この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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おさらい。

『理』のアルマ…金髪碧眼の青年。

『魂』のアルマ…褐色肌の童女(ロリババア)。

『命』のアルマ…銀髪赤目褐色のお姉さん。

『物質』のアルマ…黒髪ロングの女子高生。






この神様にお仕置きを!

『幸運』の女神、エリスです。

 

アクセルの街を襲ったベルディアの騒動も一段落し、私は一度天界に戻ってきました。

 

……仕事が溜まっているんですよ。下界じゃお父さんのお守りが長かったですから。

 

下界と天界での二重生活を送っている私ですが、正直下界での生活の方が気が楽といいますか、いい息抜きになっているのかもしれません。

 

ちなみに私の天界でのお仕事ですが。主に下界で魔物に殺された人間の魂を新たな生へと転生させ導く役目を担っています。

 

これでも一応、担当世界ではトップの立場なんですよ? 上司がハチャメチャなだけで結構私偉いんですからね?

 

……お父さん? あの人達はノーカンです。本社の社長とか会長みたいな立場の方々と支社の支部長な私を比べないでください。

 

ちなみに、アクア先輩は地球担当女神なことをエリートだと言い張っていますが、アレって本社が地球にあるようなもので、実際は支社を任せるのが不安だったから目の届くところに置いておいたんだ、とお父さんがぼやいていました。

 

……仕事サボって星の管理とか放り投げそうですもんね、アクア先輩って。

 

実際、地球でのお仕事ってほとんどお父さんが管理してましたし。アクア先輩は『魂』様と一緒にお菓子食べながらテレビ見てた事の方が多かったような……? いえ、真面目に仕事をしているときもあるんですよ? ただ、対応がおざなりというかテキトーというか……駄目です、フォローすればするほど情けない光景しか思い浮かびません。

 

「あぁー……早く仕事片付けてギルドでシュワシュワ飲みたい……」

 

これから転生待ちの死者の魂をいくつか応対して、回収した神器を保管したり、行方が分からない神器をピックアップして……今日中に終わるかなぁ?

 

「お? エリス。お前も来ていたのか」

 

「お父さん!?」

 

驚きました。

 

下界でアルマちゃんという少女の冒険者をやっている私の父、『理』の神アルマ様が天界に帰って来ていました。姿も元の金髪碧眼、長身の成人男性と、元の御姿です。

 

「おと、アルマ様、元の御姿にお戻りになられたのですか?」

 

「うむ。まぁ、『魂』ののアレも少し綻びさえすればどうとでも出来るしな」

 

どうやら下界でアクア先輩に解呪された呪いの一部から取っ掛りを得たお父さんはそこから『魂』様の魔法を全て解呪出来たそうです。

 

魔法に関してはお父さんは四柱一の使い手ですしね……。

 

「いやお前、使い手以前に私そのものが魔法の根幹みたいなものなのだがな?」

 

でした。

 

『理』の神様というのは、あらゆる現象を引き起こすための原理を決定した神様ということです。魔法を長年研究した賢者がいたとして、その賢者が探求の末たどり着いた真理でさえお父さんが用意した解答でしかないのです。

 

つまり、魔法を使うということは、『理』の神が用意した例題を参照しているに過ぎず、模範解答そのものであるお父さんに解明や対処が出来ない道理はないのです。

 

だからこそ、幼児化によってその頭脳がふにゃけていた状態がどれだけ異常だったことか。思考がまともになった瞬間に全ての妨害魔法を解除して元の姿に戻れたことが何よりの証拠でしょう。

 

「で、だ。私はこれから自分の職場に入るわけだが……」

 

「……あぁ」

 

仕事、溜まってそうだなぁ………。

 

お父さんの仕事量は宇宙一です。誇張にあらず。

 

他の御三方のサボりまくったお仕事を一手に引き受けているお父さんです。なのにここ数ヶ月、下界にいたので全く片付いていません。部下の天使達が代行していたと聞きましたが、大丈夫でしょうか?

