ムドラにも特殊工作の人員が居るそうです。
ほとんど需要が無いため、そのスキルを保ち続けているのは最早その人の趣味に近いそうですが。
個人間でコミュニティを作り、潜入や暗殺と言ったスキルの研究、および勉強会をやっているのだとか。
現代におけるサバイバルゲームのサークルみたいなノリが近いでしょうか。
――今回はそのサークルで最もスキルの高い人がついてくれました。
戦士の中でも班長を務めた経験を持つ、おあつらえ向きな人材です。
「カーラだ、よろしく頼む」
ネザーラックを暗くしたような迷彩柄の服に身を包み、同じデザインのマスクとバンダナで肌が見える面積を制限しています。
全体を見て、一口で表現するならそうですね――「ミリタリーにかぶれたニンジャ」とか?
あと、声が低くてスゴいイケボでした。メタルギアのソリッドスネークみたいです。
ちなみに、ボク達潜入班はカーラさんの指揮下に入る事になっています。潜入作戦なんて経験ありませんからね。
――ニソラさんに経験の有無を聞いたらイエスが返って来そうなので、お口にチャック大事です。
「タクミです。コチラこそよろしくです」
「ニソラです。よろしくお願いします」
カーラさんと、ニソラさんと、ボク。潜入班はこの三名で動きます。
「……地上人とミッションする事になるなんて感無量だな。相手がムルグのアーシャーではなく厄災であれば完璧だったんだが」
ジャブでジョークを交えつつ、ミーティングです。
「――さて、ギヤナから二人の能力は聞いている。
タクミは工作に秀で、しかも中距離であればヘルハウンド9体を同時に相手取れるらしいな。索敵も優秀だとか。
ニソラは遠近両方とも武勇伝を聞いている。あのスユドに一撃入れた上に、無傷で逃亡に成功したそうだな……もはや英雄の所業だ」
情報に間違いないな?と聞かれれば、二人で苦笑しながら肯定するしかありません。
ここだけ取り出したらトンでもないチートチームです。
……チートはニソラさんだけなんですけどねぇ。
あ、語源の「ズルしてる」って意味でならボクの方がチートなのか。
「会敵した場合、その戦闘力は初撃決殺に使用してくれ。俺達は作戦通り、ステルスを貫く必要がある。
――見つかってアラートが出るくらいなら、その前にデリートするのが方針だ」
……軽く、重い内容でした。
そりゃあ、戦争です。「殺す覚悟」なんて安いなろう小説みたいですが、現実に突き当たってみれば「心を決める」強い意志が必要なのだと思い知ります。
ダンシトルラの時のように、それがなくても殺し自体は出来るのでしょう。
しかし、後からその事実に押し潰されてしまいます。
――ボクは、躊躇う事でニソラさんのお荷物になる訳にも、殺しの業に押し潰される訳にも行かないのです。
「心配を掛ける」と言うのは時として暴力を振るうほどに残酷である事を知りました。
その暴力をニソラさんに向ける事は、あってはならないのだと決めたのです。
ぎゅっと唇を結んで真っ直ぐ頷くボクに、カーラさんが肩を竦めました。
「……とは、言ってもな。基本は不殺を目指したい。殺す必要があった場合は、俺が積極的に出張る積もりだ。
――覚悟が乗った良い目だ、タクミ。その目を積極的に濁らす事は無いさ」
……イケボでこんなハードボイルドな台詞を言ってのけるんですから、ひとつ間違えれば惚れちゃいますよカーラさん……
「ニソラ。毒も使えると聞いているが、そのレパートリーに麻痺系の物はあるか?」
ニソラさんの視線が、少しだけ鞄を眺めます。
「……ゾンビピッグマンに効くかどうかまでは解りませんが、似たものを用意は出来ます。呼吸困難と熱、倦怠感に意識混濁を引き起こすものです」
麻痺毒とは微妙に違うんですね。
「ふむ……行動の阻害はできても、完全に無力化するのは難しいのか。呼吸困難が効果に含まれているのは怖いな」
「殺傷毒を中和剤で減毒したものですからねぇ」
「……そう言うことか」
毒を扱う人は必ずその解毒方法を持ってるって何かの漫画で見た事があります。
ニソラさんが持ってる中和剤と言うのは、きっとそんな性格の物なんでしょうね。
「タクミさんは、そう言うの作れません?」
期待の目で見つめられると、可能な限り答えてあげたくなる訳ですが……
「うーん、麻痺・麻酔系の毒はちょっと心当たりが無いんだよ……捕獲・拘束するタイプの道具であれば幾つか浮かぶんだけど、材料が無いし」
「何が必要だ?」
「エンダーパールって言う、緑色の球です」
胸の前で輪っかを作りながら答えます。
本物のエンダーパールがこの大きさなのかは知りません。
うーん?と心当たりを探るカーラさんですが、ヒットする物はない模様。
ちなみに想定しているのはMod「Extra Utilties」のゴールデンラッソ、つまり金の投げ縄です。ゲームにおいてはMobを捕獲し、持ち運ぶ事が出来るようになります。
「――あの、実在するんですか?それ、エンダーマンの持ってるやつですよね……?」
「そうだよ。ニソラさん知ってるの?」
「知ってると言うか……都市伝説の類だと思ってたんですが。エンダーマンの怪って。裏の世界に住む異形の紳士が、子供を拐いにやって来るって言う……」
――ああ、この世界では都市伝説なんですかエンダーマン。
これはまともな方法でエンダーパールを入手するのは諦めた方が良いですね。
ちなみに、特殊な方法を使えばエンダーパールを鉄から作り出す事が可能です。
