一人の少年と10枚の仮面   作:一十百千

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9話-邂逅、現人神 ナナシside-

「…」

 

新しい自分は穏やかに目を閉じて消えて行く。

 

「これで良かったんかねェ…」

 

キラキラと次第に認識できる部分が少なくなっていく自分自身に声をかける。

 

「良くはないが悪くはねぇよ」

 

「そォかい、お利巧なこって…やりてェ事やなんかはなかったのかァ??」

 

もう返事はなかった。やるべきことを頭の中で組み立てながら家に戻ろうとする振り返る時、先ほどまで自分自身がいた場所にカードが置き残されているのに気づいた。

 

「ちッ…立つ鳥跡を濁さずってェ言葉を知らねェのかアイツは」

 

そのままにしておくのも気分が悪いと回収する。

 

「…??」

 

しかしそれを懐に入れる直前に違和感に気付く。そのカードをよく見てみる。

 

「星屑の…来訪??」

 

自分の知る限りこんなカードは存在していない。効果を見ようとするがそこにはよくわからない言葉の羅列があるだけ。しかし、

 

「…スターダスト・ドラゴン」

 

効果の中ほどにあるその一点のみ判別が可能だった。なぜそう読めるのかどの文字がどの文字と対応しているかもわからない。ただ、そこはその文字だと分かるのだ。

 

「…。やれやれだなァ…」

 

天を見、カードを見、再び天を見てこぼす。

 

「ぐちゃぐちゃにかき混ぜていきやがったなあの野郎…」

 

頭を掻きながら家へと戻った。

 

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家に着くと椅子の背もたれにだらりと寄りかかりながらだれている秘色と、その横のソファで眠っている緑青がいた。

「お帰りー、どっちのひーちゃん??」

 

「どっちだろうがどっちも俺だろォがァ…」

 

「捻くれてた方のひーちゃんかー」

 

「その舌引っこ抜かれたくなければ顎閉じて地中にでも埋まってろ」

 

「なにそれー、嘘でもつかないと閻魔様は舌抜かないんだよー」

 

「…本気で言ってんならやっぱ抜かれるわなァ」

 

ソファで寝ている緑青を横にどかして座り込む。

 

「う…む…おかわり、ひーくん」

 

「帰宅を労ってんのか、飯を催促してんのかどっちだ」

 

「おかわり」

 

「可愛げのねェ妹だ」

 

「ひーちゃんも鏡見よー」

 

秘色は取りあえず無視しておく。

 

「緑青、緑んトコ行かなくていいのか」

 

「んー、なんで??」

 

「いつもだったら、緑殺す勢いで保護しにかかるじゃねェか」

 

「今回は、緑は安全かなーって」

 

「意味わかんねェ」

 

「理屈では語れない絆がボク達の間にはあるのだよ」

 

「マジで意味わかんねェ…」

 

よくわからない緑青とわけの分からん戯言を言う秘色に今回の事について話す。

 

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「んー、よくわからないけどそのカードはもう一人のひーちゃんの形見ってこと??」

 

「分かんねェ」

 

「これ使えるの??」

 

「分かんねぇ」

 

こういったものに詳しそうな緑青ですら拾ったカードがなんなのかが分かっていないようだった。

 

「ひーくん、調べてきてよ」

 

「…俺が??」

 

「うん」

 

「お前のために??」

 

「そう」

 

「…はァ??」

 

「ほらほら我らがろーちゃんが御所望ならひーちゃんはその通りに動くんだよー」

 

「姉さんは他にもボク達の偽物いないか探してきて」

 

「えー、お姉ちゃんまで使うのー!?」

 

緑青は容赦がなかった。どう考えてもあちらの方が辛すぎる。何せ居るかどうかわからんものを探さなくちゃならないからな。こっちは調べりゃいいだけだからまだ楽だ。

そうと決まれば余計な役割振り分けられる前にずらかった方が自分の身のためだ。

 

「…俺ァ行ってくるぜェ、あばよ」

 

「あー!!ずるーい!!」

 

自分と同じことを考えていたと思われる秘色の悲鳴を聞きながら飛び出す。

 

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「取りあえず…近場で聞き込みと行くかァ」

 

里に降りて、伸びをしながらぶらつく。出で立ちが奇妙すぎて人にじろじろ見られるのには慣れた。

ふと、こちらをじっと見ている7、8歳くらいの男の子と目が合う。まぁ、あちら側から見たらフードのせいで暗闇がこちらを見ているようにしか見えないのだが。

おびえた様子の少年にフードを取り払いながら近づく。

 

「おい、ここらへんで一番賢い奴は誰だァ??」

 

「ひっ…」

 

「早く言え、テメェをどうこうするつもりなら今やってる」

 

「え、えと、寺子屋の慧音先生!!」

 

「なるほどなァ、寺子屋はどこだ」

 

「あ、あっち」

 

「ありがとなァ、んじゃなァ」

 

取りあえずの目的は決まった。少年が示した方向に歩いて行くと、上の方から声が聞こえる。

 

「んー…??」

 

良く見えはしないが、箒にまたがった誰かとそれにぶら下がる誰か…のように見える。

 

「ありゃァ、やまけんじゃァねェか」

 

ぶら下がった方の人影は良く見知った、ともいえる間柄の少年だった。となると箒にまたがっているのは霧雨魔理沙とかいう魔法使いであろう。

目線を前に向けると上を見ながら歩いてたせいか、全くよくわからない場所についてしまった。

キョロキョロと周りをうかがうと一つ向こうの路地に人だかりが見える。

誰かに道を聞きなおした方が早いだろうと考えてそちらへふらふらと歩いて行く。

 

「さぁ、皆さん!!今こそ守矢を信仰しましょう!!この異変、この東風谷早苗が解決してみせます!!」

 

なんか宗教勧誘の真っ最中らしかった。

別を当たった方がよさそうだと、通りを進むことにする。

何かを信じるのは悪いとは言わないが、それを妄信してただ救われるのを待つようなのは、

 

「正直、阿呆くせェ…」

 

「待ちなさい!!」

 

「あァ??」

 

「アホとは何ですか!!アホとは!!」

 

なんか巫女さんがこちらに大幣を向けながら詰め寄ってくる。

どうやら、心の声が漏れ出ていたらしい。

 

「何でもねェよ、俺なんかに構ってねェで演説でも続けたらどうだ」

 

「あなたの一言で皆さんが帰っちゃったんですよ!!」

 

見ると確かに誰も居ない。あんな熱心に聞いてたのだから一人か二人くらいは残っていても、とは思うが。演説がよほど下手なのか、

 

「…人望が絶望的に無いか」

 

「なんて失礼な人なのでしょう!!もしや、今回の異変も貴方の仕業じゃないでしょうね!!成敗します!!」

 

「いや、ちげェけど」

 

「成敗します!!」

 

「聞けよ」

 

言うがあちら側は既にデッキを取り出して臨戦態勢だった。

逃げるのは気に喰わない。

 

「…文句は言うんじゃねェぞ」

 

「私が勝ったら入信してくださいよね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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