この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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仕事で嫌なことってありますよね。そういう時ほど筆が乗る。


この神様に殴り込みを!!

アクセルの街でひときわ大きな屋敷があります。

 

この屋敷の主こそ、アクセルの街を含んだここ一帯の領地の領主なのです。

 

その領主の名は、アレクセイ・バーネス・アルダープ。

 

アクセルの街で悪徳領主と名高い男である!

 

脱税の疑いなど毎年のことで、それ以外の余罪などそれはもう出るわ出るわ。街の噂だけで両手両足の指では足りないほどに口々に出される悪行の数々。

 

しかし悪事がよほど上手いのか、証拠が一切出てないという。それでは罪には問えないし、貴族の権力をゴリ押したもみ消しも多い。被害者は泣き寝入りするか、最悪貴族に逆らった者として逆に処刑されることもあるらしい。

 

つまり、どうひいき目に見ても、アルダープという領主は悪党らしいです。

 

しかし、あくまでも、噂では、です。

 

 

「………くっさ!? ナニここくっさぁ!?」

 

開始早々申し訳ありません。

 

現在この街の領主の屋敷の前で鼻を摘んで悶えている女の子、アルマです。

 

最悪です。私の悪魔ブッ殺センサーがバリ三です。

 

つまりですね。この屋敷、悪魔がいます。私の嗅覚を誤魔化せると思うなかれ。例え屋敷の奥深くに隠していたとしても私には分かるのです。

 

世界というキャンパスに、悪魔という汚れが付着しているのです。これはいけません。

 

早急に、そして確実に汚れを落とさなくては。

 

お掃除しましょう。

 

借金? それはまた今度にしましょう。

 

「たのもー!!!!」

 

屋敷の正面にある立派な門を叩きます。門番さんが二人立っていますが、アポなし訪問ご容赦ください。

 

「すいませーーーん! 悪魔いますよねー? 処分するんで持ってきてくださーい!!」

 

「ちょっ!? なんなんだこの娘は!?」

 

二人の門番さんが慌てて駆け寄ってきます。そうですね、悪魔が居るなんて不安でしょうがないです。わかります。

 

「このお屋敷、悪魔がいます! 大丈夫、私がすぐに駆除しますので安心してください!!」

 

「………………」

 

「さぁ! 門を開けてください!」

 

門番さんは私を前にニッコリと微笑みました。そうです、もう安心ですよ?

 

そして、

 

 

何故か私は、門番さんに抱えられてギルドまで連行されました。

 

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「何が悪かったのでしょうか?」

 

「全部じゃないですかね?」

 

ギルドで再びカズマお兄ちゃんとシュワシュワを飲みながら、作戦計画です!

 

「あれ? これまさか俺もやんなきゃダメなのか? 強制参加?」

 

当たり前じゃないですか。

 

「いいですか? 悪魔ですよ? 悪魔がこの街にいるんですよ? なら殺処分は当然ですよ? それを匿っているなんて信じられません! きっと領主さんは悪魔に誑かされているんですよ!!」

 

「そ、そうですね! あ、悪魔を街に匿っているなんて正気を疑いますよね!?」

 

? どうしたのでしょう? カズマお兄ちゃんが急に饒舌になりました。いえ、きっとお兄ちゃんも悪魔の気持ち悪さと救いようのなさに気づいたのでしょう。やはり人の子に悪意を求める悪魔など滅ぼすべし。

 

「ということで、どうしたら領主さんのお屋敷に殴り込みに行けるでしょうか?」

 

「殴り込むんっすか!?」

 

「あ、あと借金のお話もしなくては」

 

「ついで!? もう当初の目的とか後回しなんですね!!」

 

いえいえそんな。きっと領主さんも悪魔から開放されれば心穏やかに私達の話に耳を傾けてくれるようになりま、……あれ?

