自分で書いていて、すごく違和感を覚えて仕方がありません。
「……オサム、大丈夫か?」
隣で修と一緒に見守っていた空閑から言葉が投げられるが、頭が混乱していてそれどころではなかった。
「(そもそもなんで、出水先輩以外に
参考資料として部隊に所属している人達の模擬戦のログは頻繁に目を通している。特に自分が希望している
「やれやれ。あいつ等も困ったものだな」
放心状態の修と空閑、そんな二人を楽しげに見ている迅にコーヒーを淹れて渡した東は一口飲み、まだまだ淹れ方に改善点があるなと思いつつも話を続ける。
「それで、今回の模擬戦で何かは掴めたのか?」
東は事情を迅から聴いている。当然、今回の
東から話しかけられた修はやっと我に返る。
「え、あ。……はい。どうにか天眼の能力を少しばかりコントロールする事が出来ました」
「ほぉ。具体的には?」
「簡単に言えば精度の割合を変える事が出来るって感じだと思います。今までは発動したらただ見えるだけでしたけど、今は意識すればはっきり見えると言いますか、そんな感じです」
「なるほど。つまり解像度を上げたり下げたりすることで、特定の性能を上げられるってところだな」
一度視覚共有している東だから言えることだが、解像度の強弱をつける事が出来なくても修の天眼は充分高性能な能力である。あれが何も加工されていない原石の状態であるとすれば、磨き上げた状態まで持っていけばどれほどの力を発揮出来るか想像すらできない。それこそ神のみぞ知ると言う所だ。
けれど、狙撃戦後に風間隊の隊室で迅は言っていた。
『メガネくんが生き延びる可能性は限りなく低いけど二通りあった。それは天眼の能力によるものだと思う。上手く口に出来ないけど、二つとも今はまだ開眼されていない能力だと思うんだ』
その能力については詳しい事は聞かされていないが、今回の模擬戦で得られたモノは新たな能力ではなくそれを扱う手段であった。つまり、未だに迅の暗躍は達成されていないと言う事になる。
そもそも迅が視た何かしらの能力が開眼した切っ掛けが分からない以上、お手上げもいいところであるのだが、修が生き残れる為に迅は可能な限り手を尽くすと言っている。これから起こる試練もその為のショック療法の一つだ。
「オサムだけ一人で楽しんでずるいぞ。俺も混ざりたかった」
3の口でブー垂れる空閑を慰めつつ、迅は話を継ぐ。
「まぁまぁ。遊真は玉狛支部に戻ればいくらでも出来るでしょ」
「そうだけどさ。あれ以来、
それを聞いて当然の如く焦るのは修であった。
「や、止めてくれ。空閑の本気に僕が敵う訳ないだろ。やるならせめてノーマルトリガーにしてくれ」
「そこで模擬戦をしたくないって言わない所が、感化されたんじゃないメガネくん」
「はっ!?」
指摘されて気づく。今までならば無理だダメだと断る事を第一に考えたのだが、今では妥協点を見つけてはなんだかんだ言って戦おうと思考が働いている。強くなる為には良い傾向であると言えなくもないが、少しずつ戦闘狂になりつつある自分にほんの少し嫌悪感を抱く修であった。
「なはは。俺も迅の考えている通り、使える機会があればどんどん使った方が良いと思う。人間の体って単純でな。鍛錬を休むと取り戻すのに三日かかると言われている。少しの時間でもいいから、毎日使う事で掴める何かがあると思うぞ」
特に使いすぎる事で戦う事が困難になる能力の鍛錬は安全が確保されている状態でやるのが一番の安全策である。今回の様にダウンしてもボーダー内であればフォローしてくれる者もいるだろう。必要ならば今回の様に仮眠所として場所を提供してもいいと東は思っている。
「……まぁ、三雲くんの事だから引き際は弁えていると思うが。どこかのお調子者が煽らない限りな」
「そこで俺を見るのは止めて、東さん。俺だって非常に心が痛んだんだよ。けど、こう仕組んだのはメガネくんの為でもあるし、他の人達の為でもあるんだから!」
第一の目的として強者と戦う事で修自身の自力が上げる事であったが、修と戦う事で視えなかったモノを見直せるいい機会になるとも考えたのだ。
