この素晴らしい世界に神様の査察を!   作:ぷらもん

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毎日残業。毎週休日出勤。プレミアムフライデー? それどこの言葉? そんな日常。


この神様に農民の力を! part3

夏が終わりに近づいた季節の変わり目。アクセルの街にそれはやってきた。

 

台風である。

 

 

 

「なぁ、こんなもんでいいかウィズ?」

 

「はい。ありがとうございますカズマさん」

 

「しっかし、すごい風だなー」

 

店の窓に木材を打ち付けて店主に確認する。

 

今、アクセルの街全体では台風による強風の影響で補強工事が行われている。馬小屋に住んでいる冒険者達は寝床が吹き飛ばされないように必死に補強しているかギルドからの依頼で街の建物を補強して回っている。

 

俺たちがやってきたのはウィズ魔道具店。

 

先日、墓地で遭遇したリッチーが経営しているマジックアイテムを売る店だ。

 

「街中でアンデッドが店を構えているなんていいのでしょうか?」

 

「今更だと思うぞ?」

 

駆け出し冒険者の街中にアンデッドの王であるリッチーが店を開いている。確かにおかしな話でがあるが、既にこの街には女神だの駄女神がいるのだ。もう魔王が観光に来たって驚かないぞ俺は。

 

ギルドの依頼で、俺とめぐみんは街の中で建物の補強を。アクアやクリスは街の外に住んでいる農家の人たちに避難勧告をして回っている。ダクネスは何故か街の偉い人たちと一緒に指示を行なっていた。

 

アルマ様? 彼女は農家の家で預かってもらっている。元々そこが彼女のホームみたいなものだし、小さな子供が台風の中外を出回るのも危険という周りの判断だ。

 

……なんか、アルマ様なら台風だって吹き飛ばしてくれそうなイメージなんだけどなぁ。

 

そんなこと考えちゃいけないとは思いつつ、リアルに神様が身近にいると神頼みしちゃいたくなるのが人間の弱さだろうか。

 

「そういえば、アルマちゃんの呪いはまだ解けないんですか?」

 

「あー、うん。アクアも頑張っているんだけどなぁ」

 

ウィズはアルマ様が呪いで幼児化した現場に立ち会っていることもありこうして気にかけてくれている。生前、凄腕のアークウィザードだったということから何か解呪の為の方法はないかと訪ねたこともある。しかし、呪いの解呪というのは強力なモノほど難しいという現実を懇切丁寧に説明される結果だけに終わってしまった。しかも、経験談らしい。

 

「アクアが言うには魔力不足で呪いの核まで解呪呪文が届かないらしいんだけど」

 

「成程。術者が解呪されないように防壁を仕掛けているんですね」

 

いや、わからんがな。どゆこと?

 

「一言で呪いと言っても、かけた術者によって魔法なんていくらでも工夫できます。その『幼児化』の呪いはきっと、幾つもの魔法防壁が仕掛けられていて、それを先に突破しないと呪いの核の部分まで解呪の魔法が効かないんだと思います」

 

「つまり、アクアの魔力が増えれば呪いは解けるってことか?」

 

そう言えばアルマ様がそんなこと言ってたような。アクアはその度に泣いてたけど。

 

「アクアもそんなこと言ってましたよ。マナタイトが三十個もあればいける、と」

 

「マジで?」

 

「ま、マナタイトを三十個、ですか……」

 

聞くと、マナタイトというのは魔力を大量に貯蔵した魔石のことらしい。それが三十個、か。

 

「なぁ。ウィズの店はマジックアイテムを扱っているんだろ? マナタイトは売ってないのか?」

 

「あるにはありますけど……」

 

おぉ! ならいけるんじゃ……。

 

「おひとつ、一千万エリスになります♪」

 

別の手を考えよう。

 

「魔力を増やすのなら……リッチースキルにいい方法がありますよ?」

 

「リッチーのスキル?」

 

「はい。《ドレインタッチ》というんですけど」

 

 

 

 

 

 

「それにしても本当に強い風ですね」

 