ストックしていた鉄インゴットはそれに使う予定でした。
しかしそれを行うにはダイヤとレッドストーンが足りないと言う……
なお、ゴールデンラッソと効果がほぼ同じアイテムとして、Mod「Mine Factory Reloaded」のサファリネットや、Mod「Ender IO」の魂の小瓶が挙がります。
そもそもそれらの要素が使えるかも未確認ですが、使えたとしてもやはり材料が足りません。
エンダーパールを求めないルートでも、レッドストーンやスライムボールが必要だった、ハズ。
「結論として、用意は出来ないと言う事だな……まあ、あれば儲け物ってだけだ。人生楽せずに行こう」
せめてレッドストーンさえあればワンチャンあったんですけどねえ。
「――さて、確認するぞ。我々は作戦開始後、地上に出てムルグの該当地点に急行する。これについてはニソラとタクミに丸投げする事になる。
ネザーと地上は相似の関係であり、ネザーの10歩は地上での80歩だと聞いてはいるが……正直、俺にその割り出しが出来る程のスキルは無い。一応、気にはしてみるが――サポートは期待しないでくれ。
……場所なんだが、可能かどうかは別にして、意識して欲しい所がある。
ムルグの側に広がるヘルバークの森林だ。
元々ムルグはガストの被害を避ける為、ヘルバークの森林が近い地形に作られた経緯がある。
ムルグに最も近い森林――位置的にニソラはムルグに入る時に見ているハズだが、ポータルはそこに開きたい。
いきなり町のど真ん中に出たらステルスも糞も無いからな」
「ムルグの入り口から見えた森林の事ですね。わかりました」
軽く了承してしまうニソラさんです。
本当、どういう距離感と方向感覚してるのか……
「――そう言えば。ムルグの近くに巣を破壊されて燃やされた森林があったんですけど……大丈夫ですかね?今言った森林がそこだったりすると不味そうですが」
ネザーポータルを開いたら隣が溶岩流でしたとか、真下が溶岩湖でしたなんて話、かなり聞きますからね。
まあボクは運が良いのか、今までそう言うデストラップ的な場所にポータル開けた事は無かったんですけども。
「ああ、聞いている。溶岩流が突っ切ってる森林の事だな。――多分大丈夫だろう。溶岩湖とは方角が違う」
「そうですね。嘆きの砂漠の溶岩湖とも逆方向ですので、ポータル開いたらポチャン、なんて可能性も低いと思います」
早くもネザーの地形を把握してしまっているニソラさんでした。
「ムルグの該当地点についたら、陽動班が交戦ポイントでムルグとぶつかるまで待機だ。ギヤナと連絡取れれば良いんだが、そんな手段無いからな。時間だけ見て突入する事になる。これのトリガは俺が出す。
――ギヤナと相談してな。大体4本程を見積もった。突入班が交戦ポイントから動き出すのもこの辺りだ。
逆に言うと、俺達は4本以内に地上の該当地点に辿り着いている必要がある」
シーホークで一直線ですから、そこは大丈夫だと思います。
「……ええと……たびたび口にされてるその本数は、時間の単位と言う解釈で良いんでしょうか?」
「あ、そうか。そう言う話にならないと解らないよね。
そうだよ、ネザーにおける時間の単位。ヘルバークを加工した角材が燃える時間から来てるんだって。ちなみに一本4~50分ぐらい」
「なるほど……大雑把に3時間ですか」
なんとなく、ニソラさんが懐をがさごそして懐中時計を取り出しました。
銀色の、手のひらサイズの時計です。
意味もなく時間を確認してみたり。
「――おいちょっと待て。ひょっとしてそれは本数計か!?」
カーラさんが身を乗り出しました。
「え?……ええ、多分それで合っています。私たちは時計と呼んでますが」
「……凄い物だな。こんなに小さいのか、地上の本数計は」
まじまじと時計を見つめ、感嘆の声をあげています。
……時計自体はネザーにもあるみたいですね。
ボクの世界でも時計の歴史は結構古くからあったハズです。
日時計、砂時計、水時計は最も単純な時計と言えます。
ニソラさんが持ってるような懐中時計はいつ頃出来たんでしょうか……マンガ知識ですが、マリー・アントワネットの時代には既にあったハズですが。
「ふふ、これはネジ巻き式のアナログタイプですから、時計と言う範囲で見たら大きい方ですよ。
腕に巻けるぐらい小さな物もありますし、技術的には指先よりもなお小さい時計も作れるハズです」
「――凄まじいな」
いやいや待って待って、ちょっと意味違ってきますよ!?
指先よりも小さいって事は……
「――水晶振動子使ったデジタルクォーツがあるの?」
「え?あ、はい。
――丈夫だし時間も正確だし、電池も10年は持つそうですからそっち買っても良かったんですけどねぇ。
こう、アンティークな懐中時計でしかもネジ巻き式とか見ちゃうと、私の中で眠ってたコドモゴコロがツンツンされてしまいまして。
しかもコレ、シルバー925なんですよ。
手間も掛かりますが気に入ってます」
ニマニマ時計を見せびらかすニソラさんです。
この辺りの感覚、現代日本と変わらないのが驚きます。
マインクラフトってMod入れなければかなりレトロな世界観ですからね。
……Mod入れたらワープとか宇宙進出とかお手軽に出来ちゃいますけども。
「良く解らないが……ムドラとは比べ物にならない技術があるのと、手軽に時間が確認できるのは理解した。
……済まない、前言を撤回する。ムルグ突入のトリガはニソラが出してくれるか?
