この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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今日も朝からついてないことの連続だった。神様、アンタ俺のこと嫌いだろ?

カードの発行に意外と時間が掛かりました。


この神様に職業を!

農家のおばあちゃんからお小遣いを貰った私はその足で冒険者ギルドまでやってきた。気分はルンルン、ご機嫌である。

 

冒険者ギルドは地球で言うところの食事処と役場をくっつけたような場所だった。長テーブルで昼間から酒を飲む屈強な男たちが多く見られ、壁際の窓口ではギルドの職員達が笑顔で仕事をしている。

 

というか、昼間から酒飲んでる奴多いな!? お前ら仕事はどうした!!

 

「あの、どうしました?」

 

「え? いえ、なんでもないです。えぇなんでもないですとも」

 

この世界の冒険者たちが魔王を倒せない理由の一反を垣間見た気がする……キノセイダヨネ?

 

さて、それでは冒険者カードを作って貰いましょう。

 

ただひとつ問題が……。

 

「あの、本当に冒険者になるんですか? お客様は……まだその……」

 

「年齢のことなら問題ないです。腕っ節には自信があります」

 

受付のお姉さんが手強い! そうか、魔王はここにいたのか!!

 

「稼ぎたいんです。働きたいんです。なので、冒険者にしてください」

 

「でもね、お嬢ちゃん? 冒険者って危険なお仕事も多いのよ? あと二、三年位してからの方が……」

 

「そんな時間はないんです」

 

いや、ホント。あるんだろうか、時間。や、寿命は心配していない。腐っても神様です。不老不死なんで。むしろ、『不老』だから……成長するのかなぁこの身体?

 

二、三年経ってもこのままの姿かもしれない。そうしたら冒険者になんてずっとなれないだろう。

 

それは困る。下手をしたら人外扱いで私が指名手配されかねない。そしたら調査どころではないだろう。

 

「大丈夫、ダイジョウーブ。私、無理しない。危険なクエスト受けない、オーケイ?」

 

「……信用の欠片も感じられませんが、そういうことでしたら……」

 

やっと折れてくれたか、と無い胸をなで下ろす。ゴロツキばかりの中で私のような少女がいるんだ。ただでさえ目立っているので早く手続きを終えたいのだ。下界へはお忍びでの訪問なのだということを忘れてはならない。査察をするのなら普段と何も変わらいありのままの実態を見極めなければならないのだから。

 

「………、………、………、………、 ………」

 

受付嬢のお姉さんが冒険者としての仕事の説明や危険の有無を説明しているが軽く聞き流す。そういうマニュアルは最初から頭に入っている。倒したモンスターや飲食した物から経験値を得てレベルアップするとかなどの仕組みも理解しているつもりだ。そもそも、その仕組みは『魂』と『命』の合作だったはずだ。それを世界の『理』として纏めたのは私の仕事だったわけで……最後の面倒くさいところを丸投げされただけなような気もしたが。

 

まぁ、要訳すると。

 

冒険者カードを制作すると、本人のステータスに見合った職業につくことができる。そうして、モンスターを倒して経験値を溜めていけばレベルアップして強くなれるよ、ということだ。

 

改めて考えるとゲーム要素強すぎるなこの設定。街の近くで雑魚狩りだけしてても強くなれるまで何年かかるのやら……これは最初期のステータスで後の冒険者稼業にかなり響くな。いや、待てよ? もしやそれでこの街の冒険者達は昼間から飲み食いしているのか? 戦いで経験値を得るだけでなく、モンスターの血肉を食らうことで更なる経験値を得ようと………成程、人の子の向上心はやはり素晴らしい。

 

私が人類の素晴らしさを再認識している間に受付のお姉さんが手のひらサイズの一枚のカードと書類を差し出してきた。

 

「それではこちらの書類に貴方の身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」

 

「はい。……書きたくないことは書かなくても?」

 

「どうしても、ということなら結構です。しかし、できるだけ詳しくご記入ください」

 

ぬぅ、年齢とか真面目に書いたら宇宙誕生と同時期から数えなくてはならんのだが……しかし、真面目にそれを書く訳には……だが経歴の詐称など『理』の神である私が行うわけには……いや、しかし……。

 

困った。年齢の欄一つでなんという難関。人の子の女子が人に歳を口伝することに細心の注意を払うのもうなずける。

 

しかしあまりにも長いこと悩んでいれば不振に思われる。ここは断腸の思いで年齢欄に「十二歳」と書く事とした。本当に、血を吐く思いである……ッ! 

 

あ、駄目だ。胃が痛い。ポンポン痛いよー。

 

「え、あの、大丈夫ですか?」

 

「ダイジョウブデス。モンダイアリマセン」

 

書類を書く私が顔面蒼白だったことでいらぬ心配をかけたらしい。ゴメンね。しかし安心するがいい。記入は今終わったぞ! 嘘ばっかりな書類が完成したのだァ泣きたい!!

 

「できました」

 

「それではカードに手を触れてください……はい、ありがとうございます。アルマさん、ですね。……え? 何これ? 身体能力は全部普通なのに知力だけありえないほど高い……逆に幸運値が低すぎて計測不可能なんですけど……え?」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

「あの、冒険者は止めて学者さんになられたほうが……」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

「でも、こんなに運がないんじゃぁクエストに出でも禄な目に会いませんよ!?」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

自分に運がないのはわかってるんだよぉ……。

 

もう神様の泣き顔パワーでゴリ押ししました。結局、ステータスの低さから私の職業は最弱職の『冒険者』と決まった。

 

まぁ、弱体化したこの身だ。上級職なんて期待していない。しかし、日頃から貧乏くじをひかされてばかりだと思っていたがこうして数値で見せられると流石にへこむ。なんだよ、計測できないほど運がないって……これはあれだよね? 『魂』のの弱体化が原因なんだよね? 私、生まれつきこんなに運がなかったってことないよね?!

 

冒険者カードを受け取った私は若干ふらつく足取りでクエスト掲示板を目指して歩く。その様子を心配そうな顔で受付のお姉さんが見ているのが地味に辛い。ギルドの職員からそんな視線を受けているのが冒険者になったばかりの新人、それも見た目も小さな少女なのだから周りも困惑した目で見てくる。

 

その結果、遺憾ながら私は冒険者になった初日からもの凄く悪目立ちをしてしまったようである。

 

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて………」

 

 

あぁ、私の後ろに並んでいた少年よ。君も冒険者になりに来たのか……すまんな、先立ちがこんな縁起の悪い神様で。厄除けに君に幸あるよう加護をあげよう……って、ん? あの少年ジャージを着ていないか?

 

 

 

もしや日本人か?

 

 

 

 




『魂』 「かかか! あやつ、自分のステータスをわしが書き換えたことに気づいておらんわ!」

『物質』「どゆことっすか先輩!」

『魂』 「本当は上級職につけるくらいあるのに冒険者にしかなれないように書き換えといた!」

『物質』「流石先輩! マジひどいっす!」

『魂』 「でもあれじゃな。本当はそのことに気づいて、経歴詐称した自分に自己嫌悪する様を見たかったのに当てが外れたわい」

『物質』「幸運値を低くしすぎたんじゃないっすか? ここ数世紀ほど見たことない落ち込みようでしたっすよ?」

『魂』 「わし、幸運値はいじってないぞ?」

『物質』「マジっすか?」

『魂』 「マジじゃ」

神様からみた『冒険者』と『勇者』のステータスの差は五十歩百歩。

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