 

「あの、ひょっとしてなんですけど……領主さんが悪徳領主と揶揄されるほど悪行を重ねているのは全て悪魔の仕業なのでは?!」

 

「なんか凄いとこに飛び火した!?」

 

そうです! きっと領主さんは悪魔によって悪行を強いられているです! こうしてはおられません!! もう一度領主さんのお屋敷に赴き、今度こそ悪魔を駆除しなくては!!

 

「では行ってきます!!」

 

「ちょっ!? 誰かーー!!! この子止めてーーー!!」

 

 

 

 

 

 

というわけで、アルマ様は本当に領主の屋敷に殴り込みに行った。止めようとしているうちに、何故か俺まで領主の屋敷前に来ている。

 

しかし、

 

「おらー! 出てこい領主!! 税金下げろや!」

 

「このドケチ領主が!! いい加減店のツケ払え!! いくら踏み倒してると思っているんだ!!」

 

「ウチの土地を返して!! アンタが不当に取り上げたことはわかってるんだからね!!!」

 

「俺の娘を返せ! なにがメイドにしてやるだ!! もしも手を出してたらぶっ殺してやる!!」

 

ギルドでアルマ様との会話を聞いていた冒険者達を引き連れて。

 

これ、全部で二百人位いるんじゃないか? 

 

ギルドから着いてきた冒険者達を始め、話しを聞きつけたアクセルの街の住人が続々と合流してきた。数が数を呼び、膨れ上がった人の数は屋敷の門の前に留まらず、周囲をぐるっと囲む程になっていた。

 

なんて思っているうちにまた増えた。どんだけ恨み買ってるんだよ領主。

 

「凄い人の数ですね」

 

「領主は手広くやっているからな。その、色々と……」

 

「くっさ!? 本当にくっさぁ!? 確かに屋敷の中から匂いが漏れてるわ! 間違いなく邪悪な者が潜んでいるわよ!!」

 

「匂いどころか嫌な気配もするよ! 近づいたらヤバイと思わせる程なんてかなりの悪魔だよ!!」

 

「でてきなさーい! 貴方は完全意包囲されていまーす! 悪魔を差し出して改心しましょう!!」

 

めぐみんやダクネス。それにアクアやクリスまで加わって、なんかもうこれ、デモじゃないか?

 

ちなみに、こいつらはアルマ様がまた小さくなっていることに最初は驚きはしたが安堵もしていた。よほど大人アルマ様の衝撃が尾を引いていたのだろう。露骨にホッとしていた。まぁ、本人が何時でも大人になれますよ? と言ったところ、盛大に顔を引き攣らせていたのもいい思い出です。

 

そうして騒いでいること小一時間。

 

「なんだこの騒ぎは!? 貴様らここを誰の屋敷だと思っている!!!」

 

でっぷりと太った図体の大きい、まるで豚のように太った熊のような金髪口ひげのおっさんが屋敷から出てきた。おっさんは屋敷から庭に出ると、それ以上門には近づかずこちらを怒鳴っている。

 

あれが噂の悪徳領主か。確かに悪いことしてそうな顔をしている。人を見た目で判断してはいけませんと、幼い頃親に教えられた俺だが、このアルダープという男に関しては見た目で判断していいと確信できる。

 

だって、着ている服がいかにも成金ですって言っているような悪趣味な格好だもの。

 

具体的に言うと、金目のものを高いものから順に服に装飾として縫いつけましたと、そんな感じの服だった。

 

豚に真珠とはよく言ったものである。

 

有罪(ギルティ)!!」

 

「なっ!?」

 

アルマ様が領主を指さすと、突然声を張り上げてそう言った。

 

見ただけでわかるんかい!!!

 

「領主さんから悪魔の残り香がします!! こいつはクセェーです!」

 

「確かに邪悪な気配がするわ!!」

 

「なんで今まで気付かなかったのかわからないけど、確かに悪魔の気配がするよ!!」

 

アルマ様に続いてアクアまでそんなことを言い出した。あと、何故かクリスも。敬虔なエリス教徒の彼女は悪魔の気配にも敏感なんだろうか?

