リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
市街地での戦闘から翌日。
いつも学校で元気にしている当麻は、この日は少しいつもとは違った。授業中もどこか上の空。友達と話している時も、いつもの明るさは出ていなかった。
当麻自身このことを理解している。原因もだ。
市街地での戦闘の時に現れた仮面ライダー武神鎧武。
理不尽なまでの圧倒的な強さ。腕に少しは自信のある当麻をいとも簡単にいなし、隙をついた攻撃。
自信の投影で作った干将・莫耶を受け止めもせず、ただ立っているだけで破壊してみせた防御力。
仮面ライダー全員が保有する必殺技を使わずに自分を倒した強者。
そして薄れる意識の中で聞いた、『運命に抗う愚か者』という声。
当麻はこの世界に転生することになってから感じたことは親への申し訳なさだ。今まで育ててくれた親に対して何一つ恩返しができなかった悔しさ、悲しさ。
だから当麻はこの世界で悲しい運命や、誰かを悲しませる要因をなくそうと、最大限努力してきた。
5歳の頃に公園にいた高町なのはの親、高町士郎は助けられなかった。
特典として貰った《無限の剣製》を駆使してもどうしようもなかった。だから今度こそは誰かを助けようと思った。
そして公園で泣いているなのはを見つけて家族関係の問題を解決へと手伝ってあげた。
その次の日になのはに会い、感謝された。
当麻はそのことをとても嬉しく思えた。だから今度は全員を救おう。死ぬ運命にある人も、何かを失う人も、全て手遅れになる前に全て救おうと。
今回の戦闘も、撤退していくフェイトを美結と共に捕まえて、黒幕であるプレシア・テスタロッサのいる『時の庭園』まで連れていってもらい、ジュエルシードを集めるのをやめてもらうように説得するつもりだった。
そして鎧武が現れた時、無理矢理戦闘になったがどうにでもなる、と思った。自分が転生してから学んだ武器の取り扱い、投影の練度、武器の使い手の憑依経験。
その全てをやれるだけのことをしてきた。
だが鎧武相手には何も通用しなかった。
投影した剣は鎧に阻まれ、自分の技術は通用しない。
どうすればいいかわからなかった。
自分の今の人生を全て使って呆気なく負けた事実。
恐らく原作に関わってくるだろう武神鎧武。
次は勝てるだろうかという焦り、焦燥、敗北感、恐怖。これらの感情が当麻の心を支配していく。
その日当麻は、学校を早退した。
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「衛宮当麻、伸び代はあるな」
家に帰り変身を解いた幽雅は当麻に当てられた剣の部分を撫でていた。幽雅の体には少し痺れが残っている。
当麻が当てた渾身の一撃は鎧武と幽雅に外傷面でのダメージは与えなかった。
だが斬られた部分からは痺れが残っている。
「この程度ならどうにでもなるか」
軽く肩を回して確認する。
「また一仕事か」
戦極ドライバーをアタッシュケースにしまい、別のアタッシュケースからベルトとブレスレットを取り出す。
ベルトを腰につけ、イグニッションキーを回す。
《Start your engine》
どこかから飛んできたシフトカー、シフトネクストをブレスに装填してレバーと化したシフトネクストを押す。
《DRIVE! type NEXT!》
ベルトから発音のいい英語が聞こえてくる。
幽雅の周りにタイヤが飛び回り、幽雅の体を黒い青の線が入ったボディースーツが覆っていく。
ドライブの体に襷掛けで黄色いタイヤが付けられる。
————未来から来た追跡者、仮面ライダーダークドライブ。
「頼むぞ、ディメンションキャブ」
飛んできたディメンションキャブがクラックションを鳴らす。
すると、いつの間にかドライブの姿はなくなっていた。
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「フェイトはちゃんと持ってくれていたみたいだな」
くぐもった声が響く。ドライブが移動した場所は時の庭園のプレシアの拷問部屋となっている部屋。
その部屋にはプレシア・テスタロッサと傷だらけのフェイト・テスタロッサがいた。
「さっきぶりだな。俺の名はダークドライブだ」
「自己紹介はいいわ。貴方はどこから来たの?」
プレシアがドライブの前に立ち、体から電撃をほどばしらせる。プレシアの魔力は雷と変換され、ドライブへと襲い掛かる。
「頼むぞ、お前達」
ドライブが呟くと、いくつもの道路が現れる。道路の上にはシフトカーが走り、プレシアの雷を弾いていく。
「貴様の目的はなんだ?」
ドライブがブレイドガンナーをプレシアに向ける。プレシアは自分が恐怖で足が震えていることに気づかない。
「早めに答えろよ。生憎だが、俺の気はそこまで長くはないぞ」
ブレイドガンナーをガンモードにして地面を二回撃つ。
「私の目的は、娘であるアリシアを蘇らせることよ!」
「そうか」
プレシアの目的を聞いてドライブは落胆した様な声を上げる。ドライブはもう興味が失せたのか、ブレイドガンナーを下ろしている。
「貴様の『悪』に興味を持ったが、もう失せた。貴様の程度は実にくだらない」
「ッ!」
自分の目的をくだらない、と言われてプレシアは身を乗り出そうとする。だがその行動はダークドライブが投げたものをキャッチする事で止まった。
「どうしょうもない時はそれを頼れ。人を超えた力が手に入る」
プレシアに投げたそれは青いメモリのような形をしていた。それをプレシアはマジマジと見つめる。
「運命に抗うことが出来るか・・・見さてもらうぞ」
《ZONE》
ドライブは色が違う、同じようなメモリについているスイッチを押すと、その姿は消えた。