いざ書くと、滅茶苦茶長くなりそうだから、今回はこの程度で……。
ランクブースは既に人だかりが出来ていた。
みな、ついさっき聞いた噂話の真意を確かめに来たのだろう。
「……なんか、人が一気に集まってきましたね。遊真先輩」
「うむ、そうだな。なんかあるのか?」
緑川と20 戦を終えた空閑はざわつく周囲を見渡す。
『……この状況。つい最近もあったな』
こっそり、周囲を観察していたレプリカに同意する。この感じは昨日、相棒の修が緑川・木虎両名と戦った時の騒ぎに似ている。
「あ、ヨネヤン先輩だ。防衛任務、終わったの?」
自分達に近づく米屋を発見する緑川。軽く手を挙げて答えた米屋は二人の傍へ歩み寄り「それより聞いたか?」と話しかける。
「戻った早々小耳にはさんだんだが、またメガネボーイがやらかしたらしいな」
「……ぇ。何のこと?」
隣で聞いている空閑に振り向き「遊真先輩、分かる?」と尋ねるが、空閑も「知りませんな」と否定する。
「何でもこれから狙撃メインのランク戦をするみたいだぞ。カードは勿論――」
「まさか、三雲先輩!?」
「当たり。それだけじゃないぞ。メガネボーイの相方は東さんらしい。対する相手は佐鳥と当真先輩だ」
「なにそれ!? 超楽しそうじゃない。それ、俺も参加出来ないの?」
「バーカ。出来るものなら、俺が参加したいぐらいだぜ」
豪華メンバーに緑川の目がキラキラ輝くが参加出来ないと知ると詰まらなさそうに口を尖らす。
「……オサムの奴。また、自分だけ楽しむつもりなのか」
「俺も噂だけだが、何でもこの勝負は佐鳥の方から持ちかけたらしいぞ」
「なんで?」
「理由は、何でもメガネボーイを狙撃手にさせたいらしくて、それを賭けてとか言ってたな」
「なるほど。つまり、オサムの才能が原因で始まった戦いと言う事ですな。それなら、いっか」
佐鳥が勝負を挑んだと聞いて、一瞬だけ殺気を放った空閑であったが理由を聞いて直ぐにそれを引っ込める。修の才能に注目して始まった戦いならば自身が出る幕ではない、と素直に思ったからだ。
「しっかし、狙撃手か。俺達のチームはチカがいるから、狙撃手は二人もいらないかな」
「お前ら、小隊を組む予定だったな。確か、あのトリオンモンスターも仲間に入れるんだろ。なら、メガネボーイは前衛か中衛が望ましいな」
「――それよりもヨネヤン先輩! その狙撃戦っていつやるの!? 俺、絶対に見たいんだけど」
何時まで経っても聞きたい情報が聞けない事にイラついた緑川は米屋に詰め寄る。すっかり話しが脱線してしまった事に気づき、米屋は近くにあった壁時計を指差して言う。
「あと5分と言った所か。……お、噂をすればって奴だな」
米屋の背中越しからざわめきが起こる。ランクブースにやってきた四名に道を譲ったC級隊員の間を歩く人物は空閑たちが噂をしていた四名であった。
「よっ。オサム」
空閑は東隊の隊服を身に纏う修に駆け寄る。
「空閑。もう、緑川とのランク戦は終わったのか?」
「あぁ。20戦中、17勝3敗で勝ち越した」
ブイサインを作って勝利の笑みを繕う。
「そっか。流石だな」
「オサムもこれからランク戦だろ」
「知っていたのか?」
「噂になっているらしいぞ。……見守っているから、勝てよ。隊長」
「分かっている。行って来る」
お互いに拳を突出してコツンと叩き合う。
空閑は「頑張れよ」と思いを込めて、修は「勝つからな」と決意を込める。言葉は不要であった。それだけで気持ちが通じ合った二人はそれ以上声を掛ける事無く離れる。
「お待たせしました、東さん」
「いやいいさ。……佐鳥、当真。そちらはオペレーターを見つけたんだろうな?」
修が合流したのを機に東は自分が出した条件を確認する。
「任せてください、東さん。綾辻先輩にお願いしましたから」
「バク宙土下座を見せてやりたかったぜ。流石の綾辻もアレには抗えなかったらしいな」
佐鳥は自分の隊を担当しているオペレーターにお願いしたのであった。
けど、理由を聞いた綾辻は中々首を縦に振ってくれなかったのだ。自分の意見を無理矢理通して、後輩を巻き込んだことに大層ご立腹であった。
本来ならば直ぐに戦略的撤退を図るところなのだが、今日の佐鳥は違った。来る日の為に磨いていたもう一つの奥義、バク宙からの土下座を決め込み、最高級のどら焼きを贈る事を約束したのだった。これには流石の綾辻も抗えなかったらしく、泣く泣く佐鳥の頼みを聞く形となってしまった。