 

「なななななななな何を言ってるんだ!? あ、あ悪魔なんてこの屋敷にいる訳がないだろう!!!」

 

大根か。居そうだよ。絶対いるだろこれ。

 

「領主さん!」

 

「なんだ小娘!?」

 

「大丈夫。貴方は救われますよ」

 

「はぁ!?」

 

両手を胸の前で組み、慈悲深い微笑みを浮かべて。アルマ様は悪徳領主アルダープにそう告げた。

 

どうしよう? このおっさん、絶対に自業自得というか、身から出た錆びなパターンだと思う。絶対悪魔に騙されたとか唆されたって案件じゃないわ。

 

「領主さん! 悪魔は駄目です! そばに置いてはろくな目にあいませんよ!? 貴方は騙されているんです!!」

 

「だから悪魔などいないと言っているだろう!! なんの根拠があってそんな戯言を!? しかもこんな騒ぎまで起こしよって! どう責任を取るつもりだ!! 責任者は誰だ!! 警察に突き出してやる!!」

 

「「「!!?」」」

 

警察。その一言で群集は押し黙った。まぁそりゃそうだ。しょせん悪事の証拠もない糾弾だ。訴えられればこちらが不利である。

 

というか、なんでこんなに集まってきたんだろう? 

 

「責任者は私です」

 

「ほぅ? お前だと、小娘」

 

まっ先に名乗り出たのは、やはりというかアルマ様だった。堂々と、なんの躊躇いもなく前へと出るその姿に周りの大人達は息を呑む。

 

あ、そうか。ここにいる皆、アルマ様に、アルマ様だから着いてきたんだ。

 

彼女が前を行くから。だから着いてきた。

 

領主に言いたいこともあったんだろうけど、それが爆発したのは、彼女が心配だったから。

 

この街の人達みんなが大好きな女の子を、この街のみんなが心配して着いてきた。

 

それだけのことだ。

 

「悪魔がいます。絶対います。それを私に証明させてください。もしもここに悪魔がいないと言うのであれば、どんなことをしても私が償います」

 

「……ほほぅ? どんなことでも、だと?」

 

アルマ様!?

 

「駄目だアルマ!!」

 

ダクネスがアルマ様の肩を掴んで止める。周りの大人たちだってそうだ。こんな、見るからに好色そうなおっさんにそんな約束していいはずがない。

 

「このロリコン! お前アルマ様に何を期待した!? 言ってみろよ! 可愛い幼女を先物買いしてみたいと思いましたって言ってみろよ!!」

 

「お前中々わかってるじゃないか……って、誰がそんなこと思うか!!!」

 

ちぃ、領主め、やっぱり思ってるじゃないか。

 

「カズマ……あんた」

 

「まずこの男を警察に突き出すべきじゃないでしょうか?」

 

「公衆の面前でそんな罵りを! んんッ!」

 

「ダクネスも大概だと思うよ?」

 

うるさいぞお前ら。

 

「カズマお兄ちゃん、いいのですよ。でも、心配してくれてありがとうございます」

 

どうしよう。素直なお礼が逆に心苦しい。

 

「でも、大丈夫です。ちょっと行ってきますね」

 

「「「え?」」」

 

「なっ!?」

 

行ってきます、そう言って。

 

アルマ様は屋敷の門をぴょんっ、と軽く飛び越えていった。

 

「さぁ! 悪魔を退治しに行きましょうか!」

 

「俺達が集まった意味は?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレクセイ・バーネス・アルダープは焦りを感じていた。

 

この屋敷には悪魔がいる!

