リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
思ったよりA`s編が短くなることが分かった。
ヤバイ、空白期どうしよう・・・
最後に涙を流したのはいつだろうか。
擦り切れ、磨耗された記憶には、涙を流した記憶がない。涙だけじゃない。心の底から笑ったのはいつだろうか。誰かの悲しみを、正面から受け止めたことはあるのだろうか。
分からない。
生と死を繰り返し、先の見えぬ輪廻で蠢く自分はなんだ?
『俺』と『僕』、どちらが本物だ?
顔も覚えてない両親に愛されてきたのはどっちだ?
そんな記録はもう残っていない。
何故こんなに苦しいのだろうか。胸が痛むのだろうか。
その答えを、人間性が消えかかっている俺は、永遠に知ることは無い。
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「大分面倒なことになっているようで」
幽雅がいるのは何度目かもわからないビルの上。ここらでは高い方のビルに登ったので夜景が綺麗に見える。
その奥にあるドス黒い魔力も。
「俺もやらなきゃダメか————ッ!?」
幽雅が言いかけるとその場から飛ぶ。その瞬間、幽雅がいた場所に魔法が叩き込まれた。幽雅は器用に空中で回転して着地する。
幽雅がいた場所には二人の仮面の男が立っている。
「俺の真似か?悪趣味すぎて笑えないぞ」
幽雅が右拳を前、左拳を後ろにファイティングポーズをとる。仮面の男達もそれぞれが構える。
「ハァッ!」
幽雅が仕掛ける。仮面の男達は二人に分かれる。幽雅が見た限り格闘に優れているのは片方、残った方だけ。
仮面の男は幽雅の拳を紙一重で躱すら幽雅の予想よりも速い拳に驚きながらも体を捻り蹴りを入れる。
幽雅は持ち前の背の低さを利用してしゃがみ込むことで回避。立ち上がり肘、膝、腹部、関節と言った様々な部位を掌底のみで攻撃する。
体を回し、足を組み替え、反撃を流し、的確な部位を割り出す。幽雅の武術は我流だが、幽雅は別に武術をしていない訳では無い。
幽雅はボクシング、空手、合気道、柔道、八極拳、カポエラ、ムエタイといった様々な武術に精通している。その中で、自らが最も得意とする部位を切り取り、結合させ、戦闘の中で最適化させてきた。
幽雅の掌底が仮面の男の肘にモロに当たる。肘からは骨が折れた音が鳴り、ただ折れただけでは起こらない激痛もする。
「そら、次だ」
今度は掌底に見せかけての横腹を狙った横蹴り。銃弾、とはいかなくてもかなりの速度で叩き込まれた蹴りの感触は、常人ならば倒れて当然の威力を誇る。
「見えてんだよ」
もう1人の仮面の男が放った魔法をバク転で避ける。幽雅がまともに立ち前を見ると、仮面の男が仮面の男を庇っているというシュールな光景が広がっていた。
「どうやら、時間切れのようだな」
幽雅が仮面の男達の後方を見てその場から飛び跳ねる。すると仮面の男達にバインドの魔法がかかり、幽雅のいた場所をバインドが通った。
「久しぶりだな。クロノ・ハラオウン」
「黒崎 幽雅。君を逮捕する」
スーパークロノタイムが始まる。
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「グゥっ!」
「当麻君!」
幽雅から離れた場所。そこでは激戦が繰り広げられている。当麻の投影をものともせずに魔法を放ってくる闇の書の闇。
美優が援護するも、相手との実力差が現れすぎて通用しない。
「ディバイン——バスター!」
なのはの新調されたデバイス《レイジングハートエクセリオン》からピンク色の砲撃魔法が放たれる。なのはのレアスキル《収束》を通して放たれた砲撃は闇の書の闇に回避を選択させる。
「シュート!」
美優の持つサファイアから蒼色の魔力弾が放たれる。なのはの砲撃とはいかなくてもなのはの魔法と違い数が桁違い。
『Diabolik emission』
闇の書の闇が腕を掲げるとドス黒い魔力が集まる。集まった魔力は弾け飛び、魔力弾を消し去っていく。美優は不敵に笑う。彼女の本命は別にある。
「『我が骨子は捻れ狂う』・・・・・『赤原猟犬』!」
背後に待機していた当麻が黒弓で赤い矢を放つ。矢は獣のように不規則で生物的な動きで闇の書の闇の放つ魔法をくぐり抜け、本体にあたる。