 

不安を抱きつつ、職場への扉を開いていきます。そして、私達が見たその光景とは……、

 

 

天使A「……あー……あー……判子をポーン。もう一枚ポーン」

 

天使B「伝票きりまーす……もっときりまーす……計算合いませーん……もう一回最初からやり直しまーす」

 

天使C「書類がいちまーい……ファイルが足りなーい……何してるのかもうわかんなーい」

 

天使D「&js%k!”$kq!!」

 

 

まさしく地獄のような光景でした。

 

目の下に隈をこれでもかと作った天使達。書類のそびえ立つオフィス。虚ろな目で手が止まることなく動き続ける職場風景。これを地獄と言わず何と言うでしょうか?

 

「お前らーーーーーーッ!!!」

 

「ちょっ!? 皆寝てる!? 寝てないよね!? 何徹してるの!!」

 

あまりの光景に目を疑いました。お父さんと部屋に飛び込み天使達を介抱します。皆、どこを見ているのか定かではない表情でボーっとしているのが心配でしょうがありません。

 

これ意識あるの!?

 

何度か肩を揺すってみますが、なかなか正気に戻ってくれません。仕事、仕事とうわ言を繰り返すのみです。

 

「おい! しっかりしろ!! おい! 《ヒール》!!」

 

もはや疲労が酷すぎるので回復魔法を使う程です。ですが、効果が徐々に出てきたのかゆっくりと目に焦点と活力が戻ってきてます。

 

「………? …こ、『理』さ、ま?」

 

「大丈夫か? いや、大丈夫じゃないな。もう休んでいいぞ、後は私が引き継ぐから……」

 

「「「『理』様ーーーーーーーーッ!!!!」」」

 

天使達が泣きながらお父さんに飛びつきます。それはも必死に、縋り付くように。抱きついたら、そのままわんわんと泣き出してしまいました。

 

「あの馬鹿ども、どんだけ仕事押し付けやがったんだ!!」

 

あ。これは御三方、お仕置きですね。

 

お父さんのお怒りです。

 

 

 

 

 

「ぎゃーーーーーーーッ!!! 堪忍しとくれ『理』のーーーーーッ!!」

 

「やかましい! 貴様、仕事サボってなに遊んでやがる!!!」

 

まずは『魂』様のお部屋に突入です。すると、なんとまぁ。

 

お部屋の中はゲームと漫画、お菓子にジュースと散らかっており、テレビには下界の光景がこれでもかと映っていました。

 

下界でのお父さんの姿を見ながらゴロゴロしてましたね?

 

お父さんは『魂』様を捕獲すると、片腕抱きにして彼女のお尻を、

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

思いっきり叩きました。

 

「アヒィンッ!」

 

「この阿呆がッ! 性根から叩き直してやる!!」

 

「わ、ワシの方が年上なんじゃぞ!?」

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

もう一発です。

 

「オホォッ♥!!」

 

「コンマ差の年の違いだろうが!! お前の悪いとこばかりアクアに似てきてるんだぞ!? ちょっとは創造主らしくきちっと模範とならんか!!」

 

「おまっ!? お前さんがそれを言うんか!? エリスとアクアのアンデッド嫌いも元はお前さんのアァァンッ♥!!!」

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!! パチーーーーーーーーーーーーン!!! パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

『魂』様の言い分などお構いなしに、お父さんの折檻はきっちり百回お尻を叩くまで続きました。ちなみに一回で宇宙が消し飛ぶ威力があります。私だったらお尻から爆発して死んでます。

 

でもね、お父さん?

 

いい加減気づこうよ。

 

『魂』様って、お父さんのこと大好きだからちょっかい出してるんだよ? アクア先輩のかまってちゃんっぷりの元祖な御方だよ?

