残念でした、また弾バカですよ!
……ほんと、なんでこうなったんだ……。
木崎レイジの特訓は修にとって、今までの戦いよりもキツイものであった。
「……どうした、修。もう終わりか?」
両手にパンチング用ミットを構えたまま、汗まみれになっている修を見下ろしながらレイジは言う。
「疲れると言う事は、余計な動きがある証拠だ」
トリオン体で行い続ければ疲労感を得る事はありえない。つまり、今の修は生身でレイジと訓練をしていると言う事だ。
「れ、レイジさん。この訓練って何の意味が……?」
「分からないか?」
質問を質問で返されてしまう。
分からないから聞いたのだが、そう言われてしまうと自分の推論なりを応えざるを得なくなるが、レイジはそのまま言葉を続けた。
「以前、生身の訓練がトリオン体になった時も影響があると話しただろう」
その話しは覚えている。トリオン体になれば生身の筋力は関係ないが、その体の操縦は生身の感覚が元となっている。生身で動く感覚を掴めばトリオン体ではその何倍も動けるようになる。
「今回はその発展型だ。余計な力が入れば入るほど動きは鈍くなるし、無駄な動きがあればあるほど疲れは増す。今回のスローミット打ちは無駄な動きを無くすのと余計な力を入れない為の訓練だ。そして、お前の強烈な技に繋がる練習とも言えよう」
強烈な技。その言葉を聞いた時、疲労感が一気に吹っ飛んだ気がする。地面に向けられていた顔が自分へ向けられたのを見て、レイジは話しを続ける。
「お前がたまに使うスラスターを併用したストレート。アレを使うのは、接近戦で一番早く相手へ当てる為だろ?」
「……その通りです」
修の接近戦の手段はレイガストによる斬撃か、近距離による弾丸の射出のみ。けれど、弾丸系を接近して当てる行為は正直に言って無駄だ。相手に意表を突いて当てる置き弾とかならまだしも、一々近寄って
「お前はサイドエフェクトのせいで時間が経てば経つほど不利になる傾向がある。ならば、考え得る対抗策は二つ。サイドエフェクトをここぞと言う時以外は使わないか、短期決戦で相手を仕留めるしかない」
「それは僕も考えました。しかし――」
前者の方法は自身の最大の強みを失うと言う事。
これまで強者とそれなりに戦えた理由もサイドエフェクト天眼があったからだ。ここぞと言う以外に使うタイミングを見極める事も難しいが、天眼を開放する前に仕留められてしまったら意味がない。天眼を使わない戦術を考える事も大事であるが、単独での行動時に考えられる戦術は考え付かなかった。
そうなると後者を考えるのが必然となるが、自身の能力を考慮するとそれも難しい。奇襲が成功すれば短期決戦も難しくはないかも知れないが、早々簡単に成し遂げられるとは思えない。
「――だからこそ、必要になるのは武器だ。お前にとって一番の強みとなる武器を持たなくてはいけない」
「武器、ですか」
「京介や小南、迅は色々な武器を熟すことで天眼の可能性を広げようと考えていた様だが、俺としてはレイガストを極めるのが先だと思っている」
万能型の弧月。奇襲型のスコーピオン。そして重装型のレイガスト。ブレードトリガーの中でレイガストが一番不人気とされているが、攻防一体のレイガストは修にとって最適とレイジは考える。
「最終的に回避に特化した戦い方になるかも知れないが、レイガストならばシールドモードにすれば致命傷は避けられる可能性がある。生存確率を考えれば、防御は必要不可欠だ。と、言っても修のシールドでは少々頼りないから、必然とレイガストになる訳だが。お前もそう思って、最初にレイガストを選んだんだろ?」
「それは……」
咄嗟に顔を背けてしまう。
「(い、言えない。シールドモードなんて機能があった事を知らなかったなんて)」
修がレイガストを選んだのは、他の者達と同じトリガーだと生き残る事が出来ないと考えたからである。ただでさえ運動神経が低い修が4000ポイントを確保するには何かしらの工夫が必要と考えたからであった。だからと言って、弧月やスコーピオンならば対策の対策を練られてしまう可能性がある。ならば、使い手のすくないトリガーを選んで初見殺しを狙っていたのであった。そんなトリガーにシールドモードがあるなんて、玉狛に入るまで知る由もなかったが。