天眼の能力に強化視覚がある。修はそれを使用する事で極限まで動きを遅く見える事が可能になる。隙があればそこを突き、難しいならばカウンターを試みるのが近接戦闘の対処方だ。最も今回の様にテレポーターがあればその限りではないが。
相手は自分の戦い方を、修を通す事で見つめ直せる事が出来ると考えた。自分では感じられなかった隙があれば対処の一つも考えられる。大規模侵攻の予知がなければじっくりと研鑽をつませてやりたい所であるが、時間はそれほど多くはないのが悩みどころである。
「はい、迅さんには感謝しています。この眼に関しては正直に言って持て余していました。戦闘員として未熟な僕が数多くの実力者と渡り合える事が出来たのも、迅さんがセッティングしてくれたからだと思います」
自身が未熟な事は重々承知している。トリオン量が少ない自分がA級戦闘員に這い上がる為にはどうしても誰にもない何かを手に入れる必要があったと思っていた。幾ら空閑と千佳の性能がずば抜けているからと言って、それに甘えていたら自身の目的なんか到底叶わない。空閑を巻き込んだ身としては、何としても彼の横に立てるだけの力を手に入れる必要がある。
「そう言ってくれると気持ちが楽になるよ。……実は、もう一人戦って欲しい相手がいるんだけどいいかな?」
「随分と急だね、迅さん。これ以上の戦闘が出来ないのは迅さんも分かっているはずだよ。まだオサムを戦わせるつもり?」
相棒としてはこれ以上戦わせる訳にはいかない。そもそも、少しばかり休んだからと言ってトリオン量が全快する訳ではないのだ。
「それはもちろん分かっている。今回は訓練室だから、トリオン量が消費される事はない。それなら問題ないだろ?」
「……いったい、どなたがお相手してくださるんですか?」
その問い掛けを待っていました、と言わんばかりに迅の口端が持ち上がる。
「メガネくんには秀次の相手をしてもらう。
直後、修が盛大に声を上げたのは言うまでもなかった。
***
最近、木虎の様子がおかしい。任務帰りの嵐山准は相棒である時枝充に相談を持ちかけていた。
「嵐山さんの気のせいでは? 僕が見る限り、木虎は普通でしたよ?」
一緒に広報任務をした時、隊長の嵐山が言う様なおかしい点は見受けられなかった。
けど、気にならなかった点がない訳でもない。時枝は思い出したように「あ、でも」と言い続ける。
「以前、賢をボコボコにしていましたから……。もしかすると――」
狙撃戦の後、偶々あった木虎に佐鳥はフルボッコされている。その時、大方佐鳥が木虎に変な事でもしたのだろう、と勝手に思っていた。
「それだっ!!」
ただの推測で確証がないのに嵐山は「なぞは全て解けた」と言わんばかりに破顔する。その笑顔にあてられたのかすれ違った女性隊員――恐らくC級隊員だろう――が熱っぽい目で見つめていた。嵐山准、知らぬうちに一人の女性のハートを射止めた瞬間である。
「早速賢に聞いてみよう」
思い立ったら即行動。自身の携帯電話を取出し、原因を究明するために佐鳥に連絡を入れようとして――動きを止めた。
「……嵐山さん?」
どうしましたと続けようとした時、彼の視線が遠方に向けられている事に気付く。原因を探る為に嵐山の視線の先を追って見てみると、そこには迅と空閑に引っ張られている修の姿があった。
「ま、待ってください迅さん。無理ですムリです、無理ですから。僕じゃ実験台にもなりませんから」
「だいじょうぶ大丈夫、メガネくん。俺のサイドエフェクトが言っているから」
「僕のサイドエフェクトが全力で逃げろと言っています」
随分と珍しい光景に唖然とする時枝であるが、直ぐに我に返って嵐山の方を見る。ご兄弟を救ってくれた恩をきっかけに、嵐山は修の事を気にっている。そんなお気に入りの修があんな目に合っているのを目の当たりにしたら、嵐山の行動はただ一つ。
「ま、待っていろ三雲く――」
「――ダメです、嵐山さん」
駆け付けようとする嵐山の腰に手を回し、全力で阻止する時枝。
この後、任務の報告を提出する為の書類を作成しなくてはならない。肝心の嵐山がいなければ仕事が進まないのは必定。
それに、ここで嵐山を修の元へ向かわせたら大変な事が起こりかねないと第六感が警告を出している。
