だから、少々変な小細工をしてみました。
実戦は何が起こっても不思議ではない。時に予想もつかない様な出来事が起こる可能性は否定できない故に、常に隊員には臨機応変が求められると教えられている。
教えられているが、今回の事は少々常軌を逸していると思わなくもない修であった。
――NEW CHALLENGER
出水との再戦を終え、強制的に二宮とランク戦をさせられていた修は突然表示された文字に目を丸くする。
当然、
その直後、二人の間に割って入る様に転送されて来た人物が真直ぐ修へ向かって突撃し、抜き放った二刀の弧月で斬りかかってくる。
「っ!?」
予想だにしなかった敵の出現にグラスホッパーを起動させて上空へ逃げ延びるのだが、相手も同様にグラスホッパーを使用して追撃してくる。
「グラスホッパーをいれたか、三雲。悪くない動きだ」
「太刀川さん!? なんであなたが!!」
「言わなくても分かるだろ? お前達だけこんな面白い事してずるいぞ。俺を混ぜろ!」
更にグラスホッパーを使って修の上を行く太刀川。空中軌道に慣れていない修は直ぐにグラスホッパーで距離を空けようと試みるが、それよりも太刀川の斬撃の方が早かった。
だが、振り下ろされた弧月に無数の
「ちっ」
無事に着地した太刀川は、攻撃を妨げた人物である二宮へ視線を向ける。
「二宮」
「……どう言うつもりだ、太刀川。今は俺がそいつとランク戦をしている最中だ。部外者は早々に立ち去れ」
「どうもこうもねえよ。聞く話によると、お前達はちょくちょくこいつと模擬戦やらランク戦をしているんだろ? ずるいぞ。俺も混ぜろよ」
「バカが。俺はそいつに
「いやだね。そんなに邪魔扱いするなら、力づくでやって見な」
――
話しは終わりだと言いたげに、弧月を二宮に向けて薙ぐ。オプショントリガー、旋空によって刀身が伸びた弧月は二宮の胴体を両断せんとするが、そんな単調な攻撃など二宮に通じる訳がない。
修との闘いでは見せなかった速度重視の
しかし、太刀川に向かって来た
「む?」
黒煙によって視界を奪われた太刀川は耳を澄ませて辺りを警戒する。こんな芸当をする奴など修しかいない。奴はこの状況を利用して不意打ちを狙って来るはずだ、と予想する。
その予想は概ね合っていた。トリオンの噴出音が右方から聞こえて来たのだ。
「右かっ!?」
振り向くと同時に、修が拳を振り上げているのを視界に捉える。ブレードモードにしていない所を見ると――。
「スラスター・オンっ!!」
レイジから伝授されたスラスター打撃で強襲する。太刀川は弧月をクロスさせてその攻撃を防ぐのだが、衝突したと同時に修はグラスホッパーを起動させて太刀川は後方へ吹き飛ばしたのであった。
体勢を崩され吹き飛ばされた太刀川は直ぐにグラスホッパーを使用して体勢を整え、構え直す。その表情が玩具を見つけた子供の様に笑みを浮かべていたのは言うまでもない。
「いいじゃないか、三雲。前の時もそこそこ楽しめたが、今回はそれ以上の手応えがあるじゃないか」
「アホが。お前はこれで退場だ」
修がグラスホッパーで太刀川を吹き飛ばした時には、既に二宮の
容赦のない弾丸の雨に太刀川はすぐさま対応するが、無数の雨を全て叩き落とす事など不可能。数発程度だが太刀川の身体を撃抜き、僅かながらトリオンが漏れだすが、この程度で太刀川が怯むわけがない。
「二宮さん」
「とんだ邪魔が入った。先にあのアホを落とすぞ、三雲」
「はいっ!」
「いいねぇ。前々からお前とも久しぶりにやりたかったんだよ」
射手二人の結託に太刀川は俄然やる気が上がる。戦闘大好き太刀川にこの程度の逆境など燃える事はあれ、怯む事などない。
「いーや! 二人だけじゃないっすよ、太刀川さん!!」
――
二宮と修の反対側から合成弾
「出水か」
「ったく。あれほど邪魔をしないでくださいって言ったはずなのに、何をしているんですか!?」
「だって、お前達だけ楽しそうにしているとかずるいじゃないか。俺も混ぜろ! 俺も楽しみたい!!」
まるで子供染みた言い訳に頭が痛くなってしまう。戦闘の際は頼もしい隊長なのが、それ以外はてんでダメな隊長にため息をこぼさずにいられなかった。
「駄々をこねないでくださいよ。ったく。わりぃメガネくん。二宮さん」
「なら、さっさとこのアホを駆除するのを手伝え。三雲、お前は前に出ろ。俺と出水で後方支援する。出水っ! ありったけの弾丸をあのアホにぶつけるぞ」
「了解です」
「了解っ!
