やぁ! 俺、佐藤和真! 日本で死んでこの世界に転生した高校生だ!
相棒は俺のことを引き篭りのゲームオタクだの期待してないだの死因が情けなくておっかしー、だッ! のッ! とッ! 散々人のことをバカにしてくれやがった腹正しい上に使えない女神、アクアだ!
二人の、剣と魔法のファンタジーな異世界で魔王を倒す勇者様としての活躍する冒険の日々が今日から始まるぜ!
……などと思ってみた事が俺にもありました。
異世界に来たらまずは冒険者ギルド! とゲームの知識を参考にやってくればまさかの「登録手数料千エリスになります」という受付のお姉さんからのお言葉だった。
初っ端からつまずいた。そして俺は一気に現実に引き戻された。
ファンタジーの世界でも所詮は金、か。
いやいやいや! ダメじゃん! なんで俺達無一文なんだよ! こういう冒険の初期段階では軍資金は手渡されるだもんだろう!? 勇者に魔王を倒せって言う王様だって百ゴールド位くれるぞ!?
アクア、俺がこちらの世界に持っていける特典として選んだ『者』である彼女に相談したら……長テーブルでご飯食べてるおじいさん風のプリーストにタカリに行きやがった。お前本当に女神か? 一応頭下げてお願いしてるけど、って見かねたおじいさんが説教込みでお金をめぐんでくれた。アクアの目は死んでるけど。
どうにもアクアには後輩の女神がいてあのおじいさんプリーストはその信者だったらしい。後輩女神の信者に情けをかけられるのがそんなにもショックだったとは……神様同士の上下関係はよくわからんが、一応励ましておいてやろう。
アクアが貰ってきた金額は三千エリス。登録手数料が一人千エリスだから二千エリス使って千エリス余る。これが俺たちの当座の生活費か、大事にしないとな~。
というかあれだ。一エリス=一円らしいからこれは子供の小遣いぐらいの金額ということだ。現に、俺たちの前に並んでいた金髪の女の子だって普通に払ってたし。何の問題も無く冒険者登録できてた。あ、背が低いから受付のテーブルに身長が届いてない。書類書くのに必死のつま先立ちしてる。可愛いな~。
あんな小さな女の子でも冒険者になりたがる、もしくはならざねばならない世界、か。ふふふ、だが俺が来たからには安心するといいぜ! きっとここで俺に隠された凄まじい潜在能力が見つかってギルド内が大騒ぎに……、
凄まじいまでの能力の低さに冒険者人生を否定されました。
おいこらどうなってんだ。
受付のお姉さんは可哀想になったのか必死にフォローしてくるし、それにアクアは水差して笑ってるし。こいつ捨ててこようかな?
と思ったらまさかのアクアさん祭りだよ。え? ステータスが異常に高い? どんな職にも就ける? ギルド職員総出で万歳三唱とかイベントを完全に奪われたんですけど!?
こうして俺たちの冒険者生活は始まった。
俺は最弱職の『冒険者』に。
アクアは上級職の『アークプリースト』に。
なーんだーかなー。
え? 何今の光景?
日本人っぽい少年とどう見てもうちんとこの女神がセットで騒ぎを起こしてるんですけど!? そもそもアクア! お前なんでここにいる!?
冒険者登録が終わったので、私こと『理』の神アルマはジャージを着た転生者っぽい少年を見ていたのだが、その後ろに見慣れた青い少女の姿があったことで頬が引き攣る。
女神アクア。地球、日本で死者の魂を導く仕事を任された存在。長い髪は青く美しく、プロポーションは抜群な『水』を司る女神だ。『魂』のの部署で働く直轄の部下だ。というか、『魂』のが創った女神だよ。
そして、馬鹿である。いや、言いすぎた。お調子者の阿呆である。職務怠慢、勤務態度に問題ありと。創り手そっくりな破天荒な性格に、そろそろ何かしらの罰を与えてやろうかと思っていた問題神がそこにいた。
いやなんでだよ。
女神は下界に無闇に降臨したらいけないって天界規定で私が定めたろうが!
あ、今度は飯食ってるプリーストに自分が女神アクアだって名乗って金をせびってる!?
下界で女神の威光を振りかざしてはいけないって天界規定で禁止してるだろうが!!
しかも金銭を受け取ったーーーーーーッ!!! おまッ、おまーーーーーーーーーッ!!!!!!
駄目だ、アレを放置しては絶対に何かしらの問題を起こす。女神が下界で不祥事とか洒落にならん!!
しばらくあの二人を監視しようそうしよう。
そんな感じで二週間ほど経ちました。
二人は毎日土木工事でいい汗を流しています。いやぁ、いい働きっぷりですね。私も見ててつい応援したくなったよ、うん。
でもお前ら、冒険者だよな? モンスター相手に剣を振るわないで、なんでツルハシを地面に叩きつけてんだよ! 私の二週間を返せ!
