ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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赤と緑の大地をつないで

石だけの床は、ゲームの中ではよく使っていました。

石のハーフブロックで床を張ると、見た目にもピシッとしていてカッチョイイのです。

しかしリアルで実際に住もうとなると、石で囲まれるのはどうも冷たい感じがしてしまいます。

なんと言うかこう、生活感に乏しい感じがしちゃうんですよね。家って言うよりビジネスオフィスみたいな。

ので、普段のプレイとは違い、床はオーク材を張ることにました。

その辺で松を見つけたので、色的にも好きな松材の床をとも思ったんですが……松ヤニがね。

ちゃんとした処理しないとベタベタになるんじゃないかと思ったので今回は敬遠です。

壁はほとんど石ですが、見た目寂しいので所々石レンガに変えてみたりします。

出来上がった物を眺めて首をひねる事しばし。

うーん……可もなく不可もなく。

うん、後で変えよう。小物を置く段階になれば何か思い付くかもでしょ。

 

――けわしい山の一角、谷間の地層を削って作った拠点。

テーマは森の隠れ家ならぬ、山の隠れ家です。

んー……採光が乏しいからか、どことなく閉塞感がなぁ……

個人的には60点の出来に収まりました。

後でリベンジしよう。

 

「――タクミ殿。鉱石の粉挽キ終わっタヨ」

 

声を掛けて来たのは、ギヤナさんでした。

 

「あ、ありがとうございます。んじゃ、作業部屋も落ち着いたし、資材とツールは中に移しますかね」

「モう出来たのカ……そろソロ驚くのニも疲れタヨ。生産性が狂っテやがル」

「あはぁ、今回は山を掘っての作業でしたから随分時間かかりましたよ。少し前にニソラさんと一緒に作った拠点の方だったら、もう完成した上で今後の為の資材集めに入っている時間ですもん」

「……ヤレやれ、言葉モないネ」

 

肩を竦めるギヤナさんの向こうには、沈み掛けた太陽が西日を投げ掛けていました。

 

――ハイ、ここは地上でございます。

 

ギヤナさんの家の隣には空き家があったんです。空き家ってか、ほぼ廃墟でしたが。

ムドラは古い町です。封印の間を守る関係上、老朽化した町そのものを移す訳にもいかないから、新しく家を建てて古い物は放置と言うスタンスが多いそうで。

許可貰ってその家を拠点にして、ネザーポータルを開きました。

ネザーでは溶岩なんてそこらじゅうにありますし、水はバケツに入れたの持ってましたしね。

いやあ、溶岩を型に流して作るポータルをネザーで作るのは新鮮でしたね。

ゲームでは水が即座に蒸発するから出来ないんですよ。

 