「くっ!ダメか!」
当麻が歯噛みする。矢を撃った本人だから分かる。アレでは倒すどころか、ダメージすら与えていないと。
煙が晴れるとそこには変わらずに闇の書の闇がいる。闇の書の闇はダメージを与えた、と言うよりも攻撃を当てた、とういところに驚いているように見える。
「ほう・・・私に攻撃を当てたか。ではこれはどうかな?」
『Bloody dager』
「『熾天覆う七つの円環』!!」
鮮血のように放たれた魔法を、当麻が宝具で守る。だが『熾天覆う七つの円環』の花弁が次々とヒビ割れ、遂には全て砕かれる。
「ガアアアアアアア!!!!」
魔術回路から負荷が逆流し、当麻の体を痛めつける。魔術回路が熱を放ち、今すぐ倒れたくなる衝動に駆られるが、どうにかして意識を保つ。
今のを耐えたか。なら次は————ッ!」
闇の書の闇が言いかけるとピンク色の砲撃が飛んでくる。闇の書の闇は防御魔法で防ぎ、砲撃の方向を向く。
「当麻君はやらせないの!」
主人公は勝つまで終わらない。
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「弱いな。この程度か」
「グァッ・・・うっ・・・」
幽雅とクロノの戦闘。それは一方的なものだった。幽雅は変身すらせずに、ハーメルケインとウィザーソードガンでクロノを圧倒し、地に伏せさせた。
「まだ・・・僕は・・・まだ・・・」
「分からないな。勝てないことがわかっているのに、何故抗う」
立ち上がろうと身をよじるクロノを上から見下ろす。クロノには哀れみの目が向けられていた。
片や満身創痍で、片や無傷とはいかなくてもほとんどダメージはなし。
「僕が・・・管理局の執務官だからだ・・・!」
クロノが完全に立ち上がる。バリアジャケットは所々が破け、全身に激痛が走っている。だがクロノは倒れない。それは自分が管理局執務官であり、この事件に関わったものだから。
「そうかよ」
「グアッ!」
幽雅のハーメルケインをデバイス『S2U』で防ぐ。だが体のダメージが限界に来ており、抵抗虚しく弾かれる。
「諦めろ。お前程度では俺には勝てない」
幽雅の言葉がクロノの胸に刺さる。クロノは地球に来て才能の差を知らしめられた。わずか数ヶ月しか経っていないのに自分より優秀な魔導師。
レアスキルを行使して自分よりも多くの戦術が取れる魔導師。
クロノは管理局で自分の力に自信があった。それは過大評価ではなく、客観的に見てそう思えた。だがその自身は無惨にも打ち砕かれた。
今もそうだ。目の前の少年はデバイスを使っていないのに、自分が負けている。クロノは劣等感に襲われる。
「ッ!・・・これは・・・闇の書の闇の魔力か?それにしてはさっきよりも・・・」
幽雅が高いところに上り魔力の方向を見る。そこには巨大な怪物がいた。
「アレは・・・マズイな。下手したら地球が消滅か?」
幽雅は闇の書の闇の状態を見て思考する。幽雅の持つライダーで、現在の状態の闇の書の闇に勝てるのは恐らく一つだけ。そのライダーは今生で一度も使ってなく、真の意味で切り札と呼べるライダー。
「クロノ、俺はアレを止めてくる。お前はどうする?」
「・・・・・・」
クロノは何も答えない。幽雅はそんなクロノを一瞥してこの場から離れようとするが、あと一歩のところで踏みとどまる。
「劣等感など抱くだけで無駄だ。そんなもので何も変われないし、変えられない。劣等感を抱き続けるのもいいが、少しは全部忘れて戦ってみたらどうだ?そうじゃないと壊れるぞ?」
クロノは「お前に何がわかる!」と叫びたくなった。だがそんな気力も残されておらず、ただ幽雅の言葉を聞いている。
「戦わないと大切な何かは守れないぞ。失いたくないなら、生き残りたいのなら、戦えじゃないと。後で後悔するからな」
それだけ言うと幽雅はどこかへと走り去っていく。取り残されたクロノは上半身を起こし、拳を地面に打ち付ける。
「分かってるんだよ。そんな事くらいは・・・」
「僕は僕が嫌いだ。こんな劣等感しか抱けない僕が・・・僕は心底大嫌いだ」
「でも死にたくはないんだ。死んだらそこで終わりだから。死んだら僕が僕を認められなくなるから」
クロノ・ハラオウンは立ち上がる。悔いのない結果を残す為に。
スーパークロノタイム、ここに再び。