本数計を持って行こうと思ってたんだが、あれは結構嵩張るんだ」
「承知しました。構いませんよ」
ムドラの本数計……ちょっと見てみたい気もしますね。
これが終わったら見せて貰おうっと。
「ムルグについた後の動きについては、そこまで確認する事はない。……と言うより、不確定要素が多すぎて臨機応変に対応するしかない。ムドラはムルグと交流ゼロだった訳ではないから多少の構造は解るが、敵陣だからな。
一応中央司令部があるからまずそこを目指すが、アーシャーが居るとは限らない。居場所を探すための情報収集や工作も視野に入れておいてくれ。
この辺りは基本的に俺が指示を出す」
ニソラさんと一緒に頷きました。
目指すはノーキルノーアラート。
隠密のまま速やかにアーシャーさんを誘拐し、偽臣の書を確保するのです。
――うーん、マインクラフトじゃなくてメタルギアソリッドとかディスオナードですよね、これ。
麻酔銃無しで気絶させる方法ってどうやるんでしょうか。CQCは出来る自信が無いんですけども。
後ろから忍び寄って、きゅーって羽交い締めするイメージ?
うーん……背丈がねぇ……きっと、足りないんですよねぇ……
ゾンビピッグマンの皆さま方は揃って体格良いものですから。
せめて透明化や弱化のポーションが作れれば良かったのですが。
まあ、無いものは仕方ありません。
そも、近接まで自分で動こうと言う素人考えが危ないんです。
サポートに徹するように心掛けましょう。
――作戦、開始です。
@ @ @
陽動班の出発に合わせ、ボクたちはシーホークで地上を飛び立ちました。
事前情報があってもなお、カーラさんは声こそ出さないものの酷くそわそわしながら窓に張り付いて地上を見下ろしています。
ニソラさんは……意識を失っていた時を含めても乗るのは「三度目」ですからね。
役目の重大さもあり、冷静に外を睨んでいました。
横顔が凛々しいメイドさんです。
「先ずは、一番最初に作ったポータルと拠点に開いたポータルを両方視界に入れられる位置までお願いします。そこから位置と角度を割り出しますので」
「りょーかい、ニソラさん」
拠点と最初のポータルは、離れていても精々8~900m程度。空から見れば余裕で視界に入ります。
5分ほど飛んでいると、小高い陸と草原に佇んだ最初の拠点が見えてきました。
流石シーホーク、この程度の距離ならひとっ飛びです。
……って言うか、早すぎです。
この拠点からムドラに向かう時は結構ゆっくり飛ばしましたが、今回場所も方角も解ってるので少しスピード出してみた結果がコレです。
メーターに視線を合わせてみます。
――まあ、80kmも出せばこうもなりますよね。
しかも全速運転じゃ無いんですよコレ……
トンでもないModもあったものですよ。
まあ、ゲーム中でもこんな速度で飛ぶのかどうかは知りませんけども。
「素晴らしい速度だ――これだと、3本も待つのは持て余しそうだな」
「ムルグ行く前に拠点でも建てます?1本頂ければ寝床つきで仕上げますよ」
「……とんでもないな」
飛んでますけどねー。
「うーん……角度があって、ちょっと距離感掴みにくいですね……
タクミさん、もっと高度上げれますか?」
「オッケー」
左手のレバーを引いて機体を上昇させて行きます。
……マイクラのキーボードではなく、ちゃんとレバーやスティック、ペダルで動かしてるんですよね。操作方法にシステムアシストがついている感覚です。
もしかして、今のボクならクラフトしたシーホークだけでなく、現物のヘリさえ動かせちゃうんじゃないかと錯覚します。
二つのポータルがニソラさんから見やすいように位置や角度に気を使いながら高度を上げ、「この位置で」と合図があった場所で維持させます。
空から見たこの近辺は、意外と人の住んでいそうな所が見当たりませんでした。
ムドラのある山の方に町並みが見える程度で、ボクの建てた拠点以外に人家がありません。
草原に森に広い湖と立地はかなり良い方だと思うのですが、家がないって事は実は住み難かったりするのでしょうか。
一方で動物たちは住むのに困っていないらしく、野生の牛や羊がまばらに見えます。
「――わかる?」
「はい。丁度良い目印があって助かりました。あの二点のポータルを結べば、大体の位置と方角が割り出せますから」
それをコンパスも地図も測量機も無しにやってのけるの、ニソラさんぐらいだと思いますよ。
頭の中でツッコミ入れてるボクの隣でニソラさんが指を指しました。
「――面白いですよ。彼処に森が続いているでしょう?今回の目的地があそこなんですが……森と湖の配置が、ムルグの森と嘆きの砂漠の溶岩湖の位置と、なんとなく似てるんですよ」
「――ほう?」
後で、興味深そうにカーラさんが身を乗り出していました。
「……地形はネザーと比べるべくもないから、本当に偶然なのだろうな。
――ふむ。なんか、ムルグの入り口に当たりそうな所にバカデカい樹が立っているな」
ネザーの森林とは違い、より鬱蒼とした密度の高い森です。
マインクラフトのバイオーム名を挙げるなら、屋根状の森林って所でしょうか。
緩い山岳地形で高低差が見受けられます。
カーラさんが言っているのは、その中に一際目だって立つ、樹齢がかなりありそうな色の濃い樹木です。
「もしかしてグレートウッドかな、あれ」
Mod「Thaum Craft」では馴染みの深い巨木です。
魔法の材料としても使われますが、ボクの場合は特に建材として大変お世話になりました。
松よりもより暗く、テクスチャも細やかなその木材は床に張るとシックな感じが出るので、良く好んで使っていた物です。
一括破壊が出来れば一度に大量の資材を得ることが出来るのも魅力のひとつでした。