ちなみに、ニソラさんは今、スユドさん達と一緒にムルグに向かって貰っています。

対ガストの武器になる「弓」を伝える事で、ムルグとの緊張を緩和させる狙いです。

客であるニソラさんにお願いするのはギヤナさん最大の苦悩でしたが、弓に長け、暴走せず、かつムルグ側に嵌められないほど戦闘力が高い人材がムドラには皆無だったそうで。

弓はまあ仕方ないとしても、暴走しない実力者って言うのがいないらしいですよ。悲しみが止まりませんね。

さすがにトップであるギヤナさんが行くのはマズ過ぎますしねぇ。

地上の人間であると言うのも、説得力を増すためには外したくないファクターでした。

――道案内兼護衛として、暴走を引き起こした前科のあるスユドさんをつけるのはほぼ賭けに近い人選でしたが、さすがにニソラさんの安全を優先したようです。

どうせ激突必至な状態だったので、失敗しても仕方がない。それでも回避の目があるなら努力はしたい。

お願いすること事態が恥だがそれでもどうか、と頭を下げるギヤナさんの頼みを流石に無下には出来ませんでした。

ニソラさんも乗り気でしたしね。

ガストも減るし、冒険も出来るし、ヒロイックサーガの主人公になった気分に浸れるしでノリノリでしたよ。

プレゼント用としてボクが突貫でクラフトした弓20セットを持って、他にも何人かムドラの戦士を連れて出発しました。

ボクはと言えば、こうやって地上とポータル繋げて拠点作りです。

ネザーの環境は厳しいですしね。ちゃんと休む所がないと、いくらニソラさんでもバテちゃいますよ。

出発前に一夜明かしたんですが、その時はネザーではなく地上に10分で作ったお豆腐キャンプでした。

ゲームだとネザーで寝るとベッドが爆発すると言う凄い仕様だったんですが、地上で休んだのはそれを警戒してたからじゃないですよ。

こんな環境で熟睡するなんて、とてもじゃないけど出来ないからです。

例えニソラさんが出来てもボクが無理。絶対無理。

ボクもリアルにいた頃から何か体力上がってる気がするんですが、それでも無理です。

――うん。ニソラさんが帰ってくる前に、ちゃんとくつろげる場所作ってあげなきゃですね。

 

ギヤナさんは「オ隣だカらネ。ご近所付キ合いハ大事にシないとネ」なんて白々しいこと言いながら手伝いに来てくれています。

地上に興味深々なの、隠そうともしてませんですよ。

まあ何かあればギヤナさんの家に報告しに行くノリでポータル通れますからね。こんなもの「ムドラ不在」の範疇に入りませんから問題無いんでしょうケドも。

とりあえずギヤナさんにはニソラさんに手伝って貰った時のように、ジョウロと鉱石挽きをお願いしました。

 

ちなみに、今度の拠点は客室付きです。

取り敢えず四部屋と、広目のリビングをご用意しましたよ。

ネザーポータル用の部屋も用意しているので、あのときの家よりずっと広くなってます。

奇跡的なのが、羊毛!

視界に羊さんが居てくれたのです!

今度はちゃんとハサミを作って毛をジョキジョキさせて頂きました。

今更ながら、ボクってかなり運が良いですよね。テンプレだからでしょうか。

テンプレの神様に感謝です。

さすがに客間のベッドの分までは無理でしたけども、あの羊さんの毛が回復したらまたお世話になりましょう。

……ゲームでは草食べたら一瞬で毛が回復してたけど、実際はどうなんでしょうね?

数週間は待つ事になるのかな?リアルの羊ってどのぐらいで毛がモッコモコになるんだろか?

 

内装も粗方終わって、そろそろ畑を用意しようかと言う頃にはすっかり夜が訪れてしまいました。

沈み行く太陽を眺めて、「地上はドレだケ経ったカ分かりヤスくて便利だネ」とはギヤナさんの言です。

昼も夜もないネザーでは時間の経過なんて判ったもんじゃありませんよね。

でも一応、正確性は皆無ですが時間の指針はあるみたいです。

ネザーに来て、ムドラに着く前に見たあの自生林。

ヘルバークの木と言うらしいんですが、あれを一定の大きさの棒に切って燃しとくと、そのうち「バキッ」って音を立てて崩れるんだとか。

これをさらに砕いて、同じく粉砕したネザーラックと溶岩を合わせると、丈夫なレンガが出来るんだそうですよ。

この「バキッ」の時間は大体同じだと言うので、ネザーの人達はコレを時間の単位にしているそうです。

昔の日本の「時の鐘」のように、「ヘルバーク3ツ」とか「大体6本ぐらい」みたいな言い方するそうです。

うーん、歴史の香る逸話ですねぇ。

ちなみにボクらマインクラフターは、ネザーラックを直接かまどにくべてネザーレンガを作ります。

きっとボクの作るネザーレンガとギヤナさん達が作るネザーレンガは随分違うんだろうなぁ。

そう言えば、作った弓も微妙な評価受けましたよ。

ニソラさんにいわく、「どれもこれも機械で作ったように正確な造形ですが、ひとつを取って見ると個性のない平凡な弓ですね」とのことです。

要は人の手が関わっていない大量生産品のようだと。

聞いたときは「そりゃそうだろうなぁ」って思いました。

ボクのクラフトは「同じ品質を大量に作る」のに長けている反面、「高品質な品をひとつ作る」と言うのはどうやっても出来ないんですよね。

ゆくゆくはクラフト以外で何か作れるように勉強してみたいです。

料理なんて身近で良いかな?