「仮に修がレイガストのシールドパンチをマスター出来たら、鷹の眼と併用して面白い事が出来るはずだ。そこまで言ったら、この訓練の意味も理解できるだろう」
それを聞いてハッとなる。
「レイジさん、まさか……」
「あぁ。大量の弾丸が放たれたら対抗手段は一つだ。……レイガストで叩き落してしまえ」
***
翌日。出水と二宮に捕まった修はそのままランク戦ブースへと連れられ、二人とランク戦をさせられる羽目となった。
――
無数の
「(さーて、何で来るメガネくん。
目眩ましによる回避かシールドによる防御か。それによって放つ弾丸を選択せんと身構える出水に向け、修は力強く地面を蹴って迫り来る
「……は?」
一直線に駆け上がる修は自身目掛けて飛んでくる
「(おいおい、何の冗談だ。それは!?)」
数発のジャブと裏拳、時にブレードモードに形状変化させて斬撃によって致命傷となりえる出水の
「そう来るかよ!」
天眼に弾道を可視化する鷹の眼がある事は知っていた。いずれはブレードトリガーで斬り捨てるなんて芸当が可能と予想していたが、あまりにも早すぎる。ついちょっと前に戦ったときは回避か防御しか出来なかったにも関わらず、この短時間で撃墜と言う芸当を見せて来たではないか。
「そっちがその気ならっ!」
「
――
「(足を止めた瞬間、
けど、修は足を止める事はなかった。あろう事かスラスターを起動させて加速するのだった。
「(ここで加速するのかよ!? だが、それじゃあ俺の
と、誰しもが思うだろう。
***
「なにあれ? あんな芸当が可能な訳?」
「俺に訊くな」
出水と修のランク戦を観戦していた加古が目の前で繰り広げている光景を指差しながら、隣で腕組みしながら睨み付けている二宮に話しかける。
「あの子。スラスターの推進力を利用して向かって来る出水君の
「俺に訊くなと言ったはずだ」
加古の言うとおり、
「恐らく、スラスターの連続使用する事で可能とした動きだろう。だが、あれでは直ぐにトリオンが尽きるぞ」
「そうね。けど、三雲くんは短期決戦を狙っているみたいよ」
――
器用な事に
「出水が物量戦で攻める前に短期決戦に持ち込んで勝利をもぎ取る心算か。……あいつ、俺との闘いで何も学ばなかったのか?」
「狙いは悪くないけど、あれじゃあ……」
いくら修の回避能力が高かろうと限界がある。
***
「ちょっと会わない内に随分と腕を上げたじゃないか、メガネくん。だが、これで終わりだ!」
――
高速移動で回避する修に対抗する為に出水は
普通ならば、この攻撃をした時点で修のトリオン体は蜂の巣になる事であろう。
――グラスホッパー
展開されるジャンプ台トリガー。
「な、なんだとっ!?」
グラスホッパー。空中軌道を可能とするジャンプ台トリガー。確かにそれを入れていれば先の様な動きは可能であるが、修は前の戦いにグラスホッパーを入れていなかった。
「(トリガー構成を変えて来たのかよっ!?)」
大当たりであった。あれから色々と考え抜いた結果、修はシールドを外してグラスホッパーに入れ替えていた。本来ならばシールドを外すことは愚策もいい所であるが、修のトリオン量では防御力などたかが知れている。それを考えた故の選択であろう。
上空へ飛翔した修は力一杯レイガストを出水目掛けて振り下ろす。修得意のレイガストによる飛槍だ。
「その程度っ!」
驚いたがそれだけである。修の攻撃は単発のレイガストによる投擲だ。単純な攻撃など
けど、本命はそれではない。
「
出水目掛けて降下する修は両手にトリオンを作りだし、合成させる。
「なるほどなっ!? 本命はそっちかっ!!」
即座に修の狙いを看破した出水も同じ様に両手にトリオンを形成し、合成させる。
――
二人の合成弾が同時に生み出される。
そして、数メートルほどの至近距離で――。
――
二人の
***
「……引分け、みたいね?」
モニターに表示されている結果は引分け。この事実を述べた加古は隣へ振り向くといたはずの二宮がいつの間にか姿を消していた。
どこに言ったかと周囲を見渡すと、探し人は個人ブースへと足を運んでいたではないか。
その数秒後、修と二宮のランク戦が始まった事は言うまでもない。
このまま惨敗するのも他の皆さん的には納得いかなかったかなぁ、と思って出水に逆襲してみました。
……ま、現時点ではこれが限界かもしれませんね。
次は、加古か那須を出すべきかなぁ。