リリカルライダー——悪とされた者の物語   作:エイワス

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やはりグダグダになってしまうな・・・。


死神

図書館に行った日からまた時は経ち、幽雅は海の見える海岸付近で黄昏ていた。

幽雅がシフトカーを使って、ある二人の話を盗み聞きしている時に、次のジュエルシードが発動する場所が、この辺りだと聞いたのだ。

 

ゲネシスドライバー完成のために強者との戦闘データが欲しい幽雅は学校が終わってから家に一度帰り、すぐに盗み聞きした時に聞いた場所へと身を隠した。

幸運な事にまだ誰にも見られていない。

 

タブレット菓子を取り出して口に投げ入れる。噛み砕いて水で流すだけで当面の空腹は免れる位に腹を膨らませる。

 

腰にはバレないように戦極ドライバーを付けてある。戦極ドライバーにはひまわりの模されたロックシードを付けている。

 

ガサガサッという音がしたので、ベルトを隠しながら起き上がり音のした方を見つめる。

 

見つめた先には綺麗なツインテールの金髪が片方だけ見えていた。

 

「フェイトか?」

 

手を背中に回していつでもブレイクガンナーを抜けるようにしておく。

視線の先から出てきたのはやはりフェイトだった。

 

「えーっと・・・久しぶりだね、幽雅」

 

彼女——フェイト・テスタロッサは思い込みの一方的な再会を果たした。

 

——————————————————————————

 

草の生い茂っている場所に、幽雅とフェイトは隣合わせで座っている。フェイトは俯いているが、幽雅は何と感じていないような目で、海を見ている。

 

この状態になってからはや三分、未だにこの二人には会話がない。

ただそこにいるだけの空虚な時間が続く中、幽雅が話を切り出す。

 

「お前は、魔導師なんだってな」

 

「・・・うん。あの子達から聞いたの?」

 

案外驚かずにフェイトは答えた。前に見た男の魔導師のバリアジャケットを纏っていない姿が幽雅の服装と同じだったから、そこから聞いたのかもしれない、と考えたからだ。

 

「さぁな。少なくとも俺はあいつらとあまり話さないし、仲良くはない。精々仲がいいやつは、お前と読書娘だけだよ」

 

「読書娘?」

 

ただの本好きだよ、と苦笑しながら幽雅は答える。フェイトは心が好調してきた。自分でも理由は分からない。幽雅が先程の言葉を言った瞬間から、顔が熱くなり、心臓がバクバクと動いていく。だがそれと同時に、胸が苦しくなった。幽雅が読書娘、と言った瞬間に自分の心に黒い靄のような物が掛かってきた。

 

「それで、その傷はなに?」

 

幽雅がフェイトの服の隙間から見える傷を指指す。

この傷はフェイトの母、プレシアが付けた傷。プレシアからの命令であるジュエルシードの回収が思うように進んでいない罰。

 

〈フェイト!ジュエルシード、見つけたよ!〉

 

自分の使い魔であるアルフからの突然の念話。ジュエルシードはおそらく既に発動しているだろう。だが今は目の前にいる幽雅をどうにかしなければならない。

 

「えーっと・・・」

 

「ハァ。いいよ。答えないでも。その代わり今度また俺の家に来い。傷の治療位はしてやる。用事ができたんだろ?早く行けよ」

 

「その・・・ありがとう」

 

幽雅の気遣いに軽く言葉を返して、すぐに人目のないところまで向かう。

残された幽雅は戦極ドライバーを外して、ブレイクガンナーを手に取る。

 

「ごめんな・・・・・・フェイト。

 

 

 

 

 

変身」

 

《Break up》

 

ブレイクガンナーのマズルを押す。声の低い機械音声と共に、幽雅の周りをバイクのジャンクパーツが回転してまとわり付いていく。

 

既に幽雅の姿はなく、そこにいるのは異形。

紫と銀、黒のボディでジャンクパーツの寄せ集めのようなアーマースーツ、右目はパーツで隠れており、残った左目は怪しいオレンジ色に輝いている。

 

 

 

————ロイミュードの死神、魔進チェイサー。

 

チェイサーはどこからかやってきたライドチェイサーに乗って、魔力のある方へと走っていった。

 

——————————————————————————

 

数分前

 

「アレは、ジュエルシード!」

 

海鳴臨海公園。ここになのは、当麻、美結は来ていた。

ジュエルシードの発動場所がたまたま近くだったので、フェイトよりも早く来ることが出来た。

 

「俺が援護するから、二人はそのうちに封印を!」

 

赤い弓兵の服を纏った当麻が弓を作り出して指示する。なのはと美結はお互いのデバイスを構える。

 

「行くよ!レイジングハート!」

 

《All right》

 

「行くわよ!サファイア!」

 

《はい、マスター》

 

ジュエルシード、木の怪物は奇声をあげながら腕のような根を振り回す。美結は得意の高機動で腕を掻い潜っていく。なのはは遠距離からの砲撃で牽制する。

 

「ディバイン——シューター!」

 

「くらえ!」

 

なのはがデバイスのレイジングハートを振るうと、周りにピンク色の4個のスフィアが形成される。形成されたスフィアは木の怪物目掛けて、ピンク色の軌跡を残しながらとんでいく。

木の怪物は腕を振るってスフィアを叩き落とそうとするが少し遅れて放たれた当麻の矢が腕に当たり、軌道がズレる。スフィアは木の怪物に当たり、煙を巻き起こして消滅する。

 

「こっちもやるわよ!」

 

《ソードモード》

 

