闇鍋   作:OKAMEPON

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こちらはSteins;Gateの二次小説で、岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖のカップリングが含まれております。


『一陽来復のノクターン』(オカクリ)

□□□□

 

 

 

 

冷たく乾いた風が通りを吹き抜けて、白く曇る吐息を吹き散らすと共にコートの裾を勢いよくはためかせていく。

日は既に沈みつつあり、冷え込みが一層強くなっていた。

道行く人々は、マフラーに顔を埋めたりコートのポケットに手を入れたりして寒さを凌ぎつつ、足早に目的地へと急いでいる。

そんな冬空の下を、岡部は黙々と歩いていた。

 

今日は年の瀬、2011年最後の日。

池袋にある岡部の実家付近ではシャッターが下ろされて元旦休業の知らせが貼られた商店が目立つが、流石と言うべきか、秋葉原の店は結構な割合で日暮れ間近の時間帯になっても客足が途絶えていない。

 

今日はオタク達の祭典、冬のコミマの最終日であるのだ。

戦いを終えた歴戦の戦士達が尚も“とらのあな”等に同人誌を買い求めにやって来たり、遠方から来た猛者達が飲食店で打ち上げをしていたりと、オタク文化・萌えの街秋葉原は今日も活気付いている。

 

 

が、岡部の目的地はそう言った店ではなく、何時もの未来ガジェット研究所のラボだ。

何かの用事があると言う訳では無いのだが、特には用事が無い時も岡部は大体ラボに居るので、まあ習慣の様なモノである。

ラボで寝泊まりする事も非常に多いので、最早住み着いていると言っても過言では無いのかもしれない。

 

流石に冬に暖房器具が無いと色々と危ないので、この冬に、備え付けの暖房器具が存在しないラボにも炬燵と電気ストーブが配備された。

どれも展示品だったモノの型落ち品として処分特価で売り出されていた物を更に値切ったりして入手してきたので、かかった経費としては思いの外少ない。

暖房器具はラボメン達にも大いに喜ばれ、特に炬燵などはラボに行くと誰かしら入ってる始末だ。

ラボの電気代は岡部が負担しているので、あまり使いっぱなしにされると困るのだが、まあ皆が満足している様なのであまりとやかくは言ってない。

 

 

さて、最早ラボを中心に活動していると言っても過言では無い岡部なのだが、実は昨日今日とまだラボに足を踏み入れていないのだ。

何故ならばここ二日間程は、年末の大売り出しでてんやわんやになっている、実家である岡部青果店を手伝っていた……否手伝わされていたからである。

 

年末ともなれば何処も忙しいものだ。

正月に使う為の野菜を求めて店に訪れる常連のおばちゃん達のあの謎のバイタリティー溢れるトークを往なしつつ売り捌かねばならないのは中々の重労働である。主に精神的に。

「まゆりちゃんとはどうなの?」だとか、「彼女はできたの?」だとか、「最近色んな女の子と一緒に居るみたいだけど、どんな関係なの?」だとか、「夏に一緒に歩いてる所をよく見掛けた髪の長い女の子は誰なの?」だとか。

好奇心の塊でもあるおばちゃん達に質問攻めにされ揉みくちゃにされるのは本当に疲れる。

しかも、何処でその情報を仕入れてきているのかさっぱり不明な謎に満ちた情報網により、此方の情報はあちらにかなり漏れているのだ。

……“機関”とは彼女らの事なのではないだろうかと切に感じてしまった時間だった……。

いっそ『鳳凰院凶真』で乗り切れれば楽なのかもしれないが、一応客商売なのでそれは自重した。

 

そんなこんなな感じではあったが恙無く商品はほぼ売り切れて店仕舞いをする事となり、店番から解放された岡部は、「家で過ごせば?」とか何とか言ってくる両親の誘いを断ってラボへと向かっているのである。

決して、彼女はいるのかだの何だのと、家にいる間中聞かれ続けるのが嫌だったと言う訳では無いのだ。

無いったら無いのである。

 

 

さて何時もなら、ラボに行けばダルやまゆりやらが居るのだが、今日は誰もラボを訪れないだろう。

一年の終わりである大晦日は、皆各々に忙しいのだ。

 

 

まゆりは今日のコミマに参加した後は家でゆっくりと年を越す予定であるらしく、つい先程コミマでの戦利品の写真が送られてきた。

余程良いモノを見付けられたらしく、心無しか弾む様なその文面に、岡部は思わず苦笑してしまう。

今年も何事も無く、まゆりがそうやって元気に過ごしてくれる事に、岡部は堪らなく幸せを感じたのであった。

 

 

ルカ子はまゆりに連れられてコミマでコスプレ姿を披露した後は、初詣やら何やらの準備で忙しい実家の柳林神社を手伝うらしい。

最初の内は何かとコスプレを嫌がっていたルカ子だが、色々と吹っ切れたのか最近は割りと普通に着こなす様になってきた。

尤も、恥ずかしいのは相変わらずなのだそうだが、寧ろその恥じらう姿こそが、ルカ子の人気を爆上げしているのだとか何だとか。

尚、明日元旦には都合がつくラボメン全員で柳林神社に初詣に行く予定である。

 

