てか、あれ以外は実現不可能ですからね!
後はどんな剣術が再現可能なんだ?(マテ
東隊の奥寺常幸と小荒井登の最大の魅力はコンビネーションだ。
単身で活躍出来るほどの実力はないけど、二人で連携して立ち回れればA級の隊員ですら危ういだろう。
――旋空弧月
奥寺による旋空弧月が解き放たれる。旋空に合わせて小荒井はグラスホッパーを起動させて修へ突っ込む。二段構えの突撃に修はレイガストをシールドモードにして、まずは奥寺の旋空を防いだのだった。
それに合わせて小荒井は更にグラスホッパーを使って修の後ろに回り込む。修が旋空を避けたらそのまま斬り付けようと考えていた小荒井はレイガストへ弧月を叩き付けるよりも背後に回り込んで、意識を攪乱させることを選んだのである。
そんな小荒井の動きを読んでいたのか、奥寺がグラスホッパーによる奇襲を図ったのだ。
奥寺による一撃はレイガストで防ぐことが出来た。けれど、まだ逆方面に小荒井がいる。抜身の弧月で修の首を刈らんと薙ぎ払われるが、修はテレポーターでその場から離脱していた。
「ちっ、テレポーターか。奥寺、上空を警戒しろ」
「了解。小荒井は周囲の警戒だ」
二人の切り替えは早かった。攻撃が失敗すると分かると、互いに背中合わせになって修の襲撃を警戒するのだった。向こうが天眼で制限なく瞬間移動出来るなら、二人は四つの目で視界を確保して警戒に当たるようであった。
修が瞬間移動したのは二人の直上。上空を警戒していた奥寺が発見するなり、グラスホッパーを起動して小荒井を強制的に引き離す。
――スラスター・オン
レイガストのオプショントリガーによるスラスター斬撃を奥寺に振り下ろす。発見が早かった為に弧月で修のレイガストを防ぐことは出来たが、威力を殺しきる事が出来ずに片膝を付く結果になってしまった。その瞬間を逃す事無く修は弧月を抜刀して、追撃を図るのだが、小荒井の斬撃によって阻まれてしまう。
「やるじゃないか、三雲くん。それが噂の天眼の力か」
「ありがとうございます!」
小荒井が鍔迫り合いのまま話し掛けたのは、奥寺を意識から外すための作戦であった。しかし、修には複眼がある。レイガストから逃れた奥寺が修の背後に回り込んで斬り付けようとしているのは丸わかりであった。小荒井の弧月を弧月で押さえつけたまま、レイガストの盾を最小にして展開し、奥寺の弧月の刃に叩き付けたのだ。
「レイガストのシールド面積を最小にして、使い回しを良くしたのか!?」
「俺の弧月を押さえつけながら、奥寺の弧月を塞ぎ切るってか!? 上等だ。燃えて来たぞ、俺は」
ただでさえ数的不利なこの状況で生き残っている事に驚かずにいられないと言うのに、悉く自分達の連携を防ぐ修の器量に驚きを通り越して、闘争心が剥き出されていく。
二人は一旦距離を開ける――と、見せかけてグラスホッパーで修に再突撃を行う。左右から斬撃を繰り出さんとする二人に向けて修は弧月を小荒井に向けて蹴り放ったのだった。
「それは、既に視ている!」
修の弧月シュートは既に米屋戦で見ている。弧月を蹴りつけるのが分かれば、なんてことのない攻撃であった。小荒井はその弧月を修に向けて叩き返す。が、直後にレイガストが自身へ向けて飛翔して来るのを目撃してしまう。
修はあろう事か、小荒井に対して自身の武器を全て使って投擲戦法を行ったのだ。それは無謀もいいところ。逆から突っ込む奥寺に対抗する手段は今の修にはないはずだ。
「これで終わりだ、三雲くん」
振りかぶり、弧月を渾身の力を込めて振り下ろすのだが、その腕を修によって掴まれてしまう。
「なっ!?」
振り下ろさんとした自身の腕を掴まれ、攻撃を中断させられた奥寺の視界が反転する。修が一本背負いの要領で奥寺を投げ――グラスホッパーを起動させて、小荒井に向けて突き飛ばしたのであった。
奥寺の体はレイガストすらも薙ぎ払った小荒井に真直ぐ突っ込んでいく。流石の小荒井も奥寺を薙ぎ払ったり、斬り付ける事は出来まい。奥寺を受け止めた小荒井は直ぐにグラスホッパーを起動させて、その場から移動させる。