出来ればあの樹が欲しいですが、いざ現実にああ言うの見ると、その見事さから切り倒すのに抵抗を覚えてしまいますね。
「……とりあえず、丁度良い位置に丁度良い目印があるんです。あの樹まで飛ばしますよ」
@ @ @
もちろん、ヘリのまま森に突っ込んだ訳ではありません。
ちゃんと森の手前に止めて、そこから大樹までテクテク歩きました。
シーホークをインベントリに格納する際にカーラさんが目を剥いた――なんていつものイベントを作業のようにこなしつつ。
ここまで30分も掛かっておらず、持て余し確定だなとぼやきながら大樹に辿り着いてみれば、空からでは解らなかった事態になっていました。
「……わぁお」
――家です。
相当古い家が、大樹の成長に飲み込まれながら建っていました。
……いえ。建っていたと言うか、最早これは遺跡と呼んだ方が良いでしょう。辛うじて家の形を保っている、と言った様相です。
あんまりにもすっぽり樹に埋まってるものですから、空からパッと見ただけでは解りませんでした。
「どれだけ月日を掛ければこうなるのやら……スッゴいねえ」
「――圧倒されるな、これは」
「ふおおおおお……」
ニソラさんの秘境スイッチが入ったようでした。
興味深く、樹に埋もれた家をぐるりと回ってみます。
こっちの世界の建築様式は解りませんが、木材でベースの壁面が石材で強調されるそのデザインは、どこかボクの建築にも通じる物が見える気がしました。
使われている壁材は、オークでしょうか。所々腐って変色していて、手で押すと簡単に凹んでしまいそうです。
足元を見ると、好き放題に繁った草の中に、石レンガの欠片が幾つか転がっていました。
樹の成長に巻き込まれて、歪んで割れた物なのかなと推察しました。
時間を持て余し、しかもポータルを開く場所にこんな面白いものが有るわけです。
ムルグ潜入と言う、緊張感を持たなきゃいけないミッションを前にして、この家を調べてみたいと言う好奇心が首をもたげました。
「……少し、中に入ってみません?」
ニソラさんが「おーっ!」って感じにビシッと親首を立てました。
ノリノリでした。
「入るって……最早、入れそうな所は埋まっているぞ?」
「何処かで偉い人が言ってたそーです。
――『道は切り開く物だ』と」
玄関はここだろうなとアタリを付けて、覆っている樹の一部を斧で伐採します。
読みが当たっていたようで、その奥から木製のドアが顔を出しました。
突然外気に触れた為か、差し込む光の筋の中にくるくると舞う埃が見えました。
……一応、インベントリに入ったその原木を確認。どうやらこの樹は本当にグレートウッドだったようです。
「――待とうか。今のは、明らかにおかしいぞ。そもそも切った樹はどこに消えた?」
「あー、まだその辺りですか……早めに慣れてくださいね?」
「なんだその返答!?」
理不尽すぎる要求にツッコミを入れるカーラさんを尻目に、すててててっとドアに駆け寄り「おじゃましまぁーすっ!」と躊躇いなくドアを開くニソラさん。
甘味だけではなく、ロマンに対しても我慢の出来ないメイド妖精さんです。
開いたドアの気流に煽られ、中から埃が舞い散ります。据えたようなカビの臭いが少し鼻に触れました。
軋んだ音と共に開かれたドアの向こうは薄暗く、どこからか入った土が床をまばらに埋めています。
家の中に根のような物が入り込んでいました。
「砂岩かな、この床は……」
薄汚れたクリーム色の床をかかとで軽く叩きます。
しっかりした固い感触が返ってきました。
どうやら、床が腐って崩れるかもと言う心配はしなくとも良さそうです。
「――タクミさん、明かりありますか?」
「ああ、そうだった。もちろんあるよ」
インベントリから松明を一本取り出して、ドアの横にぶっ指しました。
「どっから出した!?と言うかいつ火をつけたんだ!?」と言う雑音と共に家の中が照らし出されます。
リビングでした。
埃だらけの机と、樹の根で倒れた椅子が二つ。天井にはレッドストーンランプのような物が埋め込まれています。
リビングの奥に扉が見えます。寝室か何かへの扉でしょうか。
――朽ち果てて、樹の根に侵されてなお伝えてくる、人の営みの後でした。
壁を見ると、レバーの上に赤いワイヤーが張られ天井の向こうに消えています。
……少し考えて、そのレバーを降ろしてみます。
パチンと音を立てて、天井の明かりが点りました。
「おお……明るくなったぞ」
「えええっ!?ウソ、電気が通ってるんですか!?いやいや、それ以前に何でまだ生きて――またタクミさんですか!?」
二人の視線が集まりました。
気持ちは良く解ります。
「あははは、いやボクは何もしてないよ。レバー降ろしただけだもの。
……レッドストーンランプは知らない?」
「レッドストーン……赤導体の事でしたよね。あれって加工すると光も出すんですか」
「――いいや、確かに淡い光は出すけれど、それだけではランプを作る事は出来ないよ。
……どうしてもグロウストーンが必要になる」
ゲームでは村人との取引でグロウストーンを仕入れる事が出来ますが、此方ではどうやらネザーに行かないと手に入らないように見受けます。
明かりは電気で付けるもの……ニソラさんの認識がそうであるならば。
「壁を伝っているのはRed Powerの赤合金ワイヤーかな。多分、天井の裏に配線が通ってると思う。
――こっち、入り口からじゃ見えなかったけど、ドアのない部屋があるね。多分作業部屋なんだと思う。
……ニソラさん、あの部屋のチェストの隣にある台、見覚えない?」
ボクが指を指した先には、1m四方の木製の台が置かれていました。
埃だらけで埋もれていますが、墨で格子型の印が描き込まれているのが解ります。