 

フェイリスは『メイクイーン+ニャン×2』でカウントダウンイベントを行っているらしく、少なくとも今日は来れないだろう。

明日の初詣には来るつもりらしいので、フェイリスには明日会える筈だ。

 

 

萌郁はどうやら天王寺家に招かれているらしく、ミスターブラウンとシスターブラウンとの三人で大晦日と元旦を過ごすのだそうだ。

独り寂しくあのアパートで過ごすよりは、そちらの方が遥かに良い。

最近はあの重度の携帯依存症を治そうとしているらしく、自分の口で喋ろうと努力している事が多くなった。

会話を始めると最初の内は必ずちゃんと話しているのである。

あのコミュ障っぷりを考えると、凄まじい進歩であると言えよう。

どうもミスターブラウンが「客商売なのだから」と言う理由で始めさせたらしいのだが、常に閑古鳥が群生している様な有り様の『ブラウン管工房』に客など来やしない。

恐らくはただの建前だ。

この世界線でもミスターブラウンはラウンダーの統括をしているのかも知れないが、他の世界線とは違い、萌郁を大切にしてやるつもりはあるらしい。

萌郁に対しては複雑な想いを抱いていた事もあったが、彼女もラボメンである事には変わらないのだ。

この世界線で萌郁も幸せになってくれればと、岡部は思っている。

 

 

さてダルはと言うと、今日は何と一日中デートをしているのだ。

デートの相手は、最近ラボメンに加入した阿万音由季。

阿万音と言う名字が示す様に、シュタインズゲート世界線へと辿り着く為に岡部達と共に戦ってきた鈴羽の、その母親に当たる女性だ。

由季は驚く程に鈴羽に似た顔立ちなので、九割九分九厘間違いは無いだろう。

去年の冬のコミマで出会った二人は半年以上“友達”として交友を続け、そして終に秋の終わり頃に晴れて恋人となったのであった。

その時に一波乱二波乱あり、ラボメン総出で奔走した事もあったのだが、そこは割愛する事としよう。

ダルは紛う事なき筋金入りのHENTAIではあるが、同時に何だかんだと誠実だし紳士的だ。……この場合の紳士とは本来の意味である。

由季との交際は少しスローペースながらも順調である様だ。

今日はコミマの最終日をレイヤーとして参加する由季と共に堪能した後は、二人で秋葉原を巡って食事をしたりしつつ時間を過ごし、そして年明けを二人で迎える予定らしい。

 

二人の仲が良好であると言うのは、実に喜ばしい事である。

何が起こるのか分からないこの世界線では、鈴羽とまた逢えると言う保証は無い。

だけれども、ダルと由季がα世界線でもβ世界線でも結ばれていた事が、世界線の収束だとかそんなモノでは無くもっと深い所でお互いを手繰り寄せていたのだとすれば、この世界線でも鈴羽に出逢えるのでは無いだろうか?

確証も何も無い事だけれども、β世界線からシュタインズゲート世界線に移る際に鈴羽と約束した様に、六年後には彼女とまた出逢えると信じていたい。

 

鈴羽の事を抜きにしても、ダルが幸せそうにしているのは岡部にとっても嬉しい事である。

他の世界線では、岡部は色々とダルをその人生ごと巻き込んでしまっていた。

ダル自身がそれを選んでいたのだとしても、岡部の選んだ道に付き合わせてしまっていたのは間違いない。

その結果として、他の世界線では恐らくはあまり由季と過ごせた時間は無かった筈だ。

願わくはこの世界線で二人が何時までも幸せであれと、岡部は祈っている。

 

 

そして、紅莉栖は……。

実験で忙しいらしく、この冬も日本には来れないらしい。

最近はメールを送る余裕すら無いのか、クリスマスの日にアメリカのクリスマス風景と真帆とのツーショットを撮った写真を添付されて送られてきたメールを最後に、何の音沙汰も無い。

お返しにと、日本のクリスマス風景とラボでのクリスマスパーティーの写真を添付したメールを岡部が送ったっきりである。

@チャンネルに『栗ご飯とかめはめ波』が出没した痕跡も無いのだ。

あの魂レベルのネラーが@チャンネルをやってないと言う段階で、何れ程忙しいのか分かろうと言うものである。

 

日本とのアメリカの距離は約10000km。

その時差は、凡そ17時間。

時間を飛び越えて世界線を漂流した経験を持つ岡部だが、日本とアメリカの間にある距離を一息に飛び越える術は持たない。

 

今頃紅莉栖は眠っている頃だろうか?

それとも夜を徹して実験に明け暮れているのだろうか?

何かを一生懸命に考えているのだろうか?

あの意思の光に満ちた目に、好奇心の輝きを灯しているのだろうか?