強風によって身体に叩きつけられる雨の中、めぐみんが言う。確かにそうだが、日本から転生してきた俺としてはそうでもない。まだこれくらいなら傘をさして頑張れるレベルだ。本当に酷いときは歩くことだってままならないのが日本の台風だし、雨だって視界が効かなくなるほどもっと振る。

 

まぁ、島国である日本と大陸の内陸にあるアクセルの街の違いだろう。

 

 

と、俺はまだここが異世界だという認識を甘く見ていた。

 

 

「大変だカズマ! 街の外に竜巻型のモンスターが出現した!!」

 

血相を変えたダクネスがそう言って息を切らせながら走り込んできた。

 

「ふざけんな!!!」

 

そう叫んだ俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャーーー!!! こっち来てるんですけど!? あの竜巻こっちに向かってきてるんですけど!!」

 

「ここはもう危ない!! 皆さん早く逃げてください! 街の中に早く!!」

 

アクアさんと農家のお宅に街の中に避難するように触れ回っていたところ、ソレはやってきた。

 

高さ五十メートル。渦の大きさが百メートルはあろう竜巻が草原の向こうからこちらに向かって突き進んでくる。

 

すぐに避難をしなければならない中、困ったことがあった。

 

農家の人達が、自分達の畑から離れてくれないんだ。つまり避難が進まない、逃げられない。

 

「ばあさんや。畑が心配だからちょっと見てくるよ」

 

「あいよ、気を付けてな」

 

「いやダメだからね!? どこ行こうとしてるのお爺ちゃん!!」

 

肩にタオルをかけたお爺ちゃんがこの嵐の中外へ出ていこうとしている。何度も止めたけど、どこの農家も皆同じことをするから怖くてしょうがない。この人たちはなんで自分の命をもっと大事にしないのかな?

 

「お嬢ちゃん、わしらのことはええ。早く逃げんしゃい」

 

「だからお爺ちゃんたちも一緒に!」

 

竜巻は尚もこちらに向かって来ている。その速度はゆっくりだが、近づくにつれて風も強くなってきていた。このままだと、この農家の建物ごと吹き飛ばされる。

 

「ねぇクリス! お爺ちゃんとお婆ちゃんも早く逃げましょう!? アルマちゃんだってこんなところにいたら飛んでいっちゃうわよ!!」

 

水の女神らしく、アクアさんは顔から色んな液体を大洪水させながらも逃げ出すことなくあたしと一緒になって農家の人たちを説得している。普段はぐうたら女神な先輩だけど、人の子を見捨てようとしないその姿勢は本当に尊敬する女神の姿だと思う。

 

しかし。

 

「アルマちゃんも早く逃げよう? ね?」

 

「んー? にげなきゃ、らめ?」

 

アルマちゃん。お父さんも乗り気じゃないのが問題だ。幼児だからだろうか? 子供は台風が来ると妙なテンションになる。そう聞いたこともあるけど、お父さんがそうなるとは思わなかった。

 

「むすこー。あのぐるぐるってあぶない?」

 

「んー、そうだね……」

 

ダックス。そう名付けられた一撃熊の膝の上に座り込んだアルマちゃんが、近くで農具を倉庫に片付けていた農家の息子さんにそう問いかける。

 

何を当たり前のことを? アルマちゃんが台風の危機感を今だに感じ取っていないのかと思ったとき、彼はこう言った。

 

「毎年のことだし、別に大丈夫だと思うよ?」

 

「そっかー」

 

「「いや、どういうこと!?」」

 

朗らかに笑ってそう言う農家の息子にあたしたちは驚きのあまり叫んだ。

 

毎年ってなにさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とめぐみんはダクネスに先導される形でその竜巻の元へと走っていた。

 

「おいダクネス! 普通逃げるだろ!? なんで危ないところへ走っていかなくちゃならないんだよ!!」

 

「ギルドの調べで分かったのだ! この台風はあの竜巻が引き起こしている! だから奴を倒さなければ街に被害が出続ける!!」

 

「「マジで!?」」

 

竜巻型モンスターって、そういうことかよ……。

 