 

真っ暗になった空を眺めて「こりゃ、ちゃんとした畑は明日かなぁ」と思い耽っていると、ポータルの方が騒がしくなりました。

ニソラさんが帰って来た――にしては随分早いです。

早くても1日まるっと掛かるぐらいは覚悟してたのですが。

「うおお!?」「なんだこれ、空気が冷めてる!」「見た事のない素材の壁だ!」とおのぼりさんな声が多数。

結構ノンキしてるので、火急の用では無さそうですが。

――ガヤガヤとポータル部屋から出てきたのは、5人。

報告にしては少しばかり多すぎる数でした。

 

「すげえ!コレが地上の家か!」

「お疲れ様ですギヤナさん!ところで外!外見せて下さいよ、緑の大地!」

「青い戦士たちも、ココからやって来てたんだなぁ……」

「……うん?この黒い扉は15本ほど前に開かれたんだよな?青い戦士は関係なくないか?」

「入口とこの地は元からあった物を使ったに決まってるだろ。そんな早くココを用意できる訳が無いじゃないか」

「あ、そっか。なるほど」

 

残念、さっき作ったばっかなので勇者様とは無関係です。

そして15本かあ……ヘルバーク1本の「バキッ」は、ボクたちの時間換算で大体4~50分ぐらいのようですよ。

 

「オい、遊び半分ニ地上に来るコトハ禁じたハズだゾ。オレ達が勝手ニ地上に来タら面倒な事にナりそうダと警告した筈ダ」

「やだなぁ、多少の「ついで」ぐらいは多目に見てくださいよギヤナさん。ちゃんと報告しに来たんですから」

「5人は多スぎだロウ」

「へへ、これ以上絞ると報告内容が「お役の取り合いによる怪我人続出」に変わっちゃいそうだったんで」

 

普段は場末なイメージのある使いっ走りの伝令係も、今回ばかりは毛色が違っていたご様子です。

物見遊山丸出しな戦士たちにギヤナさんが頭を押さえました。

 

「ハあ……ソれで、何ガあっタ?」

「はい。生首お化けが出やがりました。仲間を呼んで4体です」

「待テ!?大事だゾ!?」

 

あっけらかんとしていたその様子を咎めて声を荒げますが、伝令さん達は顔を見合わせて笑っていました。

 

「――大勝利ですよ!あんだけ苦労してたガストの奴を、焦げ目がつく程の暇もなく4体全て墜とせたんです!当方の被害はありません!」

「弓矢を集中して射かけて、弱って落ちた所でブッた斬りました!仲間呼ばれましたが、同じ方法で墜とせました!」

「ニソラ師はうまくやれば一撃で墜とせるって言ってましたけど、流石にそれは無理でした……」

 

いや、最後のは出来る方がオカシイので考えない方が良いです。

 

「ソウか……ツいに、突出戦力に頼らナい防衛システムが整っタんダナ」

 