 

それを確める事は出来ないけれど、それでも、今この瞬間を紅莉栖が岡部と同じ世界線で過ごしていると言うただその事が、何にも替え難い奇跡であると岡部は知っている。

例え共に過ごせる時間は僅かでも、岡部では手の届かないであろう場所に紅莉栖が居るのだとしても。

紅莉栖に生きていて欲しいと、まゆりも紅莉栖も死の運命に囚われない世界線に辿り着こうと、世界を騙す方法を岡部に託していった沢山の“岡部”達がただそれだけを願っていた様に。

紅莉栖が、まゆりが、何が起こるのか分からないこの世界の未来を共に歩いていけるのなら、それだけで岡部は十分に満足していた。

 

もう会えないと思っていた紅莉栖とあの日再び出会い、そして紅莉栖がラボメンになって、そして、次の夏にはどの世界線の“岡部”も祝えなかったであろう紅莉栖の誕生日を直接祝う事が出来たのだ。

更には、紅莉栖の先輩に当たる真帆や、ダルの彼女となった由季までもがラボメンに加入した。

彼女達をラボメンに迎え入れた時、何処か懐かしさに似た朧気だが暖かな何かを感じたので、岡部の記憶には無いけれども、もしかしたら何処かの世界線では彼女らがラボメンであった事があったのかもしれない。

リーディングシュタイナーを持つ観測者である岡部にとっても“無かった事”になってしまった事は決して少なくは無いので、その想像が正しいのかは分からないが……。

 

今はこれ以上に無い程に満ち足りている。

消えていった“岡部”達からすれば狂おしい程に愛しい日々であろう事は間違いない。

だから……これ以上は高望みし過ぎなのじゃないかと、時折思ってしまう。

 

側に居て欲しいとか、もっと共に時間を過ごしたいとか……。

それは高望みが過ぎる。

それを願うのなら、少なくとも岡部がするべきは待つ事では無く、紅莉栖に少しでも近付こうと努力する事であるだろう。

……つまり何が言いたいのかと言うと、紅莉栖がこの冬に日本に来れない事に関して一々悩んだり寂しがっていてはいけないと言う事だ。

 

 

余計な方向へ流れてしまった思考を、岡部は頭を振って追い出した。

そして無理矢理他の事を考えようとして、ふとラボに蓄えてあるドクペの数が些か頼り無い事を思い出した。

正月の最中にドクペが切れるのは困る。

ドクペを買うついでに他にも足りなくなってきてる物でも買い足すかと、岡部はラボへ行く前にスーパーに寄り道する事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

スーパーを出た頃には、日はとっくの昔に沈みきって辺りはすっかり暗くなっていた。

スーパーのレジ袋は、想定していたよりも若干大荷物になっている。

ふと目に止まってしまった紅莉栖が好きなメーカーのプリンとか、ハコダテ一番の期間限定商品とかを、ついつい購入してしまった為だ。

別にそれを見て紅莉栖の事を思ってしまったからだとかそんな事は無い。

安売りされていたし、カップ麺は備蓄用に、プリンなら岡部が食べなくてもまゆりが食べるであろうからだ。

決して他意は無いのである。

誰にと言う訳ではないが、まるで言い訳をするかの様に心中でそう溢しつつ岡部はラボへと急ぐ。

 

曲がり角を曲がった所で何時もの様に、一階の店舗にはシャッターが降ろされて二階に明かりが点いた状態の大檜山ビルが目に飛び込んできた。

 

…………?

……何故、誰も居ない筈のラボに明かりが点いているのであろうか。

まゆりかダル辺りが少し立ち寄っているのか?

 

やや不思議には思いつつも、岡部が強く警戒する事は無い。

この世界線のラボには、誰かから狙われる程の大層な代物は存在していないからだ。

電話レンジは破棄され、SERNへのハッキング等も行っておらず、勿論タイムマシンに繋がる様な何かは存在していない。

あの夏を越えて直ぐの頃は色々と周りを警戒していた事もあったのだが、ラウンダーが至る所で目を光らせているのだとしても、そもそも狙われる理由などこの世界線のラボには今の所は無い事にやっと得心がいったのだ。

まゆりやダルを少し心配させてしまってから、漸くその事に気が付いた。

 

物盗りの類いならあるのかもしれないが、そもそもラボに金品やその他盗まれる程の代物は存在しない。

空き巣に入った所でほぼ無駄足である。

…………自分で言ってて悲しくなってきたが。

 

 

だから何時もの様に階段を上がり、声を掛けたりする事は無く岡部はラボの扉を開けた。

 

すると──

 

 

 

 

「お、……お帰り岡部」

 

 

 

「えっ…………?」

 

 

 

 

扉を開けた其処に居たのは、まゆりでもダルでもなくて。

ここには、日本には、絶対に居ない筈の、紅莉栖であった。

 

自分の目が見たモノが信じられず、岡部は思わず目を擦ってから再び凝視してしまうが、それでも紅莉栖は変わらずに其処に居る。

 

 

「岡部……?

