この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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この神様に秋の終わりを!

本日のアルマは農家の集いに参加していた。

 

季節は冬。雪の降り積もった景色が当たり前となった頃、アクセルの街の農家達は新たな驚異に備えて力を蓄えている。

 

「これ以上力を蓄えていたら国家転覆だって可能な気がします」

 

「やめて。怖いこと言わないで」

 

ちなみにカズマ少年の姿もそこにあった。

 

場所はアクセルの街の一角。

 

農家が利用するために作られた「農民の宿」という少し大きめの公民館のような石造りの建物に彼らはいた。そこは、普段は収穫した野菜や肉類などを集め出荷する為の施設でもあり、農家たちの情報共有の場でもあった。

 

その建物の一室に、この街の名だたる農家達が集っていた。

 

キャベツ農家の老人。

 

豚農家の豚王。

 

鶏卵農家の農場主。

 

酪農農家のケン。

 

他にも、人参、じゃが芋、大根といった野菜を扱う農家に山羊やその他家畜を扱う農家、蜂蜜やサトウキビに酒造などの生産職の者たちまでいる。

 

その場は農家の、農家たちの闘気が密集し、農家パワーが視認できるほどに農家であった。農家が充満していくうちに部屋の木製の家具は生命を吹き返し芽が芽吹こうとするほどに。もはや、この場において農家でない者など存在するだけで許されない。もしもそんな者がいれば、この空間の農家に触れ、農家の一員になるのは時間の問題である。

 

「お兄ちゃん、気をしっかり持ってください!!」

 

「俺は耕す、育てる、大地をををを愛しますす。ガイア様バンザーーーイ!!」

 

「目を覚ませーーーーッ!!!」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

この場に充満していた農家に当てられ、大地の輝きにトリップしていたカズマの顔をアルマはその小さな手で張り倒す。叩かれる瞬間、ぷにっとした柔らかい指の感触にカズマは正気を取り戻した。

 

「危ないところでした……このまま放置していたらお兄ちゃんも立派な変態農家になるところに……」

 

「その変態呼ばわりされてるのは農家達がおかしいからですよね? アルマ様から見た俺が変態だからじゃないですよね!?」

 

それは些細な違いでしかない。カズマ少年ならきっと、立派な変態農家になることだろう。

 

さて、話を戻そう。

 

この場に集まった農家たちは円卓を囲むように置かれた椅子に着席している。その中に、アルマとカズマ少年は混ざっていた。

 

では、彼らがここに集まった理由。議題とは何だろうか?

 

それは。

 

 

『今年の冬将軍は誰が討伐する?』という問題であった。

 

 

「あの、アルマ様? 冬将軍って一体……?」

 

これに不思議に思ったのはカズマ少年だ。彼は地球・日本の知識から『冬将軍』という単語は知っている。それは冬の風物詩。厳しい冬の寒さを擬人化し、その脅威は将軍のような恐ろしさと力強さだと表す言葉。だからこそ、それをこの異世界で聞き、あまつさえ討伐すると言われれば疑問にも思うだろう。

 

「『冬将軍』は『台風一過』と同じ季節の精霊ですよ。先日の秋の精霊の時と同じ案件でしょう」

 

「成程。また日本人のせいですか」

 

日本人のせい。その言葉が示すとおり、この世界の精霊たちはどれここれも可笑しな風貌をしている。それもこれも、日本から転生してきたチート冒険者達が強敵を求めて姿を変える精霊たちと戦い続けたのが原因である。よって、冬将軍という精霊もまたチート転生者である日本人のイメージを元にした姿をしていた。それは全身甲冑の日本武者。手にした名刀で同族の雪の精を守護するその姿はまさに武士の鑑。その戦闘に特化した出で立ちからもその強さは将軍の名に相応しい恐ろしさ。間違いなく、戦犯は彼らであった。

 

「………秋は大変でしたね」

 

「そうっすね」

 

既に過ぎた秋の季節。そこには激動の戦いがあった。

 

秋。それは四季の中で穏やかな季節。夏のように暑苦しくもなく、冬のように凍えることもなく、春のように新たな生活の準備に追われることもない。秋は少しの肌寒さを感じながら力を蓄える穏やかな季節………そう思っていた時がアルマやカズマ少年にもあったのだ。