聞けば、遠くから見れば巨大な竜巻だが、その中心に風を発生させているモンスターがいるらしい。そいつを倒さなければこの台風は終わらないということだ。

 

「つまり、私の爆裂魔法の出番というわけですね!?」

 

「そういうことだ!!」

 

「え!? あ、任せてください!!」

 

いつもなら全力で止められるのに、ぶっぱなせと言われて少し戸惑うめぐみん。しかしやる気に変わりなく、むしろ見ていろという気概だ。

 

アクセルの街を出て走った先は、なんとアルマ様がいる農家の方角だった。

 

「なぁ、ダクネス。あのでかい竜巻がそうか?」

 

「……そうだ」

 

「あわ、あわわわわわわっ!!」

 

街を出てすぐに視界にはいる巨大な竜巻。それがどんどんと速度を上げて近づいていく先に、農家だあった。

 

そこには、アルマ様とアクア達がいるはずだ。

 

ッ! 

 

近づけば近づくほどに風は強まり走ることもままらない。地面から身体が飛ばされそうな浮遊感すら感じる中、俺達は必死に台風に近づいていった。それこそ、地面にしがみつきながら、這って進んだ。

 

「今だーッ! 撃てめぐみん!!」

 

「はい!」

 

竜巻がめぐみんの爆裂魔法の射程距離内に入った時、俺はそう指示をした。めぐみんによる爆裂魔法の詠唱が始まる。

 

少しの時が過ぎたあと、めぐみんは高らかに叫んだ。

 

「《エクスプローーーージョン》!!!!」

 

………。

 

………………。

 

………………………。

 

………………………………?。

 

しかし、何も起きなかった。

 

「「あれ!?」」

 

「ま、魔力が足りません……」

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

「ど、どうしたカズマ!? めぐみんも何があったんだ!?」

 

すいません、ちょっとね。

 

爆裂魔法が不発に終わった以上、当然ながら竜巻は止まらない。そのままその勢いを緩めることなく突き進んでいく。

 

その先には農家があり……。

 

「ま、不味い! アクアーーッ! アルマ様ーー! クリーーーッス!!!」

 

頼む、逃げていてくれ!!!

 

必死に叫んだその瞬間、

 

 

ブハァッ!!!!!!

 

 

という轟音と突風の後……竜巻が斬れた。

 

 

「「「ハァッ!?」」」

 

 

 

 

少し前。

 

「今年も、奴が来たか……」

 

「行くのか、親父」

 

「あぁ」

 

じーじがこわいおかおをしてぐるぐるをみてまちゅ。あたちはそれがふあんになりまちちゃ。

 

「じーじ、おそちょ、かぜつよいよ?」

 

「大丈夫じゃよ。じいじの足腰は鍛えとるからのぉ」

 

「いや、そいう問題じゃないでしょお爺ちゃん」

 

アクアねーちゃがじーじをちんぱいしちぇそーいいまちゅ。あたちもちんぱいでちゅ。

 

らから。

 

「ん、じゃーアルマがぐるぐるけしちゃう」

 

「「「え?」」」

 

「おいでほーじょーまる」

 

アルマがよぶと、ほーじょーまるがとんできまちゅ。ほーじょーまるはいいこでちゅ。

 

ほーじょーまるをにぎっちぇ、おそとにでます。かぜがつよいので、かぜよりもはやく、いっきにはちりまちゅ。

 

「そーれっ、よーいちょっ!」

 

ぐるぐるのまえで、ほーじょーまるをおもいっちりふりまちゅ。

 

そちたら。

 

ぐるぐるはまっぷたちゅになりまちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 何だ今の!? 何があった!!!」

 

「あ、カズマさん。よっほー!」

 

「じゃねぇよ!? 説明しろこの駄女神がッ!!!」

 

突然目の前の竜巻が消えた。その原因を探るべく、俺達は農家に走り込んだ。そこにはやっぱり逃げ遅れていたのか、アクア達がいたわけで。

 

「あれはね……アルマちゃんが斬ったんだよ」

 

「は? 斬った?」

 

「うん。斬った」

 

「竜巻を?」

 

「竜巻を」

 

クリスの説明を聞いて、俺やめぐみん、ダクネスがポカンと呆けた。

 

そっかー。成程ねー、竜巻が消えたのはアルマ様のおかげだったのかー。納得ー。

 

「アルマ様すげええええええええええええええええええええええええッ!!!!」

 

いや、確かに言ったけどさ! 竜巻なんとかしてくれねぇかなーって言ったけどさ!! 本当にできるとは思わないじゃん!? え? あれフラグだったの!?