「アレは……タクミさんのと同じ……」
――そうなんです。
ゲームでは村の図書館に自然生成される作業台ですが、しかし現実的に考えるのであれば、こんな特異な作業台はクラフターしか使えません。
故に、クラフター以外がこの台を持っている理由は無いのです。
「――ラクシャスさんが、創世の伝説を教えてくれたよ。
神様が世界に色を与えるために、世界に遣わせた人達がいたんだって。彼らは創造と破壊を司る力を持っていて、世界に散らばると瞬く間に文明を作り出していったんだって。
マインクラフターの伝説だよ。……知ってた?」
ニソラさんがビックリした表情のまま、ぷるぷる首を横に振ります。
「で、本題なんだけどさ……ムドラの詩に出てくる青い戦士は、マインクラフターだったそうなんだよ」
「え……!」
目を見開いて、ニソラさんが辺りを見回します。
「グロウストーンはネザー特産。レッドストーンランプが作れるなら、ネザーに行った事があるのでしょう。
しかも場所がムルグ近く。ネートルさんが言うには、青い戦士は嘆きの砂漠方面から来たと言う見方が有力なのだとか。
ボクには嘆きの砂漠とムルグの位置関係は解らないんですが、少なくとも近くではあるんでしょ?」
「つまり……つまりこう言いたいのか!?『この家は、青の戦士が使っていた家だ』と……!!」
「その通りです!」
カーラさんの質問を肯定すると、二人が歓声をあげました。
無理もありません。ボクも結構テンション高くなっています。
伝説に語られる戦士の住んでいた家。しかも、グレートウッドに飲み込まれて状況から見るに、誰にも発見されていなかったに違いありません。
しかもまだシステムが生きているなんて!
気分は超古代の遺跡を発見した探検家でした。
目につく大きな根を手早く伐採して、導線を確保します。
まずボクが近寄ったのは、さっき見えた作業部屋でした。
壁にはレバーがついており、天井には埋め込まれたレッドストーンランプ。レバーを降ろすと、やはりこの部屋も明かりが付きます。
家がこんな状態になってなお、その機能を保ち続けるこのシステムの頑強さには脱帽です。この赤合金ワイヤー、結構錆が見えるんですけどねぇ……
チェストを開けてみると、木材や石材と言った資財や食料が入っています。
「スイカ、ニンジン、じゃがいも……あれ、もしかしてこれビートルート?」
「食べ物が残ってるんですか!?」
何年前の食べ物だって話ですよね。腐る通り越して溶けるレベルの年月が経っている筈なんですが。
――劣化が見えないのは、チェストの中で『シンボル化』していたからでしょうか?
スイカを手に取ると、シンボル化を解除しました。
瑞瑞しさを保ったままのスイカが現れます。
「え……それ、本当にチェストにあったヤツですか?」
「あったヤツなんですよねぇ……別に変な臭いもしないし。普通にスイカだよ、コレ」
かじってみる――のは、流石にやめておきましょうか。この後ムルグ潜入ミッションが控えていますし。ただこれ、普通に食べられそうですね。
少し考えて、シンボル化してインベントリに入れさせて頂きました。
他のクラフターから無断拝借するのは気が引けますが、流石にここまで時間が経っていれば罪悪感も無くなります。
畑で増やすために他の農作物も少し頂きましょう。
他のチェストも開けてみます。
「――おお!伝説発見!!」
このチェストはどうやらツール類が入っているようです。
火打ち石やハサミ、バケツ……そして、鉄の石突を付けた木の杖や、エンチャントが施されたダイヤの剣と言った武器、防具が入っていました。
耐久力もかなり減っています。
カーラさんが歓声をあげました。
「青い――詩に出てくる青い剣か!!」
「『青く輝くその剣は、死を否定する力があった』――でしたっけ?だから多分、現物です。アンデット特攻くっついてますしね」
アンデット特攻3、ドロップ増加3、耐久力3のエンチャント。
ウェザースケルトンの頭稼ぎ用の剣、って感じですね。
「はい。扱いには気を付けて下さい。ゾンビピッグマンもアンデットなので、その剣で怪我したらシャレになりませんよ」
「あ、ああ。ありがとう。
――素晴らしく、美しい剣だな」
青い輝きはダイヤとエンチャントの輝きです。
普通なら、そんな物で剣を作れば何か斬った瞬間に砕け折れそうなものですが、それを武器として成り立たせるのがクラフターの妙ですね。
「こんな武器が残されたままと言う事は……勇者様は、この家で生涯を過ごされたのでしょうか?」
カーラさんの手元を覗き込みながら、ニソラさんが言いました。
ボクは、他のチェストも一通り開いてからその考えを否定します。
「いや、多分引っ越したんだと思うよ。ここに残ってるのは、敢えて持ってく必要の無い物に限られてるみたいだしね」
「――この剣がか!?」
カーラさんの発言に苦笑を返します。
「鉱石が何処にも残って無いんですよ。その他、利便性の高いアイテムも見当たりません。
……そこに、不自然に空いたスペースがあるでしょう?足元の床も、そこの手前だけ別の素材で出来ているのが解ります。
多分、何かが置いてあったのを、引っ越しの際に持って行ったんだと思います。
その程度の剣よりもレベルの高い武器なんて、材料さえあれば幾らでも作れますし」
「……こ、この剣がか……」
引っ越しするにあたって、中途半端な武器防具はインベントリを圧迫するお荷物にしかなりませんからね。
捨てても惜しくない物は置いて行ってしまうでしょう。
本人達はこの剣についた伝説とか知りようがありませんしねぇ……
しかしこのスペース、一体何が置いてあったのでしょうか。
