ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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アンケート宣伝の為にローテーション外して更新です。


幕間:武器強化イベントとカオス

 

――供養するのだと言っていました。

 

長年大事に使っていたから、ちゃんとしたお墓を立ててあげたいのだと。

アレの遺体と一緒に埋めてやれば喜ぶんじゃないかと半ば本気で言ったら、無言ちょっぷを貰いましたけども。

 

スユドさんにへし折られた山刀――たとえ折れた刀身であったとしても、最大の敬意が払われているのが解ります。

こびり付いていたスユドさんの血は奇麗に丁寧に清められ、柔らかい布に包まれていました。

 

「――思い出深い品みたいだね」

 

良く良く見れば、使い込まれて味のあるくすみ方をしながらも、しっかり手入れされているのが伺えます。

 

「ええ――随分長く頑張ってくれました。元はとても良い物だったんですよ。木の枝を払い、食べ物を取り、時には敵を退けてきました。

私は刃の研ぎ方も手入れの仕方も、みんなこの子に教わったんです」

 

目を細めるニソラさんの脳裏には、きっとたくさんの思い出が流れているのでしょう。

長年連れ添った相棒と言う奴です。

 

まるで器物を人のように扱うその様を、ボクは否定しませんでした。

散華を握った時から、『本当に魂が宿っている』と言う事をボクは知っていたからです。

 

……スユドさんはつまり、ボクらの仲間を一人『殺している』訳です。

一番悔しいのはニソラさんの筈なのに……と歯噛みしますが、それを察したニソラさんに咎めるような目線を受けて、ボクは首を振りました。

 

「――ボクも、持たせて貰って良い?」

「ええ……どうぞ」

 

気をつけてくださいね、と一言添えながら、二つに分かれた山刀を手渡されます。

触れてみると、柄がニソラさんの手の形に合わせて僅かに変形しているのが解りました。

散華のように『鑑定』は出来ませんでしたが……それでも、『魂』を感じる気がしました。

『存在感』とでもいうべきでしょうか。

もっとニソラさんの隣にありたいと。そう全身で叫んでいるような、そんな声無き声が聞こえる気がします。

 

生きたがってる。

 

圧倒されました。

一番悔しかったのは……もしかしたら、この山刀だったのかもしれません。

スユドさんに傷はつけど決定打を与える事は叶わず、最後の最後でダメージを入れてもそれを逆手にへし折られる……ニソラさんは自分の未熟だと言いますが、ボクがこの山刀だったとしたら、きっと悔しくて悔しくて堪らないと思うのです。

 

大事にされていた事が解ります。

もっと、ニソラさんと冒険をしたかったに違いないのです。

 

「――ラピスラズリブロック、確かあったね」

「?」

 

勇者の廃墟。

残されていたテラスチール生成の祭壇。放置されていたラピスラズリブロックを思い出しました。

石炭はブロックを作れるほどには揃っています。

金もブレイズロッドもギヤナさんから仕入れられるし、糸も用意できます。

 

後は。

 

「……ニソラさん。一つ、賭けに出てみない?」

「賭け……ですか?」

 

折れた刀身を目の前に掲げました。

 

『魂』が宿っているのなら。

ニソラさんと共にありたいと叫んでいるのなら。

 

きっと、応えてくれると確信します。

 

 

「――生き返らせよう。この山刀を」

 

 

@ @ @

 

 

抜刀剣Modのレシピには、折れた刀から大太刀を作ると言う物があります。

と言うか、抜刀剣Modで大太刀を作るルートがそうなってるんです。

まず一回斬った木の剣を使って無銘刀『木偶』を作り、この木偶と金、鉄を使って利刀『白鞘』を作ります。これはボクが今使ってる刀ですね。

そしてその白鞘を使い込んで折った後、その際に零れた刀の魂を鉄に練り込んで焼き上げ『刀の魂珠』を作り、それと折れた刀を合わせて大太刀へ進化させる……それが抜刀剣の基本ルートです。

 

このルートが示す意図は『刀の成長』に他ならないと解釈しています。

使い込む事で刀に宿る『魂』を鍛え上げて行く。そうやって作った刀をレベルの高い者が持てば、ダイヤの剣すら余裕でしのぐ名刀に進化するのです。

 

しかるに。

 

この山刀はニソラさんの手の中で十分に魂を練り上げてきました。

きっとボクは、上のステージに至る為の手伝いが出来ると思うのです。

 

魂の練り込まれた鉄を焼いて『刀の魂珠』が造れるのであれば。

魂の宿った刀身を精錬すれば、同じく魂珠を作る事が出来るのではないか。

むしろゲームの中での大太刀レシピは、そうやって造る事をモデルにして出来上がったのではないかと。

 

かまどに火を入れます。

刀身が赤く熱せられて行くのを感じました。

 

プログレスバーは――

 

動いている!!