 

「またもアルマにいいところを持っていかれましたか……次こそは負けませんよ!」

 

「なぁクリス……いい加減、アルマがどこの国の要人なのか教えてくれないか? 私はそろそろ胃が痛くなってきたんだが」

 

めぐみん、不安になるから対抗心を燃やすんじゃない。ダクネス、世の中には知らなくていいこともあるんだからな?

 

「いや、それよりも見ろカズマ! 竜巻が消えたことで現れるぞ!!」

 

「何が?!」

 

竜巻はもうアルマ様が消してくれたから問題ないんじゃ……いや? そういや、あの竜巻はモンスターが発生させていたんだっけ?

 

なら……。

 

「あれが国から高額賞金をかけられている特別指定モンスター」

 

ダクネスの言うとおり、竜巻があった場所には一体のモンスターが立っていた。そう、立っていた。

 

人と同じ姿の体躯。全身の肌の色は浅黒く、手足は白いテーピングが巻かれ、腰にはボクサーパンツを履き、上半身は裸。見れば老齢の格闘家、といった風体のモンスターだった。

 

その名も、

 

「台風一過だ!!!」

 

「舐めんな!!!」

 

駄洒落か!

 

よく日本でも口にした駄洒落がある。それは台風が来るたびに、「タイ風一家がやってきた。キックボクシングで家を蹴りにやって来た」と友達と笑いながら冗談を言った記憶がある。……捏造じゃないぞ? 本当だぞ?

 

だからってなんでそんな冗談そのままみたいな姿のモンスターがいるんだよ!!!

 

「いいことカズマさん。『台風一過』は夏の終わりを告げる精霊よ。そして精霊は決まった姿を持ってなくて、相対する人間の思考を読んでその姿形になるの。そして、今まで台風に向かっていく冒険者や人間なんて、無駄にレベルの高いチート持ちの転生者しかいなかったから……」

 

「おい、じゃぁ何か? アイツは日本から転生した俺の国の奴らの冗談から産まれたってか!? 馬鹿じゃねぇの!!」

 

「私に言われたって知らないわよ!!」

 

なんて、アクアと怒鳴り合っていたら。

 

「む!? いかんご老人!! どこへ!?」

 

「危ないですよお爺さん!!」

 

ダクネスとめぐみんが焦った声で何やら叫んでいる。見ると、

 

「きぃええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

農家のお爺ちゃんが『台風一過』に向かって走り出していた。

 

「何やってんの!?」

 

「じーじ、あれとたたかうちゅもり」

 

「だからなんで!? 冒険者でもない農家のお爺ちゃんだぞ!?」

 

「カズマこそ何を言っているんです?」

 

はい?

 

「うむ。そうだぞカズマ? 農家といえば、冒険者を除いた国が保有する最強の職業。魔王軍ですら手を出せない強者たちだぞ?」

 

「私のいた紅魔族の里の農家だって上級魔法を駆使して畑を管理し、収穫によってレベル上げを行う集団ですよ?」

 

えー……なにそれ。この世界の農家怖い。そういや、こんな魔物だらけの土地で農業やるとか怖くてできねぇや俺……。

 

「さらに言うと、農家が作物を育てる時期に合わせて季節が変わることから、実は農家が毎年、季節を告げる精霊を討伐しているんじゃないかって噂があったりなかったり……」

 

「怖いわ!!」

 

「見ろ! ぶつかり合うぞ!!」

 

農家のお爺さんと、『台風一過』の戦いが始まった。

 

 

 

 

「おのれ! 今年もやって来おったか!? この畑を荒らす害獣ガッ!!」

 

「ターーーーーーーーーーーィッ!!!!」

 