二宮の指揮の下、三人の
手始めに出水が
――
それに合わせて二宮も
圧倒的な弾幕に流石の太刀川も回避する事など出来ないだろう。と、思ったのだが口角を上げた太刀川は再び弧月を一刀生成するや、向かって来る弾丸を斬り落としていく。
長年の経験か。それとも野生の勘と言うべきか、自身の致命傷になるであろう弾丸を確実に弧月で切り裂き、回避できるであろう弾丸は最小限の動きで躱していく。
その動きを見た出水は「なんて変態染みた動きだ」と胸中で嘆くが、二人の役目はあくまで陽動と足止め。本命は別にある。
――
グラスホッパーで太刀川の上空へ跳んでいた修が自身の最大火力を叩き込まんとしている。流石の太刀川であっても三方からの一斉射撃を防ぎ切れるはずがない。
これで終わりだ、と出水は確信するのだが。
「と、思うじゃん?」
修の眼前に転移されてきた米屋が槍状の弧月を薙いで、修を薙ぎ飛ばしたのである。
「メガネくんっ!!」
「よそ見するんじゃねぇ、出水っ!!」
――
事なきを得た太刀川の反撃に出水は対処しきれなかった。何とか右方に転がる様に飛ぶのだが、対応が遅く右足を両断されてしまう。
「ちっ。アホにつられて、更にアホがやって来たか」
「あら? そんなに余裕ぶっていいのかしら、二宮君?」
まさかの三人目。油断していたとは言え、敵に背中を取られてしまう。振り向いてからでは遅いと判断した二宮は咄嗟に
「……加古」
「ずるいじゃない、二宮君。抜け駆けは許さないわよ」
三人目の刺客は加古望。A級加古隊の隊長であり、二宮と出水に引けを取らない三人目の
***
太刀川、米屋、加古の三人の乱入に流石の修も理解するのに幾許の時間が必要であったが、そんな猶予など米屋が許してはくれない。
「あの時の続きといこうぜ、メガネボーイっ!」
休む間もなく米屋の刺突が修に襲い掛かる。それに対抗する様にレイガストと対抗する。
「レイガストの打突か。面白い戦いをする様になったじゃないか、メガネボーイ。なら、これはどうだっ!!」
――
幻踊を起動させ、穂先の形状を変化させる。先の戦いではこれによって修は米屋に敗してしまったが、今回は前とは状況が異なる。拳を避けて心臓を抉らんとする弧月にグラスホッパーを横から当てて強制的に軌道を変えるのであった。
「っ!?」
弧月が泳いだ事で、米屋の体勢も強制的に崩れてしまう。その隙を突いて修は
難を逃れた米屋は後方へ跳んで距離を空ける。このまま続けても不利になると感じたのか、いったん仕切り直しを図る米屋であった。
……わーい。なんか、勝手にバトルロイヤルしているぞ、この人たち(泣
で、なぜか修以外は全員A級なんですが。