アルマちゃんが再び幼女化して早一週間。
「カズマお兄ちゃん! 今日はこのクエストいきましょう!」
「はいはい。アルマちゃんは今日も頑張り屋さんだねー」
未だに元に戻る目処が立っていない。
しかし、それでもアルマちゃんは健気に冒険者として仕事をしていた。
でも。
「家に積もった雪の雪下ろしって……」
「? 嫌なら川の周りのゴミ拾いにします?」
「えー……」
受ける依頼の内容がなんでも来いというほどに、地域のみなさんの出した依頼ばかり受けるのである。
冒険者ギルドに届けられる依頼は何もモンスターの討伐だけではない。むしろ、アクセルの街の住人からのささやかな依頼の方が多かったりする。
やれ迷子のペットを探してくれだとか。
やれドブ掃除をやってくれだとか。
やれ手紙を届けてくれだとか。
そんな簡単でいて面倒くさく、なおかつ報酬額の少ない依頼ばかりを進んで請けるアルマちゃん。特に冬の今は寒さで外に出たくない冒険者ばかりなので依頼掲示板にはその手の依頼が貯まりまくっていた。それを消化してくれる彼女にはギルド職員も大助かりしているらしい。
ちなみに俺がアルマちゃんと一緒にクエストを受けているのはパーティーの間で取り決めたことだ。
アルマちゃんの愛刀、『超神刀・豊穣丸』の捜索のための割り振りだ。
ダクネスはギルドに捜索の依頼を出しに行っている。転移装置を使ってアクセルから王都等、行ける場所へは絶えず移動しっぱなしだ。
めぐみんは紅魔族の里へ手紙を出している。失せ物を探すことのできるマジックアイテムを造れないか父親に頼んでいるらしい。
アクアはウィズのところに入り浸っている。ウィズの仕入れる魔道具で、やはり失せ物を探し出せる効果のものが入荷しないかと紅茶を飲んでいるらしい。うん? こいつ実はなんにもしてなくないか?
テンちゃん様が提案した悪魔に頼るという提案はアクアとクリスとアルマちゃん本人の猛反対により却下された。というか、当てがあったのだろうか神様。
で、俺はアルマちゃんが無茶しないか一緒に行動しているということで。
まぁ、当然のことながらいつも無茶ばかりするんですけどね。
「お兄ちゃーん! 雪下ろしとゴミ拾いとまき拾いのお仕事とってきましたよー!」
「全部とったの!? しかも増えてるし!!!」
「いやぁ楽しかったですね!」
「……そうですね」
寒かった。ただひたすら寒かったです。はい。
民家の屋根に積もった雪や道を塞ぐ雪を掻き分け川に落とし。ついでに河川の周りのゴミを拾い続ける。それが終わったらまとめたゴミを森まで持っていって処分する傍らまきを拾い続ける。なにこのコンボ。アルマちゃん、無駄がないよちくしょう。
ちなみに報酬は合わせて一万エリス。うん。一万エリスである。寒い。身も心も財布の中も寒いぜ。
デストロイヤー破壊の賞金? そんなの、討伐に参加した冒険者と農家で分配して、それでも残った額の賞金はアルマちゃんの豊穣丸探索の報奨金にしたからない。一エリスもなーい。
うん、デカイ屋敷はあるけどな。心なしか肌寒い冬の季節なのさ。
「お兄ちゃん寒いの? お手手繋ぐ?」
「うん。寒くて凍えそうだよ」
色んな意味で冬の寒さを噛み締めていると、アルマちゃんが低い身長で俺を見上げて言う。自然と上目遣いになる彼女はとても可愛かった。
そしてアルマちゃんは俺の返事を聞くと、俺の右手をその小さく柔らかい両手で包んでこういった。
「はい! これでもう寒くないよ!」
「ありがとうアルマちゅぁん!!!」
俺の妹めっちゃ可愛いいいいいいい!!!!
(変態だ)(変態よ)(流石のロリマさんだぜ)(アルマたんを守れ! アサシンを集合させろ!)(おのれカズマめ! 明日の太陽を拝めると思うなよ!!)