 

そう騒ぐ小娘が現れたのだ。

 

 

事実、悪魔はいるのだ。

 

 

アルダープは悪党である。しかし、だいそれたことは出来ない小悪党であった。

 

そんな彼が、ふとした偶然で手に入れた二つの宝がある。

 

それは、神器と呼ばれる特殊なアイテム。かつての転生冒険者の持っていたチートな品物である。

 

 

一つは他人と身体を入れ替えるアイテム。

 

一つはランダムで魔物を召喚するアイテム。

 

 

どちらも一級品の性能で、どちらも危険な代物だった。

 

この二つの神器のうち片方が、小悪党だった彼の領主に野心を抱かせた。

 

それはランダムで魔物を召喚するアイテム。

 

彼はこのアイテムで、ある日悪魔を召喚したのだ。そして契約し、使役して、その悪魔の能力で様々な悪事を隠蔽してきた。

 

そう、隠蔽である。

 

この悪魔の能力は真実をねじ曲げる力。他人の記憶を書き換え、意思を操る、そんな能力をこの悪魔は持っていた。

 

アルダープは、この力で色んな悪事を隠してきたのだ。

 

人を騙したときはその記憶を自分に都合のいいものに書き換えた。訴えられ、裁判になったときは裁判官の意思を操って勝利を収めてきた。

 

しかし、この悪魔には一つだけ、それも致命的な欠点があった。

 

頭が、悪いのだ。それも取り返しのつかないほどに。

 

何かを覚えることができず、何度教えても忘れてしまう。自分の主人の名前を覚えたのも奇跡のようで、自分の名前すら覚えているのか怪しい悪魔。

 

だが、悪魔は従順だった。言われたことはきちんと行い、どれだけ痛めつけても逆らわない。

 

だからこそ、この悪魔は敵に成り得ない、自分に都合のいい家畜だった。

 

故に。

 

「(……この小娘も、屋敷の外の奴らも全部忘れさせてやる……ッ)」

 

アルダープは勝利を確信していた。こんなのは茶番。どうとでもなる。

 

そう思っていた。思っていたからこそ、その小娘を。

 

アルマを『そこ』に連れてきてしまった。

 

「さぁ、この部屋に入るんだ」

 

「お邪魔しまーす」

 

そこはアルダープの寝室、ベッドのした。一階にある彼の寝室には、実は隠し部屋として地下室があった。

 

そこに、下級悪魔マクスを隠していたのだ。

 

「あ」

 

「ふっふっふ、馬鹿め! のこのことこんなところまで着いてくるとは所詮小娘よ! 貴様の記憶は念入りに書き換えてやる!! さぁマクスよ! この小娘を心の底から私の愛玩動物となるように支配しろ!!」

 

マクスと呼ばれた悪魔。恐ろしいまでに整った容姿の青年。感情の抜け落ちた無表情に、絶えず苦しそうな喘息のような音を出す悪魔。その悪魔が、地下室にあるベッドにいた。

 

その顔に、いつもなら不愉快で不気味な無表情に、恐怖を張り付かせて。

 

「あ、ああああああああああ、ヒュー、ヒュー、アルダープ、駄目だ! アルダープ!! その娘を連れてきちゃダメだぁぁぁぁあ!!」

 

「《ゴッドブローーッッ!!!!!》」

 

グチャァッ! という音とともに眩しい輝きが地下室に満ちる。目が眩んだアルダープの視界が戻る頃には、マクスという悪魔の姿はどこにもなかった。

 

「はい、領主さん! 悪魔は退治しましたよ!!」

 

「え? あ? ……あ?」

 

一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。

 

信頼していたわけではない。愛着があったわけでもない。しかし、長年使い続けた有益な道具が一つ、瞬く間に失ったのだと理解するのに。アルダープは理解するという行為が受け入れ難かった。

 

それは、彼に芽生えたとてもちっぽけな、とても大きな野望が潰えたということなのだから。

 

「そんな、そんな……」

 

「領主さん」

 

「ひぃ!?」

 

殺される。アルダープは咄嗟にそう思った。

 

この小娘は自分の悪事を知っている。知っていて、だからこそ悪魔がいると確信してここに現れたのだと。

 

