ノリと勢いがある時に書かないと書けませんものね。
……って、これだけ見ると自分がどれだけずぼらな人間がバレてしまうな。
今回はVS迅です。
攻撃手編もそろそろ佳境を迎えてきましたよ、おそらく。
いったん、間を開けたらいよいよ……ですね。(え?
迅悠一は三雲修にとって特別な存在であった。
自分の危機を救ってくれた人。一度、試験に落ちた自身に再びボーダーに入れるチャンスを与えてくれた人。彼がいなければ、今の三雲修は存在しない。
そんなあらゆる意味で特別な人間とこうして相対する日が来るとは修も想像すらしなかった。
「……なんか、こうして対面すると不思議な感じだな、メガネくん」
「そう、ですね」
戦場に転送された二人はゆっくりした足取りで相手がいる場所に歩み寄り、まるで偶然出会った感じで会話を始める。
「……っ」
「随分と苦しそうだね、メガネくん。やっぱり、天眼の反動はキツイ?」
修の強化視覚、天眼はバランスブレイカーと言っても過言ではないチート能力だ。だが、しかし高性能故に燃費が悪いのが欠点。鷹の眼が開眼してから更にトリオンの消費量が増えたのか、連続で使用できる時間が減った印象が見受けられる。
「そう、ですね。……鷹の眼を会得してからは特にひどいです」
以前までは頭痛と眩暈だけだったのだが、鷹の眼を会得してからと言うもの吐き気すら覚える始末。酷い時は前みたいに立眩みの様に視界が黒くなって立つ事すらままならない状態に陥ってしまう。
「……メガネ、つけるかい?」
「いえ。これが訓練である以上、つける訳にはいきません」
「強情だな、メガネくんは。まあ、それがキミのいいところだが」
メガネを掛ければ不思議と天眼の効力を失ってしまう。同時にそれは苦痛から解放されると同意である。足元も覚束無い修とこれから戦う事に罪悪感を覚えつつ、迅は右手にスコーピオンを生み出す。
「メガネくん。キミのサイドエフェクト、天眼は確かに魅力的な能力だ。だがしかし、その能力は諸刃の剣に等しいだろう。大規模侵攻や遠征なら尚更だ」
訓練やランク戦ならば戦闘時間は限られている。経験さえ積めば今の様にフル稼働でサイドエフェクトを発動させる必要性もなくなるだろう。
けど、大規模侵攻や遠征ではそうはいくまい。もしも、遠征時に天眼の反動で行動不能になれば仲間たちの足を引っ張る結果になるだろう。
遠征でも言えることだが、生死を賭けた戦いの最中に行動不能なんかになったら目も当てられない。幾ら緊急脱出が組み込まれているからと言って、この世に絶対と言う言葉はない。些細な事で死ぬ事だってあり得ない話じゃないのだ。
「もし、もしもだ。メガネくんが遠征を諦めると言うならば、今回の訓練はこれまでにしよう。けど――」
「――それはできません、迅さん」
まだ迅の言葉は終わっていなかったが、修は言葉を遮って自分の意見を口にする。
「確かに僕の天眼は諸刃の剣。トリオン量の少ない僕では宝の持ち腐れもいい所でしょう。……けど、それとこれとは別問題だ。僕は千佳と約束した。空閑と約束した。三人で部隊を組み、A級に入って近界へ遠征しに行くと」
妹を頼むと託された麟児の思いに応える為にボーダーに入った。
兄と友人を取り戻したい。そんな千佳の願いを叶えたくて、近界へ旅立とうとした空閑を引き留めて仲間に誘った。
それなのに、自分が全てを諦めるなんて選択肢を選べるはずはない。そんな事をしたら自分が許せなくなってしまうだろう。
「全ては僕がそうするべき……。いえ、僕が“やりたい”と思ったからだ。この思いは誰にも変えさせない。誰にも否定させない!!」
「……あぁ。それでこそメガネくんだっ!」
今の文句が出る事は未来視で視えていた。どんなに意志を揺らがせても最後には不屈の精神で思いの丈を口にするだろうと予知していたが、実際にその言葉を聞くと胸に来るものがあった。
「(俺が認めたメガネくんはそうでないとな)」
修と出会ったのは偶然に近かった。いま思えば、あれは自身の夢を叶える為に神様が与えてくれた奇跡と言ってもよかっただろう。
試験に落ちた修は上層部に直談判する為に警戒地域に侵入した事があった。その際、運が悪く近界民が現れた。その時に修の危機を救ったのは迅だった。
初め、上層部に直談判する為にペンチ一本で警戒地域に侵入したと聞いて、腹を抱えて大爆笑してしまった。だが、修の名前を聞いて何気なく未来視で覗いた時は驚きを隠せなかった。無限に広がる可能性の未来。諦めかけていた未来の一端が修の行動一つで決まる事も多々あるではないか。
思えば迅は修の様な人間が来る事を待ち侘びていたのかもしれない。だから、今もこうして彼の力になりたいと素直に思える自分がいるのだ。