 

じわりじわりと、ゲームに比ぶれば亀の這うようなスピードではありますが、確実に刀身はその身を練り上げ始めていました。

 

「――ニソラさん、好かれてるね」

 

ニソラさんの隣にあるのは自分だ!!と言う意地の様なものにも見えます。

ゆっくりゆっくりと進むその進捗がまさに、積み上げた魂が理の壁をぶち抜こうとしている抵抗に思えて、思わず心の中で「がんばれ!」と応援の声をあげました。

 

「……直りますか?」

「直るのとは、ちょっと違う」

 

この子が到達しようとしているのは、さらにその先。

 

「――生まれ変わるんだ」

 

根性の見せどころです。

 

ムドラの散華は長い時間をかけて強い魂を備え、妖刀にすら到達して見せました。

更にはウィザー顕現の爆発でその能力を覚醒させ、多重SAと言うゲーム上においてはチートとも言える能力を開放します。

今、あの刀はムドラで正式な遣い手を待っています。

ギヤナさんがあの後、スユドさん暴走のお詫びとして譲ってくれるような事言ってたんですが……やっぱりアレはムドラの刀ですからね。

 

この子はどこに行くのでしょうか。

ボクはそれが楽しみでした。

 

ニソラさんの味方はつまり、ボクも味方です。

――頑張れ。ボクも最大限手伝うから、さ。

 

じわりじわりと伸びて行くプログレスバーを見つめながら、ボクは次の石炭を投入します。

 

「……建築を除けば、タクミさんが時間をかけて何かを作るのは初めてですね」

「そういや、そうだねぇ」

 

まだ時間が掛かる系のクラフトには辿り着いてませんからね。

この魂珠もゲームでは直ぐにできた類の物です。

 

「やはり、難しいのでしょうか……?」

 

ニソラさんが不安げに口にしました。

 

「この子にとっては、そうなのかもね。妥協すればきっと普通の刀にはなれると思う。時間だってとっくに終わってるかもね。

……けど、この子はどうやらそれでは満足出来ないみたいだ」

「?」

「スユドさん相手に力になれなかった事が、よほど悔しかったと見えるよ」

 

気持ちはめちゃくちゃわかります。

ついぞボクはアレのツラに一発も入れないまま終わっちゃいましたし。

薬品ぶっ掛けたり石抱きに処したりはしましたけど……石の感圧版だなんて生温い事やらずに、ハーフブロックを積んでおくべきでした。

 

「ニソラさんに相応しい刀になろうとしてる……応援してあげて」

「……はい!」

 

 

――山刀にまつわる話をたくさんしました。

 

ニソラさんの住んでいた所は製鉄技術が無かったので、剣自体は他所から買って来たものなのだと言う事。

その代わりに木彫りは盛んだったため、鞘に丁寧な装飾を施すのが主流だった事。

織物細工や木工はあまり得意では無かったので、ニソラさんは控えめに小さな印を掘った事。

 

冒険の旅に持ち出してからは、一番の相棒だった事。

料理に戦闘に大活躍だった事。

だからこそ、丁寧に使い続けて来た事。

 

……スユドさんとの戦闘で不覚にも折れてしまった時は、実はかなりのショックを受けてしまっていた事。

 

「普通に考えれば……折れた剣はもう、私にはどうしようもありません。多少曲がっただけならばともかく、ここまで見事に折られてしまっては……。

正直、タクミさんでも無理だろうなと思ってたんです。いつもの反則は……新たに作り出す事については強いですが、既存の物に手を加えるのは苦手に見えてましたから」

 

ご明察、でした。

 

使った経験を次の作成条件に使用する抜刀剣は、ボクの知るModの中でも珍しい部類に入るでしょう。

もっとも、折れた刀身を精錬して魂珠にするなんて裏ルートも良いとこですけども。

 

「『生まれ変わる』……ですか。私の事は、覚えていてくれるでしょうか……?」

「はは――それは、保証するよ。一番大切な根っこの部分だもんね?」

 

 

刀の魂珠の精錬が完了しました。

 

ゲームでは淡いあやめ色に輝く球体のアイコンでしたが、現実に見てみるととても美しい様相をした鋼の珠です。

精錬は余す事無くその身を練り上げ、昇華する事に成功していました。

 

「キレイ……」

「うん。胸を張って『どうだっ!』って言ってるよ」

 

相当な熱を帯びているのが解ります。

シンボル化していなかったら素手で持つ事すら適わない荘厳な御霊です。

その美しい輝きにボクたちは目を奪われました。

 

――さあ、クラフトだ!

 

作業台に向かいます。

折れた山刀の柄をラピスラズリブロックと石炭ブロックで左右に挟み、上下にブレイズロッドと金のインゴットを配置。

後は糸と魂珠で整えれば――

 

「……っ、これは……!?」

 

クラフトしたものを見て、ボクは感嘆の声をあげました。

 

妖刀化やSAの付加は基本的にエンチャントが無ければ出来ないものです。

が、散華と言う前例がある為、もしかしたらやってくれるかもしれないと淡い期待を持っていましたが……

これはその上を行きます。

 

「ニソラさん、凄いのできちゃったよ」

 

――それは、鍔の無い特徴的な刀でした。

鞘と柄に刻印された独特な装飾が目を惹きます。

刀身は小太刀並みに短く、元の山刀と大きく変わってはいません。

しかしその刀身は力強い輝きを放ち、エンチャントの証のようにほんのりと蒼い光を放っているように見えました。

 

「……すごい……!」

 

美しい刀でした。

ニソラさんの山刀が、一回りも二回りも進化して帰ってきた姿です。

 

「――神威刀(カムイエムシ)『クトネシリカ』。間違いなく、ニソラさんの刀だよ」

「クトネ、シリカ……」

 

恐る恐る受け取ったニソラさんが、その刀身を覗き込むように掲げます。

 

「……凄い!私の山刀のままです!この手に吸い付く感じ……間違いなく、私の……!」

「ちゃんと、覚えてたでしょ?」

「タクミさん――ありがとうございます!!」

「ふふ……ボクは実際、手伝ってあげただけだよ。クトネシリカの頑張りも褒めてあげてね」

 