なんだか変な声が聞こえるが俺は気にしない。最近街の奴らからロリマさんとか呼ばれているけどそれは誤解である。俺はただ妹が心配なだけの紳士なのだから。
「カズマお兄ちゃんー?」
「なんだいアルマちゃんー?」
あーーーーにしても可愛いなぁーアルマちゃん。
しばらく二人で手を繋いで歩いていると、
「なんか道に落ちてるよー?」
「へ?」
道の真ん中で、真っ黒い服を着た男が倒れていた。
いや、あの格好は……お坊さん?
その男が着ていたのは日本人なら誰でも見たことがあるような、仏教徒が着る袈裟という法衣だった。白、黒、金と三枚を重ねてきた五条。頭には藁で編んだ傘を被り、傍らには金の錫杖まで転がっている。
もしかして日本からの転生者か?
そう思ったのは最近やってきた女子高生のせいか。まさかまた……なんて考えていると。
「大丈夫ですか!?」
アルマちゃんが駆け出した。倒れている人を放っておくことなど彼女には到底無理なことなのだろう。
「って、げ!?」
と、思ったら。
「どうしたんだアルマちゃん? おい、アンタ大丈夫か?」
まっ先に近寄ったアルマちゃんが普段聞かないような声をあげて後ずさる。それを不思議に思いながらも俺は近寄って話しかけると。
がしっ! と足を掴まれた。
「うぇ!?」
ぐぎゅるううううううううううううううううううううううううううう!!!!
そしてこのあまりにでかい腹の音。
「あー、すまん。飯奢ってくんね?」
「行き倒れかよ!!!」
単なる空腹だった。
何こいつ?
ガツガツガツ! と豪快に飯を食らう男がいる。
ここは冒険者ギルド。道で拾った行き倒れの男を運び込み、とりあえず食物を適当に頼んだところ。
……ものすごい勢いで完食されていく。
「おい、今ので何杯目だ?」
「もう二十杯目だぜ? 何もんだあの兄ちゃん」
「俺、見てて胸焼けしてきた……」
周りの冒険者達やギルド職員達が遠巻きに言う。皿がカチャカチャと積み上がっていく光景に恐怖を抱きながら俺はそれを見る。
これ、いくらになるんだろう?
「あのー、おたく、金って持ってます?」
「ん? ねぇよ? ごちそうさん!」
「奢んねぇよ!? 今すぐ食うの止めてくんない!?」
「嫌だ! まだ腹六分目だ!」
「アンタもう十人前は食ってるよね!?」
なんて男なんだ。無銭飲食でどうどうと奢られようとは。いや、金がないから行き倒れてたのか? なら飯屋になんて連れてきたら集られるのは目に見えてたじゃないか!! ちくせう!!
「……はぁ、わかりました。わたしが出します」
「アルマちゃん!?」
女の子が財布を取り出す。大の大人が平らげた飯代を子供が払いに行く光景は見る者を悲しい気持ちにさせる。周りの「アルマちゃんを愛でる会」を自称する冒険者たちはその最たるものだ。皆ものすごい目でこっちを睨んでくる。
「悪いなぁ妹」
「妹言うな変態坊主」
「「「はぁ!? 兄妹!?」」」
今この人なんて言った!? 妹?! 新しいお兄ちゃんだとぅ!?
目の前の若いお坊さん。歳は俺と同じか少し上くらい。坊主なのにボウズじゃないフサフサの黒髪に、しっかりと肉の付いた背の高い男。
何よりも、魔剣のなんとかさんよりもイケメン! なんだこいつ!!
……でも、よく見たらアルマちゃんとどことなく似ているような? マジで兄妹なの?