「(……っと、感傷に浸っている場合じゃないか)」
早く戦闘を始めないといつ太刀川が乱入してくるか分からない。今頃、出水が必死になって食い止めているであろうが、未来視によると乱入してくる可能性は五分五分である。
「それじゃあ、始めようかメガネくん。俺とメガネくんの真剣勝負を!」
「はいっ!」
修は歯を食い縛って全神経を集中させる。
サイドエフェクトの反動で戦いが間々ならないなんて言い訳は通用しない。そもそも万全な状態で戦闘に赴く事の方が珍しいのだ。どんな状態であれ、戦う事になったら全力で立ち向かう。
それに、目の前の恩人に恥かしい姿など見せる訳にはいかないのだ。
修は対抗する為にレイガストと弧月を生み出そうとする――が、生み出されたトリガーはレイガストのみであった。どうやら、修のトリオン量は弧月を生成出来るだけの余裕はないようだ。
「(だからと言って諦める訳にはいかない!)」
弧月は生み出せなくても、まだレイガストが残っている。使用量が一番多いレイガストがあるならば充分対抗できるはず。
けど、敵はあの迅だ。一瞬の油断すら許されない。その証拠に修が思案中に足元からエスクードが出現し、修の身体を突き飛ばしたのだった。
「がっ。……つぁ」
足元からの強襲に防御は愚か受け身すら取れなかった修は地面に叩きつけられる。叩きつけられた衝撃で大きくバウンドした修は迅が斬りかかってくるのを視界に捉えた。
このまま一気に勝負をつけるつもりなのだろう。
「(そうはいくかっ!)」
体を捻って地面にレイガストを突き刺して着地する。
迅は修が体勢を整え直す前に二刀のスコーピオンで斬りかかる。二条の剣閃をレイガストで受け止める事が出来たが――。
「スラスター・オン」
反撃のスラスター斬撃が行えない。
もはや、スラスターすら発動するだけのトリオンも残されていないようであった。
「どうした、メガネくん。それが全力か。そんなんで千佳ちゃんを守り通せると思っているのかっ!」
がら空きの腹部目掛けて足底を叩き込んで突き放す。ダメージはないが、衝撃までは殺せない。重心が後ろ気味に下がったせいで、迅の追撃を躱す事は出来なかった。
スコーピオンの斬撃により左腕が宙を舞う。漏れ出すトリオンを抑えたい所であるが、迅の二の太刀がそれを許さない。左肩から脇腹目掛けて流れてきたスコーピオンを押し留める事に成功するが、それだけであった。
「今の状態で天眼は上手く作動しないんだろ! 動きが鈍すぎるぜ」
その通りであった。反動が出てからと言うもの天眼の効力が薄れていた。
近距離に必要不可欠の複眼は180°までと半減しているし、体感時間が遅く感じる事はなくなっている。先のエスクードにしたって浄天眼で目視できるはずなのだが、それすら出来ずにいた。
「天眼が使えない状況だからこそ考えろ、メガネくん。こう言う状況は何度だって訪れるはずだ」
困難な状況になればなるほど修の闘い方は不利になっていく。それはそうだろう。
修の本来の闘い方は超短期決戦型なのだ。時間が掛かればかかるほど、トリガーを使えば使うほど不利になっていくのは想像しなくても分かる事。
迅の言うとおり、今の様にトリオン切れとサイドエフェクトの反動でお手上げ状態になる可能性も考えられる。そうなった時、いざ対処出来るかと言われたら修は自信がないと答えるであろう。
「(……そうか。だから迅さんは――)」
本来ならば何でも視認して戦う事なんて出来ないはず。ましてや敵の攻撃の軌道を視覚で捉える事など不可能だ。迅に指摘されるまで自分がどれほど天眼に甘えていたか気づけなかっただろう。
迅は天眼を自在に扱えるようになれと言ったが、天眼に頼り切れとは言っていない。
天眼をマスターすると言う事は、己の意志で視たいモノを視ると言う事だ。
「(僕が視たいモノ……。それは――)」
一度、大きく深呼吸を行って意識を集中し始める。迅もこの瞬間を既に予知していたのか、一向に攻撃する素振りを見せないでいた。まるでこれから起こる瞬間を楽しみにしているかの如く二刀のスコーピオンを構え、来る瞬間を待っていた。
「(そうだ。それでいい。メガネくんのトリオン消費が激しいのは無意識の間に全ての効力を使っていた事だと思う)」
以前、修のメガネを調べた事があったが、あれは何の変哲もないメガネであった。
けど、それでは辻褄が合わないのだ。修はメガネを掛ければサイドエフェクトが発動しないと言ってた。だからこそ迅は一つの推論を立てた。
もし、もしもだ。