実際、大太刀ルートでクトネシリカとか、反則としか言えませんからね。

確かまともに造ろうとすれば、魂珠4つとか鉄ブロック2つとか要求してきたはずです。今のボクらには手が出ませんね。

 

 

@ @ @

 

 

「さて、試し斬りと行こうか。――巻き藁は無いのでとりあえず樹木を用意してみました」

「いやいや」

 

ニソラさんの眼からはハイライトが消えていました。

 

「折って落ち込んだばっかですよ私。せっかく戻って来たのに、同じ事させないでください」

 

実は刀で木を切るのって難しいらしいです。かの有名な宮本武蔵も、木刀使い相手に黒星がついたとか聞いた事があったりなかったり。

乾いた木が相手だと、刃先が食い込みはするけれど両断までは至らないらしいですね。

だから試し切りの巻き藁はあらかじめ水につけてふやかしたものが使用されるそうです。

 

「大丈夫、そのクトネシリカは妖刀化してるからね。折れても鞘に納めれば元に戻ったりするんだ。……いろいろ吸われるけど」

「……は?」

 

敵Mobをバッサバッサとぶった斬って、刀が受けたダメージは納刀して回復する……抜刀剣Modの基本戦法ですよね。

抜刀剣は敵Mobを斬った後に抜刀→納刀すると、斬った敵Mobの数に比例してダメージが回復するんです。

この仕様を知らなかった頃は、折れた抜刀剣をしかたなく使い続けていたらいつの間にか直っていた、と言う訳分からない事象に遭遇してたりしました。

 

「断言するけど、青い勇者が使った剣よりもそのクトネシリカの方がよほど強いよ。勇者だって、その剣を持っていたらあの家に残す事はしなかっただろうと思うぐらいね」

「また伝説級のアイテム作っちゃったんですか!?」

 

あっはっは。いまさら何をおっしゃいますか。

 

「――もちろん、率先して折れとは言わないよ。それは人の手を折るようなもので、いくら直るったって刀としては堪ったモンじゃないからね。

クトネシリカが樹木を両断出来るとボクは確信してるんだよ……ただし、少しばかりコツが要る」

「……コツ?」

 

それはクトネシリカと言う刀に宿っているSA(特殊攻撃)。

今回、山刀はその攻撃力の低さ故にスユドさんに敗北しました。だからこそのクトネシリカだったのかもしれない、とボクは解釈しています。

 

「――祈ってみて」

「……祈る?」

 

そう。

それは他の刀のSAとは様相が異なる特殊な力。

 

「『アレを斬る力を』と。神様にお願いするように、刀に祈ってみて。――そうすればSAは発動する」

 

戸惑ったような顔をしつつ、それでもニソラさんはそうっと刀を額の前に掲げて目を閉じました。

 

静寂が包みます。

数舜後に、クトネシリカが淡い光に包まれました。

 

「……これは……」

 

クトネシリカはニソラさんの為の刀です。

ニソラさんが引き出せない筈がありません。

ある種の確信を持てたのでしょう。

ニソラさんは小さく呼吸を整えると……気負わず、自然に抜刀しました。

振り抜かれたクトネシリカが空に一筋の残響を残します。

 

 

ズウウウンンン……

 

 

斯くして、それは完遂されました。

まるで機械で切ったようにきれいな断面を残し、その樹木が二つに両断されたのです。

斬った体制のままで固まったニソラさんが、わなわなと唇を震わせます。

 

「て、抵抗が全然無かったんですけど……!?」

「『カムイノミ(神への祈り)』――祈りによってその斬れ味を増加させる、クトネシリカの特殊能力。

スユドさんに歯が立たなかった山刀が、二度と同じ轍を踏むまいと強く決意した事で宿った力だよ」

 

エンチャントも『ダメージ増加IV』『耐久力III』『幸運III』と、今回の事件やニソラさんの事を考えたラインナップ。

個人的には『火炎耐性』や『射撃ダメージ増加(幻影剣)』が欲しい所ですが、それはちょっと贅沢でしょうかね。

……まあ、エンチャントを後からつけることも不可能ではありませんし。

 

「盗難対策を真剣に考えなきゃイケナイ奴じゃないですかコレ……」

「ふふふ、ニソラさんホント好かれてるよねぇ」

 

クトネシリカを掲げながら、ニソラさんがぷるぷるとめっさ面白い顔をしていました。

 

生まれ変わったクトネシリカ。

末永く大切にしてあげてくださいね。

 

 

@ @ @

 

 

その夜。

 

ボクは不思議な夢を見ました。

まどろみの中で、誰かがボクの声を呼ぶのです。

 

<――タクミ。起きるのです、タクミよ>

 

最初、それはボクがこの世界に来たキッカケとなった神様なのかなと思いました。

よくあるなろう系小説ではこういう場合、なんか追加能力イベントとかが発生したりするのです。

ボクは今の状況がすごくすご~く気に入ってるので、もしそうなら丁重にお断りしようかなとか、むしろニソラさんの健やか安全祈願とかアリかなとか朧気ながらに考えていました。

 

目を開けると、そこには緑色に淡く輝く、木の根で作られた馬のような動物がボクの前に佇んでいました。

……SCPに木の馬がいますが、アレの組成をもうちょっとみずみずしくして草木の緑に変えたらこんな感じになるでしょうか。

目には知性が宿り、まっすぐに僕の顔を見つめています。

 

思わずボクは目をシパシパさせてしまいます。

 

「……ええと……あなたは?」

 

<――私は、メイド妖精ニソラの持つ弓の精です>

 

……

 

……?

