三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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SE修【天眼】しゅらばナウ② Gear Second

 おさむ、しゅらばナウ。

 空閑からメールを受け取った烏丸京介はこの一文を見るなり「とうとう来てしまったか」と苦笑いせざるを得なかった。

 

 

「今頃、修は大変でしょうね」

 

 

 と、言う割に落ち着いた様子でレイジから配られた緑茶をズズーと飲む。後輩の危機が迫っているにも関わらず、呑気でいられるのは些か納得が行かない話しであるが彼は知っている。自分の弟子は女難の嫌いがあると言う事に。そのうち起こるであろうと予測した故に空閑の修羅場報告は驚くべきことではなかった。むしろ、ここまで平穏無事に過ごせた方だと思っている。

 

 

「修くん、大人気だもんね。修羅場の相手って誰かしらね? 私の予想だと香取ちゃんと木虎ちゃんの線が強いと思うんだよね。あ、けど那須ちゃんも加わっている可能性も高いかな」

 

 

 いい所のどら焼きを飲み込み、ケラケラと楽しげに笑いながら修の現状を予測する宇佐美。私も見たかったな、と今起こっている修の状況を想像しながら話しの花を咲かせる。

 

 

「って、あなた達。少し落ち着きすぎじゃないの!? 修がピンチかもしれないのよ!」

 

 

 そんな中、小南だけが弟子の報告を受け取ってハラハラと慌てふためいていた。修羅場の三文字を見て、いったいどんな困難に立ち向かっているのだろうと彼女なりに予測を立てみる。

 

 

「……落ち着いてください、小南先輩。恐らく遊真から来た修羅場ってあれですから、あれ」

 

「なによ、あれって?」

 

「知らないんですか? 今の修はモテ期到来中なんですよ」

 

「え、そうなの!?」

 

「気づいていなかったんですね。スパイダーをトリガーにセットするとモテ期が来るって専らの噂なんですよ」

 

「なによそれ? 流石に私でもそんな与太話なんて信じる訳ないじゃない」

 

「……ほんと、そうだったらよかったんですけどね」

 

 

 京介の「そうだったらよかったのに」と言いたげな表情を見やり、チョロインもとい小南の中で「え? ほ、本当の事なの?」と猜疑心が芽生え始める。京介の真意を問う為に宇佐美の方へ視線をやると、彼女は苦笑いをしながら頷くのみ。

 宇佐美まで頷いた事で単純もとい純真無垢な小南の中で「そ、そうだったんだ」と信じられないと思っていた法螺話を信じつつあった。

 

 

「京介、そこまでにしておけ。今の話しを信じて、小南がスパイダーをセットしたらどうするんだ?」

 

 

 自分もスパイダーをセットしようかな、と考え始めた小南に待ったをかけたのは京介の師匠であるレイジであった。自身の湯飲みを用意していた彼は自分が淹れた緑茶を注ぎながら京介を諌める。

 

 

「……え。違ったの?」

 

「当たり前だろう。その理屈が正しければ、俺にもモテ期が来ていた事になるだろう」

 

「…………ぁ」

 

 

 ここ最近、レイジと組んで戦う機会がなかったので忘れていたけどレイジもスパイダーをセットしている。しかし、小南の記憶が正しければ戦友の彼にそんな話しは一つもなかったはずだ。

 

 

「とーりーまるっ!!」

 

 

 自分が後輩の彼に騙されたと知るや、顔を真っ赤にさせて嘘を教え込まされそうになった烏丸へ正義の鉄拳を放たんとするが、メールの着信音に妨げられる。

 

 

「遊真からだ」

 

 

 メールの差出人を確認し、中身を見た烏丸はそっと携帯電話を懐に戻した。再び、残っていた緑茶をズズーと飲み干し、今頃滝の様に冷や汗を流している弟子にエールを送る。

 

 

「無事に帰って来いよ、修」

 

 

 

 ――かそくナウ。

 

 

 

 修の修羅場は絶賛加速中とのことらしい。

 

 

 

 ***

 

 

 

 広報任務を終えた嵐山は久方振りに時間が出来たので、ランク戦ブースで思いっきり体を動かそうとランク戦室に向かっている最中であった。

 

 

「(……ん? なんか、騒がしいな)」

 

 

 気のせいか、ランク戦ブースに近づくほどに騒がしくなっている気がする。何かあったのだろうか、と首を傾げて歩みを速めて――止める。

 

 

「……木虎?」

 

 

 自身の部下である木虎藍が身を隠すようにしながらランク戦ブースを覗き見していたのであった。

 呼ばれ、ビクつく木虎。咄嗟に振り返り、呼んだ相手が自身の隊長と知るなり、慌てつつも一礼する。

 

 

「お、お疲れ様です。嵐山さん」

 

「どうしたんだ、木虎? そんな隠れる様にして……。ここに何かあるのか?」

 

「い、いえ! 別に嵐山さんが気になるような事は――」

 