「何しにきたんですか変態。去勢しますよ?」
「いや、お前が心配だから様子見に来たんだけど……」
「そんな心配いりません。もう帰ってください。さようなら」
「…あー、こりゃ……うん、ガキだな」
「は?」
なんだろう。お兄さん?に対してアルマちゃんがムキになってる? 子供っぽい仕草に、やはり幼児化の影響がまた出てきてるのを感じた。それにお兄さん?も気づいているようだ。
「しゃーない、飲むか!! おーい受付のネーチャン! 酒どんどん持ってこい!! 樽ごと全部! 俺の奢りだ! 酒蔵空っぽにするまで飲むぞお前らぁッ!!」
「はぁ!? ちょっと!!」
「「「ヒャーーーーーーーー! ゴチになるぜ
「待っ、誰のお金で飲むと思ってるんですか!!!」
「だーーーーはっはっはぁ!!! 飲め飲め!! 飲みまくれ!」
「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
「聞いてってば!!」
アルマちゃんが必死に声を張り上げるが酔っぱらいには届かず。酒が入って頭がハッピーになった冒険者たちは軽い暴徒である。その騒ぎの中心にいるのがあのお兄さん?なわけで。
「いいかお前らー! 酒に潰されるようなヘタレは勿論いないだろうなー!?」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
酒樽を持ち上げて、お兄さんが叫ぶ。そのまま樽に口を付け傾けながら中身を豪華に飲み干し冒険者たちを煽りまくる。
「じゃぁそんなヘタレがいたらそいつは腰抜け冒険者かー!?」
「「「そうだそうだーーー!!」」」
手を叩き、音頭を上げ続ける。ギルドの熱気は下がることなく、全員が頭の中を麻痺させていくようだった。
「腰抜けには罰が必要だなー!? 違うかー!?」
「「「違わねー!」」」
酒の勢い。ただそう言うだけでは収まらない、流れができていた。
「だったらまっ先に酔いつぶれた腰抜けが今日の払い全部だーーーーー!!!!」
「「「オッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」
「あ、あれ!?」
あ、うん。なんだかそうなった。
一つ分かったことがある。このお兄さん?。坊主は坊主でも、破戒僧だわ。間違いなく。もしくは生臭坊主。
「いやぁ飲んだし食った! 上手いなぁここの飯は!」
「はぁそうですね」
ギルドが酔っぱらいで死屍累々となった夜。俺達はさっさと逃げ出した。酒を樽でガンガン飲んでいたはずのお兄さん?が最後まで立っていたのが恐ろしい。とんでもない酒豪すぎる。
そしてまっ先に酔いつぶれて酒代を全額払うことになったのはダストだった。可哀想に。今頃目を覚まして、とんでもない額の請求書をギルドから渡されている頃だろう。
で、今俺たちは俺の屋敷に居る。アルマちゃんも。
「いい屋敷に住んでるじゃないか少年」
「あざっす」
リビングで暖炉の前のソファーに寝転んでいるお兄さん?。それを見て警戒する二人がいた。
アクアとめぐみんだ。
ちなみにテンちゃん様は天界に帰った。なんでも、『出席日数がやばい』らしい。マジで女子高生だったんだなぁ。でも、豊穣丸が見つかったら呼んでって言っていたからアルマちゃんのことはちゃんと面倒を見てくれるらしい。
「あわわわ!! なんで今度はあの人がいるのよー!?」
「カズマカズマ。彼は誰ですか?」
「アルマちゃんのお兄さんらしい」
「「は?」」
俺の言葉に二人が驚く。めぐみんはそれほどでもなかったが、アクアは特にだ。
「え? あの人がアルマちゃんのお兄さん? ならアルマちゃんって……え、まさか? あんれぇ?」
うん、お前はそろそろ気づけよ。頼むから。
「んー。めぐみんー」
「どうしましたアルマ? 眠いんですか?」
「あらあら、じゃぁお風呂入ってもう寝ましょうねー」
どうやらアルマちゃんはおねむのようだった。まぁ今日は色々あった。主にこのお兄さん?のせいで。
「お、風呂か。兄ちゃんと一緒に入るか?」
「は? 死ねよ変態」
「ハッ! 辛辣!」
「「「…………」」」
やっぱり新鮮だ。こんなアルマちゃん見たことない。まるでアンデッドや悪魔を相手にしているような、そんな態度を人間にとっている。
「やっぱり身内の気安さなのかなぁ」
ちょっとお兄ちゃんとしてのジェラシーがあったりする。神様相手だけど、こればっかりはしょうがない。
……ん? あれ? アルマちゃんのお兄さんってことは……この人も神様!?
「おぅ少年。このあと一緒に風呂でもどうだ?」
「は、はい!」
このタイミングで!?
