この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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神様達は色んな世界を楽しんでいます。


この神様に暗躍を!

目の前にメイド服を着た少女がいる。スカートは下着が見えそうで見えない程際どいミニで、フリルやリボンの装飾も必要以上に多かった。

 

その一部の層が好みそうな衣装を着た少女こそ、『物質』のアルマという『理』のアルマと同格にしてある意味格下の神の一柱。

 

下界での人間名、『天童(てんどう)アルマ』がニコニコとテーブルの席についていた。

 

……テーブル? 何あのロケットエンジン。カズマお兄ちゃん、随分と可笑しな趣味を……あ、『物質』のの仕業ですね。

 

「こんなところで何をしているんですか?」

 

「バイト帰りに寄ったんだよ。アルマちゃんのお手伝いをしたくて」

 

バイト帰り。あぁ、そうですか。

 

『理』のアルマの知識の中に彼女が着ているメイド服の記憶がありました。これは、彼女が『現在』拠点にしている世界にあるメイド喫茶の制服です。………勤労神様ってやつなんですよ彼女。学費やお小遣いを稼ぐためにアルバイトをしているんです。保護者は『理』のアルマで。その世界ではこの二人、『親子』という設定で滞在しているので。

 

「お義父さんには許可をとっているんですか?」

 

「とってないよ。あの世界の子機にも、天界の本体にもね」

 

「通報しましょう」

 

「おーけー、話し合おう」

 

いや、駄目でしょう。なに勝手なことしてるんですかこの子。

 

『理』の、というより。私達四柱の子機はあらゆる宇宙、世界に存在している。理由はそれぞれ様々ですが、大体が『楽しむ』為です。しかも、子機達はあらかじめ神としての記憶は封印されています。ただの一人の人間として、その体験と記憶だけを天界にいる本体に転送するためです。

 

なのに、稀に本体が下界で生活しているケースがあります。それがこの子、『物質』のアルマです。

 

だからこそ、神々が下界に降臨するのは天界規定で厳しく制限されていますし、『理』のアルマが少女の姿とはいえ下界に降り立ったのも特例中の特例なのです。あれはある意味、神としての格を女神にまで落としたからこそ出来た抜け道かもしれませんね。

 

つまり、この子は天界規定を無視してこの世界に来ているとうことです。また仕事をほっぽり出している可能性すらあります。天罰落としても問題ないですよね? 

 

 

そんな二人のやり取りを遠巻きに見ている四人がいる。

 

 

 

「なにあれ怖い。ほんと怖い」

 

「二人は知り合い?として、どういう関係なんです?」

 

「分からん。アルマの方が実年齢は上?なんだろうが、テンちゃんとやらはどういう立場なんだ?」

 

「なんでこの世界に『物質』様が……いえ、これはチャンスよ! 私が天界に帰るための!」

 

カズマ達は暖炉の前に置かれたソファーに隠れるようにしていた。背もたれの端から顔だけ覗かせてテーブルの二人の会話に聞き耳を立てている。

 

その会話の内容に、カズマとアクアを除く二人は頭に『?』を飛ばしていた。

 

それで、カズマはというと。

 

 

 

アクアが不穏なことを口走っているが今はどうでもいいや。

 

今日突然現れた故郷日本を思い出させる女子高生の少女。テンちゃんと名乗った彼女は会話から察するに神様らしい。しかも、アルマ様と同格の。

 

「なぁアクア。テンちゃんって、お前の昔の職場の上司なんだろ? どういう人なんだ?」

 

「「アクアが、働いていたッ!?」」

 

「二人とも驚くとこそこなの!?」

 

普段の行いのせいだよ。

 

日頃から、朝は二度寝、三度寝を繰り返し、昼は部屋でゴロゴロ稀に冒険者。夜は酒場で宴会と、グータラ駄女神の姿を晒しているんだ。めぐみんとダクネスの反応は当然だと思う。

 

「『ぶっし…』テンちゃん様は私のいた部署とは違う職場のトップの御方で、主に宇宙創成(土木関係)のお仕事に就かれていたわ」

 

「あの容姿でガテン系だと…?」

 

「つくづくアクアの前の職場というのが謎ですね」

 

……ぶっしつ? アクアが前に言ってた四人の創造神の一人で宇宙を創るのが担当の?