 

あの、秋の精霊四番勝負が無ければ。

 

「まさか、秋の風物詩が連続ラッシュするとは」

 

「バカだろ。日本の転生者この世界に迷惑かけすぎだろう」

 

秋には四つの風物詩がある。いや、日本人特有の、であるが。

 

スポーツの秋。読書の秋。食欲の秋。芸術の秋である。

 

主に秋に親しまれ、よく言葉にされているのは日本人なら知っているだろう。それは穏やかな秋の季節に余暇を有意義に楽しむ為の行い。身体を動かし、よく食べ、知識を蓄えて創作を楽しむ。

 

それらの行為の総称がこれらであり……日本のチート転生者達がこの世界に持ち込んだ概念であった。

 

「秋といえば○○の秋じゃね?」。そう言って活動を始めた彼、彼女等は秋を大いに楽しんだ。その結果、その行動は秋の精霊の目に留まり、模倣された。

 

 

例えば。

 

スポーツの秋。

 

大きな人間の集まる場所。つまり街の中に現れるガタイのいい大柄なスポーツマンの姿をした精霊。大勢の人間を無理矢理集め、トライアスロンを強制してくる。街の運河を泳ぎ、盗んだ馬で走りだし、ゴールを目指して走り続ける。これが終わる頃には街の姿は死屍累々の地獄絵図となり、スポーツの秋に勝利する者が現れなければ終わることがないデスレース。

 

読書の秋。

 

知識欲の権化のような精霊。頭から足の先までローブでスッポリと隠した少年の姿をし、街を歩く人々に無理矢理難解な著書を読ませようとする。それは仕事をしている時、食事をしている時、睡眠をとっている時と見境がなく、また読まされる本の難解さから頭も痛くなること間違いなし。しかも、読みたくないと逃げればどこまでも追いかけられるという。

 

食欲の秋。

 

それは暴食の権化。小さな少女の姿で、再現なく街の食料を喰らい続ける悪鬼羅刹なり。討伐が遅れれば、冬が来る前に街は飢餓で滅ぶだろう。

 

芸術の秋。

 

芸術と名のつく全てを愛する精霊。可愛らしい女性の姿で現れ、その街で最も盛んな『芸術活動』を行う。ある意味、一番大人しく脅威的な精霊である。

 

 

 

「スポーツの秋には手こずらせられましたね」

 

「全身筋肉痛ですハイ」

 

街の住民全てを集めた強制トライアスロン。一週間にまで及んだデスマーチは、アクセルの街からスタートし、モンスターのひしめく草原を走破し、アクセルの街の冒険者ギルドまで帰ってくることをゴールとしたレースであった。そして、このレースに勝利したのはなんと、馬を育てている牧場主であった。

 

「牧場主さんには馬小屋での寝泊りでお世話になっていましたが……まさかあれほどの猛者だったとは……」

 

「泳ぎは普通だったけど、陸を走るのは馬並みの速さ。馬に乗って走れば誰も追いつけない、でしたしね」

 

「なんなら馬を担いで走ってやらァッ! おっと、背負って泳ぐのは簡便な!」と豪語した彼の牧場主の姿をアルマは忘れないだろう。というか忘れたくても忘れられない。なにあのイキモノ? 本当に人間? 

 

「それと読書の秋は……まぁ思いの外有意義な時間でした」

 

「アルマ様大活躍だったじゃないすか」

 

読書の秋。街の住民に無理矢理読書をさせる彼の被害者の中にアルマの姿があった。そして、アルマが最後の被害者であり勝者だった。彼女は押し付けられた六法全書のように分厚く、電話帳のように細かい本を恐ろしいまでの速読で読破した。それどころか、四百字詰め原稿用紙三十枚の感想文を書き連ね、読書の秋に押し付けたのだ。

 

そしてこう言った。「読め、そして感想を書け」と。後には涙目の読書の秋と採点と添削を延々と続けるアルマの姿がそこにあり、読書の秋はアルマが満足するまで消滅することを許されなかったという。どっちが被害者だ。

 

「食欲の秋は……農家の怒りが凄まじかったですね」

 

「怖かった……あれは本当に怖かった……」

 