既に修は弧月を拾い上げて、グラスホッパーを使って追撃を図っているのだった。
「(これが噂に聞く三雲くんのサイドエフェクト。あの東さんが驚嘆した視覚能力の恩恵か)」
確かに凄いと小荒井も同意する。
攻撃手歴はただでさえ修よりも長い。それに加えてこちらは二人なのに、未だに決定打を与える事が出来ない。
だからと言って、後輩でしかも本職でない輩に勝負で負ける訳にはいかないのだ。
斬撃に合わせて、小荒井は修に組みつく事を決意する。どうあれ、小荒井組は一人でも残れば勝ちは勝ちなのだ。相討ち覚悟で特攻するのも一つの手である。
修が小荒井の胴体を両断せんと薙ぎ払いの準備にかかる。それに合わせて小荒井も上段に振り上げるのだが――修が振り払った手に弧月は握られていなかった。
「(攻撃……じゃない?)」
あろう事か、修は刀を振るう直前で握る力を弱めて腕のみで振り払うなんて動作を行ったのだ。そんな事をしても何の意味があるのか、と怪訝する小荒井であったが、宙を舞う弧月をもう片手で掴んだのを見て、修の狙いに気付く。
修の弧月は小荒井の両手を切裂く事に成功する。弧月使いの小荒井にとって、両腕を失った事は致命傷も同然だ。
「お前はどこぞの殺し屋か!?」
言っている意味は修に理解出来なかった。勿論、三人の戦いぶりを見ている観客たちに小荒井の叫びに似た言葉は届いていない。唯一聞こえて、小荒井の言いたい事が理解できる奥寺だけが「うんうん」と深々と頷いていた。そんなほのぼのムードのせいで、一瞬だが気を緩めてしまったのだろう。その隙を付いて奥寺がグラスホッパーによる奇襲を再度図るのだった。しかし、同じ失敗を繰り返すほど修は愚かではない。気が緩んだように見えたのは、ただの演技だ。数的不利の状況の時は、あえて敵に隙を見せてカウンターを叩き込むのも有効である事を緑川&木虎戦で学んだ。
奥寺をギリギリまで近寄らせて、テレポーターで姿を消す。
「ちっ。また、テレポーターか!?」
「奥寺! 俺をたて……奥寺後ろだ!」
奥寺の背後に修の姿が現れる。そこは、先ほど修がテレポーターを使うまで立っていた場所である。移動する事無く、一瞬消えるだけの為に修はテレポーターを起動させて、奥寺の攻撃を回避したのだ。
修を引き離す為にグラスホッパーを起動させようとするのだが、それよりも早く修の弧月が奥寺の心臓部を貫いていく。
――戦闘体活動限界。奥寺、緊急脱出。
奥寺のトリオン体は緊急脱出によって光の粒子になって消失する。その間に、修は次なる行動に移っていた。相棒の緊急脱出に目を奪われていた小荒井の最大な失態と言えよう。
――旋空弧月
居合斬りの要領で抜き放たれた旋空は真直ぐと小荒井の胴体を捉えていた。両手が使えない以上、小荒井はこの旋空を弧月で防ぐ事は出来ない。けど、シールドならば話は別である。
――フルガード
二つのシールドを使って修の旋空を防ぎきる事を選んだようだ。他の戦闘員の旋空ならばシールドを易々と切裂くだろうが、修の旋空は他の隊員と比べても遅くて弱い。フルガードで耐え切れると踏んだのだろう。
だが、旋空の効力が消えると同時に修はテレポーターを使って、小荒井の背後に移動していた。
「くっそぉおお!」
振り向き、修の動きを拘束せんとした小荒井の心臓部に弧月が生える。振り向く事無く、自身の右脇目掛けて弧月を突き刺したのだ。
「……はぁ。負けちゃったかぁ」
――戦闘体活動限界。小荒井、緊急脱出。
奥寺と同様に小荒井の戦闘体も空に昇って消えていく。
攻撃手の戦いで修は初めて勝利を手にした瞬間であった。
***
「……なに、あれ?」
「凄いだろ。あれが三雲先輩の真骨頂。あの手この手で殺しかかる吃驚戦法。双葉の韋駄天だって、きっと三雲先輩は防ぎきってしまうよ。迅さんの言ったようにね」
まるで自分の様に自慢する緑川を睨む黒江であるが、今はこんな事をしている場合ではなかった。米屋戦ではパッとした印象は感じなかったが、今回の奥寺・小荒井戦はその前評価を覆さずにいられなかった。