 

「……え、弓の精?」

 

<――そう、弓の精です>

 

「クトネシリカの精じゃなくて?」

 

こう言うシチュエーションだと、なんかこう……クトネシリカがお礼を言ってくれるアレだったりするのかなとか思ったのですが。

いや、別にお礼が欲しい訳ではないのですが、出てくるとしたらクトネシリカかなと思ったのです。

だってボクは、ニソラさんの弓とは何の接点もありません。

 

<――その事でとても重要な話があります>

 

重要な話……?

 

ニソラさんの弓の精なら、きっとニソラさんに関わる話なのでしょう。

ボクは居住まいを正してキチッと正座しました。

夢の中に武器の精が現れる……ヘルシングで見た事ありますこう言うの。ゴイスーなデンジャーが今、彼女に迫っているのでしょうか?

 

<良いですか、よく聞きなさいタクミよ。――すぐに私を強化するのです>

 

……

 

……うん?

 

「……ええと……なんで?」

 

<なんで?なんでと言いましたか!?>

 

お、おう?

ボクの記憶が正しければ、ニソラさんの弓は今も現役バリバリに健在だったと思うのですが。

 

<良いですかタクミよ。ニソラと長年連れ添っていたのはこの私も同じ。彼女を想う気持ちはあのクソ刀に負けるものでは決してありません。

――むしろ、私の方が上です。確実に上です>

 

……えええええ。

 

<なのに、あの刀だけいきなり別次元に昇華するレベルでパワーアップするのは、とてもとても不公平でおかしい事象だと思いませんか?思いますね?>

 

ボクは、キチッと正した姿勢がだんだん崩れて行くのを自覚しました。

きっとボクは今、物凄いしょっぱくて引きつった顔してんだろーなと頭の片隅で思ったりします。

 

つまり、つまりこの精霊さんとやらは……

 

「――クトネシリカがズルいから、自分も強化しろって?」

 

<歯に布着せぬ悪しき言い方をするのであれば、そう取る事が出来る事も認めましょう>

 

いや、そうとしか取れませんからね?

 

「まあ、要求は解かったケド……弓の強化って言われてもなぁ……」

 

あまりの残念さに口調が崩れていました。

手持ちの素材で出来るのであれば、その思いを叶える事はやぶさかではありませんけども……

そもそも今回のようにクトネシリカを造る事が出来たのだって、抜刀剣Modと言う特化した分野への知識があったからに他なりません。

しかもボクは、あまり弓を使った事が無かったので心当たりが全然無いんですよね。飛び道具は全部幻影剣でしたし。

 

弓を素材にして、もう一段階上の弓を作るようなレシピがあったら話は別ですけれど……少なくともボクの記憶の中にある強力な弓は、どれもゼロから作る類の者です。

Botaniaのクリスタル弓とかThaum Craftの骨の弓とか……Ars Magicaの結合触媒だって、ツール類だけで弓は無かった気がします。

唯一強化案で心当たりが有るのはバニラのエンチャントぐらいでしょうか。

しかしエンチャントは……

 

「素材が足りないよ。どうしてもダイヤが必要になるし」

 

エンチャントガチャはもしかしたら、弓の精側の根性があれば力づくで高ランクの結果を引き寄せる事が出来るかもしれませんけども、それだってエンチャント台が無ければ始まりません。

エンチャント台のレシピは黒曜石と本とダイヤ。

タダでさえダイヤとレッドストーンを探し求めてる現状で、弓の精の願いを叶える手段はありません。

 

<そんなものは根性でなんとかするのです>

 

……ええー……

 

<あなたの反則は私も知っています。あれだけの反則をやらかすのであれば、きっと解決方法もあるに決まっているのです。

素材不足などと言う泣き言は受け付けません。身を削り、骨を折ってでも何とかするのです>

 

いやいや、マインクラフターの最大の天敵は素材不足ですからね?

無い袖はどうやっても触れません。一体何人のクラフターが『妖怪イチタリナイ』の暴威に晒されその膝を折った事か。

っつーか、ダイヤはもう使い道が決まっています。今すぐ手に入ったとしてもエンチャント台に使う訳にはいきません。

 

<――良いですか?タクミよ。あなたはこれよりのち、死ぬ気で方々に奔走し、死ぬ気で私の身を強化させるのです。それが叶わなければ私は毎夜貴方の夢に乗り込み、悪夢を届け続ける事でしょう。

それがイヤなら私の言葉に従うのです>

 

オイオイついに直接的な脅しに入ったぞコイツ……

 

もはや、ボクの中から弓の精に対して何かをしてあげたいと思う気持ちは欠片すら残さず消えてしまいました。

マインクラフターは自由なのです。

こう言う真似を強要されるのはお断りです。

 

<約束ですよ、タクミ――>

 

視界が光で満たされて行きます。

ああ、目が覚めるのかと周りを見渡し――

 

 

 

「……朝、か」

 

岩肌をくりぬいて作った小さな窓から、外の光が見えます。

 

「タクミさーん、おはようございます!朝ごはん出来てますよー?」

 

今日も元気なニソラさんの声で、思わず口元が緩みました。

とても機嫌の良さそうな声を聞くと、ボクも嬉しくなるのです。

 

「――うん、おはようニソラさん。今行くよ」

 