感慨深く呟くギヤナさん。

……ちなみに、散華はまだ担い手が決まっていません。

皆が納得できる担い手を決めなければ凄絶な取り合いになる事が予想される為、今は取り敢えず封印の間に安置されています。

戦士を総括しているスユドさんが適任にも思えますし本人もそれをメッチャ希望していましたが、ギヤナさんがすげなく脚下しました。

「ソモそも得手ハ徒手だろオマエ」だそうです。あとムドラ相手に暴走した奴に任せる事は出来ないとの事。

今は他の戦士と同じくただの候補だなとスユドさんに言っていましたよ。

……つまり、今回のムドラ行きで更に暴走したら散華の候補から完全に外れてしまう訳です。

スユドさんにとって、これ以上ないストッパーでした。

敢えて散華を即戦力としない事で、スユドさんを制御し、かつ戦士達の士気も上げる……流石ギヤナさんだと感心したモンです。

なお、近い内に技比べでもして担い手を決めるとの事。

散華さん、もうチョコっとだけ待っててね。

魔法使いのラクシャスさんは、まだサトウキビと格闘中。昨日の今日ですからね、復活の宛はあっても流石に即戦力にはなりません。

そして戦士達の弓の腕も、まだまだ修練が浅い為に、「モノ」になるにも時間を要する……と、思われていましたが。

下手な鉄砲を数撃って地面を舐めさせてからリンチする――この形であれば、今の戦士達でも完璧に対応出来る事が証明された訳です。

作戦の性質上、ガスト一体に対して戦士の数が必要になりますが、練度が上がればそれも解決するでしょう。

 

「――ヨシ、状況の確認ヲ行ウ。戻るゾ」

「えー!?ちょっとぐらい外見せて下さいよ!」

「今は「夜」ト呼ばれル、光の少なイ時間帯ダ。外を見てモ真っ暗だゾ」

「そんなぁー!?緑の大地……」

「言うホど緑じゃ無かっタヨ。大地ハどチらかト言うと茶色だっタ。木々の緑ハ比べ物ニならんホド多かっタがネ。青の戦士モ、恐らくソの事を言っテたんダロうヨ」

 

ちくしょー、と未練がましく唯一の窓から外を眺める戦士さん。

ごめんなさい、時間が悪かったです。

……それ以前、緩めとは言えココは谷間に建てた家ですからねぇ。ロケーションなんて望めるべくもありません。

 

「――ギヤナさん。ボクはここで、「例の件」で対応出来そうな事とか纏めていますね」

「オオ、助かるヨ!タクミ殿は恩人ダからネ。ソチらの項目は多少ムチャがあっテも検討させテ頂くヨ。オレはたブン、現場を回ってイると思ウ。何かあっタら伝令回してクレ。その辺のヤツ捕まエれば誰だっテ引き受けてくれルヨ」

「ウッス!お任せください!」

 

体育会系な声をあげて、ムドラの人達がポータルの部屋に消えていきました。

 

 

@ @ @

 

 

「さてと、どーしようかなっと……」

 

ぐいいと伸びをして思考を回します。

うん、まず書く物が必要かな。

紙もイカスミも羽も無いなぁ……クラフトじゃあ無理か……んんん~……

考えた末、石板に決定。

焼き石を2つ使って感圧板を作ると、割って先を尖らせた石でガリゴリします。

うん、十分書ける書ける。

バニラでは感圧板をテーブルに見立てるテクニックがスタンダードだったけど、文字を書く石板にするとは誰も思い付くまいよ、ふふふのふ。

子供の頃に石で道路を引っ掻いて文字書いたりしてましたからね。ボクには容易い応用でしたぜ?

――さて、書き出すのはルドラとの「交易」のラインナップと条件でした。

 