って、ふぇっ!?」

 

 

炬燵に入って暖を取っている紅莉栖に、つかつかと近寄って、岡部はその頬をそっと突いた。

……実体は、ある。

これは確かに紅莉栖であると実感し──

 

 

「止めんかこのHENTAI!!

突然こんな事して……あんたバカなの? 死ぬの!?」

 

 

素早く岡部の指先から距離を取った紅莉栖に、顔を真っ赤にされながら怒られた。

 

怒られた岡部は今し方の己の行動を振り返る。

ろくに挨拶も返さずに突然に頬を突く。

…………紛う事無きHENTAIの所業だ。

ここは素直に謝るべきだ。

そう思ってはいたのだが。

 

 

「ふ、フゥーハハハ!

“機関”のエージェントが助手に変装していないか確める必要があったからな!

まあ、貴様が我が助手クリスティーナであるのは確かである様だ。

歓迎しよう、我が助手よ」

 

 

つい癖で誤魔化してしまう。

……紅莉栖を前にすると、些細な事でも鳳凰院が出てしまうのだ。

…………断じて、照れ隠しなぞでは無い。

 

 

「だから、助手だのクリスティーナだの禁止!

私には紅莉栖って名前があるんだから、ちゃんと呼べ!」

 

 

それに何時もの様に反論してくる紅莉栖に、漸く岡部も調子が戻ってくる。

バババッと“狂気のマッドサイエンティスト”的ポーズを取りながら、紅莉栖に訊ねた。

 

 

「ほーぅそうかならば考慮しておいてやろう、クリスティーナよ。

だが、事前に何の連絡も無しに我がラボへ足を踏み入れるとは如何なる料簡か聞かせて貰おうではないか」

 

「私もラボメンなんだから、ラボに来るのに連絡も何も必要無いでしょ!

…………そりゃあ、まあ、岡部にも誰にも言わずに日本に来た訳なのですが……」

 

 

紅莉栖がゴニョゴニョと口籠らせたのを岡部は聞き逃さない。

敢えてそこをニヤッと笑いながら突いた。

 

 

「どぉしたぁ?

何か疚しい事情でもあるのか?

成る程、ならば敢えて訊かずにいるのもまた優しさと言うもの……」

 

 

大袈裟な位の動きで紅莉栖から顔を逸らす様にして、『皆まで言うな、分かってる』と手で紅莉栖を制する。

すると、紅莉栖は岡部の予想通りに盛大に釣られた。

指を岡部に突き付け、興奮でその頬を上気させながら一気に捲し立てる。

……釣り針に引っ掛かり過ぎクマー。

 

 

「何を勝手に一人で完結してるんだ、このHENTAI!

疚しい事情とかじゃ全く無いから!

実験が想定よりも早くに終わって、急げば年内に日本に行けそうだったから最低限の用意だけして飛行機に飛び乗ったから連絡が間に合わなかっただけ!

べ、別にちょっとでも早く日本に来たかったからだとか、空港からラボに直行したとか、岡部を驚かせようとしてたとか、ラボに来ても誰も居なくてちょっと寂しかったとか、そんなんじゃないから!

勘違いすんなよ!?」

 

 

語るに落ちるとは当にこの事だろうか。

相変わらずの説明乙。

 

まあ、実際岡部はかなり驚いたと言うか寧ろ今も驚いてるし、サプライズにはなっているので紅莉栖の目論見は成功したとも言えるかもしれない。

 

しかし、せめて日本に着いてからでも良いのでメールか何かでも送れば良かったものを…………。

 

 

「全く……。

事前にメールの一つでも寄越していれば、年越し蕎麦位は作ってやったものを」

 

 

しかもさっきまでスーパーに立ち寄っていたと言うのに……。

……この時間だと、あのスーパーも流石に閉まっているだろう。

それに、この寒空の下また外出するのは些か億劫であった。

 

 

「えっ、作るの? 岡部が?」

 

「今時は年越し蕎麦もセットで売ってるからな。

蕎麦を茹でて、具を切って載せる程度なら俺にだって出来るさ」

 

 

信じられないとでも言いた気な紅莉栖にそう返す。

岡部が料理をするタイプでは無いのは確かだが、麺を茹でたり具材をざく切りにする程度なら問題なく出来るのだ。

寧ろそれすら出来ない人は中々居ないのでは無いだろうか。

嘗てのα世界線で味わった紅莉栖の手料理が脳裏を掠めるが、……あれはまあ何と言うのか、調理手順がどうのこうのと言う訳ではなく、そもそもの材料からして狂っていたのだし。

 

買ってきたドクペ等を冷蔵庫に入れてから、岡部はコートを脱いでハンガーに掛け、そして紅莉栖の真向かいに座って炬燵に入った。

うむ、冷えた身体が温もっていき、とても心地よい。

 

 

「そう言えばまゆり達は何処?」

 

 

紅莉栖に訊ねられて、他のラボメン達の今日の予定を話す。

紅莉栖はふむふむと頷きながらそれを聞いた。

 