断れない誘いが来たことでひょっとしての正体に気づかなきゃ良かったと後悔する俺だった。
アクア達があがった後の風呂場。
そこで俺とお兄さん?は一緒に湯船に浸かっている。
「あ~~~。いい風呂だな。広いし湯加減もいい」
「あ、はい。恐縮です」
このお兄さん?。脱いだらやっぱり凄かった。別に俺はそんな趣味はないが、男が惚れる漢の身体だった。厚い胸板。程よく付いた全身の筋肉。決してムキムキのマッチョというわけでなく、細身の鍛え上げられた肉体であった。
「凄いな少年。君はまだこの世界にきて一年も経っていないんだろう?」
「そうっすね。大体半年ちょっとです」
「それでこんな大きな屋敷持ちか。うん、君はできる男だよ。もっと胸を張りたまえ」
あらやだ胸にくる。この世界に来て、こんな世辞を言われたことがあっただろうか。
思えばこの世界来てからというもの。理不尽な常識と理不尽なパーティーと理不尽な評価に歯を食いしばって頑張ってきたが、褒めてもらったことはないかもしれない。
ちょっとウルッときた。
「それで、さっきの少女達で誰が少年のコレだい?」
「ひゃい!?」
小指を立てて言われた。猥談っすか?! そんな話しもイケる口なんです? お坊様!
「アクアはまぁイィ女だし、めぐみん君はまだ幼いが……まさかアルマに手を出してないだろうな? ……もしや全員か?」
「いぃいえいえいえいえ!! 手を出すなんてそんな俺達パーティーの仲間だしぃ!?」
「…………なんだ童貞か。ひとつ屋根の下に住んでて情けないな。やっぱりまだまだの男だな少年」
「……はい。面目ありません」
ちくせう。だってしょうがないじゃん。仲間に手を出すなんて気まずくてしょうがない。そりゃ俺のパーティーは皆女ばかりで美人だ。中身は残念だけど、外見は文句なしである。正直、サキュバスサービスのお店で何度アイツらの姿にお世話になったことか。そんなこと口が裂けても言えないけど。
「………ふむ? どうやらヘタレなだけで興味はあると見た」
「ま、まぁ……俺だって男ですし」
この人、心情をバンバン見抜いてくるな。なんなの? 心でも読めるの? やっぱり神様ってこと?
「じゃぁ、これならどうだ?」
「へぇ?!」
パン! と湯船のお湯が弾ける。視界が一瞬お湯や湯気で何も見えなくなり、お兄さん?の姿を見失う。
しかし、換気が効いた風呂場でそれはすぐに晴れた。戻った視界で見た光景に俺は驚きのあまり目を見開く。
そこには。
「そう言えば名乗ってなかったな」
「あばばばばばばにゃじゃばら!?」
アルマちゃんやテンちゃん様に似通った、俺と同じくらい年齢の女の子が全裸で立っていた。
「俺はタカマチ・アルマ。日本在住の悪魔王だ」
それはもう見事なプロポーションで。
『理』 「あの堕落の象徴が……今度は何を始めやがった」
『魂』 「ワシはあの坊主のこと気に入っているんじゃがのう」
『命』 「我も、日本じゃ義弟ですし」
『物質』「僕だけ特に接点はありません!」
リっくん「あ、すいません。アルマいます?」
『物質』「リっきゅううううううううううううん!! 会いたかったよおおおおお!!!」
りっくん「うん。僕も会いたかったよ……はいこれ」
『物質』「え、………なにこれ?」
リっくん「宿題。あと毎日補修だって。先生がね? サボったら落第だって」
『物質』「…………い、いや、あの、デート……」
りっくん「大丈夫! 毎日放課後デートしようよ! 僕も付き合うからさ!」
『物質』「はは、ははは。わぁい、嬉しいなー………」
リクザリオ・ローレックスことリっくん。
クラスの男子から「俺の子供を産んでくれ」と密かに思われている学校一可愛い男の子。しかし、中身は男前なところもあり彼に頭が上がらない生徒多し。
変態ことタカマチ・アルマ。
日本在住の悪魔王。『理』の分体にして悪魔に魂を売った男。なお、『理』とはガチの殺し合いを何度も行なっており、未だ決着がついていない。女子高生として遊んでいたら先日高校に通う孫(♂)に告白された。どうしよう?