継がなかった次男坊や三男坊が冒険者になってね。それで偶に送ってくるんだけど、誰も飲まないから山になっちゃっててね」

 

「その方たちはなんで自分で飲まないんですか?」

 

冒険者にとってスキルポイントは貴重だ。なにせ、レベルを上げなくては手に入らず、一レベル上げるだけでも大変だからだ。それこそ、高火力の魔法持ちがパーティーにいて、経験値の詰まったレアモンスターを大量に纏めて倒すくらいしないと短時間でレベルが上がることなどまずない。そんなの、駆け出しの冒険者にできることではない。

 

ならば、貴重なスキルアップポーションなど手に入ればすぐに飲んでしまうのでは?

 

「あいつら皆、家を出てもなんやかんや心配なんだよ。だから欲しがる奴の多いレアなアイテムとかを送ってきて、いざって時の財産にしてほしいんだろう」

 

「確かにここまで集めれば……売ればひと財産になるでしょうけど……」

 

なのになぜ売らなかったのか? しかも何故自分に渡すのか? その辺の事情がよく分からない。

 

「あー……結局、俺達は農家だからなぁ。自分たちじゃ使わないし、よっぽど不作の時じゃないと売るつもりも起きないんだ。家族が俺たちの為に送ってくれたもんだしな」

 

「だったら、私が貰うわけにはいかないじゃないですか」

 

「何言ってるんだい。アルマちゃんは『冒険者』だろ?」

 

つまり、農家の自分たちは使わないから冒険者の私に使えと? それは駄目じゃないだろうか? 

 

「それにな……何か理由を付けて使っちまわないと、親父たちが送られてきたアイテムで『何か』を作っちまうんだよ……そこの『超神刀・豊穣丸』とか」

 

「アレってそんな名前だったんですか!? ていうか、なにで作ったの!?」

 

「わからん。なんたらタイトとかミスなんちゃらとか……よく知らんし」

 

農家怖っ! これひょっとしてもう神器なんじゃないかな!?

 

ハンドメイドは農家の嗜みだということを私は知った。……この世界の農家って一体……?

 

その後、籠を背負って放牧場に戻った私達は刈った草をせっせとそれに詰めていった。

 

「うーん、モンスターの討伐したいなぁ……」

 

「おいおい、アルマちゃんにはまだ早いんじゃないかなぁ?」

 

ギルドでモンスター討伐のクエストを受けさせて貰えない不満を呟いていると息子さんがそう答える。

 

「何を言っているんですか? モンスターは人類にとって即・殺! な存在なんですよ! いわばゴキブリの仲間のようなものです! 見つけたら殺して殺して殺し尽くさないといけません!!」

 

「そこまで言う!?」

 

「当たり前です! 特にアンデットはいけません!! 人であることを捨てて生命の『理』を踏み外すような弱虫は害虫なのです!! 駆除するのがこの世のため宇宙のためです!!」

 

「お、おおう」

 

なので、この近くでモンスターを狩れそうな場所がないかをおばあさんや息子さんに聞いてみた。

 

すると、

 

「「ここ」」

 

「はい?」

 

なんとあっさり解決しちゃいました。

 

それからオヤツ時間を挟んだ後のことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

 

老婆の声が辺りに響く。

 

小さな身体の両手に構えられた草刈鎌を振り乱し、宙を舞って血飛沫をあげる。

 

「家畜と子供を狙う害獣がぁああああああああああああああ!! 死にゃらせェェェっ!!!」

 

その影から飛び出す老人が持つのは畑を耕す鍬だ。干からびた細い体のどこにそんな力が? と疑いたくなるほどの跳躍を見せて獲物の背に飛び乗りその肉を耕していく。

 

そして息子は。

 

「オラぁっ!」

 

大きなシャベルで普通に切り掛って、普通に走って、普通に頑張っていた。

 

 

相手はジャイアントトード。巨大なカエルである。

 

 

しかし唯の巨大なカエルと思うなかれ。その大きさ、約三メートル超。長い舌で獲物を捕食し、その被害は農家の家畜や小さな子供にまで及ぶ。

 

そう、アルマが働くこのような農家にとっての天敵、害獣なのだ。だからこそ、退治するためにギルドへクエストの依頼が貼られていたりするのだ。危険なので。

 

しかし、危険とはどこまでのレベルのことを言うのだろうか?

 

ジャイアントトードは確かに危険なモンスターだ。大きいし跳ねるし下も遠くまで伸びる。その上肉体が軟らかく、衝撃に強い物理耐性持ちだ。倒すには斬撃か魔法しか通用しない。だが弱点もある。奴らは金属を嫌う。故に、金属製の鎧や装飾品を身に付けておけば捕食されにくくなる。

 

そういう特性や弱点に気をつければ駆け出しの冒険者でもなんとか倒せる、というのがジャイアントトードのクエスト攻略法だ。

 

アルマはそこまで調査したところある疑問を浮かべた。

 

 

冒険者と一般人の違いとは何か? 

