「のう、『理』の。ぬしにちょいと出張を頼んでもよいかの?」
「出張? 私がか? どこへだ『魂』の」
白い、白いとしか形容できない世界。部屋が、という話ではなく空も大地も白一色の空間。神界。そんな場所へ無造作に置かれた四つの腰掛イスのうち二つに座る人物が二人話している。
一人は『魂』と呼ばれた褐色の少女。
一人は『理』と呼ばれた金髪の青年。
この二人、どちらも神である。
褐色の少女は椅子……背もたれのないソレに胡座をかいて座っており、その身に纏う装束は僧が着る袈裟である。両の目は常に閉じているが語る相手を見失うことはない。
金髪の青年は国王が座るような豪奢な椅子に足を組んで座っている。しかし、金で装飾され座り心地の良い赤地の絨毯を背もたれから足元まで敷いたその椅子に座る青年の顔は苦い色をしている。
この少女(中身BBA)の持ってくる案件に禄なものがないからだ。
「わしらの管理外の世界。便宜上『異世界』と呼ぶが……そこにぬしの世界の住人を転生させとるじゃろ?」
「ぬ、」
『魂』に言われて『理』は思い出す。
彼の管理する、というか作った宇宙にある惑星『地球』。その星で死亡した人間を転生させている『異世界』があったことを。
そして、死んだ人間をわざわざ別の世界へ転生させている理由とは……。
「……何時になったら魔王を倒してくれるんじゃろうなぁ?」
「いや、それは……その」
魔王。ファンタジーな作品、世界に存在する強大な悪。人類の敵。魔物、もしくは魔界の王と呼ばれる存在。地球では空想上の存在でしかなく、しかし異世界それも剣と魔法、モンスターの存在する世界には度々登場する。そして大抵、魔王と呼ばれる者は迷惑なことに魔物を率いて人類に牙を剥くのだ。
そうすると身体能力やその他もろもろで魔物に劣る人類は一部の英雄を除いてそれはもうバッタバッタと殺されるわけで。
そんな経験を、人生の最後を迎えた魂が。『もう一度頑張る?』と聞かれれば口を揃えてこういうのだ。
「「「勘弁してください!!!」」」
と。そして始まったのが惑星規模の人類の過疎化。生まれ変わるなら他の世界で! と希望する魂が殺到し、そして去っていった。
「神具とかチートとか、かなり優遇してやっておるのにのう?」
「本人たちも頑張っていますし……ハイ」
故に、始まった魔王討伐を兼ねた移住計画。他の世界へ転生させた分、その世界の死者を連れてくる。その時、その死者の希望に沿った特典……チートと呼ばれる特殊な能力や神具を与えて。そうすれば能力的に劣る人類でも魔物に対抗できゆくゆくは魔王も打倒できると……思っていたのだが。
その計画を初めて数百年。人類は今だに魔王に打ち勝ってはいなかった。
「誰が転生させてやってると?」
『魂』の神様です。
褐色の少女神が『理』の青年にジト目で迫る。普段閉じている双眸で、だ。
「……わかったッ、私が行こうッ!」
「そうか! 行ってくれるか!」
笑顔で柏手を打って喜ぶ『魂』の。すると、彼女を中心に魔法陣が広がっていく。異世界への送還の魔方陣だ。
「ちなみに『魂』の。なんで私なんだ?」
「消去法じゃよ『理』の」
「おいババァ!!」
その言い草に敬意もクソもなく叫んでもいいと彼は思った。
「だってのぉ? 人間嫌いの『命』のはむしろ魔王側につきそうじゃし、『物質』のはファンタジーをSFに変えかねんロボット好きじゃしなぁ」
「ならアンタが行けよ!!」
カッカッカと嗤う『魂』の神。それが悔しくてしょうがない『理』の神はすでに魔法陣によって宙へと吸い上げられていた。
「わしはぬし等がもがき苦しむ姿を生暖かく見守るのが趣味なんじゃ!!!」
「そうだよテメェはそういう奴だった!!」
仏教には輪廻転生という教えがある。それは悟りを開くことを目標に、生前の修行によって徳を積み重ねること。一生の間に悟りを開くことができなかければその魂は輪廻の輪を何度も廻るのだ。その日が来ることを解脱という。
その様はまるで終の見えない受験戦争。結果発表があるのは死後のみで、「今回はいけた!」と思ってみればカンガルーの赤ちゃんだったりとかもあるそうな。そんな魂達の姿を見て楽しむのが趣味と公言するこの神が、ある意味一番悟りから遠いところにいるのではないかと思うのだが……。
「あ、そうそう」
「なんだよ!!」
だから。
「ぬしは異世界では存在そのものがチートすぎる。故に、性能に制限をかけさせてもらうぞ」
「………は?」
そんなことを言い出すのもある意味彼女らしいというもので。
「逆チートじゃよ。弱体化じゃ!」
「!? この魔法陣ッ! よく見たら『送還』意外にも効果あるじゃねえか!? 『魔力減少』『身体能力激減』『幼児化』に……おいこら『女体化』ってなんだオイ!???」
「お揃いじゃろ!」
「うるさいよ! 完全に嫌がらせじゃねぇか!?」
文句を言うが時すでに遅し。肉体が青年から少年へと縮んで行き、体の線は丸みを帯びて少女のものへとなっていく。『彼』は『彼女』へとなっていった。
「それでは一応定条文でも送ってやろうかの。……『理』の神アルマよ。ぬしは異世界へと赴き魔王討伐が進まぬ原因を査察し、改善せよ。あと現地の女神に協力もして下界の問題に首を突っ込みすぎないように上手いことやれよぉ~」
「さらっと仕事の難易度を増やすなァァァァッ!!」
『彼女』がこの神界で最後に挙げたその声は……とても可愛らしい少女のものだったという。
その日。駆け出し冒険者の街、アクセルの上空に太陽と見紛うほどの光が降臨したそうな。
神様設定は超テキトーです。神仏混合摩訶不思議程度で。
『魂』……見た目はパ●ドラのパールバティーさん。愉悦!
『命』……でっかいドラゴン。登場予定なし。人間嫌い死ねぇ!!な御方。
『物質』…グレート合体! ろけっとぱーんち! 登場させたら世界観が壊れます。
『理』……貧乏くじ。天界規定とか宇宙の法則とか倫理観とか法律とか、そういったルールを決めている御方。苦労性。魔物嫌い死ねぇ!!な御方
神様に性別はない? アルマさんは今は男の子の気分だったんです。
ルールを決めた人がルールを破る。実は真面目な人程ストレスで胃がマッハなことになる地獄。今アルマちゃんはココ。