軽く伸びをしてボクはリビングに向かいます。

 

「そうそう、ニソラさん。実はさ――」

 

 

そしてボクは。

 

ソッコーで弓の精の事をチクりました。

 

 

 

………

 

……

 

 

 

 

<――タクミ。起きるのです、タクミよ>

 

今度の声は、いささか憔悴しているようにも聞こえました。

ガン無視してもボクとしては別に構わなかったのですが、とりあえず起きてあげる事にします。

体を起こせば、前回と同じく淡く輝く弓の精が。しかし心なしかその輝きは萎んでしまっているように見えます。

 

「……なんでしょ?」

 

<――謝るので、ニソラに私の手入れを再開するように言って貰えませんか。毎日きちんとメンテナンスしてくれていたのに、カバンの奥底に押し込んで、見向きもしてくれなくなったのです>

 

憔悴の原因はニソラさんのおこによるメンテナンスボイコットのようです。

ボクの話を聞いたニソラさんが、半眼になりながら「……ちょっとオシオキしておきますね」と言っていたのでどうしたんだろうと思いましたが、こういう手段を取ったんですね。

しかし、わずか二日でここまで沈むとは根性の無いお馬さんです。

 

え?ボクがニソラさんに同じ事をやられたら?

ええと、同じ事となると……例えば一日中口をきいてくれないとか、ガン無視されるような状況でしょうか……?

 

……

 

……自害するかもしれません。

 

<――と言うか、彼女はなんで夢の中の話などと言う事柄を簡単に信じるのですか……>

 

「ボクがニソラさんにウソを言わないって、信頼してくれてるんじゃないかな?」

 

実際に、言うつもりはカケラもありませんしね。

 

<――もちろんそれもあるけど、それだけじゃないよ>

 

何処からか声が掛かります。

振り向けば、そこにまばゆい光が満たされました。

そして顕現する二つの人影。

 

ひとつは、アイヌのような意匠を施した藍色の民族衣装を纏った青年でした。

左腰に、あのクトネシリカをぶら下げています。

 

「……クトネシリカの、精?」

 

青年が、なつっこい顔でふにゃりと笑いました。

 

<その通り!僕にチャンスをくれてどうもありがとう、タクミ君!>

 

あらまぁ、なんか刀剣男子みたいな展開になって来ましたね。

本丸構えるのは得意技ですが、そのまま時間遡行軍相手にドンパチする事になるんですか?

また戦争はちょっと……

 

<――そうそう、あのクソブタをぶった斬る展開が来たら、ぜひ僕に斬らせてくれないかな?その時だけなら別に、たとえ君に振るわれる事になったとしても僕は構わない>

 

「つまり、暗殺?……その手があったか」

「はーい、怖い話はやめましょうねお二方」

 

クトネシリカと一緒にちょっぷを貰ってしまいました。

 

――顕現したもう一人は、ニソラさんです。

 

「まさか夢で顔を合わせる展開が来るなんてねぇ。『夢で会えたら』なんて、ちょっとオシャンティーだよ」

「そのオシャンティー空間で暗殺計画練るのはダメですからねー?……もう、クトネシリカも一緒になって怖い事言いだすんですから」

 

言いながら、『わ~っ』と両手を合わせてご挨拶です。

実は結構感動中。朝起きたら真っ先にする事は、この夢の出来事の確認ですね。

 

<先日はニソラの夢の中でお話ししてたんだ。タクミ君にも早めにお礼を言っておきたかったんだけど、先客が要るっぽいから遠慮しておいたんだよ。

……まさか、弓に強化強要されているとは思わなかったけどね>

 

ああ、通りで夢の話を素直にまともに受け止めてくれた訳です。

 

<直接弓の精とニソラをお話しさせるために、割り込める機会を窺ってたんだ。お礼を言うのが遅れちゃってゴメンね?>

 

「いやいや、そんな事気にしなくても大丈夫だよ。お心遣いありがとう」

 

他者を誰かの夢の中に連れて行くなんて、凄い能力持ってますよね。

精霊の宿ってる武器はみんなこうなんでしょうか。

まさかのニソラさんの登場で弓の精がテンパっていました。

 

<――ああ、ニソラ!私の愛しい主よ!!>

 

「つーん」

 

<うああああん、無視しちゃヤダああああああ!許してええ、許してくださいいいいいいい!!>

 

弓の精が秒泣しました。

君ほんとニソラさんの事大好きだよね。まあ、ボクもだけども。

 

「謝るのは私にじゃないですよ。まったく、いくらクトネシリカが羨ましいからってタクミさんに脅しをかけるなんて……!」

 

<う゛う゛う゛う゛う゛う゛……その節は大変、大変、申し訳ございませんでした……>

 

馬の容姿で土下座とか、なんか物凄い珍しい物を見ている気分です。

流石にガチな気している所を死体蹴りするほど、ボクは鬼になれませんでした。

 

「……わかったよ。まあ、多少なりとも理由は納得出来るし……ボクは許したから、ニソラさんも許してあげて」

 

<ありがとうございますう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!>

 

「ちゃあんと反省するんですよー?」

 

 

@ @ @

 

 

あは、スゴい。

ここだとクリエイティブチートが使えるんですね。NEIからアイテム取り出せましたよ。

いつの間にか解放されていた紅茶を入れつつケーキと一緒にお茶会です。

弓の精は流石に参加無理かと思ったんですが、体の中から弦のような触手を伸ばして、器用にカップを持っていました。

おう、そのドヤ顔はやめーや。

 