注意深く見回してみると、天井の一部に穴が空いている一角を見つけます。
すすすっと視線を降ろして床を確認。
床は、特に変わったところは見受けませんが……足をパンパン踏み鳴らして、その感触を探りました。
「――お?」
一部に軽い感触が。
素手でその辺りをトトトンと小突いて見ると、容易にその一角を回収できました。
下に空間があるようです。そこから漏れる光が、開けた穴から確認できます。
「隠し部屋ですか!?」
「そうだね、下に部屋があるみたいだ。
――ただ、ここは入り口じゃないね。多分、何かの導管が通ってたんだと思う」
手の中に回収したそれを改めます。
Mod「Ender IO」の導管ファサードでした。
工業Modの一角。エネルギーも液体もアイテム運搬も一ヶ所にまとめられる導管を提供する、利便性の高いModです。
あまりに便利すぎて、ボクは工業構成のMod環境を組む時これ無しではプレイ出来なくなってしまいました。
この導管ファサードは導管に被せて使います。そうすると、剥き出しの導管が他の建材ブロックと変わらない見た目になるのです。
――あはぁ、読めてきましたよ。
上はきっと太陽光ジェネレータ。エネルギーを導管で降ろして、さしずめ此処にはAE倉庫のアクセスターミナルでも組んでいましたか?
「入り口は――階段みたいな物は見当たらないね。多分、下には『装置部屋』が広がってると思うんだけど……どうやって下に降りてたのかな」
「――私、他の部屋も探してみますっ!」
隠し部屋の入り口探し――これほど楽しいロマンはありませんよね。
ニソラさんが嬉々として飛び出して行きました。
探索モノのゲームとかだと、何処かの部屋で謎解きするとファンファーレが鳴って秘密の道が開かれるのです。
「ふふん、甘いな……実際にはここで作業をしていたのだろう?ならば、この部屋の中から操作出来ないと利便性が悪すぎる。
――隠し要素はこの部屋の中にあると見た!!」
カーラさん、ノリノリですねぇ。
壁に張り付き、秘密のスイッチがないか探しはじめます。
……ちなみにボクもその考えには同意見。
良く使う部屋なのであれば、なるべく近くに無いと億劫ですからね。
ただ、Modマインクラフターのボクとしてはもう一捻り。
――そもそも、隠して無いんじゃないですかね?
床の素材が違う場所。
例のスペースにAE倉庫のアクセスターミナルが来るのであれば、この床は丁度ターミナルの正面になるワケです。
面積にして2×2の床。
確かめるように足でパンパン叩いてから、その上に立ってみました。
「――タクミ?」
怪訝な顔でカーラさんが見つめてきます。
軽く笑うと、視線を下に向けて気持ちだけスニークしました。
――次の瞬間、バスンと音がして視界が切り替わりました。
「んなっ……おい、タクミ!?どこへ行ったタクミ!!?」
『頭上から』カーラさんのそんな怒号が聞こえます。
どうやら正解を引いたようです。
恐らく、この素材が違う床はMod「Open Blacks」のエレベーターブロックなのでしょう。
シフトキー(スニーク)で真下にあるエレベーターブロックに、スペースキー(ジャンプ)で真上にあるエレベーターブロックに、一瞬で移動できると言う物です。
……いやあ、新しい要素のModがわさわさ出てきますね。
一度Not Enough Itemsのレシピに2~3日かけて潜った方が良いのかもしれませんが……
量が多くて目が回っちゃうんですよね。知らないアイテムも一杯あるし、解放されてない条件も沢山あるでしょうし。
「――下の部屋ですよ、カーラさん。隠し部屋に入りました」
と言うか、恐らく作った本人は隠し部屋だと言う意識は無かったでしょう。
階段はスペースが必要になるし設置デザインが難しく、梯子は登り降りに時間がかかり何より面倒です。
その辺りを考慮しなくて済むエレベーターブロックを選択したら、初めての人に優しくない隠し部屋みたいになった……と言うのが真相だと思います。
「んな……ど、どうやったんだ!?」
導管を通す穴から顔を出してカーラさんが聞いてきました。
「あー……ボクが立ってた床、ありますよね?そこに立って、下に行くようなイメージを持ちつつ身を屈めてみて下さい」
「う……ん……?」
スイッチもレバーも何もない方法を提示されて大混乱のカーラさんです。
とりあえず、やってみる事にしたのでしょう。
顔を引っ込めると、テクテクと足音が移動したのでボクは場所を開けるために数歩前にズレてあげました。
……数秒待つと、バンバンと地団駄を踏むように床が叩かれたり、「ふん!」とか「そいやっ!」と気合いを入れてる声が続きます。
なかなかうまく行かない模様。
――そして、さらに数秒後。
導管の通る件の穴から、カーラさんが降ってきました。
スタッと華麗に着地してニヒルに笑いながら顔をあげます。
「――待たせたな!」
台無しですよスネークさん。
「……いや、まあ、良いですけども。上に戻る時は大丈夫ですか?」
「……や、やっぱマズかったかな?」
機械を置く為でもあるんでしょう。
ここの天井は高めに作ってあり、その高さは5mです。床の厚みを入れたら、カーラさんは6m上から飛び降りた事になります。
その高さから怪我もなく、着地点の分散もせずにスタッと決めれたのは十分スゴいですが、しかしこの高さを無手で戻るのは流石に無理でしょう。
「……此処に立って、今度は上に飛び戻る事を意識しながら軽くジャンプして貰えますか?」
エレベーターブロックの上昇方法を伝えてみます。
考えてみれば、クラフターでないと使用できない可能性があるんですよね。
これで無理なら、この辺りの木材使ってあの穴に梯子でも掛けましょうか。
――バスンッ!!