下級とはいえ、悪魔を一撃で処せる冒険者に自分が勝てる筈がない。ならば、自分に待っているのは死刑か私刑のどちらかだろう。そうするだけのことをしてきたし、そうされるだけの恨みも買っているからだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

「な、なにがぁだ……?」 

 

何を大丈夫と思えばいいのだ。悪事も、悪魔を飼っていたことも、小娘に不貞を働こうとしたことも、全て明るみに出る。そうすれば自分は終わりだ。

 

いや、そうだ。大丈夫だ。この場にいるのは自分たちだけ。

 

自分と小娘だけ。

 

小娘さえ始末してしまえば、あとはどうとでも……ッ!!

 

「私は貴方を許します」

 

「………へぇぇぇ?」

 

しかし、その小娘が見せたのは敵意ではなく、慈悲の笑顔だった。

 

「領主アレクセイ・バーネス・アルダープ。貴方は何も悪くありません。罪など何も犯していないのです」

 

何を言っている? ワシは罪を犯している。悪事も沢山やった。それがどうしたと棚に上げ、後悔も微塵もない。

 

なのに、何を…?

 

「貴方は悪魔に誑かされていたのです。貴方の行いは貴方の意思ではありません。全て悪意ある悪魔の罠なのです」

 

こいつは、馬鹿だ。都合のいい善意の愚か者だ。

 

ならば、どうとでも丸め込める!!

 

「そ、そうです! ワシは、あの悪魔に騙され、操られていたのです!! どうか御慈悲を!!」

 

みっともなく、両手をつき、地下室の床へと跪く。それは演戯とはいえ、屈辱的な姿だった。

 

しかし、これに耐えれば、耐えさえすれば……!!

 

「人間は弱いです。欲望にも塗れましょう。悪事も働きましょう。人に迷惑もかけましょう。しかし、私は貴方たち人の子の行いを許します」

 

な、なんだ……この、小娘……後光が……?

 

「欲しいものは欲しいと言いなさい。やりたいことはやりなさい。したくないことはしなくていいのです。己の望むまま、望むことを行いなさい」

 

言葉が……頭に、ひび、く………。

 

「それが罪だというのなら私が裁かれましょう。貴方への罵詈雑言も私が浴びましょう。愛しい人の子よ。正しい貴方を私は愛します。正しくない貴方も私は愛します」

 

お、おぉぉ………神よ……!

 

「命繋ぐため、生きることが目的の生命が、望みのままもがき生きる姿がなんと美しい……だから、私は貴方を愛していますよ。アレクセイ・バーネス・アルダープ」

 

「お、おぉぉお……ッ!!」

 

泣いていた。知らずうちにワシは、私は泣いていた。滝のような涙で顔を濡らしながら、心が洗われていくことを感じている!!

 

「あ、貴方様のお名前は……」

 

「私はアルマ。全ての祖、女神アルマです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、あの後アルマ様は笑顔で帰ってきた。

 

とてもいい子だった、と嬉しそうに。

 

「結局、悪魔はどうなったんすか?」

 

ギルドでシュワシュワを飲みながら、アルマ様と話す。実はこのシュワシュワ、最初から全部アルマ様のオゴリである。小さな女の子に奢られるなんて情けないとか言うなよ? こっちは借金持ちなんだよ。

 

「悪魔は倒しましたよ」

 

「やっぱりいたんですか」

 

うーむ、こりゃウィズの魔道具店には絶対連れていっちゃダメだな。即アンデッドの気配を感じてターミネートされちゃうわ。

 

アルマ様に悪魔・アンデッドは近づけちゃいけない。そう決意させられる事件でした。

 

「で、お兄ちゃんの借金ですが。「街の一大事にお金を渋るなんてどうかしていた。何時か必ず全額支払う」と約束してくださいましたよ」

 

マジか、マジなのか。

 

悪徳領主が謝罪しお金まで返金すると約束するなんて、アルマ様……恐ろし娘!?