 

 

単純な話、冒険者とはギルドカードを作った一般人だ。スキルを習得できる恩恵を除けば、自分のステータスを数値化してみることができるという違いしかない。

 

つまり、一般人だってステータスは成長しているのだ。目に見えていないだけで。ここはそういう世界なのだから。

 

生き物を殺し食事をすれば経験値が手に入る世界。それは誰でもスキルを覚えられないがステータスは伸ばせられるということ。

 

駆け出し冒険者のステータスが総じて低いのはこの為だと思う。

 

冒険者になるまでの間に伸ばしたステータス……つまりどれだけ殺し、どれだけ経験値の詰まったモノを食べてきたか、だ。

 

冒険者になる者は若者が多い。十代がほとんどだ。で、彼らは冒険者になって初めて殺し、初めて食事の意味を考える。鍛錬だって必要だ。

 

一般的に、貴族や王族は軒並みステータスが高いと評判なのも当然だ。彼らの食事は全ての意味で豪勢なのだ。味も食材の値段も経験値もだ。身体を育てる環境がそもそも違うのだ。

 

しかし逆を言えば、一般人でも経験値を多く取りながら鍛錬すれば冒険者並みに強くなれるのだ。

 

それが目の前の光景である。

 

「シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほい!!!」

 

「やぁ! とぉ!」

 

ジャイアントトードを狩りまくる老夫婦とその息子。

 

老夫婦は長年の農作業によって身体が鍛えられ、殺した家畜と自ら育てた質の良い野菜の経験値を多く得ている。冒険者で言えば駆け出しなど足元にも及ばないのではないだろうか?

 

息子はまぁ、……まだまだ未熟ということなのだろう。

 

老体なのにこの強さの謎? 逆に考えるのだ。衰えてなお、この強さなのだと。

 

そしてもう一つ納得のいくことがある。

 

ジャイアントトードのクエスト報酬である。

 

安すぎるのだ。命の危険もあるというのに、最低ノルマでも城壁工事に日当レベルである。これでは冒険者など割に合わないと夢を諦めるものも多いだろう。

 

何故か? 農家でも出来ることだからだ。クエストに依頼されているのは数が多過ぎるだけのこと。農家は基本、畑を守るためには自衛をし、手に負えないときだけ助けを求める。

 

だって、お金がかかるんだもの。自力で倒せるならそんな無駄な経費、農家は払いたくはない。

 

日本でだって思い出して欲しい。畑を荒らすイノシシやシカをわざわざ高い金を払って討伐してもらうだろうか? いいや、ない。自分で罠を張って仕留める。もしくは猟銃でスドン! である。熊でも出れば別だが、この世界ではそれは一撃熊がそうなのだろう。

 

しかも仕留めたカエル肉は美味いから高く売れる。これを逃すなど以ての外だ。余れば自分たちの晩ご飯でもあるので経験値も入る。

 

ギルドを通さない、農家にとってそれだけで一石二鳥にも三鳥にもなるのだ。

 

 

そんなことを頭の中で纏めつつあったアルマは……その考えの全てが吹っ飛んでいた。

 

「死ぃねぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

目の前のカエルを殺すのに夢中で。

 

「人の子を喰らい! 人を泣かせ! 人の暮らしを苦しめる魔物がぁっ!! 死ね! 死ね! 死にさらせぇええええええええええええええ!!!!」

 

その手に持つは倉庫から引っ張り出してきた超神刀・豊穣丸。油布を剥がしてみれば持ち手一メートル、刀身が二メートルの巨大な両刃剣だった。

 

日本人ならこう呼ぶだろう。それって斬馬刀じゃね? と。

 

馬に騎乗した武士同士の戦いで、相手を馬ごと叩き斬ってやるという考えから生まれた刀。あまりにでかく、馬鹿げたソレは重すぎて使える者など本当に居たのかというほどで。

 

そんなものを軽々と振るう神様少女アルマちゃん。

 

息子さん、ドン引きである。いろんな意味で。

 

「……えぇ?」

 

ひと振りすればカエルが上半分を切り飛ばされ。投擲すればカエルの腹を貫通して何匹か纏めて屠る。その姿、悪鬼羅刹のごとくなり。

 

アルマも頑張った。本当に我慢したのだ。しかし、無理だった。

 

人食いのモンスター。そんな存在、人類を愛し、人類を守ると公言している『理』の神アルマにとって怨敵でしかない。

 

ソレは突然だった。

 

地面からカエルがボコッと現れた。その直ぐに伸ばされた舌がアルマを捕らえて飲み込み、身に付けていた金属製の篭手を嫌ってすぐに吐き出した。

 

吐き出されたアルマは倉庫まで飛ばされて中でキレた。豊穣丸を掴み、カエルの元まで走って切りかかった。

 

それを見たおばあさんが、

 

「その意気じゃぁアルマちゃーーん!!」

 

とウキウキと鎌を光らせてカエルに向かい、その騒動に気づいたおじいさんが顔を真っ赤にさせて鍬を振り上げながら畑から走ってきたのだ。

 