 

アカン! 怒らせたらこの世界が滅ぶ。宇宙ごと!!

 

しかも既にアルマ様と不穏な空気を醸し出しているし。なんなの? なんで引っ越したばかりの新居でアルマゲドンが起こってるの? この屋敷そこまで呪われてたの?

 

カズマのその想いを感じ取ったのか、背後で幽霊の少女が首と手をブンブンと振っていたがそれは彼には分からない。

 

「テンちゃん様は見た目はあんなだけど、戦闘力はパないから。ろぼっ、ゴーレムを創るのが得意で、それに搭乗したら宇宙だって天元突破しちゃうんだから」

 

「ダクネス、今すぐウチの最高級の茶菓子をお出ししろ! 急げ!!」

 

「わ、わかった!」

 

やめて。なんで剣と魔法のファンタジーの世界にロボットのパイロットが来るんだよ!! しかもリアル系じゃなくてスーパー系かよ!?

 

「あと上司たちの中じゃ最年少だから色々と手ほどきされてるみたい。勉強とか体術とか」

 

「めぐみん! 絶対に喧嘩売るなよ!? 絶対だからな! フリじゃないからな!!」

 

「わ、わかりました!」 

 

つまりベルディアをボコッたアルマ様に鍛えられてるってことですね。素でも強いんかい!

 

なんでウチに来たのかはわかんないが、さっさとお引き取りください。マジで。

 

 

 

 

 

 

「言っておくけど、僕はアルマちゃんの後始末に来んだよ?」

 

「は?」

 

後始末? なんの……あ。

 

「気付いた? アルマちゃん、この星を砕きかけたでしょ?」

 

そう、でした。私、正確には『理』のアルマの本体がデュラハンと戦ったときにやらかしたことがあったのです。理性が半ば失われていたとはいえ、なんてことを……。危うくこの星ごと叩き割るところでしたね。

 

「アルマちゃんじゃないアルマちゃんがしたことだけど、アレのせいでこの星の寿命は確実に縮まったよ? 星全体に亀裂が出来てるし形も完全な球体じゃなくなってるしね。あと星の座標も移動しちゃったからその内天候とかにも影響がで始めるだろうし、何より自転速度も変化しちゃうね」

 

「それ、普通に考えてとっくの昔に生物が生きていけない環境になってるはずですよね?」

 

「そうだよ? だから僕の力で無理矢理維持してる。でも、ずっとなんて面倒だから嫌だし? もう出張ってでも直しに来たほうが早いじゃない」

 

「お、御手数おかけしました……」

 

なんという失態。いくら神の力を制限されているとはいえ、自分が立つ星の惨状に気付かなかったなんて。

 

いえ? 私が気付かなくても天界の本体は気付いたはずでは? なのに何故私になんの連絡もなく、手を打たなかったのでしょう?

 

………まさか本体とのリンクが?

 

「アルマちゃん」

 

! と、いけない。考えすぎて目の前の彼女を忘れてました。

 

「大丈夫、安心しなよ。僕が来たからには壊れた星の修復なんてちょちょいのちょいさ!」

 

「ありがとうございます。なにか私にお手伝いすることはありますか?」

 

「う、ううん? ないよ。ない。こればっかりは僕と、僕の天使達じゃないと……あ、天使連れてきてないや」

 

「じゃぁアクアを使ってあげてください。あの子、土木作業得意ですよ」

 

「……え? アクアって『水』の女神だったよね?」

 

そうなんですよねー。なんであの子、泥とレンガを組み上げている時が一番いい笑顔なんでしょう? 

 

「まぁ……お言葉に甘えてアクアを借りようかなー」

 

? なんでしょう? 『物質』のの歯切れが少し悪いような?

