「俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍幹部の者だが……」
街の正門のすぐ前にある小さな丘の上で、魔王軍の幹部と名乗った満身創痍の首なし騎士アンデッド、デュラハンが。ギルドの招集で集まった冒険者達の前で弱々しくで語りだした。
「引っ越して早々! いきなり爆烈魔法を食らわすとは何事だ!? おかげで運びこんだおニューの家財道具一式が纏めて吹き飛んだわ!!! なんでこんな悪質な真似をする!? おかげで住むところと財産を同時に失うし部下も俺を守るために皆死んだ!! アンデッドだけど死ぬときは苦しいんだぞ!? お前らには血も涙もないのか!! この極悪人共がッ!!」
魔王軍の幹部にだけは言われたくない。
遅くなりましたが、カズマです。
どうやらこの魔王軍の幹部と名乗ったデュラハンは、以前アルマ様が爆裂魔法の連発で吹き飛ばした廃城に引っ越していたらしい。成程、あの時アルマ様が『くちゃい』と言っていたのは廃城がアンデッドの巣窟になっていたからだったのか。
「爆裂魔法?」
「爆裂魔法と言えば……」
冒険者たちの視線が一点の人物に集中する。アクセルの街で有名な
そして、めぐみんの視線がふぃっ、とアルマへと向けられ……、
「おい」
「じょ、冗談ですよ!?」
流石の爆裂娘も、幼女にヘイトを集めるのは気が引けたようだった。が、困ったことに、犯人は彼女である。
あ、そういえばアルマ様は?
「おまえくちゃい!!」
「……なんだこのガキは?」
ちょっ!? アルマ様ぁああああああああああああああああああ!??
デュラハンの目の前で、指を指して臭いと言い放つ幼女がそこに居た。子供ってちょっと目を離している内にとんでもないことをしでかしてるよな、ってんなこと言ってる場合じゃねー!!
「くちゃい! くちゃいッ! えんがちょ! えんがちょ!!」
「く、臭い臭い連呼すんなこのガキ!! 毎日風呂に入ってるから臭くないわい!!」
子供か! あ、子供でしたね! というか、このデュラハン。煽り耐性が低いな。子供の悪口に即ギレって、なんとまぁ大人げない……。
「あのデュラハン臭いんですって……」
「全身鎧だしなぁ……臭いも篭るんだろう」
「見てあの顔の脂汗……汚ーい。えんがちょ」
「しかもアンデッドだろ? 腐ってるんじゃねーの?」
「うわぁばっちぃ……斬ったら剣に変な汁付きそうで嫌だぜ俺」
そんな二人のやり取りを見て、周りの冒険者たちの辛辣な声がひそひそと聞こえてくる。やめたげてよぉ。
「臭くないと言ってるだろうがぁ!! なんなんだこの陰湿な街は!?」
「アルマ! 危ないから下がってろ!!」
ダクネスがアルマ様に近づき後ろから抱き上げる。デュラハンの目の前へまで近づくその度胸は尊敬するが………危ないとは誰のことを言っているのか判断が難しいところだ。
「お前が親か!?」
「ちちち違うわ!!」
「おまえなんでいきちぇる!? ちね! ちゃっちゃとちね! りちゃいくるもできないちりがみゅいかのちょんざいのくちぇにちぶといぞ! なまごみはくちゃるとくちゃいしむちもわくからみんなめいわく!! はながまがるからちゃっちゃとあなほってうまってこい!!」
「子供にどんな教育しとるんだお前は!?」
「だから親じゃない!!」
魔王軍の幹部すらドン引く幼女の罵倒の内容の酷さ。さらにこのままだとダクネスがアルマ様の母親として周知されそうである。
だがダクネス、お前にアルマ様はやらん。その方は俺の妹だ。そこだけは絶対に譲らん。
「駆け出しの冒険者の街だと思って見逃してやろうと思えば、なんて最低最悪な街なんだ! 元々俺は魔王軍の占い師がこの辺にとても強い光が降臨したと言うから調査のつもりで来たのだが……気が変わった! お前ら皆殺しにしてやる!!」
「「「なっ!?」」」
マジっすか!?
「恨むなら俺の新居を爆裂魔法で吹き飛ばした輩とそこの口汚い小娘を恨むんだな!! あと、普通にお前らがむかつくわ!!!!」
前者はどちらも同一人物です。あとこのデュラハン、威勢はいいが見るからにボロボロなんだよなぁ。正直ここにいる冒険者達全員で袋叩きにすれば勝てそうなくらいだ。
なのになんでこんなにやる気まんまんなんだ? なにか勝算があるのか?
「クックック、お前ら、俺が弱っていると見て余裕そうだな? だが、俺がお前らを殺すなど造作もないのだぞ?」
どういうことだ?
やはり何か隠し球があるのか、デュラハンは自分の勝利を疑っていない。ボロボロの身体を部下に支えてもらってやっと立っている状態でこの自信。
こいつに何があったんだ?
「いいだろう、冥土の土産に教えてやろう……俺が授かった、魔神様の加護をな!!!」
魔神だって!?
………魔神?