「――おおっ!!行けた!行けたぞっ!!」
頭上からはしゃいだ声が聞こえてきました。
どうやら、クラフターしか使えないと言うのは杞憂で済んだみたいです。
そして再び「バスン」と言う音と共にカーラさんが現れました。
「――お、使えましたね」
「みたいだな。コツは掴めたよ。
……アレだな、下に向かってジャンプするイメージだ」
なるほど。
ボクはスニークで降りるのでそのイメージを伝えましたが、もしかしたらクラフターと普通の人達を比べたら、道具や施設の使い方に差が出てくるのかもしれません。
ステテテテっともうひとつ、上から足音が聞こえます。
「――ああああっ!!先越されてしまいましたっ!!」
導管の穴から、今度はニソラさんがピョコンと顔を出しました。
カーラさんが自慢げに笑いながら床を差します。
「材質が違う床があるだろう?その上に立って、下に向かってジャンプしてみると良い」
「……え、下に向かってジャンプですか?それって物理的にどうやるんですか??」
「やろうとしてみれば解るさ」
んんー?と首を捻りつつも、ニソラさんの顔が穴の向こうに消えて行きます。
――そして再び待つ事数秒。
「バスン」と音を立てて、ニソラさんが現れました。
一発ですね。
カーラさんのイメージ、大当たりのようです。
「ふえ!?ふええええええっっ!?何が!?何が起こったんですかっっ!?」
回りを見渡したニソラさんが大混乱に陥りました。
……普通にこれ、瞬間移動ですしね。
誰でも使える限定テレポーター。心の準備なしで使ったらこうもなりますよねぇ……
「ちなみに、上に戻る時は普通にジャンプだ」
カーラさんのアドバイスを受けてひとしきりバスンバスンと上下を繰り返し、歓声が落ち着いて来たあたりでニソラさんポツリと溢します。
「――この非常識さ……流石タクミさんの同類です」
勇者様がこれ聞いたら、ボクに風評被害のクレームとか来ますかね……?
@ @ @
「――寝室があったんです。家具が疎らに残ってました。ベッドが二つ、もしかしたら二人で暮らしていたのかもですね。
隠された道の暗号が書かれた日記を探したんですが、あいにく本棚にも机ももぬけの殻でして。楽譜もピアノもありませんでしたし」
それ、なんて青鬼ですか?
「あ、でもスゴいの見つけましたよ。何故か水が出る洗面台とトイレです。シャワーやお風呂も有りました」
「本当に!?それは大収穫だよニソラさん!!帰りに回収しよう!!」
「ああ、結構フラストレーション貯まってたんですね……」
当然です。もう焼けた石を水に突っ込んだ『なんちゃってお風呂』はやりたくないんです。
――ああ、石鹸も欲しいんだよなあ。残ってないかなぁ。残ってても朽ち果ててるだろうなぁ。
石鹸と言えば、服もまともに洗濯したいんです――って言うか、代わりの服が欲しいです。
下着だけ毎日お湯で洗って、乾くまでノーパンにジーンズで過ごしてますからね。
ネザーに来てから乾くの早くなったのは僥倖でしたが。
マインクラフトでは「衣食住」の「衣」の選択肢が少な過ぎるんですよね……
まあ、その辺りは置いておきましょう。
今はまだ探索の続きです。
機械部屋だと思っていたのですが、それ以外にもスペースを食うものをここに押し込めているようでした。
上と同じ砂岩の床にはレッドストーンランプが規則的にに埋め込まれていて、恐らく機械が置いてあったのでしょう、丸石のラインが2本走っています。
奥に視線を向けると、ダークグレーの石材で構成されたオベリスクが四方を台座に囲まれて鎮座していました。これはMod「Thaum Craft」の神秘の祭壇ですね。エッセンシアを使って触媒を励起させ、魔法の道具を作り出す祭壇です。
――ところで、チェストの中の鉱石はお引っ越しの際に全て移されたようですが、一部残っているものがあったようです。
床の一角に、白い石と青い石で作られた3m×3mのモニュメントが設置されていました。
Mod「botania」の施設です。
「……この青い石、宝石……ですか?」
「ラピスラズリブロックだね。テラスチールっていう、特殊な金属を生成するために必要な儀式台だよ。本当はこの中央に、中核を担うプレートが設置されているんだけど……流石に持って行ってるみたい」
「宝石のブロックは、置いて行っても問題ない物なんですか……」
ニソラさんの感覚では、ラピスラズリもそれほど出回っている物では無さそうです。
ゲームの感覚であれば、ここで使われているラピスラズリブロック4つ程度、資材が集まっている中盤以降であればレア度も低いため見捨ててしまうイメージがあります。
実際、勇者様が残しているのを考えれば、当時とは相場が違っているのかもしれません。
しかし――RedPowerの配線に始まり、Ender IOの導管やOpen Blocksのエレベーター、そしておそらくApplied Energisticsの倉庫、Thaum Craft の魔術道具にbotaniaのモニュメントですか。
どうやら勇者様は、工業と魔術両方に秀でていたみたいですね。
