リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
「どうにかして間に合ったか・・・。まぁ、あの怪物を相手にするのは骨が折れそうだが・・・」
幽雅が一度隠れ家に戻り、『とあるベルト』を持ってきた頃には、闇の書の闇は完全な特撮系怪物へと変貌していた。
幽雅はギリギリ認識されないであろう場所に行き、メテオスイッチを取り出し、神へ連絡する。
『いやぁ、第2期も終盤だけど・・・なにか相談ごとかい?』
「知っているなら話してもらうぞ。はやての救い方を」
神の軽薄そうな声を流し、幽雅は怪物の心臓部と思わしき部位を見つめる。
『彼女は今はあの怪物の中に入っている。正確には、細かい魔力に分解されて入っているんだけどね』
「助ける方法は?」
『君の持つ武器で貫けば、いけるんじゃないのかな?それに、今回はあのベルトを使うつもりでしょ?』
「お見通しなんだな」
『これでも神だから』
ワッハッハ、という笑い声を聞き流し、幽雅は懐にあるベルトを、服の上から触れる。
『最後にサービスだ。君の大切なフェイト・テスタロッサは、あの怪物の力で夢の中だよ』
そう言い残し神は通話を切った。幽雅はあたりを見渡すと、確かにそこにはフェイトがいる。まるで物のように。
「夢・・・希望・・・」
幽雅が持つ一つの指輪。それは一度も使ったことがなく、仮に今回のことで使えるかすら分からない。
「やれるはずだ。ワイズマンは・・・絶望と希望を司るライダーだ。たとえ偽者の俺が扱ったとしても、変わらないし変えられない」
《シャバドゥビタッチヘンシーン》
《チェンジ ナーウ》
鐘の音と共に幽雅の姿がワイズマンへ変わる。今までとは違い、幽雅は今回戦うのではなく、助け、希望を与える。
かつて世界に幾多もの絶望を与えてきた幽雅は、たった一人の自分を変えてくれたかもしれないモノのために戦う。それは始めてのことであり、今後の幽雅に多大なる影響を与えるだろう。
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目を覚ますと緑が目に入る。フェイトは周りを見渡し、目を見開く。フェイトが見た方には既に死亡したフェイトの母親、プレシア・テスタロッサが座っている。
更にはプレシアの傍には、かつてフェイトのデバイス、バルディッシュを作成した使い魔のリニス。
分かっている、これは夢だと。だがフェイトにとっては甘美でいつも夢見ていたこと。
「何してるのフェイト?早く行こうよ!」
後ろから来た人物に腕を掴まれる。掴んだのはフェイトのオリジナルとも言える人物、アリシア・テスタロッサ。
夢に逆らえない。この夢はフェイトが心の底から望んだこと。家族と共に生きていきたい。
アリシアに腕を掴まれながらプレシア達の元へ向かう。分かったのだ。これがフェイトの一番の幸せの形だと。ならばこのまま夢を見続けていてもいいではないか。
フェイトにとって家族とは麻薬と同じ存在だ。今ではリンディやクロノという義理の家族がいるが、それでも最後まで愛していたプレシア達には勝てない。
フェイトがプレシアに向けて手を伸ばす。それと同時に、この甘美なる最愛の夢に、亀裂が生まれた。
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「フェイト!起きなさいよ!フェイト!」
美結がフェイトのことを揺らす。フェイトは闇の書の闇の魔法により、夢に飲み込まれた。眠り続けている時間が原作よりも長い事で、戦闘時間が伸びていく。
ただでさえ原作よりも強力と化した闇の書の闇で大量の魔力を使わなければいけないのに、アタッカーが一人減った。
フェイトは置いておくことなど出来るはずもなく、魔力に制限がない美結がフェイトの事を守り続けている。サファイアの防御魔法は何度も砕け、その度に張りなおしている。
今も尚、当麻となのはは戦い続けている。だが戦場を舞っていた剣も数が減り、ピンク色の砲撃も医療が減少している。
美結は万能型だ。それ故に戦闘に特化しているわけでもなく、悪く言えば中途半端。
当麻は近中距離のエキスパート。なのはは砲撃の名手。
フェイトだってそのスピードは目を見張るものがある。
だが美結の心を蝕んでいるのは彼らではなく、たった一人の転生者。自分と同じ万能型なのに、自分とは違い完璧に全てをこなす。
自分だって戦いたい。でもダメなのだ。中途半端な自分で。彼らの足を引っ張ることしか出来ないのだ。
『マスター』
「分かっているわ。サファイア、ありったけの魔力を全部防御魔法に注いで。強度じゃなくて、何回でも張れるように」
「邪魔するぞ」
「——!?」
突然魔法陣から現れたのは白い魔法使い、仮面ライダーワイズマン。
「今更、何のようかしら?」
「お前に用はない。どけ」
フェイトを庇うように立つ美結をワイズマンは押し退け、フェイトの傍まで行き、しゃがみ込む。ワイズマンは胸についている幾多もの指輪の内の一つを手に取る。
「すまないフェイト。お前の希望を、俺は砕く。恨んでくれても、憎んでくれても構わない。それでもいい。だから————
————俺にお前を、救わせてくれ」
《エンゲージ ナーウ》
フェイトの指に指輪を嵌め、ワイズドライバーに翳す。するとフェイトの身体の上に魔法陣が現れる。
「あなた・・・何を?」
「夢原、フェイト・T・ハラオウンを守り抜け」
「私には・・・無理よ」
顔を下げ、悔しそうに怒りが混じったように呟く。分かっている、この怒りは八つ当たりだと。
「お前ならできる。最後まで、希望を信じ抜け」
ワイズマンが魔法陣へと入っていく。魔法陣が完全に消えても、美結は下を向き続けている。
「・・・知ったような事言わないでよ。私は・・・私は・・・」
『マスター・・・』
美結が顔を上げる。美結の双眸には今までとは違う、決意の瞳となっている。
「サファイア、全力で守りきるわよ。せめて、私に出来る最大限のことを・・・!」
燻っていた炎がガソリンが投下されたかのように燃え上がった。
彼女は、夢原 美結は友人が戦い続けている限り、終わらない。