 

何やったってご褒美なんだから御仕置きにならないんだよなぁ。

 

『魂』様は足腰が立たなくなるまで折檻されたので、最後は顔を真っ赤にさせて倒れちゃいました。

 

 

 

 

 

 

次は『物質』様のところです。

 

「すいませんでしたーーーーーーーっ!!! でも僕は基本見てただけですよ!?」

 

『物質』様の私室に入った瞬間土下座されました。この御方、見た目は清純派女子高生なのに行動が子供っぽいところがあります。

 

「仕事サボった言い訳になるかボケーーーッ!!」

 

拳骨です。一撃で星を粉々にし、超新星爆発を引き起こす拳で脳天への拳骨です。

 

「いったーーーい!!!」

 

痛いですむのは貴方達だけです。私ならチリも残さず消滅してます。

 

「お前下界で少年とデート禁止な!!」

 

「そんな殺生な!!!!」

 

『物質』様は芸術家を自称し、ちょくちょく下界の人間たちと交流を持っておられる御方です。しかも、現地の人間と恋仲になることも多く、今のお相手は十五歳の少年とのことです。

 

ちなみに、『物質』様はショタコンです。

 

「それが嫌なら今すぐ溜めまくった仕事片付けてこい!!! 終わったら許してやる!」

 

「三日で終わらせます!!」

 

スカートを翻して机へと向かっていきます。普段から真面目に仕事すればいいのに……。

 

本当に三日で仕事を終わらせた『物質』様は、実はお父さんに次ぐ頭脳の持ち主なのです。

 

なのになぁ……。

 

「携帯見ながら仕事するな!!」

 

「ごめんなさい!! あぁっ! 没収しないでよぉ!!」

 

ここは学校か何かでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

最後は『命』様です。

 

正直、この部屋には入りたくありません!! 腐臭がするからです! いろんな意味で!!

 

「………仕事しないで引き篭っているのは何時も通りなんだが」

 

「今回は特に酷そうですね」

 

扉の隙間から臭気が漏れています。怨念というか、執念というか。おびただしい熱意と情熱を妄執によってこり固めたような、そんな雰囲気が感じられて開けるのが躊躇われます。

 

「エリス、お前ちょっと中見てきてくんない?」

 

「嫌ですよ!?」

 

だって『命』様の部屋の中って所謂修羅場ってやつですよ!? 夏と冬になると絵の上手い天使達が監禁されて出て来れなくなる魔界です! 天界に魔界を生み出すとかどんな禁忌ですか!!

 

「部屋に入るよりもっと確実な手段があります」

 

「ほぅ? それは?」

 

「『命』様ー! 『理』様がお会いになりに来ましたよー!!」

 

私は『命』様の私室の扉に向かってそう叫びました。『命』様を呼び出す、これが一番確実な方法です。

 

「は? お前そんなんで……」

 

「弟ーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

ほらね。

 

妙にテンションの高い。徹夜漬けで気分がハイになり末期のようです。

 

部屋の中を覗くと……あ、はい。察してください。天使が数人修羅場ってます。アグネスが軍団を率いて黙示録を引き起こしそうな作品が溢れていました。もうあれ禁書指定したほうがいいと思います。

 

「弟! 久しぶりだな!! さぁ殺し合おう(遊ぼう)!!」

 

「嫌だ」

 

「………えっ!?」

 

「嫌だ」

 

「………………ぇ?」

 

「い・や・だ」

 

「…………………………ぐすっ、ぇぇ?」

 

「仕事しないような奴は姉とも思わん」

 

「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

あー、はい。

 

泣いちゃいました。『命』様って物理最強、無限復活と、お父さんと喧嘩したら宇宙がいくつも消し飛ぶほど暴れるくせに、メンタル弱いんですよねー。

 

お父さんから拒絶されると特に酷い。どう酷いって、幼児化したお父さん並みに子供っぽくなる。見た目が大人なお姉さんなだけ余計にギャップがあります。

 

「なら、仕事するから後で……」

 

「あぁ、喧嘩でも殺し合いでもなんでも遊んでやるからさっさと仕事してこい」

 

「わかった!」

 

お父さんにそう言われると笑顔で去っていきました。あの、『命』様の執務室ってこの部屋じゃ……?