「わしの牧場を荒らすカエルは、どこじゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

息子はその光景を見て慌てて武器になりそうな農具を取りに走った。倉庫へ。それで見つけたのがシャベルである。

 

おばあさんが伸びた舌をサイドステップで躱し、切捨てる。その痛みで怯んだジャイアントトードをおじいさんが後ろから鍬で仕留め、アルマはコマのように回りながら巨大な両刃剣でカエルの群れを切裂いていた。

 

群れである。

 

一匹だけかと思えば地中から出るわ出るわ。五匹までは数えた。そこから先は覚えていない。

 

気が付けば周りにはジャイアントトードだった肉が山のように積まれ、息子はシャベルでカエルが出てきた地面の穴を塞いでいた。

 

今夜はご馳走である。

 

 

 

 

 

夕暮れのアクセルの街。冒険者ギルドへと向かう道の途中。

 

そこにはジャイアントトードの粘液でまみれた女神アクアと、疲労困憊の少年カズマの姿があった。

 

「ひっ……ぐすっ……うえぇえええええええん……」

 

「つ、使えねぇ…この駄女神ほんとに使えねぇ……おい、いい加減泣きやめよアクア! 俺まで変な目で見られるだろうが!!」

 

本日初のクエストに挑み、帰還した二人の姿である。

 

クエスト内容は『三日以内にジャイアントトード五匹の討伐』。今日の成果は討伐一、精神的ダメージ(大)である。

 

カズマは頑張った。日本のそれとは違う巨大なカエルから必死に逃げ回り、その姿をアクアに笑われて。それでも頑張っていたら当のアクアがカエルに殴りかかって食べられる。アクアを捕食するのに夢中で動きを止めたジャイアントトードをなんとか手にした短剣で仕留めて体力を使いきり、アクアと一緒にフラフラとなって帰還したのが今である。

 

「くそ~、こんなに、こんなに苦労して報酬が外壁工事の日当一日分って……割に合わねー」

 

カズマは思った。こんなはずではないと。こんなのが自分が考えていた冒険のハズなどないと。

 

「二人じゃ、俺たちだけじゃ無理だ……」

 

「あれ? お兄ちゃんじゃないですか? お疲れですね」

 

「え?」

 

そんなカズマの横をガタゴトと音を立てながら進む荷車が一台。その荷には、ジャイアントトードの死体が山のように積まれていた。

 

「アルマ!? どうしたんだよソレ!」

 

「仕事先で沸いて出たので駆除しました。私頑張ったんですよ!」

 

荷台を引いていたのはアルマと農家の息子だった。アルマはにこにこと笑顔を振りまき嬉しそうにギルドへと荷台を引いていく。荷台には驚くほど巨大な剣も置かれている。

 

「これをギルドに持っていって、私もモンスターの討伐に参加できるようお願いしてみます! じゃあねお兄ちゃん!」

 

「お、おう」

 

アルマの可愛い笑顔にニヤける余裕もなく、その姿をカズマは見送る。

 

「うそ~ん」

 

肩を落としてそう言った。アクアを見て、

 

「やっぱり夢じゃなかったんかい! 女神、チェーーーーーーーンジッ!!」

 

昼に見た夢とか、既に妹になってくださいと願いを使っていたことなどを思いだして絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の調査報告。

 

モンスターの討伐によって得る経験値も命の対価と比べるとバランス調整が必要かもしれない。許可が出れば『理』を書き換えることも可能。

 

しかしこれらは『魂』と『命』の管轄なり。二人の判断に任されたし。

 

また、強い冒険者を育てるには食生活の見直しから始めるべきかもしれない。

 

これは冒険者の戦力向上についての考察であるが一般人にも効果があり、人類すべてのステータス向上に繋がるものである。

 

ただし、最低でも貴族レベルまでの生活力向上が必要であり、平民が貴族、王族に並ぼうなどとすれば魔王を倒す前に人類が争いを起こしそうなので却下する。

 

 

追伸。今日は人類の敵をたくさん殺すことができた! もっと滅ぼしたいので業務に魔物の全滅を追加されたし。

 




『魂』 「クソ真面目じゃのう」

『物質』「ですねぇ。先輩ごときとの約束なんて破っちゃえばいいのに」

『魂』 「あ?」

『物質』「なにか?」

『命』 「アルマ可愛いよアルマ可愛いよ。なのに我をそっちのけで人類ばかり……やっぱり人類嫌いだ滅ぼそう」

『魂』 「この姉弟がいるかぎり人魔大戦にケリはつかんのう」

『物質』「ですねぇ。まったく困った二人ですよ」

『命』 「何を言っている。この仕事が終わったらアルマはお前たちにも『お仕置き』をするぞ? 今の内に言い訳でも考えておくんだな」

『魂』 「アイアンクローは嫌じゃぞ!?」

『物質』「私の超銀河合体アルマテリオンを壊さないでください!!」

『命』 「こいつら、下界に向かって土下座だとッ?」

アルマちゃんは四人の中でも最強です。だけど『魂』と世界を査察すると約束したのでそれが終わるまでは逆らいません。終わるまでは。

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