「そう言う東さん達の方はちゃんとオペレーターがいるんでしょうね」
「バカにするな、当真。ちゃんと人見にお願いしてきた。お前らを潰す為の作戦も三人で考えて来たぞ」
「いいねぇ、そいつは楽しみだ。東さんとこうして戦う機会なんて中々ないですからね。三雲には悪いが、思う存分に相手をしてもらいますよ」
「思う存分、ね。はたして、そんなに戦えるかな」
我に秘策あり、と言いたげに不敵な笑みを浮かべる。
二人が盛り上がっている間、修と佐鳥もまた気を昂ぶらせ合う。
「三雲くん。キミはそげキングになるべき男だ。……覚悟はいいね」
「そげキングが何か知りませんが、やるからには勝って見せます」
こうして、三雲・東チーム対佐鳥・当真の狙撃戦が始まる。
***
「さぁ! まさかまさか、昨日に続いて今日もやらかしてくれるとか、私に仕事をさせないつもりだなこんちくしょう! 海老名隊オペレーター、武富桜子が噂を聞きつけて駆けつけたぞ、お前らぁ!!」
武富の掛け声に合わせて大勢のC級隊員から歓声が沸き起こる。
「今回の解説者はたまたま居合わせたA級隊員、弾バカこと出水先輩にお願いしたいと思います。出水先輩、よろしくお願い――。どうしました? 頭なんか抱えて」
「……いやな。俺、今日はメガネくんに用事があって玉狛まで行ったのに、まさか本部に来ていたなんて思わなくて。……なんでこんな事になっているんだよ! メガネくん」
「なにやら魂の叫び声が上がりましたが、話を戻しましょう。本日のカードは三雲・東コンビVS佐鳥・当真コンビとなっています。……って、三雲隊員って狙撃も出来たんですか?」
「知らないよ! 知っていたら、こんな事になっていないから」
「ですよね。情報によりますとこの勝負に三雲隊員が負けると、狙撃手に転向するって話になっているらしいです」
「なんだって!? それは本当か。誰が言った? 佐鳥か? 佐鳥なんだな!? あのバサトリめ」
「お、落ち着いて下さい出水先輩。さぁ! フィールドに4名のスナイパー……が?」
「……オイオイ、こいつはどう言う事だ。なんで、6人も戦場に転送された」
***
『東さん、様子がおかしいです。転送された直後にレーダーから消失しましたが、明らかに2人以上の戦闘員が転送されてきました』
ランダム転送された直後、オペレーターの人見から予想外な報告を聞かされる。
「どう言う事だ!」
『恐らく、相手は2人じゃないと思われます。三雲くん、貴方なら視えるでしょ? 何人の誰々が転送されて来た?』
『……はい。その、なぜか知りませんが、古寺先輩と奈良坂先輩までいるんですが』
天眼の力を使って敵の正体を暴く。千里眼と浄天眼の複合技だ。戦いで一番多用する能力のため、自然と身に着いた技能である。
招かれざる客の正体は三輪隊の狙撃手である古寺章平と奈良坂透であった。
「人見! 佐鳥達に抗議だ。これは明らかなルール違反だと」
『遥ちゃんに連絡しているのですが、一向に繋がりません。……なに、あなた達? ちょっ――』
「人見? 人見!? なにがあった、人見!!」
人見からの連絡が途絶えてしまった。これは明らかに異常事態である。けど、こんなタイミングでこんな異常事態が起こりうるであろうか。考えられる事としたら――。
「当真の奴。裏で色々と手を回したな」
『どうしますか、東さん。オペレーターの支援が望めないとなりますと状況的に不利になります』
「分かっている。まず、合流を先決しよう。俺はバッグワームでレーダーから身を隠す。三雲くんはそのまま敵を引き付けながら合流してくれ。……もしもの時は、切札を切る用意もしておけ」
『三雲、了解』
***
『三雲くんが移動したわ。東さんはレーダーから消えたからバッグワームを使ったと思う。恐らく、三雲くんを囮にして東さんが狙撃すると思って良いわ。……ねぇ、佐鳥君。本当にこんな勝負を東さんが了承したの? 4対2の狙撃戦なんて無茶苦茶だわ。しかも、相手の一人は専門外の三雲くんじゃない』
「三雲くんには天眼ってサイドエフェクトがあります。むしろ、これでも足りないぐらいっすよ。既に俺達の場所は特定されていますね」
『そんなに凄いの!? ……分かったわ。三雲くんは真直ぐ近場の学校に向かっているわね。そこで東さんが狙っているはずよ』
「佐鳥、了解っす。と、言う訳で皆さん。いっちょ、よろしくお願い致します」
『当真、了解』
『古寺、了解』
『奈良坂、了解』
四名の狩人が動き出す。