 

アクアのぐうたらっぷりは天界でも有名でしたから少々思うところでもあるんですね、うん。

 

「じゃ、そういうことで」

 

「よろしくお願いしますね」

 

ニカーと笑顔で言う『物質』と頭を下げるアルマ。こうして『物質』のアルマの異世界滞在が決まり、アクアがそれに参加することとなった。

 

「あれ? 私の意思は!?」

 

拒否権はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、『物質』のに星の修復をお願いした私は自分の仕事に戻ろうかと思います。

 

皆さんお忘れかもしれませんが、この世界の査察を再開しましょう。

 

「何か依頼は……」

 

という訳で、ギルドの依頼掲示板の前に来ております。パーティーメンバーは私、カズマお兄ちゃん、ダクネス、めぐみんの四人です。

 

アクア? 『物質』のが連れていったのでいません。売り渡した? はて、なんのことでしょう?

 

「おい、もう一度言ってみろ」

 

ん?

 

なんでしょう? カズマお兄ちゃんの、妙にドスの効いた声がギルド内に響いてきました。

 

見ると、酒場のテーブル付近で金髪の酔っぱらいとカズマお兄ちゃんが口論を始めてました。

 

……面白そうだからしばらく眺めてましょう。

 

人の子は常に誰かと争いを繰り広げています。よく、争いは何も生まないだの、憎しみの連鎖だのと綺麗事を並べる聖人君子っぽい詐欺師が時代ごとに現れますが、私達神々からすれば戯言でしかありません。

 

人々よ、大いに争いなさい。醜くてもいい、存分に滅ぼし合いなさい。それでも生き残るのが貴方たち人の子の素晴らしさです。もしも滅んだとしても、私は貴方達をいつも見守っていますよ。

 

あの酔っ払いの少年も、カズマお兄ちゃんも元気に罵り合っています。良いことです。あ、言われっぱなしだったカズマお兄ちゃんが反撃を始めました。相変わらず凄まじい口撃力です。

 

二人の少年の微笑ましい光景に楽しくなり期待が尽きることありません。

 

「なぁ、アルマ? アレを見てなんでそんな笑顔なんだ?」

 

ダクネスが後ろから口の端を引き攣らせながら訪ねてきます。何って、決まってるじゃないですか。

 

「あぁやって人は交流を深めて行くんです。素晴らしいじゃないですか」

 

「いや、明らかに不穏な空気というか……不安しかないのですが…」

 

めぐみんも心なしか落ち着かない様子ですが、何を不安がっているのでしょう?

 

「ぶつかり合うことで前へと進むのが人の子です。あの二人もきっと良き関係になりますよ」

 

「「……はぁ」」

 

どうなるかなぁ? 楽しみです。

 

 

 

 

 

 

などとワクワクして観戦していたら、何故かパーティーメンバーの交換となりました。意外。

 

「よう! 俺はダストってんだ! よろしく!!」

 

「はい、よろしくお願いしますね!」

 

「……はぁ」

 

「よろしく」

 

カズマお兄ちゃんに絡んでいた酔っぱらいの少年こと、ダストさん。彼はアクセルの街でも有名なチンピラです。金髪碧眼という貴族? と疑わしくなる容姿を持っていますが、全然そんな雰囲気を感じさせない見事なまでの三下さんです。やることなすこと姑息で卑怯で情けない見事なまでのゲスという素晴らしい評判の冒険者です。

 

「ダストさんって有名なんですね!」

 

「え、あの、アルマさん? その話し誰から聞いたんすか?」

 

「街の皆さんと主にリーンさんです」

 

「あのアマァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

ちなみにリーンさんというのはダストさんの元のパーティーメンバーの女性です。可愛い女の子ですよ?

