リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
フェイトが家に来てから数週間後。
幽雅は最近になってからよく感じる魔力が鬱陶しかった。本を読んでいる時や寝ている時などは本当に面倒だった。使い魔を飛ばしたり、自分で見に行ったりすると変な怪物と高町なのはと衛宮当麻、夢原美結が戦っていたりする。
当麻は幽雅の知っている衛宮士郎よりも格段に強かった。剣の才能があり、魔力もある。まさに完成系となっている。
美結に関しても、魔法の一つ一つが砲弾並の威力があり、尚且つそれを連射する。更に少しだが近接戦闘もこなしている。
この2人は幽雅にとっては予想以上の実力があった。幽雅はこの2人の評価を改めて、自分に一番デメリットが少なくなるか、計算し直した。
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図書館。
ここは幽雅がよく来る場所だ。幽雅がここですることは二つ。自分の知っている歴史と、この世界の歴史との違いを確かめる。
かつて幽雅が転生した世界の一つに、全く歴史が違う世界があった。
例えば、本能寺の変で織田信長が自ら腹を切って本能寺で焼け死ぬのが本来の歴史だが、ある世界では織田信長は死なずに、逆に襲撃してきた方が全滅したという歴史をを残していた。
つまり歴史の勉強がしたいだけ。神話も込みで。
二つ目は過去の事件。過去、幽雅がこの世界に来るまでに起きた不可解な事件。特に突然連続で事件が起こったにも関わらず、少したったらすぐに何の証拠も残さず消えてしまった事件。この世界に幽雅以外、本来のライダーがいるかどうかの検証。ありとあらゆる新聞や都市伝説等の書物を片っ端から読み漁っていた。
幽雅はとりあえず読み終わった本を返そうと、元の本棚へと向かう。静かで心地がいい。
本棚と本棚との間に、背伸びしている同年代の女の子を見つけた。どうやら本を返すのに手こずっているらしい。
女の子はミニスカートで背伸びしているため、いつ見えてもおかしくない。さらにその場所には幽雅が返そうと思っている本棚もあった。
「ほれ、貸せよ」
「えっ?」
見ていられなくなった幽雅は女の子から本をとって自ら本棚へと入れる。それと本命で自分の本を棚へと戻す。
「じゃ、俺はこれで」
それだけ言って幽雅は立ち去ろうとする。何か嫌な予感がするのだ。この少女に関わると、何か自分にとって不都合なことが起きるかもしれないと、幽雅の感が言っていた。
だが現実はそう甘くはない。
「待って」
言葉と共に幽雅は腕を引っ張られた感覚がしたので振り返る。予想通り、少女が幽雅の裾を引っ張っていた。
「何?」
「お礼言ってなかったから。————ありがとうって」
ありがとう————この言葉は幽雅の胸に突き刺さった。久しく聞いていなかった言葉。自分の口からも発することは無かった言葉。
目の前の少女には当たり前の言葉かもしれない。
だが、幽雅は今にも涙腺が崩壊しそうな程、心地の良い言葉に聞こえた。
「あ、ああ。黒崎だ。黒崎幽雅」
「うちの名前は八神はやてや。よろしく、幽雅」
それからは何でもない話をして別れた。その時の幽雅の心は自分でも清々しいほどの上機嫌だった。