 

 覗こうとする嵐山を止めようとするが既に遅かった。

 嵐山は視た。滝の様に冷や汗を流す修が黒江双葉と香取葉子、そして風間蒼也に挟まれていた。

 

 

「……え? なにあれ?」

 

 

 隣にいる木虎に事の顛末を聞くが、木虎も目の前の状況に陥った理由は知る由もなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「さて、三雲。俺の所に来なかった理由を聞かせてもらおうか」

 

 

 第三の刺客、慧眼無双の小型攻撃手(アタッカー)の風間蒼也に会うなり身に覚えもない詰問を受けた修は「はい?」と素っ頓狂な声を上げる事しか出来なかった。

 

 

「あ、あの……。風間さん。何のことでしょうか?」

 

「京介から聞いていないのか?」

 

「烏丸先輩から? あの、特には……」

 

 

 必死に過去の記憶を遡って思い出しては視るが、京介から風間関連の話しを聞いた事はなかった。

 恐る恐ると返答する修の態度を見て、始めて風間は察す。あのもっさりイケメンこと烏丸京介は自分の話しを目の前のメガネこと修に何一つ話しを通していなかった事に。

 

 

「……そうか。ならこの場で言わせてもらうぞ。お前の天眼を生かすには近接戦闘の技術向上は今後の生存率に関わる。少しは実践を重ねて動きがよくなったが、まだまだだ。そこで、俺が近接戦闘を指導する事になった」

 

 

 ポク・ポク・ポク・チーン。

 

 

「……え!?」

 

 

 三秒ほど有して風間の言葉を理解した修は盛大に驚く。

 なんで? なぜ? ホワイ? どうしてこうなった!? と回答の得られない疑問を頭の中でグルグルと渦巻かせながら、何かを言わなくてはと言葉を選んでいる修の肩を風間は躊躇なく掴み――。

 

 

「と、言う訳だ。悪いがこいつは連れて行くぞ」

 

 

 ――連行しようとするのだった。

 だが、二人の成り行きを黙って聞いていた二人がそれを許す訳がない。双葉と香取は

修の腕――同じ右腕――を掴み、風間に物申す。

 

 

「ちょっと風間さん。今日はこいつと模擬戦をする約束をしているんです。勝手にこいつを連れて行くの、やめてもらえませんか!」

 

「同感です。三雲先輩はこれから私とリベンジマッチをする予定です。また、後日にしてくれませんか?」

 

 

 風間VS双葉&香取。気のせいか危険度が急激に増加されてしまった。この状況を打破する為に修は今までの経験則から策を練り始めるのだが、一向に解決策が見受けられない。

 

 

「ちょっと修! あんたからも言ってやんなさいよ。私と再戦する約束が一番早かったって」

 

 

 そもそも再戦する約束などしていない。修は抗議の声を上げたかったが香取の睨みに屈して言うに言えなかった。

 

 

「それなら私の方が何日も前から予約済みです」

 

 

 予約も何も、双葉と真面に会話したのは以前のランク戦以外だと今回が初めてのはず。当然の如く、そんな話しは一回もしていない。

 

 

「生憎だが、既に師である烏丸にアポ済みだ。悪いが譲ってもらおう」

 

 

 その師匠から何も聞かされていない自分としては、風間の言い分も丁重にお断りしたい所であった。けど、三人から発する言葉に言い表せない圧力に修は傍観を決める事しか出来なかった。頼りのチームメイトである空閑もようやく使える様になった携帯電話を片手を操作して誰かにメールを送っている様子。一体誰に、何を、と力強くツッコミを入れたい所であるが、そんな余裕は微塵もなかった。

 不意に腕を掴まれ、引き寄せられる。

 

 

「とにかく、今日は私の約束が最優先なのよ。二人はまた今度にしてくんない!」

 

 

 優先権は自分にあると主張する香取の逆の手を取って、黒江も応戦する。

 

 

「あなたは何戦も三雲先輩と戦って全敗しましたよね。私はまだ一回しか戦っていません。ここは譲るべきです」

 

 

 再び香取と黒江の間に炸裂弾(メテオラ)が爆散する。

 

 

「お前達。C級隊員が目指しているA級B級隊員が、こんな人の往来がある場所でいがみ合うな」

 

「と、言いながらなんでトリオン体になっているんですか、風間さん!」

 

「……大人気ないです」

 

 

 ザ・カオス。遠巻きで見守っていた空閑が脳裏に浮かんだ最初の文字はそれであった。

 緑川から借りた漫画にも似た様な展開があった。実際にこんなゴタゴタが起こる事は滅多にないと緑川が言っていたが、実は嘘だったのではと疑問に思ってしまう。自身に嘘を見抜く副作用(サイドエフェクト)があるのに。

 とりあえず、覚えたばかりのカメラ機能を使って、目の前に起こっている光景を玉狛支部の先輩方に送る事にした空閑遊真であった。

 


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