 

さて、カズマお兄ちゃんとダストさんの口喧嘩の結果。今日一日限定でお互い彼らを交換しての依頼となりました。なのでカズマお兄ちゃんはあっちのパーティーとトレード済みです。

 

今日のお仕事は街の外の危険調査です。街の安全な周囲から少し出たところまで移動し、その付近で何か異常がないのか数日かけて調査するのです。

 

あ、ちなみに受注したのは私です。モンスター討伐系の依頼を他の冒険者の方からとっちゃうのは大人げないと思ったので。

 

「と、とりあえず自己紹介しようぜ? 俺はダスト。職業は戦士で武器は長剣だ」

 

「私はダクネス。クルセイダーを生業としている」

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして爆裂魔法を操りしもの!」

 

「アルマです。か弱い冒険者ですのでよろしくお願いしますね」

 

「「「は?」」」

 

冗談です。そんな目で見ないでください。

 

周りから凄い目で見られましたが、私が冒険者なのは本当ですし、か弱いというのも本当ですよ? スキルもこの新しいボディに新調した際に殆ど制限されましたし、ステータスだって低すぎて泣けてくるほどです。

 

「前々から思っていたんだが……アルマの冒険者カードはバグってるんじゃないか?」

 

「確かに。あの身体能力で最弱職の冒険者にしかなれないなんておかしいですよ」

 

「え? アルマさんってやっぱり上級職並みのレベルなの? やっぱあの大人の姿が本物?」

 

そこ、私をのけ者にしてこそこそ話さない。寂しいじゃないですか。

 

「でも爆裂魔法が使えるなんて凄いじゃねぇか。魔法職でそんなネタ魔法を覚えてるってことは相当な凄腕アークウィザードってことだろ?」

 

「ふふん! なかなか見る目があるじゃないですか! 如何にも私は紅魔族で最も優れたアークウィザード! 我が最強の爆裂魔法は魔王すら打倒します!」

 

「そりゃすげー!」

 

……いや、まぁ確かに爆裂魔法の威力は凄いですよ。爆裂魔法の威力は。

 

だって、めぐみんは爆裂魔法(それ)のみに全スキルポイントを注ぎ込んでいますし。

 

ダストさんはめぐみんが上級魔法を覚えている上で爆裂魔法も習得していると思ったのでしょうが違います。彼女は爆裂魔法しか扱えないのです。しかも一日一発のみ。

 

しかも、

 

「そこまで言うのなら仕方ありません。私の爆裂魔法を見せてあげましょう!!」

 

「え、いや別に……」

 

ほら、調子に乗った。おだてられたら良いとこ見せようとするのが彼女の悪いところです。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混交(こんこう)に望み給もう。覚醒の時来たれリ、無謬(むびゅう)の境界に堕ちし理。無業の歪みと成りて現出せよ! 踊れ、踊れ、踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ! これが人類最大の威力の攻撃手段!! これこそが! 究極の攻撃魔法!!」

 

「ちょっと、ちょっと待てって!」

 

あ、今更めぐみんの本気に気づきましたね。もう遅いです。

 

めぐみんの爆裂魔法の詠唱が紡がれます。言葉一つ、呪文が発せられるたびに魔力が当たりに充満し収束していきます。めぐみんという個人から溢れた膨大な魔力が現れた巨大な魔法陣に集められ、それ(・・)が穿たれます。

 

 

「エクスプロォォージョンッ!!」

 

 

 

閃光と爆音。爆発が響きます。

 

目を覆うほどの輝き。

 

耳を塞がなくてはならないほどの轟音。

 

身体が吹き飛ばされそうな爆風。

 

それら全てを引き起こす一発の最上級魔法。人類が編み出した、最強の攻撃魔法。

 

周りがネタ魔法と馬鹿にしようと、その威力は本物。魔物も悪魔も精霊も。等しく吹き飛ばす魔力での大破壊。極めれば敵うものなど存在しない大魔法。

 

めぐみんが生涯をかけて極めると誓った爆裂魔法。その威力。まさしく本物だった。

 

「すげぇ! マジスゲェって……って、え?」

 

「ふふふ見ましたか……我が爆裂魔法の威力……」

 

その破壊力を見て興奮するダストさんだが、爆裂魔法を放った当の本人であるめぐみんが、大地に倒れ伏しているのを見て絶句する。

 

どう見ても魔力切れですハイ。

 

