一人の少年と10枚の仮面   作:一十百千

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7話-邂逅、カード泥棒 緑side-

「さぁ、話してもらいましょうか」

「いや、ほんと知らんて」

 

決闘が終わった後にそう凄んでくる博麗の巫女に正直に答える。

 

「まだとぼける気??」

「いや、そういうわけじゃないし…その最後まで残った伏せカード見てみろよ」

「なんでよ」

「いいから」

 

口では渋りながらもやはり最後まで残ったこのカードが気になるらしく彼女はそれをめくる。

 

「え…これ…」

 

彼女が持っているのは『デモンズ・チェーン』。モンスター効果や攻撃を止められる愛用しているカードの一つである。

 

「このカードを使えばあなたは…」

「勝てたかも??いいや、あの状況で1枚引いて勝てるカードなんて俺のデッキには入っていない」

「全力を尽くさないの??」

「尽したさ。でもそれでもどうにもできない時もある。それにこうやって見せれば俺の言うことの説得力も上がるだろ??」

「…!!」

 

それを聞いた彼女は悔しそうに唇をかむ。当然だ。俺だって同じことを言われたらそいつの胸ぐら掴んでぶん殴る。だが、こうでもしないと本当に話を聞いてもらえそうになかったのだ。

 

「…帰るわ」

「レイラが茶を淹れてるぞ。少し休んで行ったらどうだ」

「結構よ、あなたのことを信じたわけではないけれど、異変はまだ終わっていないみたいだし、私がやらなくちゃね」

「そうか、気をつけろよ」

「貴方に言われるまでもないわ」

 

冷めた目でこちらを見下しながら吐き捨てるようにして飛び去って行った。

しばらくその場でボーっと突っ立っていると中から麗羅が出てきた。

 

「お茶淹れましたけど…必要ないみたいですね」

「異変解決の方が重要だと」

「中で飲みます??」

「そうすっか…」

 

出来ればもう一度眠ってしまいたいが、そろそろ起きて活動を始めないと後々大変なことになる。1杯茶を飲んだら動き出すべきだろう。

そう思って家の中に入る。

 

「それにしても仮面さんが負けるなんて珍しいですねー」

 

お茶を飲みながらゆっくりしていると同じく茶を飲んでいる麗羅が話しかけてくる。

 

「当たり前だろ、そんな100回やって100回とも勝つようなデッキがあればそりゃイカサマだ」

「いえいえ、そういう負けではなく。そうですねー、相手を勝たせるなんて珍しいですねって言い換えましょうか??」

「寝起きで調子が出なかったんだ」

「途中で思いっきり覚醒してたじゃないですか」

「…虫の居所悪い??」

「いいえー??」

 

のんびり二人で話しているとあることに気付いた。

 

「そう言えば俺、仮面デッキなんて最近出してないんだけどよく見つけられたな」

 

そう、最近は他のもっとグルグル回すようなデッキを使っていたためそちらを持ってくると思っていたのだ。まぁ、どれを持ってこられても、結果は変わらなかっただろうが。

 

「えー、だってデッキケースこれしかありませんでしたよ??」

 

「は??」

 

一瞬思考停止に陥る。いやいや、今までに何個デッキ作ってきたと思ってんだよ10はあるぞ他のデッキどこ行ったんだよ。

ドタバタと立ち上がり自分の部屋に駆け戻る。

 

「マジで無い…」

 

確かに影も形もなくなっていた。それどころか、カードBOXの中からも数百枚単位で消えている。

 

「まじかよ…くそ…」

 

朝からのこの怒涛のラッシュになんか吹き飛ばしたくなってきた。

 

「あーくそ、めちゃくちゃイライラするぜ」

 

ペットボトルとドライアイスを取りにキッチンへと向かう。

 

「ね、なかったでしょう??」

 

キッチンへと行く最中に山のような洗濯物を抱えた麗羅が得意げに言ってくる。

正直イライラ度合いが増す笑顔である。

 

「念のため聞くんだが…お前が隠したとかではないよな??」

「まさか、なんで私が仮面さんの逆鱗に触れるようなことせにゃーならんのですか」

「だよなぁ…」

 

