色々と案を考えていますが、まずはこっちが先かなぁって。
千佳ちゃんを文章で表現するのってむずいよ、ホント。
……って、いつもそんな事しか書いていないような(汗
三雲修の躍進。
その噂は本部に所属している者達ならば、一度は聞いた事であろう。
曰く、A級である小型万能隊員こと風間から一勝もぎ取ったこと。
曰く、A級の迅バカ及び中学エリートこと、緑川と木虎二人を相手に引分けに持ち込んだこと。
他にも狙撃戦で数的不利にも関わらず、
そんな噂を聞くたびに、中学エリートが気を悪くしたらしいがそれは別の話だ。
「……なんか、凄いね。本部中、メガネ先輩の噂で持ち切りじゃん」
狙撃訓練を終えた夏目はC級隊員の中で飛び交う修の噂は耳にし、未だに訓練中の雨取千佳に話しかけるね。
「そうだね。修くんは凄いよ」
友人の言葉に相槌ながらも、千佳は黙々とイーグレットの引金を絞る。
千佳が愛用するトリガーは一撃必殺を対トリオン兵ライフルことアイビスだ。しかし、彼女のトリオン量が相まってか放たれるトリオンの放出量は異常の一言であった。
試にアイビスを撃つ様に佐鳥から言われて放った時は、本部の壁を貫通させて周囲の度肝を抜いたのは言う間でもない。
それ以降、千佳は本部での訓練時ではイーグレットを使用している。高い汎用性を持つイーグレットは未だに慣れないが、それでも徐々に命中率は上がってきている。同期の夏目は距離が離れるにつれて命中率が落ちるにも関わらずだ。
「チカ子、最近頑張り過ぎだよ。少しは休憩したらどう?」
ここ最近、千佳の様子がおかしかったのは気づいていた。その理由も大体予想できる。
だけど、分かった所で彼女に何かしてあげる事は多くない。出来る事など、こうして彼女の過剰な頑張りにセーブを掛けることぐらいだ。
「ありがとう、出穂ちゃん。けど、もう少しで何か掴めると思うから」
「(その断り文句、何回目だと思っているのよチカ子)」
二桁を超えたぐらいから数えるのは断念したが、耳にたこが出来てしまうほど聞き飽きた。
「(この調子じゃ、当分の間は終わらないかな。……手遅れになる前にメガネ先輩かおちび先輩に相談した方がいいかな?)」
かれこれ、十日以上もこの調子の友人をどうにかせんと出穂は動き出す。
***
翌日。
「ほぉほぉ。チカがね」
昼休み時、千佳の眼を盗んで修達のいる教室に向かった夏目はちょうど屋上に向かおうとしていた遊真を捕まえる事に成功したのだった。
修は防衛任務の為に不在であったが、ある意味ちょうどいいと思ったのだろう。空閑に千佳の事で相談があると言って、そのまま一緒に屋上へ足を運び、今にいたる。
「そうっす。おちび先輩からも言ってくれないっすか。今のチカ子、ちょっと無理しすぎて正直、見ていられないっす」
「うーん。俺じゃムリだと思うけどな」
「な、何でっすか?」
「俺も、チカの気持ちは分からなくないからな」
修の飛躍に焦りを感じているのは何も千佳だけじゃなかった。遊真も早くB級になろうと躍起になっている。
故に同じ感情を抱いている千佳に言える訳がない。無理はするな、なんてそんな軽い気持ちを彼女へ言える訳がないのだ。
「け、けど! トリオン量が多いからチカ子って全然休まないんですよ。あのままじゃチカ子……」
「ふーむ。それは問題ですな。……なら、レイジさんに相談するしかないかな?」
「チカ子の御師匠さんに?」
「そそ。俺が言うよりもレイジさんが言う方が効果抜群だと思うしね」
「わ、分かったッす。今日、玉狛にお邪魔させていただきます」
善は急げと言う。即決断、即行動。
夏目は授業が終わったら、家に戻る事無く玉狛支部へと直行するのであった。
***
「……なるほどな。要件は分かった」
韋駄天の如く教室から離脱し、玉狛支部に押しかけた夏目は絶賛クッキーを調理中であった落ち着いた筋肉こと木崎レイジに千佳の事を相談したのであった。
レイジも初めは何事であろうと思ったが、彼女の相談を聞いて色々と納得したらしい。一度、席から立ち上がって出来立てのクッキーと紅茶を差出したレイジは話しを続ける。
「ここ最近、異常に熱が入っていたのはそのせいか」
トリオン量が異常と言われるほど膨大な量を内包している彼女は、一日中狙撃訓練をしている事なんてザラであった。その事に疑問を感じた事はなかったが、夏目の言葉を聞いて悪い傾向になりつつある事だけは理解したのだった。
「ここ最近って……。チカ子、玉狛支部でも訓練を続けているんですか?」
その質問に首肯する。
「チカ子。メガネ先輩の噂を聞いてから、より一層訓練する様になったんですよ。初めは頑張っているんだなって思ったんですが、段々と過剰なまでに訓練する様になって……」
懇願の眼差しを向けられたレイジは腕組みをして思案する。可愛らしい弟子が訓練に集中すれば止めるまでし続ける人間である事は重々承知している。ここ最近も思いつめたように訓練をし続けていたが、それは時間が解決してくれると考えたのだが甘かったようだ。
「……分かった。俺からもそれとなく聞いてみる。わざわざすまんな」
「い、いえ。チカ子の事、よろしくお願いしまっす」
余ったクッキーをタッパに詰め、彼女に渡す。彼女は「いらないっすよ」と断ったが、弟子の為にわざわざ玉狛支部に来てくれた客人を手ぶらで帰す訳にはいかないと考えた結果、本日のおやつ分を彼女に持たせたのであった。