「は? 嘘だろ!? まさかアンタ、今ので打ち止め!?」

 

「何を言っているのですか。私の爆裂魔法は全ての魔力を注ぎ込む大魔法。一発撃ったら動けなくなるのは当然です」

 

「だったらいきなり撃つかフツー!?」

 

「まぁまぁ気にするなダスト。何時ものことだ」

 

「何時も!? 何時もこんなことやってるのかアンタら!!」

 

何を今さら。

 

アクセルの街で『頭のおかしい爆裂娘』の噂は有名でしょうに。知らなかったのなら、それは貴方が悪いんですよ? 冒険者にとって情報は生命線でしょうに。

 

「あれ? 皆さん、山の方から何か走ってきますよ?」

 

「「「え?」」」

 

爆裂魔法を放った草原。その近くの山から土煙を上げて走ってくる生き物がいます。その存在に気付いたのは私だけのようです。

 

「? どこだアルマ。私にはわからないが……」

 

「いや、アルマさんの言うとおりだ。あの山の方から不自然な木の揺れる音と足音がする……って、げぇっ?! ありゃ初心者殺しじゃねえか!!」

 

 

初心者殺し。

 

見た目サーベルタイガーのような猫科大型の魔物。何故に初心者殺しという名称が付いたかと言えば、それは新人冒険者がこのモンスターの被害に最も多くあうからだ。

 

初心者殺しの狩りの方法はえげつない。ゴブリンやコボルトと言った駆け出しの冒険者でも狩りやすいモンスターを追い立て、人里に送る。それを討伐に来た冒険者を誘いだし、襲いかかるのだ。

 

故に初心者殺し。知恵を使う狡猾なモンスター。その驚異を知らぬ駆け出し(初心者)冒険者を狙うかのような狩りの方法から名付けられた、凶悪な相手である。

 

「成程。アレが……ちょっと待ってください。メモしますので」

 

「何言ってんのアルマさん!? 早く逃げる準備を!!」

 

「しょ、初心者殺しだと!? 皆逃げろ! アイツの相手は私がしゅりゅぅ!!」

 

「ちょっ!? アンタ鎧着てないだろ!? やめろって!!」

 

あ、ちなみにダクネスの鎧はベルディア戦で損傷したので修理中です。なので彼女、私服の普段着です。繰り返します。私服の普段着です。

 

鎧なんて着てません。

 

「さぁ来い初心者殺し! 襲うなら私を襲え!! 仲間には牙一本触れさしぇんじょぅ!」

 

「何時も通りですね」

 

「そうですね」

 

「お前らおかしいだろう!?」

 

あらやだ。ダストさん、ダグネスの変態クルセイダーっぷりも知らなかったんですか? ダメですよホント。情報は常に集めてなきゃ。

 

私も、ダクネスが立派な聖騎士だと思っていた時期がありました。それももはや遠い理想郷の彼方です。

 

彼女は救いようのないドMです。きっと魂の形がそうさせるのでしょう。

 

「くそ! 魔法使いの嬢ちゃんは動けねぇし、俺たちでどうにかするしかねぇ!! アルマさん、行きやすぜ!」

 

「あ、頑張ってきてください。私は見てますんで」

 

「はぁ!?」

 

そんな意外そうな顔されても困ります。私の仕事は調査なので、モンスターの生態を見聞きするのが目的です。ついでに冒険者の戦い方とかも見ておきたいので、初心者殺しというレアケースが現れた以上、ダストさんやダクネスには是非とも頑張ってもらいたいところです。

 

「いや、この状況で何言ってんのアンタ!?」

 

「大丈夫、私は貴方たちを信じてますよ」

 

「信じなくていいから戦ってくれません!?」

 

ダメですよ。そんなことしたらすぐ終わっちゃうじゃないですか。私としては色んな情報が欲しいのでそれは勘弁して欲しいところです。

 

なので。

 

「じゃ、頑張って来てください」

 

「え、チョッ、えぇえええええええええええええええええええ!?!?」

 