「――私、少し気になっているんですけども。私はもしかして、タクミさんが使うはずだった材料を使わせてしまったのでしょうか?」

「んー?」

 

抜刀剣の事でしょう。

ニソラさんの山刀をパワーアップしたのならば、ボクの白鞘もパワーアップしている筈、と言う事なんだと思います。

ボクは笑って否定しました。

 

「そんな事は無いよ。実際、まだラピスラズリブロックは残ってるし。金は……ギヤナさんにこれ以上タカるのは気が引けるからアレではあるけど」

 

思えばかなりタカったものです。

冷蔵庫の鉄に始まり、ブレイズロッド3本に金インゴットも2個都合付けて貰いました。ネザーウォートも貰ってますね。

金以外のネザー特産品は今後物々交換する手筈になっていたので既に目録は用意してあるんですけど、金だけは地上でも手に入るので検討から外していました。

 

ともかく。

 

「復活レシピはアレ、あくまで『折れた剣』が必要になるんだよ。まさか白鞘をわざと折るのも気が引けるし……それに、今の白鞘を折っても多分意味ないと思う。蓄積している魂が足りないよ。

アレはあくまで、ニソラさんが長年使い続けていた刀だから成功したんだ」

 

クトネシリカがエッヘンと胸を張って見せました。

 

「育てた剣だからこそ素材になる……と。まるで、ゲームか何かですねぇ」

 

まさしくそのゲームなんですよニソラさん。

まあ、普通に考えればなんだそれって感じになりますけど。

 

「それに、ちょっと迷ってるんだよね……」

 

白鞘をなんとなく目の前に掲げながら呟きました。

 

「迷う……?」

「この白鞘を後々メインに使うかどうかって話。……実は、本命が別にあってさ」

 

抜刀剣Modは数々のモデルが存在しています。無銘の大太刀に限らず、アドオンなしでも鉄刀木(たがやさん)や閻魔刀(やまと)、村正(むらまさ)など数々の刀が手に入ります。

――しかしその実、これらの刀の性能にはあまり差が無かったりするんです。

 

異論ある方は結構いると思いますが、これはある角度から見た話になります。

 

刀の差別化を行っている部分にSA(特殊攻撃)がありますが、実はコレ、別の刀に移植……と言うかコピーする手法が用意されているんですよ。

刀固有のモノでは無いんです。

 

しかも抜刀剣のダメージ算出に大きく影響しているのは、刀自身の攻撃力ではなく現在の攻撃ランクと使い手のレベルです。

レベルが高くなると攻撃力もどんどん上がって行くのが抜刀剣。

最初はこれ、リミッターが掛かっててダメージも頭打ちになるんですが、1000対切りするとこのリミッターが外れます。

すると、Refineの回数によって際限なく攻撃力が上がって行くんです。

 

何度も金床で鍛えてRefineを上げてやれば、使い手のレベルに合わせてどこまでも強くなっていく……この性質はどの刀でも変わらないんですよね。

 

唯一個体差が出るのは刀の耐久値ですが、アドオンなしではエンドコンテンツクラスの刀でも耐久値50が良い所。

今持ってる白鞘は耐久値60なので、実はそこだけ取り上げれば白鞘はアドオン無しで最も強い抜刀剣だったりするのです。

その代わり、白鞘は妖刀になれないと言う欠点がありますけどね。

その耐久値だって先の通り、抜刀剣は妖刀化すれば自動修復する仕様です。

高ランクの耐久力エンチャントさえつけていればそうそうパキポキ折れる物でも無いし、折れても問題無く直ったりします。

 

だからこそ、ボクはゲームの中では思い入れの強い抜刀剣を一本作って、それをずっと使っていました。

他の刀はあくまで観賞用か、もしくはそれを手に入れるまでの『繋ぎ』でしかありませんでした。

 

「ずっと前から、ボクの使う刀はもう決めてたりするんだけど……実はそれ、普通に作る代物じゃなくてさ。『黄昏の森』って世界にある刀だったりするんだよ」

「おお!別世界ですか!?」

 

ニソラさん、流石の食いつきです。

 

「はは……まだ行けないよ?ゲート造るのにダイヤが要るし」

「ダイヤ……え、通行料的な何かですか?なんか世知辛い……」

「否定出来ないのが痛い所なんだよなぁ」

 

中間素材や特殊な装置は必要なく、それこそダイヤさえあればすぐにでも行く事が出来る世界なので、『通行料』と言うニュアンスはあまり間違って無いんじゃないかと思う今日この頃。

 

「――でもさ。この白鞘だって『繋ぎ』に使われてほっぽかれるのはきっと辛いだろうなって思ったんだ。なら……ボクはこの刀を使うべきなのかも、って思っちゃってさ」

「強い思い入れの弊害ですねぇ――私はそう言うの好きですけども」

 

<武具に宿る精としては、その考え方は好感が持てますよ>

<うんうん、使い続ければきっと僕みたいにパワーアップしてくれるかもしれないしね>

 

精霊のお二方もプッシュして来たりします。

 

……そうですよね。

何だかんだで既に、ヘルハウンドも斬ってすらいる刀です。戦争に巻き込むだけ巻き込んで、用が無くなればポイなんて真似をボクはしたくありません。

 

ボクが目的にしていた刀は『夜叉』。

実はこの名前を冠する刀は真作贋作の二本あるんですが、ボクが欲しいのは真作の直刀ではなく贋作の反りがある方です。

見た目的にもこの白鞘が一番似ていますね。

 