偉大なる先輩とお話してみたかったとしみじみ思います。
今もこの家に住んで居てくれたら、情報交換は元よりダイヤの一つぐらいならおねだり出来たかもしれません。
そうそう。Mod要素以外にも、地下に残っている物がありました。
――ネザーポータルです。
「――黒曜石用意してたけど、無駄になっちゃったかな」
ムルグ潜入にあたって任意の場所にポータルを開く必要があった為、黒曜石を持って来ていたのです。
シンボル化したままの黒曜石を手の中で転がしました。
少しばかりタイミングが悪かったみたいですね。
本来、黒曜石はダイヤのピッケルがないと採掘する事ができません。ダイヤを未だに手に入れられてない現状では、シンボル化した黒曜石を入手する事は出来ない筈でした。
だから任意の場所にポータルを開くなら、溶岩バケツを10個持ち歩く必要があったのですが……ケーキを保存する為に用意した冷蔵庫が、この問題を解決してくれました。
――この黒曜石は、溶岩を冷蔵庫で冷やし固めて作成した物なのです。
Not Enough Items でこのレシピ見つけた時は吹きましたよ。溶岩を冷蔵庫で固めると言う発想を実装しちゃうのはスゴいです。
お陰で黒曜石由来のレシピも幾つか解放する事が出来ましたし、PprojectEのアイテムの為に黒曜石を用意する目処も立ちました。
ニソラさんが教えてくれた黒曜石の産地に行く必要も無さそうです。
ストックしていた鉄をスッカラカンにしてまで冷蔵庫作成に踏み切った理由でもあります。
「ニソラさん――行動開始まで後どれくらい?」
「2時間ですね」
まだまだ残っている時間をどうしようか考えつつ、火の落ちているネザーポータルを眺めます。
……さてはて、このポータルは何処に続いているのでしょうね。
ムルグの入り口付近にある森を狙った筈ですが、ネートルさん曰く、勇者様は嘆きの砂漠から来た説が有力なんでしたっけ。ニソラさんの見立てが合っているのであれば、場所が少しズレている事になります。
ムルグの森ではなく、その近くにある洞窟の中に繋がっていて、その洞窟は嘆きの砂漠付近まで延びている――とか?
「確実なのは、このポータルの先はムルグの森の中よりも人目につかない所だってことかな。――ムルグが皆で探してなお、ポータルが見つかって無かったのだし」
「いや。単にポータルだと気付かなかっただけの可能性がある。青の戦士由来の物とは知らずに、不明なモニュメントとして管理されているケースは十分考えられる。
……俺としては、このポータルの先は非常に興味があるが、今回のミッションにこのポータルを使用したく無いな」
ああ……確かに、火の入っていないポータルなんて黒い枠程度にしか見えないですもんね。
「あー……すみませんが、他の場所にポータル開くのは諦めてください。ネザーポータルって、既に開かれた出口に引き寄せられる性質があるんですよ。
既に勇者様がここからポータルを開いていたのであれば、この近辺でポータルを開くと必ず勇者様の使った出口に繋がります」
「そうなのか……流石に、この事態は想定して無かったな」
ここから130mぐらい離れた所で開けば、ちゃんと別の所に繋がるんですけどね。
カーラさんが少しの間瞠目しました。
「――突入先の調査の為に少し潜入を早める事も考えたが、やはり予定通り行こう。ネザーポータルはここの物を使わせて貰う事にする。
考えようによっては、ゲンの良い話じゃあないか。我々はかの青き戦士と同じ道を辿る訳だ。
――つまりコレは勝利の道であり、成功の道であるワケだ」
陽動あっての潜入です。
陽動に目が向いていない段階で潜入する方が危ない、と言う判断ですね。
「じゃあ方針も再確認した所で、残りの時間についてだが――」
「「探索で」」
満場一致でした。
――そりぁあ、まだまだ探してみたいとこ沢山ありますもん。
緊張感の無い、退屈しそうにない2時間になりそうです。
……夢中になりすぎて、遅刻しないように気を付けなきゃですね。
台詞の前と後に空行を入れるようにしてみました。
個人的には違和感あるんですが、どうやらそうするのがお作法のようだと今さら気づくのです。
少しは読みやすくなっているでしょうか。
頂いた感想の中で「クラフターが作ったものは劣化するのか」と言う命題がありました。
その時はまだ設定決めていないとしましたが、この話はそれの答えと言う形になります。
ある設定を決めました。ネタバレになるのでそれは公開しませんが、そこから派生するルールにより、以下のような結論になりました。
インベントリに入れるような「シンボル化」した状態では劣化しません。
ブロックとして設置した場合は劣化します。
だから有機系の物なんかはちゃんと腐ります。
そういう方向でお願いします。
……え?それだと有機系であるチェストが普通に使えているのはおかしいって……?
――そこはファンタジーで(震え声)
※2017/8/30
台詞の行間空けと誤字チェック、加筆修正を全話に行いました。