スガ   作:にく丸

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2局目

白糸台高校麻雀部は、全国屈指の強豪校だ。

3年前までは地域の強豪校止まりであったが、「おっとりポンコツ姉妹」の姉が入学したことで、急激にその名を全国に轟かせている。

 

部員数は、100名超の大所帯。

但し、女子90名以上に対して、男子が10名程度と、かなりの偏りがある。

 

学校としては、男子にも頑張って欲しいと思っているが、なかなか面子が集まらず常に苦戦。

それに引き換え、女子部は入部希望者が殺到しており、ここ数年は入部テストなるものが行われている。

テストは筆記試験と実技試験の2つ。定期試験で赤点を取ると試合に出られなくなるが故、一定以上の成績が維持できるかを確認する為、筆記試験を設けているらしい。

 

白糸台高校は進学校であり、麻雀が出来るからと言って、勉強が免除される訳ではない。

 

しかも、進学校であるが故、定期試験は微妙に難しい。

だからこそ、赤点者による戦力減を未然に避けるための事前策であろう。

 

試験がある理由を聞けば御尤もであるが、「陽気なお馬鹿さん」である淡にとっては、試験というよりか試練。

 

正直なところ、淡は勉強が苦手だ。

白糸台高校へは、京太郎や咲が一般入試で入学したのに対し、淡は麻雀での推薦入学。

 

中学校の頃は、京太郎や咲と一緒に勉強していたから、なんとか最低限のレベルは確保出来ていたが、高校レベルになると簡単にはいかない。

 

「麻雀部は推薦でも入部試験があるらしいぞ?大丈夫なのか淡?」

「見ててよキョータロ!入部試験なんて余裕なんだから。高校100年生の淡さんに不可能はな~い!!」

「いや、筆記試験があるらしいぞ」

「え?えっ!!?筆記試験!?国語と数学・・・。助けてキョータロ~。私の麻雀生活が始まる前に終わっちゃう・・・」

 

そんなやり取りが行われた後、幼馴染4人で対策会議を実施。

照からのインサイダー情報と京太郎&咲の特訓講座により、ギリギリ筆記試験を通り抜けた淡であった。

 

「えっへん!無事合格!!流石淡ちゃんだよね。キョータロ♪」

「はいはい、取り敢えず受かってよかったな」

「キョータロ、テルー、サキー、ありがとー!!」

 

勢いよく京太郎と照、咲に抱き付く淡。

淡の勢いを殺し切れず、受け身を取り損ねた照と咲が目を回していたのは、「ポンコツ姉妹」であるが故であろうか。

 

そんな入部することすら難しい麻雀部まで、淡に引きずられながら移動すること約5分。

麻雀部の入り口に到着。全国区の部活だけあって、部費が沢山割かれていそうな佇まいだ。

 

白糸台高校の麻雀部は3軍制を敷いている。照や菫、淡は1軍であり、一番奥の部屋が活動拠点だ。

 

1軍の部室に行く為には、3軍と2軍の部室を通る必要があるのだが、京太郎は何度通っても目を引く存在となっている。

特に今回は、部外者である京太郎を淡が引きずっており、女子部員にとって好奇の対象であった。

 

「こっちこっち~、早くいくよキョータロ」

「そんなに引っ張るな淡。袖が伸びるだろ」

 

淡に文句を言っていると、ボーイッシュな女の子から注意を受けてしまった。

「もっと静かにしないとダメだろ」という目線を淡に送る。

しかし、淡自身はそんな京太郎の思いは何のその。気にせずに突き進む。

 

「あの、大星さん?そちらの方はどなたでしょう??部外者を入れちゃダメですよ」

「キョータロのこと?大丈夫、ダイジョブ。菫の直々の呼び出しだから~。テルーももう来てるのかな?」

「弘世部長の呼び出し・・・?あ、あの、そうでしたか。弘世部長に御用の方でしたか。それは失礼しました。お通り下さい」

 

