この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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日が空いて申し訳ありません。体調不良でしばらく休んでいました。


この神様に依頼を!

農家、という職業がある。

 

それは農業を行う者を指す。

 

それは大地を耕す者を指す。

 

それは家畜を育てる者を指す。

 

それは、屈強な肉体を持つ者を指す。

 

 

故に。農家とは常に、鍛え続けているのである。

 

 

「おぉぉぉ!! あたたたたたた!!!」

 

「グゥアアアアアアアアアアアア!!!」

 

早朝。朝日が昇るのと同じ時間に、草原で拳を交わす二頭の熊の姿があった。

 

否、正確には熊にあらず。

 

一頭は一撃熊と呼ばれる魔物。とある神によってダックスと名付けられた個体。

 

一頭は農家の息子。熊のように大きな体格の三十代も後半に差し掛かった今だ独身の男。

 

彼らは常に高みを目指す。ダックスは強さを。息子はより良き農家を。

 

拳のぶつけ合いから始まり、大地に蹴りを放って畑を耕し、抜き手を放って畝を形作る。それを日が昇り、朝食の時間までに終わらせるのが彼らの日課であり修練であった。

 

そんな彼らを見守り、叱咤する男が。

 

「なっとらん! 全然なっとらんわ! この未熟者共が!!」

 

もはや存在全てが農家となった男。農業によって肉体を育て、農業によって大地と対話する彼は、今日も後進を育てていた。

 

「アルマちゃんを見ろ! 既に畑を完成させて種まきまで終えているぞ!!」

 

「「グゥッ!」」

 

「あの、なんだかすいません……」

 

「えぇんよ。アルマちゃん、朝ごはん食べようや」

 

農家の息子とダックスが耕した畑のすぐ横で、アルマが耕した畑が朝日の光で輝いていた。その大きさ、二人?がかりで耕した彼らの畑の倍の大きさである。しかも、息子達が耕した畑は畝作りまで。それに対して、アルマは作物の種まで植え終えている。

 

何故か?

 

それは、彼らと違い既にアルマは大地との対話を終えているからである。

 

というか、

 

「(あー、その、ガイア?)」

 

『あらぁん? なにかしらんアルマ様?』

 

対話するも何も、呼びかければ当然のように『大地』の女神ガイアが返事をしてくるのだから当然だろう。

 

「お前たちには聞こえんのか!? この大地の声が! 耕す大地の痛みが!! それも分からず、耳を傾けぬ農家など唯の無法者よ! だからお前らは阿呆なのだぁあああああああ!!」

 

「くぅ、農業を初めて数ヶ月のアルマちゃんに先を越されるなんて……」

 

「グゥアッ! グゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

「あー、働いた後のご飯美味しい」

 

「お代わりもあるけんね」

 

今日の朝食はおにぎりと唐揚げ、キャベツの味噌汁であった。

 

 

 

 

さて、朝一番から暑苦しくて申し訳ありません。アルマです。

 

季節は秋。今日も農家は農業に勤しんでおります。

 

春キャベツの収穫が終わり、次に育てるのは夏秋キャベツです。

 

まずは新しい畑づくりから。春キャベツを作る時に使った畑は冬までお休みさせるそうで。

 

ついでに、息子さんとダックスを鍛えるためにも新しい畑を一から作らせるそうで。

 

つまりお爺さんは、息子さんを鍛え直そうと考えているみたいです。

 

対抗馬はダックスでしょうか? 熊なのに馬とはこれいかに。

 

え? 私ですか? 私は冒険者ですので。

 

「やっぱり俺には……農家の才能がないのかな………」

 

「息子さん……」

 

お爺さんに厳しく言われたのが堪えたのか、息子さんが弱々しく呟きます。ご飯はしっかりと完食してますが。

 

「うちには昔、三人の兄弟弟子がいたんだ」

 

「はぁ…」

 

「うちの親父は耕作と畜産を極めたスーパー農家人だったんだ」

 

どっかの星のヤサイ人ですか?

 

「基本的なことは皆が教わった。でも、やりたいことは別だから、だから大兄弟子は養豚について師事し、小兄弟子は鶏卵について、弟弟子は酪農を………でも、俺は耕作を学んだんだ。耕作だけを」

 

あの人達かッ! あの人達が一つ屋根の下に集結してたとか怖いんですけど!?