 

聞くところによると。

 

あのアルダープという領主は完全に人が変わったようだという。

 

全ての悪事を認め、謝罪し、賠償したという。金で償える罪は私財を惜しみなく支払い、不当に奪った土地や巻き上げた品々は全て返却したという。

 

あまりにもの変貌に、何か裏があるんじゃないかと疑いの目も多いが、彼個人が大人しくなったことには違いなかった。

 

 

………まさかこれって、マツラギショック再び!?

 

 

どっかの魔剣使いを思い出した。名前は思い出せないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり中身が寂しくなった領主の屋敷。

 

高価な貴金属や装飾品、家財道具などを売り払い、最低限の生活環境しか残されてない大きいだけの入れ物となった建家に、領主アルダープはいた。

 

私室で、力なく椅子にもたれかかっている。

 

「父上!!」

 

「バルターか」

 

そんな彼の部屋に飛び込む勢いで入ってきたのはアレクセイ・バーネス・バルター。

 

アルダープの養子であり、唯一の息子である。

 

「急にどうしたのですか父上!? 貴方が、その、」

 

「ふっ、私が己の罪を認めた、とはっきりとは言いづらいか」

 

「いえ、そんな……」

 

このバルターという青年。アルダープの息子にしてはなかなか立派な好青年であり人格者である。

 

反面教師というか、養父であるアルダープの姿を見て育った彼は人柄も良く、非常に努力家で、なにより父であるアルダープの悪政にたびたび進言しては軌道修正してきた傑物であった。

 

だからこそ、アルダープの愚かしさを最もよく知る人物であり、その変化に驚いた男である。

 

「息子よ。私は領主の座を辞しようと思う」

 

「……な!?」

 

バルターは驚き、戸惑った。

 

権力と欲に溺れた父がそれを捨てるという。自分が領主の息子という立場を失うことにはなんの不満もない。自分が次の領主になろうとも思っていない。

 

しかし、戸惑った。劇的すぎる養父の変化についていけなかったのだ。

 

「私は……神に出会った。そして悟ったのだ。己の罪深さ、愚かしさを。だが、慈悲深き彼の御方は私を罰さずお許しになられた。しかし、それでは私の気が済まぬ、罰は受けねばならぬのだ!!」

 

「は、はぁ……」

 

いや、本当に何が起こったんだ?

 

正直、引いた。ドン引きである。なにが養父をここまで変えたのだ? 神?

 

「だから私は考え、祈った。罰をお与えください、償いの方法を、と」

 

「そ、それが領主を辞することと?」

 

どこかの貴族に呪いでもかけられたのじゃなかろうか? 思わずそう思った彼は悪くない。

 

「いいや。違う」

 

「では?」

 

 

「私は、農家になる!!!」

 

 

「ハァッ!?」

 

なんで?




『魂』 「誰かあの人間ラブ神を止めとくれ。徳をつまん魂が増えて一向に解脱せん」

『物質』「人間やることなすこと全肯定ですもんね」

『命』 「そのくせ悪魔やアンデッドは即殺だ。理不尽過ぎる」

『理』 「流石私。 素晴らしい判断だ」





悪党A 「百人殺しまであと一人で捕まっちまった! 畜生!! 絶対脱獄して目標達成してやるぜ!!」

『理』「ええんやで」


悪党B 「だまくらかした家族が一家心中だってよ! ザマァwww」

『理』「ええんやで」



勇者 「くそぅ! 魔王を倒したのに国王には裏切られて両親は無実の罪で処刑された! 結婚しようと約束した姫も実は戦士と出来てて俺を強姦未遂の犯罪者だって言い出しやがった! そして俺は救った世界の人間ずべてに石を投げつけられながら処刑された!! でもアンデッドとなって蘇ってやったぞ!! 復讐だ! 俺を裏切った奴らは全て惨たらしく殺してやる!!」

『理』「死ねゴミが」


人間()全て愛し、許してくれます。人間()

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