食欲の秋。美味しそうなものは手当り次第に食す少女の脅威は計り知れなかった。店先から陳列された野菜が消え肉が消えた。馬小屋の馬もキャトられる程であり何より、農家の出荷予定の商品にまで暴食される被害が出た。

 

それが食欲の秋の最後であった。彼女は農家の逆鱗に触れたのだ。ありとあらゆる農家という生産職が食欲の秋に殺到し、必殺拳を放っていった。後に残されたのは食欲の秋が食い散らかした食材の食べかすだけだっとという、実に虚しい勝利だっという。

 

「芸術の秋は……めぐみんは肩身の狭い思いをしてましたね」

 

「ウチのパーティーメンバーがホントすいませんでした」

 

芸術の秋はその街で最も流行した芸術活動を行うだけの、一番大人しい精霊……だというのに、今年のアクセルは最悪の芸術活動が行われていた。そう、人はこういう。「芸術は爆発だ」、と。

 

一日一爆裂! と豪語し実践する頭のおかしい爆裂娘。その名はめぐみん。彼女が毎日毎日アクセルの街の外でぶっ放す爆裂魔法を、芸術の秋は芸術活動だと理解した。してしまったのだ。そうして始まる地獄絵図。ところかまわず鳴り響く爆裂魔法の轟音にアクセルの住人はブチ切れ、めぐみんは何時も以上に睨まれた。そうなれば当然、彼女を有するカズマ少年のパーティーが芸術の秋討伐に向かうのは必然であろう。

 

「……今更ながら、よく勝てましたね? 確か、芸術の秋が認めるほどの『芸術活動(爆裂魔法)』を見せつけないといけないんでしたよね?」

 

「ウィズも手伝ってくれ……あ、まぁめぐみんも爆裂魔法のいい特訓になったって喜んでました!」

 

「……? まぁ、彼女が楽しかったのなら芸術の秋も本望でしょう」

 

ちなみに、この世界の住人達は知らない。カズマ少年も、アルマですら知らない事実がある。

 

この四体の精霊達はそれぞれ、四人のアルマ達の写身であることを。

 

スポーツの秋は生命溢れる『命』のアルマ。

 

読書の秋は叡智の象徴、『理』のアルマ。

 

食欲の秋は欲望の権化、『魂』のアルマ。

 

芸術の秋は溢れる創作意欲の塊、『物質』のアルマ。

 

この四者四様の、暇を持て余した神々の戯れが秋の精霊騒動の原因だということを知られないことは世界にとって幸せなことであろう。

 

 

 

 

 

「それで、冬将軍はどうするんでしょうね?」

 

「立候補者が討伐するみたいっすよ」

 

ここに集った農家たちは誰もが(農業の)腕自慢の猛者ばかり。彼らは皆こう言う。俺がやる、と。

 

「ちょうど新しい豚小屋を建てようと思っとったところ。今年の冬将軍は我が討伐して見せようぞ」

 

そう宣言したのは豚王である。彼は自信満々、至極当然といった不遜な態度で冬将軍討伐を名乗り出た。

 

「いや、お主は豚の世話でもしておれ。冬将軍とは拙者の物干し竿と切り結ぶ約があってな」

 

「ぬ、何を言うコジロウッ! 貴様の腕試し、いつ終わるかも分からぬ戦では冬の終わりも見えてこぬわ!!」

 

「ふむ。それも当然。が、生憎拙者らは米の収穫も終わって暇を持て余しておる。ならば、刀を存分に振るいたくもなろう?」

 

「それは困るな。冬が終わらなければ野菜も育たない」

 

「ウチの蜂たちも冬が終わらんと産卵を始めん。討伐するならさっさとやってくれ。……別に、ウチが倒してしまっても構わんのだろう?」

 

最初に飛んおうが名乗りを上げ、米農家のコジロウが続く。それに感化され続々と声を上げる農家たち。皆冬が終わらねば仕事にならぬと不満を募らせているのだ。

 

冬の終わり。それは農家にとっては待ち望んだものなのだ。

 

寒さは生命の活動を停止させる。動植物は冬眠し、大地は凍りつく。それでは作物も養殖も行えず農家は悲鳴を上げるだろう。

 

冬将軍の討伐。これは農家にとって早急にカタをつけなければならない案件であった。

 