 

「俺は親父の息子だから。親父の後を継ぐなら全てを学ばなきゃって思ってたんだ。そうやって頑張って、頑張って……でも、駄目だった」

 

「え?」

 

「アルマちゃん。俺はね? 家畜を殺せないんだ」

 

あ……。

 

「畜産は生き物を育てて、大切に育てて、怪我をしないよう、病気にならないよう気を配って……最後にはその命を奪う仕事だ」

 

あぁ、そっか。

 

「俺にはできなかった。鳥を絞める時の手の感触、瞳が暗くなっていく豚と牛を目が合った瞬間。それが何時までも消えなくて、手が震えるんだ。足が竦むんだよ」

 

初めて会った時から優しい人だと思っていた。大きな体躯の小さな心。小心者という臆病者。優しさが強さではなく、弱さになってしまった人。

 

「家畜はペットじゃない。愛でるだけな駄目なんだ。生活のため、売上の為に『殺すために育てる』ことをしなきゃらない」

 

それは悪いことじゃない。でも、足を止め、遠ざかるということは生き方を狭め選択枝を減らすということにほかならない。

 

「俺は、畜産から逃げたんだ。耕作しかできないんじゃない。耕作を極めなきゃ、農家として生きられないんだよ……」

 

息子さんは泣いていました。その大きな身体を小さく縮こませ、震えて泣いていました。

 

お爺さんという大きな父の姿を見て育った彼には、その後を継がなくてはというプレッシャーがあったのかもしれません。大成した兄弟弟子達に引け目があったのかもしれません。

 

でも、息子さんは頑張っていました。

 

才能がないなんて弱音を吐くのは、弱音を吐きたくなるまで頑張ってきたなによりの証拠です。

 

人は弱いんです。弱いからこそ頑張ります。強い人が出来ることを出来るようになるために。それがどんなに辛いことでも頑張って。頑張ってしまえるから人間なのです。

 

頑張れない人達は、それでもいいのです。辛いことを頑張るということは我慢するということです。耐えるということです。

 

人間は耐えることができます。しかし、それで壊れてしまうこともあるのです。頑張れる人ほど壊れやすくなってしまうのです。

 

肉体が、心が。どちらも傷ついて、溢れた心が弱音となって漏れ出すのです。

 

ならば、それを救って(掬って)あげるのが私の仕事です。

 

「息子さん、あ「俺の名前を、」」

 

え?

 

励ましの言葉をかけようと、しかしそれはその本人によって遮られました。

 

「俺の名前を、言ってみろォオオおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「息子さーーーーーーん!?」

 

咆哮をあげ、そのまま走り去っていく息子さん。

 

仕事をほっぽり出したら怒られますよーーーーーッ!

 

というか、貴方名前あったんですか!? 皆さん『息子』って呼んでるからそういうものだと思ってたんでけど! 

 

謝りますから帰ってきてくださーーーーーい!!!

 

あと、名前教えてくださいよ! じゃないと呼べないじゃないですか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者ギルドにて。

 

「なぁカズマ。お前は今日も働かないのか?」

 

「言ったろダクネス? もう借金はないんだ。領主のおっさんが三億を払ってくれるって言うんだから、それを待ってるんだよ」

 

「そういってもう一週間も飲んだくれているじゃないですか」

 

今日もギルドの酒場でシュワシュワを飲みながらツマミをかじっているカズマの姿があった。

 

冒険に行きたいダクネスとめぐみんはそんな彼に苛立ちつつも諦めることなく説得している。

 

アクア? 彼女は、

 

「さぁさぁじゃんじゃん持ってきてー! 宴会よ! お金はたっぷり入ってくるんだから全部ツケといて!!」

 

大金が入るとわかると、翌日から毎日ギルドで酒宴を開いていた。周りの冒険者達も、タダ酒に有り付けるとノリノリで誰も止めようともしない。

 

有り体に言って、調子に乗っていた。

 

しかし、そんな彼らにダクネスは無慈悲とも言える忠告を放った。

 

「その金はいつ手に入るんだ?」

 

「「はい?」」

 

カズマがシュワシュワの入ったジョッキを持ち上げた腕をピキリと固める。

 

アクアも《花鳥風月》を垂れ流したまま顔を引き攣らせた。

 

「アルダープは悪事で貯めた財産を吐き出すように方々への賠償金を払っている。今や贅沢をこり固めたような屋敷は空の箱。お前たちに支払う懸賞金の三億など、残っているかもわからんぞ?」

