初めて三雲修の戦いを見た切欠は、同じ学校に通っている小南が自分の事の様に自慢をした事が始まりであった。
『以前話していた三雲修って後輩なんだけど、最近めきめきと実力を伸ばして来たんだよね。まさか
A級二人に対し、堂々と立ち振る舞い、挙句の果てには勝利を収める年下の男の子。自分と同じ
同じ
「(厄介とは知っていたけど、ここまでとはね)」
その件の男の子、三雲修は仲間の熊谷と切り結んでいた。正確にはシールドモードを最小限にして、熊谷の弧月と殴り合っていたが。
今回の対村上戦の作戦は、熊谷が接近戦に持ち込んで、その死角を日浦と那須が援護射撃で動きを封じこむと言う作戦であった。けど、その作戦は修に対しては通じないと痛感させられる。
『へぅ。あ、当たる気が全くしませんよ、那須先輩っ!!』
「諦めないの、茜ちゃん。小夜ちゃん! 茜ちゃんのサポートを。くまちゃんは、そのまま三雲君を抑えて!」
『分かりました』
『了解よっ!』
と、隊長の玲の言葉に了解を示したものの、モンクスタイルの修と戦うのは非常にやり難い。
「旋空――」
距離を置いて、旋空弧月を叩き込もうにも修がそれよりも早く
かろうじで首を振って避けられたものの、こんな芸当を何度も成功できる訳がない。
「実際に見てみると厄介極まりないわね、三雲君っ!」
「ありがとうございます。けど、まだまだです」
「それでまだまだとか、少し自分を過小評価しすぎるわよっ!」
渾身の力を込め、右肩から左脇腹に沿って袈裟斬りを放つが太刀川や米屋の攻撃に比べたら対応圏内の速度。シールドの面積を広げて弧月を受け止め、グラスホッパーで熊谷の態勢を崩しにかかる。グラスホッパーの効力で宙に泳がされた熊谷を追撃せんとスラスターを発動するが、それを阻止せんと那須の
「っ!?」
出水の
「……スラスターオン」
並大抵の隊員なら、変化自在に飛来する弾丸の対応に戸惑い、致命傷は避けても被弾するだろう。けれど、修には天眼の効力の一つ鷹の眼がある。自身に襲い掛かる
――斬
後は、その情報に従いレイガストを走らせるのみ。
「……うそ」
まさか、那須も自分の弾丸をレイガストによって斬り落とされるとは想像もつかなかった事だろう。グラスホッパーで逃げたところを日浦の狙撃で落とすつもりであったが、その作戦も実行に移すことが出来ずに終わってしまった。
『ちょっと玲っ!? あの子、想像以上過ぎるでしょ。どうすれば崩す事が出来るのよ』
修の厄介さを間近で体験し続けている熊谷からも悲鳴が上がる。
どうすればよいか? そんなの、自分が一番知りたい所である。
『落ち着いて下さい。今はとにかく体勢を崩して、戦力の低下を図るべきです。三雲君の戦い方はレイガストをベースとしています。接近戦に持ち込み、レイガストを封じれば那須先輩の
「だって小夜子先輩。私の狙撃じゃ、三雲君の
既に一回実践されてしまっている。振り向く事無く正確にライトニングの弾丸を
「……少し、やり方を変えましょう」
これ以上、戦い続けてもジリ貧である。ならば、戦いに変化を加えて工夫を行うべきだ。臨機応変に戦わなければ、目の前の強敵は勝てないと改めて理解し、那須は作戦を伝える。
「(……みんなの動きが変わった?)」
那須隊の行動の変化を修は見逃さなかった。今までフロントアタッカーとしての役割を担っていた熊谷が下がり、支援攻撃に徹していた那須が前に出て来たのである。
「(日浦は狙撃場から離れて、何か行動を始めているな)」
初めは狙撃場を変更する為に移動を始めたのかと思いきや、彼女は要所要所にトリオンキューブを設置し始めている。
「(罠か。……察するに置き弾の類と言うべきかな)」
狙撃が通じないと諦めて、日浦は罠要因として動く事にした様子。トリオンキューブの類がなんであろうと、視えている以上、易々と引っ掛かる事はないはず。
「(けど、ただ黙って見過ごすわけにはいかないか)」
戦闘が長引けば長引くほど罠の効力は発揮されていく。奇襲騙し討ちを得意とする修としては、自身の得意分野で後れを取る訳にはいかない。
ここは一旦、グラスホッパーで戦場を離脱して罠を張り巡らしている日浦を先に討つべきだろう。
しかし、目の前の那須がそれをさせまいとトリオンキューブを射出。変幻自在に弾道を描く那須の
「(
鷹の眼が知らせる。那須の
――
自身に戻る
この戦術は見覚えがあった。対A級連合部隊と戦ったときに修が使った目眩まし戦法だ。
白煙により視界を潰される。直ぐに浄天眼を発揮させて無効化を図るのだが、間髪入れずに熊谷の旋空弧月が空を裂く。
「っ!?」
咄嗟にシールドモードのレイガストで防ぐ事に成功するが、熊谷の攻撃は止まらない。
「もう一撃っ!!」
――旋空弧月
返しの刃で力強く横薙ぎに振るわれた旋空は修の身体を両断せんと襲い掛かる。タイミング的に避ける事は不可能。胸中で「勝った」と呟く熊谷は修の咄嗟の行動に目を丸くさせる。
「あんたはどこのサーカス団よっ!!」
戦っている最中にも関わらず、つっこまずにはいられなかった。何せ、グラスホッパーで真上に跳んだと思いきや、スラスターの推進力を利用して前方に一回転。俗に言う前宙で熊谷の旋空をギリギリの所で避けきったのである。
そして、つっこみの代償は大きかった。熊谷の動きを止めた隙は回転している最中でもくっきり、しっかりと視えている。着地するなりレイガストを振り被り、スラスターを起動。
「スラスター
繰り出すは必殺奇襲の飛槍。修の攻撃の中で最速を誇る一撃を解き放つ。
「しまっ!?」
我に返った時、既に修のレイガストは間近に迫っていた。シールド一枚を張っても、飛槍を防ぐ事は難しい。ならば、ここは力と力の勝負。熊谷は渾身の力を込めて修のレイガスト目掛けて弧月を振り降ろす。
宙を舞うレイガストと弧月。熊谷はどうにかして修のレイガストの脅威から身を護る事に成功したのだが、逸らすだけで精一杯であった。爆走するレイガストの力に負け、唯一の武器である弧月を手から離してしまったのだ。
――
更に修は合成弾で畳み掛ける。人数的な不利な状況、この絶好な機会を逃す訳にはいかない。
だが、それを那須と日浦が許すはずがなかった。
「(地を這う
修がグラスホッパーで上空に回避する事も予想していたのであろう。那須は修が逃げるルートを予測して上空にも
「(ダメだ……。間に合わない)」
持てる手札は
――
「
一塊の
待て! ここでそれを使っちゃうの!? と書いていた自分もびっくりです(オイ
あと、いつも感想、誤字報告ありがとうございます。