修練場でニソラさんが弓の力を知らしめたあの時。

ギヤナさんは解決すべき課題があると言っていました。

それが、コレです。

実を言うとギヤナさん。ムドラにされた石板の資料から、弓の存在その物は知っていたのだと言います。

ギヤナさんの家で、バッキバキに折れた弓らしき物を見せて貰ったんです。

ギヤナさんが対ガスト用として開発しようとした残骸がそれでした。

……と言うのも。

ネザーは環境が特殊すぎて、木材があまり手に入らないのだそうです。

唯一手に入るのはネザーレンガに使うヘルバークの木だけ。

さて、このヘルバークの木から作った木材ですが、特徴を一言で表すと「固くて脆い」木なのだとか。

だからこそ焼いて砕いた木材がネザーレンガの材料にもなる訳ですが。

弓ように「しなり」がもっとも重要な木材にヘルバークはトコトン向きません。

固くはあるので棍棒とかには向くのですが、弓を作ろうとすると「しなる」前にへし折れてしまうのだとか。

ギヤナさんの「防衛システムの構想」は、突出戦力の存在を否定するところから始まります。

コンセプトは「長く続く対ガスト戦術」です。

突出戦力に頼るとラクシャスさんの時のように容易に崩れ去ってしまいますが、これは弓にも言える事です。

今回ムドラとムルグに卸した弓は、全てボクがネザーに持ち込んだオークの原木から作った物でした。

つまり、ボクが供給をストップした瞬間に、ムドラの人達が再びガストに追われる日が来てしまうと言う訳です。

弓とて使用限界がありますからね。壊れたら補充効かないので終わりですよ。

――そこで課題となったのは、ネザーで作れる弓を用意する事でした。

平たく言うなら、ボクの存在に頼る事のない弓の供給です。

とは言えヘルバークでは弓は作れませんし、金属の弓……例えばコンパウンドボウがありますが、これの製造はさすがにムドラの技術が追い付かないでしょう。

「しなる」金属の生成に目処がつけばその方向を考えても良いのかもしれませんが、それにしたって時間が掛かります。

そこでギヤナさんとボクが考えた苦肉の策。

ネザーに木材が無いのならば、地上から持ってくると言う元も子もない策でした。

――つまり、「交易」で木材を確保しようと言うものです。

この案には二段階のステージがあります。

まずはボク自身とムドラの交易。

ムドラから何らかの対価を受け取って、ボクがムドラに木材を卸します。

……ええ、直近だけならそれでも良いんですよ。

良いんですが、ボク自身ずっとココに留まってムドラと交易するつもりはさらさら無いんですよね。

ダイヤとか集めて目的の魔道具作ったら、世界を渡って旅に出ようと思ってるくらいですし。

――ので、第二段階。

ムドラの人とこの辺りの地上人が交易を出来る下地を作ります。

……とは言っても、ボクにはコネどころかこの世界の常識すら乏しい有り様ですので、正直出来ることは限られてしまいます。

ギヤナさんとしてもこの案件でボクたちに頼りきる構図は作りたくないと言っていました。

既に多大な恩を受けてしまっているこの状況。地上の人間に恩を返すならともかく、これ以上の苦労を掛けるのは道に外れる。

骨を折るならムドラの人間でなくてはならない……と。

――あくまで義を通そうとするギヤナさんの意思はとても好感が持てました。

いやあ、何処かの国に爪の垢とか飲んで貰いたいぐらいです――何処とは言いませんけれど。

そこで、ボクから提案2つ。

ひとつはこの谷の一角について。ムドラの人達に解放するので、植林や伐採はムドラの人達で行って貰いましょうと言うこと。

ネザーゲートの解放は地上側から見てリスクを伴いますが、その緩衝は全てムドラに丸投げします。

ネザーゲートを守護し続け、敵性モンスターが地上に渡ってこないように監視をお願いします。

その上で、ネザーから地上に渡る際には厳正な決まりを設けるのです。

……ムルグの人達がこの契約を反故にした場合、地上側のメリットが反転してしまうと指摘を受けましたが黙殺しました。

そもそも、ギヤナさんと違ってボクはこの地の代表って訳ではありませんし。

この土地を正式に持っている訳ではないので正当性なんて皆無な訳です。正当な権利者がこの体制に物申したら簡単にブッ飛ぶ体制です。

そんな不確かな物で拘束を求めるなんて、それこそギヤナさんの言う道に外れますしねぇ。

歯に布着せず一口に言えば「無責任」てな訳で。

地上側が保証出来ないから、ムドラ側の責任の履行もムドラ自身の良識に任せるのが適当でしょう。

んで、もう一つの提案。

再度言いますが、ボクにはコネがありません。

――ありませんが、機会を作る位なら、お手伝いぐらいは出来るんじゃないかと思うんです。

 

ムドラからの「留学生」を一人、ボクらの旅に受け入れようと思います。

 

環境の違いがどう影響するかは解りませんし、地上で彼らの口に合う物が確保できるかと言う問題もありますが、この辺りはもう出たトコ勝負です。体当たりで探って行きましょう。

ボクらはネザーの資材を集めた後、商人の真似事をして魔道具に使う素材を集める予定ですから。

きっとこの課程は、将来ムドラが地上と交流をする上で大きな経験となる筈だと思うのです。

 

……カリコリ文字を刻みます。

交易として欲しい資材、ボクが用意する資材。ネザーポータルの使用規定の草案。

そしてムドラの人達が地上で活動する上での制限事項。

そう言った物を思い付く限り書き出して、纏めて行くのです。

 

ムドラからの「留学生」か。

さてはて、ギヤナさんは誰を選びますかねぇ――?