 

「成る程ね。

あ、そうだ。

明日の初詣、私も行っても良いかしら」

 

「構わんぞ。

寧ろ行った方がまゆりやルカ子も喜ぶだろう」

 

 

まゆりなどは紅莉栖に飛び付いたりする位に喜ぶのではないだろうか。

その光景が目に浮かぶ様であった。

 

 

「で、橋田と由季さんは順調にいってるみたいで良かったわ。

橋田はHENTAIだけど、悪いヤツじゃないし。

今頃二人でディナーかしら?」

 

 

時間的には恐らくその辺りだろうか。

岡部は頷きながら、先程買ってきたばかりのカップ麺をビニール袋から取り出した。

 

 

「そうかもしれんな。

そうだディナーで思い出したが、もう夕飯は食ったのか?」

 

「まだよ、さっきも言ったでしょ?

日本に着いてからラボに直行したって。

機内で食べたっきり」

 

 

そう返した紅莉栖の前に、常にラボに備蓄してある『ハコダテ一番塩味』と、先程買ってきたばかりの『ハコダテ一番海鮮旨塩だし味(期間限定)』を置く。

 

 

「取り敢えず今ラボにあるのはこれだけだ。

好きな方を選ぶと良い」

 

 

途端に目を輝かせて紅莉栖はカップ麺を見る。

何時もの味か、期間限定の味か。

ウズウズとした様に迷い続けた紅莉栖は、悩みに悩んで期間限定の方を選択した。

岡部は残った塩味の方を手に取る。

 

沸かしたお湯を注ぎ、待つ事3分。

 

鞄からいそいそと取り出した夏に岡部が贈ったマイフォークで麺を掬い、紅莉栖は一口食べて満足そうな顔をする。

 

 

「あ、これ美味しい!」

 

 

どうやらお気に召した味であった様だ。

ご満悦な紅莉栖を見ながら、岡部は塩味を啜る。

大晦日なのに何時もの様にカップ麺を食べると言うのも如何なモノかとは思ってはいたが、紅莉栖は満足している様だし、これはこれで良いだろう。

こっちの方が、岡部たちとしてはらしいのかも知れない。

紅莉栖の顔を見ながらそんな事を考えていると。

 

 

「どうしたの、岡部。

何かあったの?」

 

 

岡部の視線に気が付いた紅莉栖がそう言いつつ首を傾げた。

ここで、「お前を見ていたのだ」と面と向かって紅莉栖に言える様な度胸は岡部にはまだ無い。

紅莉栖の為ならば、死ぬまでの15年間で執念を懸けてタイムマシンを作る事も世界を騙す方法だって見付けられるけれども。

直接顔を合わせると、気持ちが溢れてしまいそうで、逆に言葉に詰まってしまう。

結果、『鳳凰院』が出てしまうのだ。

 

が、まあ、ここで『鳳凰院』を出し続けるのもどうかと言う話である。

紅莉栖の様子を見るに、着の身着の儘……では流石に無いが、ともかく急遽やって来たのであろう事は想像に難くない。

そうまでして来てくれた紅莉栖に対して『鳳凰院』を出すのは、誠意とか云々の前に人としてアウトだろう。

なので、つい何時もの様に『鳳凰院凶真』として返しそうになったのをグッと抑えて、岡部は少し紅莉栖から視線を逸らした。

 

 

「その味のは俺もまだ食べた事が無かったからな。

そんなに旨いものなのかと、思っていただけだ」

 

 

実際には嬉しそうにする紅莉栖に見とれていただけであるが、岡部はそう誤魔化す。

すると、紅莉栖は「ふむ」と暫し手にしているカップ麺に目を落とし、そして。

 

 

「じゃあ、一口要る?」

 

 

等と、カップ麺をそっと岡部の方へと差し出しつつ宣ってきた。

 

 

「はぁっ!?」

 

 

岡部は思わずそう声を上げてしまったが、それは当然だろう。

ななななななな、紅莉栖は何を言っているのだ、正気か!?

と、岡部の脳内はパニック状態になる。

 

盛大に慌てる岡部に紅莉栖は自身の発言と行動を振り返り、そして次の瞬間には顔を耳まで真っ赤にした。

が、自分から差し出したのだから引っ込みが中々付けられない。

 

 

「へ、変な意味に取るな!

い、いいい要らないなら私が全部食べるから!」

 

 

紅莉栖が差し出したカップ麺を戻そうとした所を、岡部はそのカップ麺を手に取った。

 

 

「じょ、助手が献上したモノだからな!

ひ、一口だけ頂こう!」

 

 

早口にそう言い切って、本当に一口分だけ麺を貰う。

…………美味しいのだろうが、最早味などほぼ感じている余裕等は何処にも無かった。

 

カップ麺を紅莉栖に返すと、暫しの時間痛い程の沈黙がその場に落ちる。

そして、お互いのカップ麺がもう残り僅かとなった頃。

 

 

「……で、どうなの?