そんな会話を交わして、3軍の部室を後にする淡と京太郎。

2人が過ぎ去った後、3軍の部室が妙に色めき出っていたのは気にしない。

気にしたら負けだ。

 

「弘世部長が男性を呼び出すなんて、なになに?何が起きてるの?」

「えー、もしかして弘世部長の彼氏~!??でも、あの男の人、大星さんといつも仲良さそうだよ?」

「金髪で一緒だし、兄妹なんじゃないの?」

 

流石、女子校生。人の色恋事情は大好きらしい。

実際、菫と京太郎が色恋関係にあるなどの事実はないのだが、色々な情報が錯綜する3軍部室であった。

2軍の部室でも同じようなやり取りがあったが、華麗にスルー。そして1軍の部室に到着。

ドアを開けると、照と菫が会話をしていたが、こちらに気付いたようだ

 

「すまないな須賀。ここまで手間をかけたな」

「それでスミレー、キョータロへの用事って何??」

「お前はいつも先輩を呼び捨てにするなと言っているだろう。全く。」

「菫さん、それで俺に何の用事でしょう?」

 

淡を相手していて、本題を忘れるところであった菫を京太郎が軌道修正。

菫も淡の扱いには、まだ慣れていないようだ。

 

「す、すまない。今日呼んだのは、須賀に麻雀部の合宿に参加して欲しくてな。そのお願いだ」

「合宿ですか?部外者が部活の合宿に参加って、しかも女子の合宿なんて、そんなの良いんですか?」

「夏大会を前に部員の戦力の底上げをしたくてな。照と淡の保護者と言っておけば問題ない」

「ちょっと待って菫、どちらかと言うと私が京の保護者。私の方がお姉さん」

 

「おっとりポンコツ姉妹」の姉は、そこは譲れないらしい。

京太郎としては、正直どちらでもいいので、取り敢えず言わせておくことした。

 

唯、合宿は面倒そうなので、咲を生贄にしようと菫に提案。

 

「戦力強化なら、俺より咲の方が良いんじゃないですか?」

「咲も合宿には来る予定。だから京にも来て欲しい」

 

照が即答。

既に咲も手配済みらしい。逃げ道がない。

 

「咲が進んで参加するとは思えないんだけどなぁ」

「サキーは、キョータロが参加するって言ったら、喜んで参加してくれたよ」

 

淡から出て来る残念な発言。

本人の知らないところで、勝手に交渉材料にするのは如何なものだろうか?

 

「女の子と過ごす合宿も悪くないだろう?氷のK、おっと須賀」

「・・・どこでその名前を・・・」

 

目を背ける照と淡。

「この口か、この口が言ったのか」という思いで、照と淡のほっぺたを引っ張る京太郎。

ムニムニと良く伸びるほっぺただ。

 

一通りムニムニして、取り敢えず気が済んだので、再び会話に戻る。

照と淡がほっぺたを押さえながら何か言いたそうにしていたが、「自業自得だ」と京太郎は言い切った。

 

「まぁそんなに怒るな、須賀。で、部屋割りはどうする?」

「もう、ナチュラルに参加決定しているんですね・・・。だったら、一人部屋でお願いします」

「え、キョータロと私は同じ部屋でしょ?」

「京と私は同じ部屋」

 

各自で言いたいことを言っているが、参加者の特権で一人部屋を確保。

横で照と淡が「ブーブー」言っているが、知ったことではない。

 

・・・折角だから、ストレス解消に1局打っていこう。

「菫さん、照ちゃん、淡。合宿に参加してあげるんだから1局付き合ってくれますよね?・・・ビシバシ鍛えてやる」

 

有無を言わさず、卓に座らされる3人。

 

1時間後に見られたのは、京太郎にビシバシやられて、ぐったり疲弊している菫、照、淡の3人の姿と、満足そうな京太郎の姿であった。


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