ダストさんを掴んで放り投げます。勿論、初心者殺しのいる方向へ。

 

頑張れ人の子。私は君たちの奮闘に期待しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」

 

「お、おぉう……」

 

一応のお仕事が終わり、ギルドに戻ってきた私達の後にカズマお兄ちゃん達とダストさんのパーティーが戻ってきました。

 

「……何があったの?」

 

「まぁ色々と」

 

シュワシュワを飲みながら報告書を書く私。酒場の床に転がるめぐみん。恍惚の表情でニヤけているダクネス。

 

私達の姿を見たカズマお兄ちゃんは、なんとそのままその場を去ろうとしました。

 

「待ってくれ! 頼むから待って!!」

 

そんなお兄ちゃんに縋り付くダストさん。見ればその目には涙すら浮かべています。

 

「なんすか?」

 

「俺が悪かった! 悪かったからパーティーを戻してくれ!!」

 

カズマお兄ちゃんは未だダストさんに馬鹿にされたのが気に入らないらしく、ダストさんの訴えを心底どうでもよさそうに聞いています。

 

「聞いてくれって! 街を出ていきなり爆裂魔法ぶっぱなすわ、初心者殺しは出てくるわ!! なのにクルセイダーは突っ込むしアルマさんはギリギリまで戦ってくれないしでもう散々なんだよ!!」

 

「おい皆! 初心者殺しの報告はこいつがやってくれたみたいだし今日は飲もうぜ! 新パーティーの結成で打ち上げだ!」

 

「「おぉーーーーー!!!」」」

 

「待ってくれ! 俺を元のパーティーに帰してくれーーーーー!!!」

 

「あ、私も臨時なのでパーティーは今日だけですので。頑張ってくださいね」

 

「………はぁ?!」

 

いや、そんな絶望的な顔されても、基本私ソロですし。今日はアクアが居ないから代理でいただけなんですが……。

 

今日の稼ぎは初心者殺しのお肉だけですし、帰ってこれで晩ご飯にしましょうかね。

 

では皆さん、仲良くケンカしてくださいね。

 

さようなら。

 

「待ってくださいってぇええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃の『物質』とアクア。

 

「だから親方! これじゃアートが足らないんだって!! 魂! ソウル! もっと熱くなろうよ! まだまだ諦めちゃいけない!!」

 

「アホか! こっちは予算だって決まってるんだよ!! なんで外壁全部に彫刻刻まなきゃなんねぇんだ!?」

 

「テンちゃん様! お願いですから自重してください~~!!」

 

外壁工事の現場で。親方と熱く語り合う『物質』のアルマことテンちゃんと。そんな彼女の泣きながら懇願するアクアの姿があったそうな。

 

「大体なんだこの彫刻? 変な模様ばっかりじゃねぇか!」

 

「この先進的な芸術が理解できないなんて遅れてるよ君!! この魔方陣はね!!」

 

「チョッ?! 今魔方陣って言った!? 魔方陣って言いましたよね! 止めてー! アクセルの外壁を魔改造しないでーーー!!!」

 

大丈夫だろうか?

 




『魂』 「もしもし、リっくん? ワシじゃけど、天童が顔出したら捕まえといておくれよ?」

リっくん「ははははい!! 分かりました神様!!」

『命』 「リグザリオ。天童を見つけたら地上を観光させてやるぞ?」

リっくん「竜王様は僕に死ねと?!」

『理』 「リック。ウチのジャジャ馬が迷惑ばかりかけてすまんな。今度メシでも食いに行くか」

リっくん「はい先生!」



リクザリオ・ローレックス。

『物質』のアルマこと天童アルマの彼氏。身長百四十センチの十六歳。男の娘として絶大なポテンシャルを秘めた逸材。第二シーズンでは高身長のイケメンになる可能性あり。銀河合体アル・マテリオンのメインパイロット。神様と女の子に愛されるハーレム主人公な少年。

彼の周りの同級生(男子)のコメント。

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「リっきゅんハァハァ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「エースはオレだ!」

どんな世界だろう。

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