「え、魔神って……えぇー?」
「なにしてるのあの御方?」
なんか身内から落胆の声が聞こえるが、やっぱり魔神ってあの魔神?
「そう、あれは俺がマイホームとなった城の最上階に家具を設置した直後のことだった……」
「よーし! 玉座オッケー! 赤絨毯も敷いた! 部下も城の要所に配置したし、今日は自分の部屋作りにいそしむとするかなぁ!」
出張とはいえ出先でこんな大きな拠点を得た俺は、それはもう気分上々でご機嫌だった。魔王軍の幹部とはいえ、城一つを拠点にするなんて魔王軍では魔王様以外にいないからだ。
アンデッドになって長い俺だったが、魔王軍の幹部にまで成り上がるまでは殆ど野宿に近く、幹部となっても魔王城の一室で借家生活だ。
そんな俺が今や一城の主。気分も高まるいうものだろう!!
「よーし、今日は秘蔵のワインでも飲んで明日から仕事に励むとしようかなぁ! おいそこの骸骨兵! ちょっと酒蔵に行って……」
が、俺の栄光はそこまでだった。
「これは、爆裂魔法の魔方陣!?」
突如、城の外壁にくっきりとそれが浮かび上がったのだ。
何者かによる、爆裂魔法の攻撃だ。
「全員ふせろーーーーー!!!」
俺は咄嗟に叫んだ。その声を聞いた奴らはすぐに机に下に潜り込んだりその場にしゃがみこんだ。おれも、玉座のすぐ横に頭を抱えて床に這いつくばった。
そして、轟音と共に衝撃が来た。
ドーーーンッ! という爆発と城が揺れる衝撃。それらにもみくちゃにされて城の中にいた俺達は大混乱だった。地面には立っていられない、床はグラグラするし壁や天井は今にも崩れ落ちそうだった。
しかし、俺のマイホームは耐えてくれた。
爆裂魔法を放った魔法職の下手人が未熟だったのか、それともこの城の作りが思いの外頑強だったのか、とにかく耐えてくれたのだ。
「ちくしょう! 冒険者の襲撃か!? 今すぐ城の入口を固めろ! 全員武装を忘れるな!」
部下に冒険者の襲撃に備えるように指示を出し、俺は玉座に腰を下ろした。爆裂魔法はその威力故に消費魔力もとてつもない。恐らく、犯人はもう一日の魔力のほとんどを使い切っただろう。この城に攻めいるのなら仲間がいるはず。ならば、これから俺達を討伐に複数人のパーティーが雪崩込んでくるはずだ。
「俺たち魔王軍の、しかも幹部である俺がいると知っての襲撃だとしたら大した度胸だ! いいだろう! 迎え撃ってやるぞ冒険者共!!」
城の主として、ボスの風格を醸し出すために玉座に悠然と腰を下ろす俺。……俺今メチャクチャカッコイイ! めっちゃボスっぽい!
魔王軍として数多の冒険者と戦い殺してきた俺は今や高額の賞金首だ。その額三億エリス! 思えば魔王軍としてかなり有名な部類ではないだろうか!?
「よーし! 今日から俺は魔王軍の幹部改め中ボス! 魔王様の右腕とは俺のことだ! かかってこい冒険者め!!!」
玉座で高笑いを決め込んでいた俺だったが、
やっぱりそこまでが俺の輝かしい栄光の、終わりの始まりだった。
また、爆裂魔法の魔方陣が城に浮かび上がった。
それも、タクサン。
は?
え?
あれーーーーーーーーーーーー??
チュドーーーーンッ! ドゴーーーーンッ!!! ドドドドドドドドドッッ!!!! ドンガンドンガン!!!! バッゴンバッゴン!! ガーーンッガーーンッ!!!
「逃げろーーーー!!! お前ら逃げろーーーー!!! うわぁあああああああああああああああ!!!? 何これ!? なんなんだこれはぁっ!??」
まさしく地獄絵図だった。
最初の一撃に耐えてくれた俺のマイホームが無残にも破壊されていく。天井は崩れ落ち、床は抜けた。石柱が次々と倒れて部下を押しつぶしていく。俺も必死に逃げようとしたが、床がグラグラと振動して思うように歩けない。なんとか這うようにして城の外へと進んでいく。
「俺の城が……部下が……奮発して買ったキングサイズのベッドが……ワインセラーが……こっそり隠しておいたエッチな本が……あんまりだぁああああああああああああああああ!!!」
皆、城と一緒に崩れていく。降り注いだ瓦礫が家具や砕いて台無しにしていく。
そして、当然、のたのたと這い蹲る俺の元へも……。
だが、俺はすぐには死ななかった。
「お、お前達!?」
部下のスケルトンが、骸骨兵が、アンデッドナイト達が、崩れ落ちる瓦礫の雨霰から身体を張って守ってくれたのだ。
「(逃げてくださいベルディアさん!)」
「スケゾウ!?」
「(俺たちのボスがこんなところでくたばっちゃならねぇ!)」
「スカるん!」
その二体のアンデッドは俺の部下として最も長い付き合いの最古参の兵だった。そんな奴らが、身を張って俺を逃がそうとしてれた。俺は目に涙を溜めながら必死に逃げた。
だが、どうしようもなかった。
城の崩壊は圧倒的で、俺は砕けた床から落ち、天井だった構造物に押しつぶされた。
生き埋め。アンデッドには相応しい最後なのかもしれない。だが、俺はまだ死にたくなかった。
人間として、騎士として生きた人生。怨嗟にまみれながら処刑され、復讐の為にアンデッドとして蘇ったデュラハン。それが俺、ベルディアだ。
まだ死にたくない。まだ、俺の中の恨みと憎しみは消えずに残っている……。
魔王様、魔族の神、魔神様……ッ!