美結のデバイス、サファイアが杖から魔力で構成された剣へと姿が変わる。

これが美結のデバイス、サファイアのシステム。マルチウエポンシステム。

 

美結は手に持った剣で木の怪物の腕を一本難なく切り落とす。サファイアは平行世界の狭間から魔力を持ってきて、所有者に無限の魔力を与えることが出来る。更に美結自身の魔力を流し込む事で、流した分だけ強力な攻撃ができるようになる。

 

「まだまだ!」

 

美結は返す刀で胴体を切り裂く。木の怪物の体に横一文字に傷が入る。

 

「美結!下がれ!」

 

当麻の声で咄嗟に後ろに下がる美結。その直後、頭上から魔力弾による砲撃が飛んできた。上を見るとなのはがレイジングハートを木の怪物に向けて構えていた。

 

「これで・・・!」

 

当麻が剣を投影すると、上から数多の魔力弾が飛来してくる。魔力弾は木の怪物に命中して、苦悶の声を挙げさせる。

 

魔力弾が飛来してきた方を見ると、そこにはフェイトがいた。当麻と美結がフェレットのユーノの方を見ると、フェイトの使い魔であるアルフに前を塞がれている。

 

呆然としている三人をよそに、フェイトは追撃を仕掛ける。自らのデバイス、バルディッシュを鎌の状態にする。

 

「いくよバルディッシュ。アークセイバー」

 

《Arc saber》

 

「レイジングハート!」

 

《shooting mode》

 

なのはも即座にレイジングハートの形態を変えて、木の怪物へと向かおうとする。当麻も二人に当たらないように、弓を構える。美結は魔力弾を放つ用意をしている。

 

そんな彼らの耳に、この場では相応しくない轟音が聞こえた。

 

——————————————————————————

 

「派手にやりすぎだな」

 

幽雅————魔進チェイサーは結界付近で一度バイクを止める。普通の人から見れば変わった様子はないが、魔力持ちのチェイサーから見れば、不自然に色が違う空間がある。

 

「上にもなにかいるな」

 

幽雅は見られたような感覚があったので上を見上げる。そこにはやはり何も変わらない橙色の空があった。

 

「俺も混ざらせてもらうぞ」

 

チェイサーはバイクを走らせて結界内部へと突入する。結界内に入ったチェイサーの目には4人の少年少女と、奥には木の怪物が見える。

 

木の怪物以外は突然現れたチェイサーを見て呆然としている。

 

「ぼんやりしているなよ」

 

《gun》

 

ブレイクガンナーのマズルを押してガンモードへと切り替える。そのままブレイクガンナーを奥にいる木の怪物へと向けて撃つ。

なのはもフェイトも美結も驚いている。なにせメリケンサックが突然、弾丸を射出したのだから。

 

チェイサーの射撃は木の怪物へと正確に当たる。

木の怪物は地面から根を引っ張り出し、盾のように展開する。

 

「おい、弓兵。あの根をどうにかしろ」

 

チェイサーがブレイクガンナーを構えながら当麻に目で訴えかける。確かに当麻にはあの根をどうにかする手段がある。

 

「わかった・・・!」

 

「当麻君!?」

 

美結が当麻のことを止めようとする。当然だ。突然現れた異形の人型の命令をそのまま実行するのだから。

 

「I am the born my sword」

 

当麻の手に一本の剣が現れる。その剣を当麻は持っていた黒弓に番えて、更に詠唱する。

 

「我が骨子はねじれくるう!」

 

弓につがえられた剣が捻れる。その剣はある英雄が使用していたものを、弓で撃てるように調整されたもの。

 

「カラドボルグIII!」

 

当麻が剣を放つ。その剣は地面を抉り、木の怪物へと一直線に進んでいく。木の怪物は根にあたる直前にバリアを張る。だがその程度で英雄達が使ってきた武具の模造品は止まらない。バリアを貫通して根に突き刺さる。当麻の攻撃はまだ止まらない。

 

「《壊れた幻想》」

 

当麻が更に詠唱すると、矢に込められた魔力が爆発して、根の盾に大穴を開ける。

それを見届けたチェイサーは、どこからかやってきた、銀色のバイラルコアをブレイクガンナーに装填する。

 

《Tune chaser spider》

 

チェイサーの右腕、ブレイクガンナーを中心に銀色の盾が合体したような無骨な弓、ウイングスナイパーが付けられる。

 

チェイサーは更にマズルを押し込む。

 

《execution full Break bat》

 

ウイングスナイパーが背中に繋がり、コウモリのような羽となる。チェイサーは飛び上がり、穴の奥にいる木の怪物へと飛んでいく。

そしてある程度の距離まで行くと、体勢を変えて跳び蹴りの状態となり、一直線に木の怪物へと飛んでいく。

 

木の怪物はバリアを張ってチェイサーの跳び蹴りから身を守ろうとするが、何も無かったかのように破壊される。

 

チェイサーの必殺技、エグゼキューション・バットは木の怪物へと当たり、ジュエルシードを残して爆散する。

 

余りにも強力無慈悲な攻撃に、なのは達は固まるが、なのはとフェイトは役目を思い出して、ジュエルシードを封印しようとする。

 

当麻と美結はチェイサーを睨みつけている。

 

チェイサーはバイクの方へとゆっくりと歩き出す。チェイサーの向かう方向には当麻と美結の二人。

チェイサーはウイングスナイパーを解除して、ブレイクガンナーを手に歩く。

 

そして右手に持ったブレイクガンナーを当麻達に向ける。

 

「俺と戦え。俺の目的のためにな」


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