岡部的には美味しかった?」

 

 

少しそっぽを向く様な素振りを見せつつ、紅莉栖は物凄くチラチラと岡部の反応を伺いながら訊ねてくる。

その耳は、まだ赤いままだ。

 

 

「あ……、ああ、まあ、な。

今度見掛けたらまた購入するのを検討しよう」

 

 

味なぞほぼ分からなかったが、取り敢えず岡部はそう返した。

再び沈黙がその場に落ちそうになったその時。

状況を打開し得る物の存在を思い出し、岡部は炬燵から出て立ち上がる。

 

 

「そうだ、偶然なのだがプリンを買ってあるのだ。

ラボに直行する程の殊勝な態度を見せたのだ、これを恵んでやろう。

有り難く食うと良い」

 

 

いそいそと冷蔵庫から買ってきたばかりのプリンを取り出してそれを紅莉栖に渡し、岡部自身はドクペのボトルを取り出した。

 

 

「あ、このプリンって……」

 

 

紅莉栖が日本に居る間好んで食べているプリンだ。

直ぐ様それに気が付いた紅莉栖は、嬉しそうにプリンと岡部を交互に見詰めた。

 

ええい、さっさと食ってくれ。

紅莉栖に見詰められて、頬の辺りが少し熱くなってきそうになるのを感じながら岡部はドクペのボトルを開けて無言で飲み始めた。

 

嬉しそうな顔で何度かカップを撫で、紅莉栖は漸くプリンを食べ始める。

その様子をチラチラと見ながら、岡部はドクペのボトル半分程を飲む。

何時ものドクペ独特の甘い味と炭酸の刺激が、何かと浮わついている岡部の心を落ち着かせた。

 

 

「そう言えば急遽日本に来た様だが……ホテルなどの手配は済んでいるのか?」

 

 

この時期のホテルは混んでいるからそんな滑り込みの様な状態で取るのは中々難しいと思うのだが、その辺りをちゃんとやっているのだろうか。

そう疑問に思った岡部がそう訊ねると、プリンを完食した紅莉栖は若干視線を逸らしつつ答えた。

 

 

「いや、それが……。

荷物纏めるのと飛行機のチケットを急いで取るので一杯一杯で……。

実はまだホテルを取れてない……」

 

「……今日の宿はどうするつもりだったんだ」

 

 

まさかとは思っていたが……。

まあそれ程大急ぎで来てくれたのだろう。

 

 

「どっか飛び込みで泊まれる所を探そうかなって……。

少なくとも近場には無いみたいだけど……」

 

 

ある程度以上にしっかりとしたホテルでこの時期に飛び込みで泊まれる所は少ないだろう。

明日以降に改めて宿を探すなり、……何ならラボメンとして結構紅莉栖と仲の良いフェイリスに事情を説明して泊まらせて貰ったり…………、万策尽きた時の最終手段としては、部屋は余っている岡部の実家に泊まらせると言うのも……まあ無くはない。

最後のは可能な限り避けたいが。

…………まだ恋人でも何でも無い相手を泊めると言うのも如何なモノかと言う話だし、何より両親からの追及を考えたくはない。

 

で、問題は今日どうするのかと言う話である。

誰かの家に泊まるとしても、流石にこの時間からいきなり押し掛けるのは難しい。

 

 

「何ならラボにでも泊まっておけ。

浴槽は無いが、シャワーならある。

まゆりが偶に使ってるから、まだシャンプーとかの類いもあるだろう。

この時期でも泊まれる様に、寝袋や毛布の類いも置いてあるしな」

 

 

こんな時間から外をウロウロされるよりはそちらの方が余程良い。

幾ら治安に関しては大分良い日本であっても、夜中に女性が一人で歩いていて何事も起こらない保証は無いのだから。

 

 

「と、泊まるって、ラボに……?

まあ、確かに暖房器具もあるから泊まれない事も無いけど……。

てか、岡部はどうするつもりなのよ。

こんな時間にラボに来たって事は、ここに泊まる予定なんでしょ?」

 

「確かにラボに泊まるつもりだったが……。

紅莉栖が泊まるのなら、俺は実家の方に帰るさ」

 

 

紅莉栖に問われ、岡部はそう答えた。

流石に紅莉栖も泊まっている状態で自分も泊まろうなどと思う程に岡部はデリカシーの無い男では無い。

当然の様に実家の方に帰ろうとする気遣いを岡部は見せた。

 

 

「………………」

 

 

暫し押し黙った様子を見せた紅莉栖だが。

「別に、良い……」と、唐突にポツリと溢した。

 

 

「良い? 何がだ?」

 

 

紅莉栖の発言の意図が掴めずに岡部が聞き返すと。

 

 

「だから、岡部も一緒に泊まれば良いって言ってる。

勿論、HENTAI行為は許さないから!