修の事を吃驚箱とかパンドラなんて呼ぶ所以が分かった気がした黒江は、自然と口角を上げてしまっている。強敵と戦い勝利の喜びを知っている少女は、突然現れた強敵との戦いに喜ばずにいられなかった。
***
「やるな、メガネボーイ。最初と比べて固さもなくなったって感じだな。徐々に攻撃手として動きを学習している感じだな、あれは」
己の欠点を学んだ事により、戦い方に変化を加えたのが功を奏したように思える。
「前から思ったが、メガネボーイはタイマン勝負よりも数的不利な一対多の方が得意なのかもな。タイマン勝負だと騙し討ちは通り難いし」
「そうか? 俺の見立てでは、まだまだ自分の闘い方を模索しているって感じだな。小荒井に使ったフェイント斬撃なんてまさにそれだろ。アイツ、まだまだ引き出しがあるんじゃないのか? くそぉ。なんで俺はトップバッターでやったんだ。……やっぱ、もう一戦出来ないかな?」
徐々に戦い方のレパートリーを増やす修と戦いたくてうずうずしているのだろう。出来ればもう一戦、とブースに入ろうとする太刀川を当然の如く出水が阻止する。
「ダメです、太刀川さん。太刀川さんの出番は終わったって言っているでしょ。烏丸に連絡したんですが、迅さんはとんでもない事を考えているみたいなので、絶対にダメです」
「なにそれ? アイツ、いったい誰を召喚させるつもりなんだ? ま、まさか忍田さんとか言わないよね。もし、そうなら俺も混ざるからな絶対!」
「忍田さんよりもレアです。……むしろ、よく上層部が許可を出したな、これ」
***
一方その頃、暗躍をし続けている迅は、とある人物の下へ足を運んでいた。
「……何の用だ、迅」
「風間さんにお前がへこんでるって聞いてさー。笑いに来た」
「貴様っ!」
怒りの孕んだ眼差しを送るが、当の本人はぼんち揚げを頬張って自分を見やるだけ。このまま迅の襟首を掴んで喧嘩を売ってもいいのだが、ボーター間での私闘はご法度とされている。
以前の様な黒トリガーの件みたいに命令が下されない限り、目の前のヘラヘラした隊員に刃を向ける事は出来ない。
「秀次。そんなお前にいい話があるんだ」
「いい話だと?」
「うん、そう」
「……断る。お前の話など聞く価値もない」
仮にあったとしても、玉狛派の話など誰が聞く耳など持たない。
「そう? 風刃の使い手として俺がお前を推薦する、と言ってもか?」
「なんだと!?」
現在、風刃の候補は8人とされている。三輪秀次もその候補の中の一人に入っている。
第一候補は風間であったが、既に辞退している為、城戸が誰を使い手にするか悩んでいる事は迅も知っていた。
「風刃があれば、お姉さんの仇も取りやすくなるぞ。パワーアップは出来る時にしておいた方が良い。そして、風刃を慣らす意味も込めてメガネくんと戦ってほしい」
「……どう言う意味だ?」
「メガネくんのサイドエフェクトは未だに発展途上だ。だが、その能力は絶大だ。敵に渡す訳にはいかない。ましては死なせる訳にもいかないんだ」
「それが、俺が風刃で戦うのと何の意味がある? 何ならお前が相手をすればいいだろう」
「お前じゃないとダメなんだ、秀次。メガネくんのサイドエフェクトが次の段階に上がるには、お前の復讐心が必要になる」
「三雲は正隊員だ。自分の始末は自分でつけさせろ。それが無理なら、ボーダーなんかやめさせろ」
これ以上、迅と会話を続けたら自制が保てなくなると感じたのだろう。秀次は「これ以上、話す事はない」と切り出して、その場から去ろうとする。
「……お前は、風刃を手にするよ。そして、その風刃でメガネくんと戦い、そして救う。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
一度歩みを止めた三輪は、再び歩き出して迅から離れていく。
その直後、迅が予知した通りに城戸から風刃を渡されるのだった。
……うん、ちょっと待とうか。
自分で書いていて、随分と攻撃手編が大げさになってきたぞ。
……あ、元からか。
ちなみに、IF編は後々に別の話として移動させようかと思います。
お見合い編? 続きませんからね。
ラブコメなんて書けると思ってる?