「さてと……」
深々と頭を下げて再三お願いされてはレイジも動かずにはいられない。今も訓練施設で黙々と狙撃をし続けている弟子の下へ足を運ぶのだった。
***
千佳が訓練している場所へ入るなり、真っ先に視界に広がるのは山の様に詰まれた標的の数々。もはや見慣れた光景であるが、違和感を覚えずにいられなかった。
「(的には当たっているが、どれも弾痕がバラバラか……)」
一体の標的に付き、風穴が四か所撃ち抜かれていた。ここ最近では正確に頭部と腹部に一発ずつ命中出来る様になっていたのに、四発とも僅かながら反れている。
「……あっ。レイジさん」
目の前の標的を狙撃した千佳は教えの通りに狙撃場所を変える為に移動しようとしたのだろう。立ち上がると同時に師のレイジがいる事に気付いて、丁寧に頭を下げてトコトコと近寄ってくる。
レイジは軽く息を吐き、この真面目で無理しがちな弟子に告げるのだった。
「……休憩だ。おやつを作ったから、少しは一息入れろ」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった千佳は目を丸くするが、直ぐに頷いてレイジの誘いに乗るのだった。
***
「そうですか、出穂ちゃんが……」
昨日残っていたおやつを彼女に渡し、夏目が来た事を告げる。
「早くB級に上がりたいのは理解できるが、何を焦っている? 今日の狙撃を見る限り、集中力が散漫のようだな」
「…………」
その問いに千佳は答えなかった。
話したくない内容なのだろう、と気遣ったレイジは別の話題を振ろうとして――。
「このままじゃ、取り残されてしまいますから」
――千佳の返答に反応せずにいられなかった。
「取り残される?」
「はい。最近、修くんの噂をよく聞きます。全てを見通す天眼の持ち主。A級になり上がるのは時間の問題だろうって」
その噂には同意せざるを得ない。修のサイドエフェクトは圧倒的なアドバンテージを与えてくれる。近距離中距離遠距離全ての能力を備わっている修がそれ相応の戦い方を身に付ければ怖いもの知らずとなるのは安易に想像できる。
「遊真くんも後少しでB級に上がるそうです。そうなれば、C級は私だけ。このままでは私は二人に置いて行かれます」
「(……そう言う事か)」
だがしかし、
「だからと言って、ただ闇雲に訓練をすればいいと言うものではない。お前の狙撃成績を見せてもらったが少しずつ落ちているな。……原因は過労か?」
千佳自身も訓練のやり過ぎを自覚していたのだろう。気まずそうに視線を逸らして苦笑いを浮かばせるのみ。そんな弟子の姿を見たレイジは怒るに怒れず、ただただ深いため息を一つついて言い続ける。
「狙撃は集中力がモノを言う。集中力が欠けた状態でいくら練習しようとも意味がない。それは他の事に対しても言えることだ。……今日は早く帰って休め。修達には俺から言っておく」
「でも」
「これ以上続けても何の意味もない。休むのも訓練だと思え」
「もう少しやらせてください」
「ダメだ。どうしてもと言うなら、明日からにしろ。それまで、次の訓練メニューを組んでおいてやる」
「……え?」
「B級に上がりたいんだろ? なら、そろそろ動く標的の狙撃術を教えてやる。だから今日は休め」
「レイジさん。……ありがとうございます!」
***
やっとのこと納得してくれた弟子は、深々とお辞儀をした後に自宅へと戻って行くのを見送った後にレイジは新しい訓練メニューを考える為に部屋へ向かう。
「ふふ、優しいですねレイジさん」
その途中、にやけた笑みを浮かべた宇佐美と遭遇する。
「覗き見とはいい趣味をしているな」
「いえ、見るつもりはなかったんですが……。気付きませんでした、千佳ちゃんがあんなに思いつめていたなんて」
「仕方がないだろう。千佳から言い出した事なのに自分が一番出遅れている。その事実が焦りを生むのも容易に想像できたはずだ。……が、俺も含めて――」
「――修くんの天眼ばかりに気がいって、二人の事を全然考えていませんでしたね。彼女達のオペレーターになる身としては、耳が痛い話です」
思えば、修の天眼が分かった時から二人をそっちのけにしていた気がした。三雲隊のオペレーターとして、広い視野を持たないといけないはずなのに今回の件を見るまで千佳が思いつめていた事など考えにも至らなかった。
「修ももちろんだが、千佳や遊真も俺達玉狛支部の仲間だ。これから、もっと気を付ければいい話だ。お前もあまり思いつめるなよ」
「はい、分かりましたレイジさん。……それにしても」
思いつめた表情から一変、宇佐美はニンマリとした表情で言い続ける。
「そう言った気配りが、ゆりさんにも出来ればいいんですが」
「なっ!? そ、それとこれとでは話が別だろうが!」
「……好きな人に奥手になると知ったら、レイジさんに対する千佳ちゃんの印象は一変しちゃうんでしょうね」
今はスカウトで遠くに言っているレイジの思い人林藤ゆりが帰還した時、彼女と一緒になってレイジを茶化そうと目論む宇佐美であった。
後々に出穂や千佳を絡ませたいので、外伝ですが出してみました。
彼女たちの何気に重要なポジションにいる……かなぁ、って思っていますので。
ちなみに、千佳も少しばかり手を加えたらダメですかねぇ。