風が凪いだ草原で。二人の老躯が拳を交わす。どちらも細い筋肉の削げた身体ながらも、いやだからこそ、軽やかな動きで技を繰り出す。

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「ぬぅっ!」

 

腕に小さな竜巻を纏い、『台風一過』がラッシュを繰り出す。それを受ける農家のお爺さんは風が生み出す真空刃に衣服を切り裂かれていく。しかし、鍛え上げられたその肉体には傷一つつかない。

 

「ならば見よ! 奥義、害虫駆除烈拳!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「ほいほいほいほいほいほいほい!!!」

 

竜巻を纏った拳を撃ち落とすかのように同じ数、いや、それ以上の拳を繰り出すお爺さん。

 

「おぉ! あの技は!?」

 

「知っているのかダクネス!?」

 

「あぁ。あの技は農家が生み出した必殺奥義! 作物に群がる害虫を、その拳で全て駆除する農家の必殺拳! しかし未熟な農家が使えばたちまち本人が害虫に群がられ命を落とすいう諸刃の拳!! まさかそれほどの使い手がこの街の外にいようとは!!!」

 

「あっそう!」

 

お爺さんの技を見たダクネスが突然解説を始めたが、どうやら有名な技らしい。もうツッコむまい。

 

「ほぅあたぁっ!!!」

 

「ターイ!」

 

お爺さんの勢いに押され、『台風一過』が競り負け弾き飛ばされる。しかし、その身体が、分かれた。

 

「分裂したぞ!?」

 

「『台風一過』は夏の風の精霊よ! 身を割いて増えることだってあるわ!!」

 

旋風。そう呼ぶほどの勢いと言えばいいか。四つに分裂した『台風一過』はその姿をそれぞれ変える。

 

老躯。男。女。子供。そんな姿をした個体が一体ずつ、計四躰。

 

「ガチでタイ風一家じゃねーか」

 

「つっこんでるよにーちゃ」

 

勝ち誇った笑みを浮かべる『台風一過』の老躯。その見せつけるかのような笑みは今だ嫁すら来ず孫すらいないお爺さんへの当てつけのようでもあった。

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

四躰の『タイ風一家』のラッシュがお爺さんを襲う。だが、お爺さんは怯まない!

 

「じーじ! がんばれー!!」

 

後ろには、彼を応援する可愛い孫(息子は知らん!)がいるのだから。

 

「小癪な! しかし愚かなり!!」

 

ラッシュを躱しつつ、お爺さんは空に飛んだ。

 

「おぉ! あの技は!!」

 

「またかよ!!」

 

「あれは農具すら買えなかった貧しき農家の編み出した奥義! 己の肉体を農具と見立て放たれるその蹴りは岩盤を砕き地中に埋まった岩すらも砂に変えるという!! その技の名は!!」

 

「喰らえぃ! 開墾多連脚!!!」

 

飛び上がったお爺さんよる空中蹴り。それはまるで地上に降り注ぐ豪雨のように、地上の『タイ風一家』を蹂躙した。

 

「「「ターーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!」」」

 

繰り出される蹴りの威力は、一撃のそれはそれほどのものではない。しかし、分裂したことにより一体ごとの強さが分散し弱体化している。故に、お爺さんの攻撃はその尽くを打ち倒した。

 

「タ、タイ……」

 

消滅されていく家族に手を伸ばしながら声を漏らす老躯の『台風一過』。その目にはうっすら涙すら浮かべており、その光景にカズマは『一家離散』と心の中でつぶやいた。

 

そして、彼は怒り狂った。

 

「ターーーーーッイ!!!」

 

「む!?」

 

身体を縮みあげ、片足立ちで構える。その姿勢のままお爺さんの背後を取るべく動き出す。

 

「まさか、出るのかあの技が!? 気をつけろご老人!!」

 

「今度はなんだよ!?」

 

「アレよカズマさん! アレ!! タイキックよ!!」

 

「年末の番組かよ!?」

 

日本からの転生者達の思念を読み取った『台風一過』は、その戦闘方法も習得していた。

 

すなわち、尻部への強烈な蹴りである。

 