特殊な理由がある訳ではありません。

ただ、飾り気のない無垢な姿が気に入っていました。

でも。

 

「……うん。まだ見ぬ刀より、今の刀だよね。この子を精一杯大切にするよ。

あの刀の事は、忘れる事にする」

 

ボクが決意を固めたその時――『声』が響いてきたのです。

 

 

<――あいや待たれぇぇぇええい!!>

 

 

パスン、と辺りが停電したように暗くなりました。

 

「へ……て、停電!?」

 

ピロン……シャン……シャン……

テ↓テ→テ↑ン、テ↑テ→テ↑テ→テ↓ン、……

 

「なんか曲が聞こえてきた……!?」

 

入場曲でしょうか。

それは、どこか和風チックなメロディを持つ旋律でした。

って言うかボク、この曲どっかで聞いた事がある気がするんですけども!?

 

「あ、あそこです!」

 

ニソラさんが指さす先に、いつの間にかファンシーなお茶会世界観をガン無視した電柱が一本。

その上に黒い人影が。

カシャン!と言う映画でよく聞くと共に、周り四方からスポットライトが照らされます。

そこには何故かキツネの耳と尻尾を生やした藍色の和装?……いや、妙に露出が多いから和装と認めたくないんですが、とにかく頭の悪いギャルゲーに出て来そうな露出度の高い和装チックなナニかを纏ったピンク色の髪の女性が決めポーズをキメています。

 

――って言うか待て。なんか、いろいろ待て。

 

<やあやあ、遠からんものは音にも聞け!近くば寄って目にもぷりーず!――とうっ!>

 

電柱には何の意味も無かったようです。

その女性が意気揚々と飛び降りると、次のシーンのカメラ映りが悪いからか、その電柱はひとりでに地面に引っ込んで行きました。

……なんだこれ。

 

<――私を忘れ去る発言が出て来たので、コレはマズいと天孫降臨!ラブリーチャーミーな良妻愛刀、満を持してここに推参!>

 

シュタッと着地してアイドルピースを決める何かの後方から、「キュピーンッ☆」と言うノリノリのSEが被せられました。

おい、演出誰だ。カメラ止めろ。

 

「わあ!セー〇ームーンみたいです!!」

「ニソラさんっ!?」

 

流石に突っ込み追いつかないんですけども!?

目を爛々にしてヒーローショー見ているが如き拍手止めませんか。って言うか実はそう言うイベント参加してるんじゃないですかアナタ。

 

「あ……あの。どちら様ですか?」

 

<やだもー、マスターったら解ってるクセに水臭い!前世の前世、前々前世からずっとずっとマスターのお傍でお仕えしていたじゃないですかー。

Soul Bindエンチャントまでくっ付けて片時も離れなかったんですから、今更別の世界にぶっ飛ばされても二人の絆は切れませんっ!>

 

前々前世ってそれ、マイクラのバージョンの事でしょうか?

いや、確かにそれっぽい発言をしていたから何となく想像はつきますが……

 

「ま、まさか……『葛の葉』?」

 

<オフコースッ!!マスターの唯一無二の愛刀、『葛の葉』でございます!!>

 

――ボクは、夢の中だと言うのに気が遠くなりました。

 

 

耐久値70。

付けたエンチャントは『Soul Bind』『EXP Boost』『ダメージ増加V』『耐久力V』『射撃ダメージ増加IV』『ドロップ増加III』『茨の鎧III』

Botaniaのエンチャント施設や刀の魂魄を使って、最強のエンチャを付けたいわゆる『ぼくのかんがえたさいきょうのかたな』。

こんだけエンチャ付けると折れたらランダムでエンチャが引っぺがされるんですが、折らないのでモーマンタイ。

そのRefine数は驚異の200。レベル70辺りでSSSランク攻撃をすれば、防御無視のダメージ200とか普通に叩き出すぶっ壊れです。

付けたSAは中距離多段攻撃『波刀竜胆(ハトウリンドウ)』、知る限り抜刀剣最強のSAだと思っています。

使い過ぎてKill CountやProud Soulなど何処まで上げたか覚えてすらいません。

 

――確かにボクは、そんな刀に『葛の葉』と名付けて愛刀としていました。

あくまでプレイしていたゲームでの話です。

あんまり思い入れが強くて、新ワールドを作る時は葛の葉だけMCEditを使って持ち込んだ事もありましたよ。

この世界でだって、黄昏の森に行って夜叉入手をさっきまで考えていたりもしました。

 

……でも、それをそのままココに持ち込むってアリですか!?

 

彼女の口にした『Soul Bind』は、プレイヤーがリスポーンしてもそのアイテムがインベントリに残り続けると言うModで追加された特殊エンチャント。

直訳で『魂の束縛』、Modによっては『未練』と訳されます。

 

……それを付けてたから『こう』なった……?

え、ちょっと待って。ボク、当時色んな物に『Soul Bind』を施していたんですが。

 

「――って言うか、擬人化するにしてもなんでそんな格好になっちゃったのさ。そんな、運命なキノコ信者にバレたらボコボコにされちゃう様な危ないキャラに……」

 

<私の名前は『葛の葉』ですから。つまり『葛の葉狐』、この名前は時に九尾の狐である『玉藻の前』と同一視されますので、必然的に私のイメージはこういう形になる訳です!