やったら警察に突き出すからな!」

 

 

顔を赤くしながら紅莉栖はそう答えた。

その意味を理解した岡部も、一気に顔が熱くなる。

 

 

「なっ、…………良いのか? 本当に?」

 

 

一度は他の世界線で紅莉栖と想いを通じ合わせた岡部だが、このシュタインズゲート世界線では、紅莉栖とはただのラボメンと言う繋がり……仲間でしか無いのだ。

 

い、良いのか?

本当に良いのか??

 

 

「お、岡部なら、…………良い」

 

 

顔を赤くして少し俯いてそんな事を言う紅莉栖に、岡部は様々な思いで混乱している中辛うじて言葉を紡いだ。

 

 

「そ、そうか……。

……感謝する」

 

 

もっと色々と言うべき事があるだろうとは自分でも思うのだが、既に一杯一杯な岡部としてはこれが精一杯なのであった。

 

そしてまた沈黙がラボを支配する。

無音の状態を打破しようと岡部が点けたテレビでは、『紅白歌合戦』も既に何組目かになっていた。

今年ももう残り数時間と言った所だ。

そして岡部は壁際に置いてある箱の中から蜜柑を幾つか取り出して、炬燵の上に置いた。

余談だがこの蜜柑の箱は、ルカ子からの差し入れである。

 

紅莉栖はちょっとだけ迷っていたが、少し小振りな蜜柑を一つ手に取った。

 

 

「炬燵にミカンって、冬の風物詩みたいな感じよね」

 

 

蜜柑を剥きながらそう言う紅莉栖だが、今一つ上手に剥けないのか、皮だけがボロボロに千切れてしまう。

 

 

「む……下手くそめ、ちょっと貸してみろ」

 

 

見ていられなくなったので、岡部はボロボロになりつつあった蜜柑を紅莉栖の手から奪い、筋も取る様にしながら丁寧に剥いていった。

そして綺麗に剥けたそれを紅莉栖に返す。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「この程度、礼には及ばん」

 

 

紅莉栖は岡部が剥いた蜜柑を大事そうに食べていく。

そして、ポツリと呟いた。

 

 

「……ミカンを食べるのって、随分と久し振り。

アメリカに行ってからは、日本で冬を過ごす事なんて一度も無かったから……」

 

 

紅莉栖が父親との確執を抱えたまま渡米してからは、あの夏に帰ってくるまでは、確か一度も日本に来た事が無かった筈だ。

紅莉栖とその父親……ドクター中鉢との間に何があったのかは岡部の知る所ではない。

ただ……。

α世界線で紅莉栖が僅かながら語ってくれた事、β世界線で第三次世界大戦の引き金となってしまった紅莉栖が父親に見せる為に書いた論文等を考えると、タイムマシンに関する何かしらで父親と紅莉栖の仲が悪化したのは確実であろう。

紅莉栖の論破癖を考慮するに、父親の研究に関して論破したとかそんな所だろうか。

…………。

……何時かは、父親との間に一体何が起きていたのか、紅莉栖が岡部に語ってくれる事は、あるのだろうか……。

そして……。

 

 

「……なあ、紅莉栖。

別にこの冬にと言う訳じゃ無いんだが、何時かで良い。

…………俺と一緒に青森に行かないか?」

 

 

それは未だ果たせていない、いや果たせなかった紅莉栖との約束。

この世界線の紅莉栖にとっては“無かった事”になった事、けれども岡部にとっては確かに有った事。

α世界線とシュタインズゲート世界線では、事情が違うのは分かっている。

α世界線では例え険悪であったのだとしても、まだそれを修復出来る芽が無い訳では無かった。

だが、シュタインズゲート世界線では、ドクター中鉢は実の娘である筈の紅莉栖を殺害しようとしたのだ。

本気で殺す気であったのかと問われるとそこは分からないが、少なくとも娘にナイフを向ける程の害意はあり、岡部が間に入っても止めようとしない程度には彼は狂気に染まっていた。

しかも倒れている娘に構う事無く論文を盗み、それを自分の物として発表したのだ。

岡部の心証的には真っ黒であるし、紅莉栖としてもその行動には酷く心を痛め付けられている。

ドクター中鉢としても、一度ナイフを向けてしまった以上は、紅莉栖との仲を修復するなど考えられない話であろう。

親子仲の修復の芽は、少なくとも今はまだ無い。

そして、青森に行った所でドクター中鉢は其処には居ないだろう。

ロシアへの亡命に失敗した彼が今何処に居るのかは知らないが、少なくとも住んでいた場所には戻れまい。

だから、今青森に行っても、嘗ての約束の本来の目的としては全く意味が無い行為である。

だけども。

 

 

「紅莉栖は知らないだろうが、……俺が必ず果たさなければならない約束なんだ」

 

 

一緒に父親に会いに行くと約束した時の紅莉栖の様子は、今でも鮮やかに思い返せる。

年相応にはしゃいだ様なメールの文面も、全部。

…………結局、あの世界線で紅莉栖とその約束を果たす事は叶わなかったが。

それでも、叶えたかった。

ここに居る紅莉栖にその思い出が無いのだとしても。

父親との仲を取り持つ事は、少なくとも今は不可能だ。

だけど、せめて青森に行くと言う部分だけでも叶えたかった。

 