 

@ @ @

 

石の感圧板が五つぐらいゴミになりました。その甲斐あって、清書された正式板が完成です。

後はギヤナさんと擦り合わせですね。

うにゅ~と伸びを一つ。

いやはやマインクラフトなスロウライフを望んでいたのに、なんでこんなマネしてるんでしょうかねぇ。人生って不思議。

 

「今何時だろ?……時計がないと不便だなぁ。レッドストーンと金があれば作れるけれど、よく考えたらアレって利便性に見合わないほどコスト高いよなぁ……」

 

バニラのマインクラフトの時計は、純金製の上に正確な時間までは判らないと言うファンキーなアイテムです。

1日が20分しかない世界ではそれでも良かったのかもしれませんが、リアルだとどうも不便ですね。

昔の人は日が暮れたらすぐに寝てたと言いますが、その理由がなんとなく理解できたような気がしました。

夜に活動すると、あとどれぐらいで朝になるのかよく解らなくなるから、ペース配分が出来ません。

お腹の上を撫でてみます。お昼に食べたっきりでしたので、意識してしまうと何だかお腹が空いてきました。

……うーん、そこから考えると今は20時前後ってところかな?

 

「ご飯食べよっと……ニソラさんはちゃんと食べてるかなぁ?」

 

ボクがスタックしていたお砂糖と、ジョウロの力で作れたパンを出発前に渡しました。できればリンゴとかも渡してあげたかったんだけど、木を集める前でしたからね。

――思えば、一人で過ごす初めての夜です。

初日からニソラさんが居てくれたので今までは寂しさは感じませんでしたけども……今はなんとなく、静か過ぎるような感覚を覚えました。

メニューはキノコシチューとパンにします。

 

「いただきまーす」

 

初日にもキノコシチューを食べましたが……妙に物足りないのは、やっぱり団欒が無いからなんですかねぇ?

それでも思った以上にお腹が空いていたようで、パンをもう一つお代わりしてみたり。

ニソラさんが持って行った食料、量は大丈夫かなぁ?足りてなかったりしないだろうか?

気が付けばニソラさんの心配ばかり浮かんでくる自分にチョッピリ苦笑しました。

 

「居なくなり はじめてわかる ありがたみ 千の感謝も まだ足りぬなら……なぁーんて」

 

思い付くまま何となく短歌とか作ってみたりなんかして。

――ウシさんと、ニワトリさんかな。小麦と砂糖はあるから、牛乳と卵があればケーキが作れます。

クラフトによる味気ないものになっちゃうけど……太陽が昇ったら探してみましょう。

そしてニソラさんが戻ったら、一緒にケーキを食べましょう。

ちょっぴりセンチな気持ちになりながら、そんな事を考えたのでした。

 

ギヤナさんに一声かけて、今日はお風呂入って休もうと思います。

ネザーで頑張っているニソラさんを思うと少々申し訳なくも思いましたが――

採掘場を作る予定がない今、日が沈んでいる内はボクの出来る事ってあんまりないんですよね。

念のために入り口をフェンスで塞いでからベッドに潜り込みます。

――今、そっちはどうなっていますかニソラさん。

交渉も段落がついて、もしかしたらムドラの時のように弓を教えているかも知れませんね。

もしくはムルグの町でボクみたいに休んでいるのでしょうか?

 

「お休みなさい、ニソラさん……」

 

そっと呟いてボクは瞼を閉じました。

 

――結論から言えば。

次の日になっても、ニソラさんは戻りませんでした。

 

事態はボクとギヤナさんが思っても見なかった方向に進んでいたのです。

 


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