 

「い、いや……でもアルマちゃんが悪徳領主はちゃんと払うって約束したって……」

 

「約束はしただろうさ。だが、それは何時になる? 明日か? 来月か? 一年後か?」

 

「「………」」

 

「もしかすると、分割払いという線もありますよ? 領主自ら奉公に出たという噂もありますし」

 

「「え!?」」

 

最近、毎日のようにギルドで酒盛りをしていたカズマとアクアは知らなかったことだが、領主アルダープは既に領主ですらない。そして富豪でもない。財産も殆ど無く、自ら働いて日銭を稼ぐ生活をしているという。出来た息子は、領主を継いでくれたとある大貴族の元で働いているそうだ。

 

つまり、三億の賞金など支払われる当てなど殆どないのだ。

 

いや、いつかは支払われるのかもしれない。だがそれは、予定の決まっていない未定で仮定の話しであった。

 

その話しを聞いて、ギルドで盛り上がっていた冒険者達がそそくさと席を離れ始める。と同時に、酒場を担当する職員達が目を光らせ始めた。

 

既に、アクアがギルドの酒場にツケた金額は洒落にならないものになっているのだ。

 

「……で、どうするんだ?」

 

「なんでもいい! 今すぐクエストを受けるぞ!! 出来るだけ報酬のいいやつ!!!」

 

「何してるのダクネス! 冒険が私達を待ってるんだから!! ほら! めぐみんも急いで支度して!」

 

「「こ、こいつらは……ッ!」」

 

カズマ達の借金返済生活が再び始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ないか!? なんかないか高額クエスト!?」

 

「『サラマンダー十体の討伐』が百万エリスでありますよ?」

 

「死ぬわよ!! もっと楽して稼げるの!!」

 

「そんなのあればとっくに誰かが受けている! お、これとかはどうだ? 『森で昆虫型モンスター大量繁殖。駆除されたし』報酬は五十万エリスだ」

 

「お、いいじゃん! それにしよう!!」

 

「……なお、ベテランの農家が既に重傷を負った模様……」

 

「却下!!!」

 

ギルドの掲示板で血眼になって張り付くようにクエストを漁る。早急に大金が欲しい。切実に欲しい!!

 

「一体どれだけ飲み食いしたんだ、この二人は……」

 

「確実に数十万ほどはツケを作っていますね」

 

めぐみんとダクネスが冷めた目でこっちを見ているが、そんなことは気にしてられない。このままではまた借金地獄だ。前はアクアがこさえた借金だったが、今度は俺の分もある。

 

夏が終わり、秋に突入した今の季節。涼しくなってきたが今だ残暑が残る今の時期にはそこそこ身入りのいいクエストが残っていた。

 

……危なかった。これで冬になっていたら弱いモンスターは全部冬眠してたらしい。

 

「モンスターは夏に多く見られます。しかし冬が近づくと冬眠に備えて数を減らしますので、今が最後の稼ぎ時でしょうね」

 

「でも微妙に手強いモンスターがいるクエストしかないけどな!!」

 

寒さに弱いモンスター程早く冬眠に備えて巣穴に引っ込むらしい。つまり、今活動しているモンスターは寒さに耐性もあり、食料の確保にも余裕のある強い個体ばかりだという。

 

不味い。つまり、手頃に討伐できるカエルとかはまっ先に冬眠しているし、数が多いゴブリンや手強い一撃熊が相手のクエストしか残っていないっていうことだ。

 

でも報酬はいい。

 

「どうする? どう……」

 

そこへ。

 

「カズマお兄ちゃんに依頼をお願いします!!」

 

アルマ様が飛び込んできた。

 

その手に、クエストの依頼書を携えて。

 

 

「家出した息子さんを探してください!!」

 

 

息子さん、三十過ぎのおじさんですよね!?

 

 

 




『魂』 「悩むのは人間の専売特許じゃな!」

『理』 「……?」

『物質』「どうしました先輩?」

『理』 「いや、下界の子機とのリンクが、な」

『物質』「え? 僕の創った肉体ですよ? そんな不備は……」

『命』 「まぁ、あの子は既に一個の命だ。そういうこともあるだろう」

『魂』 「にょほほ。元の精神は同じでも、のう?」

『理』 「人の心は理屈じゃないからなぁ……」


アルマちゃんはアルマ様の子機でした。

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