……あ、私の事は親しみを込めてどうぞ『玉藻』か『キャス狐』とお呼びください♪>

 

呼ばないからね!?

って言うかボクがつけたこの名前の元ネタ、『葛の葉狐』じゃなくて『葛葉ライドウ』の方だったんだけどなあ!?

刀剣男子的にもキャラデザインはあっちの方になるんじゃないの!?

 

<それはそれとしてですね、マスター。お気持ちはと~っても嬉しかったんですけど、このまま行くとその白鞘を別の名前で呼びそうだったのでお知らせに参りました>

 

「……はい?」

 

葛の葉が、ボクの腰に刺さっている白鞘を指さしました。

 

<――今、その子には私の欠片が宿っています。刀としての『格』が低過ぎる為にそれが表に出る事は無いのですが、間違いなくその子は『私』なんですよ>

 

「え……この白鞘が?」

 

<はい♪利刀『白鞘』はビジュアル的に最も贋作『夜叉』に似ている刀です。その子が成長し、私を顕現できる程に魂の『格』が上がれば、クラフトする必要もなく『葛の葉』の名を背負えるようになるでしょう。

だからその子に別の名前を付けて別の刀として育てるような事はNGです。そんなことしたら『そう』育ってしまいます>

 

……刀が『転生した』と言うイメージでしょうか?

ボクはまじまじと白鞘を見つめます。

なんだかキツネにつままれたような気分です。黄昏の森に探しに行こうと思った刀が、既にボクの手の中にあっただなんて……

 

<私の事。大切に育ててくださいね、マスター>

 

「……うん、大切にするよ」

 

白鞘が淡く光りました。

――いいえ。今この瞬間から、この子の名前は『葛の葉』です。

ゲームで育てていたような力は無くとも、この子が『葛の葉』であると言うのはボクにとってとても嬉しいニュースでした。

 

<――そして!もう一つやって貰う事がありますよマスター!具体的には彼女について!>

 

「うん?」

 

高いテンションそのままに、葛の葉が指し示すのはニソラさんです。

 

「……え?私?」

 

<そうです、貴方です。考えてみてください……あなたは現実世界において、ちゃんとした人型で、マスターの隣に居る事が出来ますね?>

 

「?ええ、そうですね??」

 

<――これはつまり、ズルいですね?>

 

「……えええー……」

 

おいおい、論法が弓の精みたいになって来ているんですけども?

テンションの高いバカはボクの冷めた目線に気付きません。

 

<――という訳でぇ、私たちも現実世界をエンジョイしたいのです!!>

<それはとても素晴らしい提案ですね!>

<おもしろそう……>

 

おいおい、バカ3匹が同調しやがったぞ。

 

「――えーとつまり、レベルアップするとお三方は現実世界に顕現する事が出来たりするのでしょうか?」

 

<いえいえ、流石にそんな力は私達にはありません。……いや、私の場合は例えば四方の門を閉じて満たせ満たせ5回やったらもしかするかもしれませんけども>

 

だからアブない発言止めてくださいませんかねぇ。

 

<タクミさんに作って貰うんですよ――現実世界とこの世界を行き来できる門を!!>

 

「ふぇ!?……ここ、夢の世界ですよね!?タクミさんは夢と現実を行き来できる門を作る事が出来るのですか!?」

 

ニソラさんがキラッキラした目でボクの事を見つめます。

いやいやニソラさん、いくらなんでもボクにだって出来る事と出来ない事があるからね?

いくらなんでも、夢の世界を行き来するなんてとんでもない事出来る筈が……

 

……うん?夢の世界??

 

ぼんやりと、魔術系Modに分類されるそれの記憶を辿ります。

 

「……もしかして、Witcheryの『精神の門』の事言ってる?」

 

<オフコース!!>

 

記憶をたどった先にやっと出て来た出てきた『精神の門』。

Witcheryの要素のひとつです。

このModには夢の世界へ行く手段が用意されているんですが、それに関連する建築物として、雪ブロックを使って作る『精神の門』と言う物があった筈です。

これは夢の世界の中でのみ作れる建造物で、使うと制限時間つきではあるものの、夢の世界から現実世界に出る事が可能だった……ハズ。

 

実はボク、Witcheryは入れても中途半端な所で終わってしまって、エンドコンテンツまで進めた事無いんですよね。

せいぜい動画で見たぐらいしか覚えていません。

……あのWitcheryって、自分の首を切り落とすルートありませんでしたっけ?

まさかそれを強要されたりしないよね?

 

「……ま、まあ、機会があったらね……」

 

「<<<おおおーっ!!>>>」

 

ニソラさんまで同調しちゃいましたよ。

まだダイヤすら手に入れてないのに、やる事がポコポコ出てきて前途多難です。

 

あ……なんか、視界が段々と白く染まって行ってます。

 

<――約束ですよ、マスター!その時を楽しみに待っていますからねー!!>

 

葛の葉の声を最後に、ボクの目の前が完全に白く染まって――

 

 

………

 

……

 

 

 

「「――ニソラ(タクミ)さんッッ!!」」

 

 

……朝一番に起きたニソラさんと見つめ合うと、もはやお互い何が起きたのか確認する必要も無かったワケで。

ボクは、「前途多難だな」と軽く苦笑しました。

 




前書きの通り、今後の展開に迷ってアンケートをする事に致しました。
普通に活動報告上げても誰も見ないでしょうし、更新して宣伝です。

詳しくは活動報告の方をご参照ください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=188878&uid=168468

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