もしもこれを喰らえばお爺さんは再起不能となるだろう。何故なら、腰部は農家にとって最も酷使する生命線。鍛え上げられた腰こそが農家の強みであり、粉砕されればもはや農業を行うことすらできない致命傷となる。

 

だからこそ、お爺さんの対応は迅速であった。もはやそれは農家の本能だったといえおう。

 

なぜならば、お爺さんは農業を受け継いだ農家そのものだったのだから。

 

強敵(とも)よ。それが貴様の全霊を込めた一撃というのならば、わしもそれに応えよう……受けるがいい! 農家究極奥義!!!」

 

「ま、まさか……出るのかあの技が!?」

 

「もうなんでもこーい!」

 

『台風一過』から繰り出される中段蹴り。その名もタイキック。それを迎撃するためにとったお爺さんの行動とは、腰だめに構えるということ。

 

逃げるのではなく、構えた。その意味とはッ!!!

 

「作物! 豊穣拳ッッ!!!」

 

お爺さんの身体から大地のエネルギーが迸る。それが拳へと収束し、放たれた一撃と共に放射されタイキックとぶつかりあった。

 

「た、タィッ!?」

 

「天へ還るがいいッ!! ぬおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

渾身の一撃が爆発した。お爺さんという農家を媒介に、大地のエネルギーが天へと突き上げられ、弾けた。そのエネルギーは天へと昇ったあと霧散しまた地上に降り注ぐ。

 

そして大地に新たな芽が咲き乱れる。

 

「タ…………い…………」

 

「また、次も死合おうぞ……」

 

「おぉ……あれぞ農家究極の奥義。大地に根を張る大樹の様に、地についた足から大地のエネルギーを汲み取り拳から放つ技。あれを食らった畑は栄養に満ち溢れ豊作になること間違いなしだという。『大地』の女神ガイアに祝福された真なる農家にしか扱えない秘伝の奥義をこの目で見ることができるとは!!」

 

「もうさ、農家ってなんなの?」

 

「ちなみにあの技を使える農家は所属する国の国王が土下座をして使用を控えるよう懇願するという」

 

「連発されたら国の大地が枯れ果てますからね」

 

「国王より農家のほうが立場上じゃん……」

 

こうして、国の特別指定モンスター『台風一過』は消滅した。夏は終わり、秋の訪れである。

 

しかし、農家の戦いは終わらない。彼らは作物を育てるため、もう一度立ち上がるだろう。

 

農業とは、大自然との戦いなのだから。

 

「次は、冬じゃ!」

 

 

農家よ、永遠なれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆様は、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいッ!!』

 

 

終わったと思ったんだ。

 

台風が過ぎ去った、というか打ち倒した後。俺達が街の片付けに戻ろうとした、その時にこの放送が流れた。

 

そしてそのまま。街へと向かうその足で、ほかの冒険者がそうしていたように俺達は街の正門へと集合した。

 

そこには。

 

「俺の、俺の城にッ! 引っ越したばかりのマイホームに、爆裂魔法をポンポンポンポンとぶち込んで消滅させた馬鹿は、どこのどいつだーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

全身を、包帯でグルグル巻きにした上から全身甲冑を着篭み、スケルトンや骸骨兵に肩を支えられながら弱々しく立つ、首無しのアンデッド。

 

デュラハンがいた。

 

 

「アンデッド?」

 

「アンデッドね?」

 

「あんでっどはころーす!」

 

逃げて。




『魂』 「読者(お主)は、「馬鹿な! ベルディアは死んだ筈!?」と言う!!」

『物質』「馬鹿な! ベルディアは死んだ筈!? ……ハッ!?」

『魂』 「……いや、なんで?」

『物質』「あの爆発で逃げ延びれるはずが……?」

『命』 「あーーー、徹夜続きで腹が空いた……あ、ベルディアだ。まだ怪我治ってないのに頑張るなぁアイツ」


『魂』『物質』「お前かーーーーーーーーーーい!!!!」

次回! 頑張れベルディア! お前の勇姿は忘れない!! をお送りします。タイトルは違うよ?

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