 

「それって、……前に岡部が話していた、“他の世界線”での出来事ってヤツ?」

 

 

そうだ、と岡部は頷く。

 

 

「ああ。

そこでお前と約束したんだ。

“俺が紅莉栖と父親との仲を取り持ってやるから、一緒に青森に行く”とな」

 

 

唐突に青森と言われて少し困惑していた紅莉栖だが、その言葉に納得がいったらしい。

「そっか……」と小さく呟いた。

紅莉栖にも分かっている。

少なくとも今は父親と仲直りする事など不可能であると。

何せ事件から一年以上経っても未だに心の整理が何処か付けられていない事なのだ。

 

 

「……正直、岡部が言ってた“世界線”とかの話は半信半疑だけど。

…………でも、その“約束”を聞いて朧気だけど、少し“思い出した”事がある。

夜の公園、約束、青森……。

凄く……凄く嬉しかったと言う事も」

 

 

“無かった事”になった事を、約束の内容だけでそこまで思い出せると言う事は、あの“約束”はそれ程あの紅莉栖にとっては強烈な感情と共に記憶として刻まれていたのだろう。

 

 

「次に日本に来た時にでも、一緒に行くか?」

 

 

流石に今からと言うのは無理だ。

夜行バスを使うのだとしても、色々と岡部のお財布的には厳しい。

行くなら行くで、もっとバイトしてお金を貯めてからにしたい。

 

 

「……そうね、ううん、そうしたい。

パパとの事とかもあるけど、……何よりも岡部と一緒に青森に行きたい」

 

 

それは少し先、数ヵ月先の話になるだろう。

だけれども確かに“新たに”交わされた“約束”。

何が起きるのか分からないこのシュタインズゲートだが、近い未来にきっと叶う事。

この世界の誰もが出来る、ちょっとしたタイムトラベルだ。

 

“未来”の事を約束出来る、そんな当たり前が何れ程幸せな事なのかを岡部はよく知っている。

無数の“岡部”達がそれを願って他の自分に託して消えていったのであろう事を、岡部は理解している。

だからこそ、辿り着けたこの世界線で、岡部はそんな“約束”たちを叶え続けていきたい。

 

 

 

 

その後、旅行の計画を練ったり、下らない言い合いをしたり、@チャンネルで煽りあったりしていると。

ふと紅莉栖にが欠伸を溢す。

テレビでは既に『紅白歌合戦』が終わり、『行く年来る年』が流れていた。

 

 

「実験はほぼ徹夜続きだったから……。

飛行機の中でちょっとは寝たんだけど、やっぱりぐっすりとは寝れてなくて……。

今、すごくねむい……」

 

余程疲れていたのだろう。

既にうとうとし始めたのか、紅莉栖の目がトロンとしている。

 

 

「そうか、まあ、安心して寝ると良い」

 

 

岡部は炬燵から出て、ラボに用意してある毛布を引っ張り出して紅莉栖に掛けた。

すると、紅莉栖は岡部の白衣の袖の部分をキュッと摘まむ。

 

 

「お、おいどうした?」

 

 

急なその仕草に岡部は戸惑うが、半ば夢見心地の様な紅莉栖はそれを一顧だにしない。

 

 

「岡部も入って、さむいから」

 

 

部屋は十分に暖まっているしそんな筈は無いのだが。

紅莉栖はそのままグイグイと袖を引っ張って、岡部を自分の横に座らせた。

少々大きめな炬燵であるとは言え、横に二人も並ぶとどうしても密着する事になる。

紅莉栖から伝わる体温は、炬燵の温度などよりも暖かいと岡部は感じた。

 

点けっぱなしのテレビでは、新年のカウントダウンが始まっている。

そして、それが零になった次の瞬間に。

 

 

「「あけまして、おめでとう」」

 

 

 

二人で顔を合わせ、誤差など全く無くお互いに同時にそう言った。

余りにもピッタリ過ぎて、それが嬉しいのと共に面白くて。

二人して少し笑う。

 

 

 

未来の事なんて分からない。

来年の事を話せば鬼が笑うらしいが、ならば沢山“未来”の事を話してみよう。

それこそ十数時間にやる予定の初詣の事、青森への旅行の事、そして──

 

岡部と紅莉栖、二人の未来の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

 

その後。

いつの間にか二人して仲良く寄り添って寝落ちしていた所を翌朝ラボにやって来たまゆりとダルに発見されたり……。

萌郁に写メを撮られてラボメン中に拡散されてしまったり……。

その事で紅莉栖と二人して顔が真っ赤になるまで囃し立てられたり……。

ホテルすらろくに取らずに日本に来てしまった紅莉栖の為に、池袋の実家を宿として提供する事になったり……。

と、まあ色々とあったのだが。

 

それはまた、別の機会にでも語る事としよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Fin】

 

 

 

 

 

□□□□


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