考えられるのは泥棒。しかし、俺の部屋に入れるのは俺と麗羅、それとやまけんだ。

麗羅は嘘がつけないし、やまけんがそんなことをするとは思えない…が現状俺麗羅ではないのならやまけんがどこかにやってしまったと考えた方がよさそうだ。

 

「あいつ、帰ってきたらドライアイス喰わせてやる…」

 

そう決心しながらペットボトルに水を入れる。

コポコポ音を立てて入れていると再び麗羅が通りかかる。

 

「仮面さん何してんです??」

「むしゃくしゃするから、爆発物作って投げる」

「…」

 

呆れ顔と関わりたくないみたいな顔をされた。失礼な奴だ。

程よく入れたところで蛇口を閉め、外に出る。

外で、ペットボトルの中にドライアイスを入れ、全力で振る。

ペットボトルが限界まで膨張したところでそれを思いっきり投げる。

 

「オラァ!!吹き飛べやァ!!」

 

ボゴンと鈍い音がして上空で破裂する。

満足した俺は振ってくる水を避け、外に置いてある水道に向かう。

 

「あー…きもちー…」

 

蛇口の下に頭を突っ込んで上から水を被る。

 

「つーか…なんで今日はこんな目に遭わにゃならんのだ」

 

まず、博麗の巫女の異変騒動、やまけんによる悪戯…

 

「あんにゃろ、ぜってーただじゃ置かねぇ」

 

そこまで考えてふと、気づく。

 

(あれ…なんで博麗の巫女さん来たんだっけ??)

 

『えーと、同じ人が2人も3人もいらっしゃるとか』

 

…。部屋に入れるのは俺&麗羅&やまけん。可能性の低い物から潰していくと…

 

「犯人俺だァ!!!!!!」

 

いや待て、うん、一度よく考えようぜ俺。うん。そうだな正しい言い方を心がけようぜ。

落ち着いて、そう。落ち着いた??んじゃもうワンテイク行ってみようか。

 

「犯人は俺じゃない俺かもしれない他の俺だああああああああ!!」

 

「何訳の分からないことおっしゃってるんです??」

「あ、麗羅」

「常日頃から頭がおかしいとは思ってましたけど、こんなひどいとは思いもしませんでしたよ。あ、そこどいてください、邪魔です」

「おめーやっぱ、虫の居所悪いだろ」

 

問いには答えてもらえず、なんかよくわからんものを色々と洗い出したのでおとなしく戻ろうとした時再び来客があった。

 

「よぉ、元気にしてるかよ、俺??」

「してねーよ。どっかの誰かさんが俺の大事なもん根こそぎ持ってっちまったからな」

 

犯人が来やがった。

 

「正直、お前の相手すんのメンドクセ―から返すもんだけ返してとっとと失せろ」

「虫の居所が悪いのはお前の方じゃねーのか??もっと笑顔で過ごそうぜ」

「2,3回肉塊になってから死ぬのとおとなしく言うこと聞いて逃げ帰るのどっちがいい??」

「肉塊になるのはひょっとしてこいつか??」

 

目の前の俺が指を鳴らすとその場にぐったりとした博麗の巫女が現れる。

 

「…!?なんで!?」

「いやぁ、里の方ふらふら歩いてたらいきなり喧嘩吹っ掛けられてよ。LPが0になったやつが死ぬなんてルールでなぁ」

「…」

「にしてもすげーいらついてたぞこいつ。おめーなんかしたのか??全く今日っていうすげー日に限ってみんな不機嫌だなんてついてねーな、そう思うだろ??」

「知るか、もう一度言うぞ。2,3回肉塊になってから死ぬのとおとなしく言うこと聞いて逃げ帰るのどっちがいい??」

「おめぇを軽くのして俺が本物になるっていうもう一つの選択肢は??」

「あるぜ。ただし、その選択肢はお前が消える方に傾くだろうがな」

 

懐からデッキを取り出す。

 

「いいぜ、そうこなくっちゃなぁ??ルールは負けたやつは消える」

「勝ったやつが残る。簡単だな」

 

決闘(デュエル)!!」

 


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