 

「アイツ、私の部屋に仕事道具持ち込んでるんだよなぁ……頼むから自分の部屋で仕事してくれよ邪魔くさい」

 

えー?

 

お父さん、『命』様の好意に気づいてあげられないかな? 

 

あの人、『命』の神様だからか。「殺し合いで命のやり取りを行うことが一番生きてるって感じがする!」って言ってお父さんに喧嘩売っているから好意を向けているのに全く気づいてもらえないんですよね。

 

とりあえず、これで全員仕事に戻ってくれたかな?

 

「まだだぞ?」

 

「え?」

 

あれ? まだ仕事してない人いましたっけ?

 

「私の仕事が溜まっているだろう?」

 

「あはは、そうですね!」

 

そうでした、こういう人でした。

 

なんだかんだ言って、お父さんの仕事量は何時もの四倍程溜まってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、天界の様子は散々でした、まる」

 

「そーなんだー」

 

カズマです。あの、アルマちゃん? アルマ様!? そういうこと俺相手に愚痴るのやめてくれません!?

 

冒険者ギルドで抱えた借金をどうしようかと悩んでいると、十二歳、小さな女の子のアルマちゃんがシュワシュワを二人分持って俺の隣に座って来た。

 

なんでまた子供の姿なの? って聞くと、

 

「カズマお兄ちゃんのせいです」

 

そう一言で言い切られてそれ以上の質問を封じられた。俺が何したっていうの!?

 

「……まったく、お兄ちゃんが『妹になってください』なんて願いを言わなければ……」

 

「あの、今なんて」

 

「なんでもないです!」

 

よくわからないが、どうやら彼女はまだ俺の妹らしい。ようやく大人の姿に戻って、呪いも解けたっていうのに自分でこの姿になって冒険者を続けている。

 

ひょっとしたら、なんやかんだでこの小さな神様も下界の暮らしが気に入ったのかもしれない。

 

そう思った。

 

「それにしてもアレですね。カズマお兄ちゃんに借金が二億も請求されるのはおかしな話です」

 

「原因がそれを言う!? いや、確かにおかしいけどさ!!」

 

この借金、アルマちゃんが壊した街の修繕費なんですけど!?

 

「それですよ。普通、借金を突きつけられるのはお兄ちゃんじゃなく私の筈です」

 

たしかにそうかもしれないけど、そうはならなかった。

 

それは、アルマちゃんが十二歳の未成年だからだ。

 

大人のアルマ様なら借金は彼女のものだった。しかし、ギルドに登録されている冒険者のアルマちゃんは十二歳の子供だ。

 

なら、借金はその保護者に向かったのだろう。

 

普段から、彼女の『お兄ちゃん』を名乗る俺に。

 

それが俺の二億の借金の真相だ。

 

まぁ、最高神様を妹に持てる代償と思えば安いもんだろう。

 

そうカッコつけていた俺だが、どうやらアルマ様ことアルマちゃんはそうはいかなかったらしい。

 

シュワシュワをグイッと一気に飲むと、ダンッ! とジョッキをテーブルに叩きつけてこう言った。

 

「直談判です!」

 

「へ?」

 

「ちょっと領主のところに行ってきます」

 

「はぁ!?」

 

アルマちゃんはその可愛らしい笑顔でそう言い切ると、軽やから足取りでギルドから出ていった。

 

「じゃぁお兄ちゃん! ちょっと行ってアルマの借金引き受けてくるね!」

 

「ちょっ、まーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

小さな神様の引き起こす騒動はまだまだ続く。




『魂』 「尻が! 尻がぁぁぁ!!」

『物質』「デート! デート!」

『命』 「弟と遊ぶぞ!!!!」

『理』 「仕事が片付かない……」


アルマちゃん「天界の本体は大変そうだなぁ」


どういうことでしょーか!

『理』は面倒見がいいので皆が甘えてきます。ある意味、家族でお兄ちゃんで弟で夫で恋人でお父さんなお人。本人は真面目なだけで自覚なし。

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