アクアが人様に迷惑をかけないか心配だった私は二人が働く姿を遠く、木の影、建物の影から見守っていたのだ。すると予想外のいい働きに呆気にとられた。
なぁアクアよ? お前そんなに外壁工事が得意だったの? なんで新人なのに一番仕事が早くて頼られてるんだよ。なんなら『物質』ののところに部署変更してやろうか? アイツの趣味は無意味に巨大都市を造って数千年後に謎の古代遺跡として世間様に注目されることだぞ? 『魂』ののところよりよっぽど重宝されるぞ!?
あの二人のこの二週間の様子はこうだ。
朝起きて工事現場に出勤。
一日中働いて日当を貰った夕方頃に風呂屋に行く。
夜は冒険者ギルドで飲んで食って大騒ぎ。
そして馬小屋を寝床に明日のお仕事に備えてご就寝。
うん、理想的な素晴らしい労働者の姿だ。
お前らが冒険者でなければな!!! 魔王と戦うために来たんだろお前ら!!
え? 私?
私だってもちろん働いていたさ!
朝一番に冒険者ギルドに走り受付のお姉さんに挨拶し。いい稼ぎになりそうなクエストがないか掲示板を探したりもした。
しかし、無いのだ。本当に。
この街、アクセルは駆け出し冒険者の街だ。つまり、弱い冒険者が集まる場所でもありスタート地点というわけだ。当然、魔王城から一番遠い場所でもある。
すると、ね。強いモンスターもそう多くないのだ。街の衛兵でだって倒せるレベルの奴らばかりで冒険者の出る幕はない。
そうすれば、街の周りは比較的安全で。子供にだってできるような薬草や木の実の採取だって誰も冒険者に頼まなくなる。依頼しなくても自分たちで出来るからだ。
なら、冒険者にしかできないこととは?
無論、モンスターの討伐だ。しかし、これが意外と難しい塩梅のものばかりなのだ。
駆け出し冒険者には簡単に倒せないモンスターばかりが依頼されてるのである。何故なら、簡単に倒せるようなモンスターは街の勇士が片付けているのだから。
駆け出し冒険者達は装備もレベルも未熟だからこそ駆け出しなのだ。強くなるためにはある程度身の丈に合った相手が必要で。
なのにこの街には中堅レベルのモンスターしか討伐依頼が出ない。残っていない。
一撃グマの討伐とかマンティコアにグリフォンを相手にしろとかどんだけ高いレベルの冒険者を要求してるんだよと激しくツッコミを入れたい。だからか、報酬が高いのに誰も受注しないし。しまいには王都の騎士団とかにたらい回しにされるてるし。
手頃なのでカエル退治とかがあるんだが……これもソロで挑むには駆け出しだと厳しいかなぁ……。
受付のお姉さんに無理はしないと約束したのも原因か、私は高レベルのモンスター討伐のクエストを請けるのを禁止されている。なので、農場や家畜の世話などを住み込みでのお手伝いばかりの生活をし、空いた時間で二人の監視を行う二週間だった。
しかし、工事現場に足繁く通う少女の姿に街の住人達はホッコリとし、作業者達は誰が目当てだ! 俺が本命だ! と目を血走らせていたが……私にどうしろと? 手でも振ればいいのだろうか?
あ、サトウ・カズマと目があった。今日も爽やかな笑みである。あの男、私の姿を見るたびに笑顔を向けてくるのだが……何故だろう? 敵意など微塵も感じられないのに背筋に悪寒が走るのだが……私、神様なのにあの人間が怖い。
とりあえずここまでの調査報告。
アクセルの街には若く勇敢な冒険者達が集っている。
しかし、その殆どがこの街から旅立とうとせず定住を決め込んでいるようである。
現在その原因を調査中。
しかし、荒くれな冒険者達が多く集まっているにしても、この街の治安はすこぶる『良』である。
そして何故か男性冒険者の数が異様に多く、この街から頑なに離れようとしないようだ。何故だろう?
追伸。何故か下界で地球担当女神、アクアを発見。詳細を調べるために転生者らしき少年と接触を試みようと思われたし。
『魂』 「……なぁ、あのカズマとかいう転生者……まさかロリコn」
『物質』「先輩、それ以上はいけない」
『魂』 「いや、だってあれで何か問題とか起こったらわし、『命』のに殺される」
『命』 「我が何か?」
『魂』『物質』「「ひぃッ!?」」
『命』 「おや? 珍しく『理』のがいませんが? 弟はどこです? ………何を観ている?」
『魂』 「……『物質』の! 後は任せた!!」
『物質』「ちょっ! ずるいっすよ先輩!?」
『命』 「に ・ が ・ さ ・ ん 」
『命』と『理』は姉弟です。