「どうか……救いを……たす、け……」
「呼んだ?」
「へ?」
目の前にいたのは人間の女に見えた。銀髪に赤目、褐色の肌。長身で、スタイルも抜群という、どこか作り物じみた美しさをもつ美女だった。
しかし、俺にはその女がドラゴンに思えた。
どこからどう見ても人間にしか目えないのに、ドラゴンとしか思えない。まるで目の前に、今にも大きな口を開けてこちらを喰らい尽くそうとする巨大な生物が立ち塞がっているような、圧倒的な存在感。生前、騎士だった頃に軍勢に混じって討伐したドラゴンを前にした時に感じた絶望感を思い出し、堪らず口から出た言葉が。
「貴方が……魔神様……か?」
「ん。助けて欲しい、だったな?」
魔神様は俺の頭と身体を片手ずつで鷲掴みにすると、
「じゃ、頑張れ。一応簡単には死なないように加護つけてやるから」
身体を覆う一瞬の魔法付与の後、無造作に城の外へと投げ飛ばした。
「いやっえ!? えぇえええええええええええええええええええ!???」
城の壁を粉砕し、宙に舞う。空の青さを視認すると同時に身体がマイホームの建っていた丘の下に広がる森へと落ちていくのを確認した。
首は飛んで行き、身体は森の中。
「ちょっ、これ助かってなくないぃいいいいいいいいいいいいい!?」
遠ざかる身体を見ながら、ベルディアの首は遠く空の向こうへと飛んでいった。
生き残った部下のアンデッドナイトが身体と首を見つけるまでの間、ベルディアは野生のモンスターに襲われ続けたという。
「「「うわぁ」」」
不憫。余りにも酷い惨状にその場の冒険者たちの同情の視線がベルディアに突き刺さる。全身が包帯でまかれているのもそのためか……。
「ふっふっふ、だが、魔神様は俺に素晴らしい加護をお与えくださった。だからこそ、俺は今だに生きているのだ!! そう、『不滅』の加護をな!!」
「なんだって!?」
『不滅』。つまり、死なないってことか?
唯でさえ強い魔王軍の幹部に『不滅』属性とかチートってレベルじゃねぇぞ!?
「おいごみくず」
「なっ!? またお前か! 口の悪いガキめ!」
その話を聞いたのか聞かなかったのか、アルマ様はダクネスの腕の中からすり抜けて再びデュラハンの、ベルディアの前に立っていた。
「ぱーんち」
「ハッ! ガキのパンチが効くかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!???」
滅茶苦茶効きました。
アルマ様のパンチは身長差からベルディアの足のスネに当たった。その一撃は甲冑を砕き内部の生身を粉砕する。
「いでええええええええええええええええええええええ!? なんだこのガキのパンチは!? だが俺は『不滅』だ! こんな攻撃でくたばったり」
スネを両手で押さえながら涙目でベルディアの頭部が叫ぶ。
そう、両手で殴られた足を摩っているのだから、頭部は地面に転がっていた。
「あ」
アルマ様はそれを、掴んだ。
「えい」
そして、地面に叩きつけた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!!!!!!!
その時、星が揺れた。
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」
「「きゃぁああああああああああああああああ!!」」
冒険者も、アクセルの街にいた住民たちも、全員が叫んだ。恐らく、この辺りだけでなく、
この星に住む全ての生物が驚き叫んでいるだろう。
星揺れによる、大地震の発生である。
「あれ? つぶれない?」
「いっでええええええええええええええええええええええええええええ!! なんだこのガキ!? なんなんだ!? だが俺は『不滅』! 残念だっ」
「じゃ、ちぬまで」
「なんどでも タ タ ケ バ イ イ カ 」
アルマ様は再度、ベルディアの頭を振りかぶった。
そして星は、また震えた。
ベルディアを放り投げた後の『命』のアルマさん。
「ふふふ、下界に呼ばれたおかげでようやく弟と遊べる!」
神は理由なく下界に降臨してはいけません(天界規定より)
「! 弟の匂い! そこかッ………!?!?!?」
そこにはロリータどころかアリス、いやハイジと呼ぶほどに幼くなった彼女の弟の姿が。
「まさかのぺドおおおおおお!!?」
大量の鼻血を吹いてその場でしばらく気絶していたそうな。
『魂』 「お前なにしとるんじゃ?!」
『物質』「だからあの時居なかったんですか」
『命』 「弟可愛いよ! かわいいよ!」