だが、A級ホイホイの第一被害者である嵐山の思いは伊達ではない。これぐらいの障害などものともせずに一歩一歩前進していく。傍から見たら時枝を引き摺りながら歩いているので、物凄く滑稽に見えてしまうが。
***
捕えられた修を救出するために、嵐山は勢いよく訓練ブースの戸を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。
「……あれ? 嵐山?」
予想外の乱入者にいち早く気付いた迅が呼び掛ける。異様な光景を作った元凶である迅を発見した嵐山は未だに時枝を引き摺りながらもその犯人の元へ駆け付ける。
「迅! これはどう言う事だ」
「いや、どう言う事って。それは俺が聞きたいんだが?」
そもそも訓練ブースは関係者以外立ち入り禁止する様にセキュリティーをロックしたはず。それにも関わらずどうやって侵入したのか不思議で仕方がない迅であるが、そんな事など露知れず嵐山は刃を交えている二人を指差せて言う。
「なんで、三雲くんと三輪が戦っているんだ!?」
***
空を描く二条の光が幾多もぶつかり合う。三輪が両断せんと弧月を振るうと修も負けじと弧月でいなし、返しの刃で反撃にかかる。しかし、修の弧月は三輪からしてみれば欠伸が出る程の遅い斬撃。簡単に払って修の顔面に斬りかかる。
既に一分近く続いている。お互いに使用しているトリガーは弧月のみ。純粋な剣術勝負に迅は「待った」を掛けたかったが、二人の醸し出す雰囲気がそれを許さない。
「前々からお前の事が気に入らなかった、三雲」
自身の相手、三雲修は玉狛支部に所属している。当然、ボーダーにある派閥は玉狛派寄りであろう。対する三輪は城戸派。近界民は全て殺せ派と近界民でも仲良くなれる奴がいるはず派は対立関係にある。
第一次大規模侵攻で姉を殺されている三輪からしてみれば近界民など全て敵である。その敵と「仲良くしよう」を体現している修も、三輪からしてみれば憎むべき敵だ。
「だから弧月以外は使わないと?」
「思い上がるな。お前程度、弧月だけで充分なんだよっ!!」
三輪は修が強化視覚のサイドエフェクト持ちであることを知らない。それ故に新米B級としか三輪は修の事を認識していなかった。
研鑽を続けた弧月の一撃を修が受けきるはずがないと思っていたが、何度も必殺の一撃を放とうとも三輪の弧月は修のトリオン体まで届く事はなかった。
「弧月だけで倒せますか?」
それは安直な挑発な言葉であった。普段の三輪ならば簡単に挑発されないのだが、相手が玉狛の人間ならば話は別だ。抑え付けていた感情を露わにさせ、怒りに身を任せたまま弧月で修を斬りかかる。
「近界民は大切な場所を! 家族を奪って行った。お前は! そんな奴らを許せるのか」
「だからと言って、空閑や全ての近界民がそうだと断定するのは早計です。三輪先輩は全ての外国人が同じだと言っているのと同じことです」
互いに刃を押し付けながら感情をぶつけ合う。
初めは二人とも戦う気がなかった。互いに適当な事を言ってこの場をやり過ごそうと思ったのだが、空閑を見た事で三輪の態度が豹変したのだ。
『勝手にうろつくなと言ったはずだ近界民。俺の気が変わらない内にさっさと失せろ』
第一声がそれであった。空閑は三輪の言葉に対して気にしてはいなかったが、彼の相棒を自負している修の琴線に触れる事になってしまった。
『撤回してください、三輪先輩。あなたが近界民を恨んでいる事は知っていますが、空閑を他の近界民と一緒にしないでください』
年下の、しかも何も奪われた事がないであろう雑魚に反論されたのが気に喰わなかったのだろう。更に修は玉狛派だ。三輪の怒りが噴火の如く膨れ上がるのも無理はなかった。
互いににらみ合った二人は無言で弧月を抜き、何の合図もなしに斬り結んでいく。初めは止めようと試みた東――三輪の説得役として同行していた――であったが、迅によって止められてしまう。それから嵐山たちが来るまで弧月のみの剣術勝負が続いていたのだ。
水と油、同じ三つながりなのに三雲と三輪の印象と個人的にそんな感じだったりします。
原作だったら衝突なんかしないと思いますが、自分的には互いの意見をぶつけ合って衝突して欲しいなと言う願望が出たのかもしれません。
ほんと、どうしてこうなった?