我こそはと声を上げる農家たち。その喧騒に場の空気は混沌を極め収拾がつかないでいた。故に、アルマは頼った。彼を。

 

「お爺ちゃん。どうしましょう?」

 

「………うむ」

 

彼は老人だった。そして最も農家であった。長年培った技術を大地の女神への信頼。それらが凝縮し昇華した農家である老人は静かに黙考し、口を開いた。

 

「早い者勝ちじゃ」

 

「「!?」」」

 

その言葉に、その場の農家たちは皆声を失う。驚愕に、そして喜びに。

 

 

「冬は早く終わるに越したことはない。それは事実じゃ。が、冬将軍ほど手頃(・・)な相手もそうはおらん。死合たいというのも道理じゃろう」

 

いや、そんな『理』しいてねぇよ? と思いもしたが、そんな言葉は当然この場の農家たちには届かない。彼らには彼らの『(ルール)』があるのだろう。

 

少し寂しい。

 

「冬将軍の討伐報酬は二億。これで新たな農具を買うも良し。事業の投資を行うも良し」

 

老人は語る。巨額の報酬の使い道を。かつて自分が辿った道程を。それは若き農家たちへの激励であった。

 

「欲しければ掴みとるがいい。農家とは生命の開拓者ぞ! ()けぃ!!」

 

「「「おおぉっ!!!!」」」

 

農家たちが我先にと外へと駆け出していく。向かうは雪の降り積もった山の頂き。目指すは冬将軍の首ただ一つ。

 

「……今年の冬は早く終わりそうですね」

 

「わーい、これで馬小屋で凍え死ぬこともないわ」

 

今頃山中では農家による山狩りが行われていることだろう。哀れ冬将軍。君の勇姿は忘れない……というか、見てみたかった。

 

農家が去り、がらんとした室内で残ったのはアルマとカズマ少年。それと老人だけであった。自分たちも帰ろうか、そう思い立ち上がったアルマはふと老人を見る。

 

そこには、寂しさを漂わせる老人の、小さな背があった。

 

「……帰りましょう、お爺ちゃん」

 

「おぉ、そうじゃなぁアルマちゃん」

 

未だ帰らぬ農家の息子。冬将軍の討伐は、彼に行なって欲しかったという親心にアルマは触れていたのだった。

 

「息子さん、今頃どうしているんでしょう?」

 

冬将軍はこの三日後に討伐されたという。

 

決まり手は大地を焼き尽くす、『焼畑農業拳』だったという……。いや、やったのどこの農家だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………相変わらず酷い世界だなぁ、おい」

 

「ノーコメント」

 

天界。アルマからの報告書を読んでいた『理』のアルマ。彼はその奇想天外な報告書にツッコミを入れつつも嘆息して茶を飲んだ。その話し相手は娘のエリスである。

 

「で、首尾はどうだ?」

 

「過去数百年に及んで書類の改竄後がありました。主に『物質』様の担当分で」

 

「内容は?」

 

「資材の必要以上の浪費、技術の流出かと……」

 

その報告に、青筋をこめかみに浮かべるアルマ。

 

最近、どうにも『物質』のの態度が挙動不審だったことから怪しいと当たりをつけていたのがドンピシャだったと『理』のは頭を抱える。

 

つまり、

 

「どんな手を使ってもいい……あの馬鹿を捕縛しろ!!!!」

 

「はい!!」

 

下界同様、天界においても大規模な討伐クエストが発生した瞬間だった。

 

天裂き地砕ける神々の折檻が幕を開ける。

 

 




『理』 「あの馬鹿もんはどこ行った!?」

『魂』 「『物質』なら芸術を極めると言って逃げたぞ」

『命』 「口止めしてと言われたが、何かあったのか?」

『理』 「ん、これを見てみんしゃい」

『魂』『命』「………あー……」

『理』 「場合によっちゃぁ…下界のアルマに制限解除してでも動いてもらわねばならん!」

『魂』 「(『物質』の、後でお仕置きコース確定じゃな)」

『命』 「(彼氏のショタ少年にも手伝って貰おう)」




『命』、冬コミ脱稿! 下界のアルマに新刊を送付した模様。 

今回は『理』視点の光景でした。彼は最近頭痛薬が手放せない様子。


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