修はメガネを掛ける事でサイドエフェクトが発動しないと思い込んでいるとしたらどうだ。人間は単純な生き物だ。薬と称して服用する事で二日酔いが治まったなんて実験報告も挙げられている。それなら多少であるが筋は通る。
修はメガネを掛ける事で天眼の力を極限まで抑える様に自身でコントロールしている可能性がある。無意識と言うおまけ付きであるが。
「(ならその逆。天眼酔いをした時でも、手綱さえ確りと掴む事が出来るなら)」
天眼は再び力を取り戻すはずだ。勝利の道筋を視る為に修の天眼が集約されていく。仮にパラメーター分けなんて項目があるなら、今のトリオン分配をパーセンテージで表すと以下の通りになるだろう。
千里眼1パーセント。
浄天眼1パーセント。
複眼2パーセント。
鷹の眼1パーセント。
強化視覚95パーセント。
視覚能力にトリオンを全振りする事で、修の視界から色が失われる。戸惑いはするものの、この感覚は以前にも覚えがあった。
「(よく視える。迅さんが呼吸するタイミングが……。迅さんの体重が僅かに右に偏るのだが!)」
そう思ったとき、自然と足は動いていた。頭痛と吐き気で動くのも辛いはずなのに、これ以上の戦いは困難だと思っていたのに、修はレイガストを振り上げて迅に向かって力いっぱい薙ぎ払ったのだった。
「おっとっ!!」
しかし、そんな単調な攻撃が迅に通る訳がない。当然だが、二刀のスコーピオンで修のレイガストを受け止める。
「甘いな、メガネくん。そんな単調なっ!?」
迅の言葉が中断される。予想もしなかった修の攻撃で言葉を遮られたのであった。
「(頭突きかよ。随分荒っぽい手を使うじゃないかっ!!)」
修は迅によって片腕を斬られている。距離を詰める事が出来てもレイガストを防がれた以上、攻撃の手札は残されていないと思った迅の失態だ。勢いよく己の額を迅の顔面に叩き込んだ事により、迅の身体は後ろに流れる。このまま仰向けに倒れるかと思いきや、片足が半歩ほど後ろに下がったのを天眼が捉えていた。体勢を整えられたら折角の不意打ちが無駄になる。ならばと、修は迅がやって見せたように足底を腹部に叩き込んで、更に体勢を崩しにかかったのだった。
「(マジい。このままじゃ)」
――エスクード
追撃をさせまいと両者の間に障壁を展開する。けど、迅が不穏な動きをしている瞬間を強化視覚は見逃さなかった。エスクードが展開されるよりも早く修はトリオンの配分を浄天眼に全振りして、エスクードに巻き込まれない様に回り込むのだった。
「(こいつも通じないか、ならこいつはどうだ!)」
次に展開したのはバッグワームであった。バッグワームは対電子戦用の隠密トリガーだ。今回の様なタイマン勝負に使用しても意味がないはずだ。
何をするのかと思いきや、迅はそのバッグワームを掴んで修に向けて放り投げたのだ。目くらましの意味で放り投げて対応にもたついている間に体勢を整えようと考えたのだろう。
その程度の狙いは修も直ぐに気づいていた。よって、レイガストで迅が放り投げたバッグワームを払いのけると目と鼻の先に迅の姿があった。
「っ!?」
「それは視えていたよ、メガネくん」
――斬
修が対応するよりも早く残っていた片腕を切り捨てられてしまう。もはや完全な詰み状態。普通ならば諦めてしまう所であるが、修の眼はまだ死んでいなかった。
「まだ――っ!?」
両腕がない状態で駆け出す修であったが、タイミングが悪い事に今までにないほどの頭痛が修を襲いかかる。トリオンが欠乏状態にも関わらず天眼の能力操作なんて慣れない芸当もしたのだ。もはや、修の身体は限界を超えていたのだ。
地面に勢いよく叩きつけられた修の身体に迅はスコーピオンを突き刺して楽にさせてあげる。
「……お疲れ様、メガネくん」
緊急脱出が発動され、天高く消えた修の行方を見守った迅はサイドエフェクト未来視で見た光景を思い出す。
「(まだメガネくんが死ぬ運命は変わらないか。天元を突破させない限り、黒トリガー使いは倒せない、か。……後は頼んだぜ、秀次)」
と、言うことでVS迅でした。
……で、結局迅さんって何がしたかったの?(マテ
ちなみに修の天眼のあれはアステロイドのような設定が出来るなんて後付けをしてみました。……自分で後付設定とか言っちゃったよ。
いよいよ最後……と、言いたいところですが、今の修じゃ三輪(風刃モード)と真面に戦える訳がないので、小休憩を挟みたいと思います。1,2話程度ほど。
そろそろ、観戦者達の会話も入れないといけないかなぁ、なんて思っていたりしますし。
実況も入れたいところだが、さすがに三回も連続で桜子さんを召喚するのもなんだしなぁ。……別の人間を召喚するかなぁ。