リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
いつも幽雅は基本的には外食はしない。
体造りを日頃の日課にしている幽雅は自分でカロリー量を調整しながら、主婦も真っ青になるくらい自炊している。
そこに栄養バランスを気にする必要などなく、まさに日本の食事と言える。
これだけ言うと、幽雅が外食をあまり好んではいないように聞こえるが、別にそんなことは無い。
幽雅は自炊可能なら自炊する、と決めているので外食をしないだけなのだ。
つまり、自炊出来なかったら外食する、ということ。
そして幽雅が外食するのに当たって、最も多い例は、
「カンドロイドの整備のせいで材料買うの忘れてた・・・」
つまるところ、幽雅も人間なのだ。
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海鳴の都市方面にあるファミレス。幽雅は4人がけの席にたった1人で座ることにより目立っていた。
目立った理由は今の幽雅の姿が、チェイスということもあるだろう。
(本当にダミーメモリ様々だな)
食後のコーヒーを啜りながら、窓から見える人の波を見る。大勢より一人が好きな幽雅にとって、外の人混みは苦手そのものである。
そんな人混みの中、幽雅のいるファミレスに近づき、入ってくる一人の人間が目に付いた。正確には、その人間の髪色に。
そしてその人物と一緒にいる三人の人間も。
(何故いる?裁判が終わったからか?それなら何故、リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウン、それにフェイトとオペレーターまでいる?)
幽雅の目に付いたのは管理局にいると思われた四人。フェイトだけなら分からなくもない。だが何故、その他の三人がいるのかが分からない。
(今出たら危ない。ここは冷静に、奴らが居なくなるか、隙を見て逃げるんだ・・・!)
幽雅は少し目立つが、どこかにバイクを出して帰ろうと決意した。
しかし彼女達は幽雅の席の近く、8人用の席に座った。そして幽雅の人よりもすぐれた聴覚が聞き取った。
(あと四人来るだと・・・!?クソ、恐らく高町なのは、衛宮当麻、夢原美優にフェレットか・・・!)
これで幽雅は下手に逃げられなくなった。幽雅は変身する時、数瞬とはいえ今の姿、チェイスへと肉体を構成する。
更には子供の状態がチェイスを幼くしたような姿なので、下手しなくてもバレる可能性が高い。
(どうにかして他の四人が来るまでに店を出なければ・・・だがどうする?)
幽雅の座っている席からレジまではそれなりに距離がある。歩く時間、今着ている紫の派手な服、支払いの時間。
(姿を変える?いや、定員に何度も見られている。それにここは人の目があるから迂闊に姿が変えられない)
そして、悪魔が来る。
「えっと、待ち合わせしてるんですけど」
幽雅の耳にも聞こえたソプラノの声。間違いない高町なのはの声だ。その後ろには確かに他の三人の姿が見える。
(クソ!)
なのは達がフェイトたちの席に行くとき、必ず幽雅の座っている席を通る。つまり当麻や美優も一緒に通るということ。幽雅はなのはとフェレットならともかく、この二人から逃げる自身はなかった。
咄嗟に窓を向いて必死に顔を隠す。それと同時に誰とも繋がっていないスマホを耳に押し当て、あたかも電話中のような雰囲気を出す。
結果、四人は気付かずに通っていった。幽雅は安堵しながらも、店からでる隙を探る。
「始めにあなた達に伝えなければいけないことがあるの」
ふと、リンディの声が幽雅の耳に聞こえる。なぜ聞こえたかというと、彼らの雰囲気に反して、リンディが暗い声で話し始めたからだ。
「管理局上層部の決定により、『黒崎 幽雅』をロストロギア開発者として捕獲することが決定。並びに彼の持つロストロギアを全て管理局が引き取ることが決定しました」
「捕獲って、どうして!?」
(成程、リンディ・ハラオウンが地球にいる理由はそれか。高ランク魔導師であるコイツらを管理して、あわよくばコイツらの力を使って俺の事を捕獲・・・。そしてライダーシステムを量産させるって所か?
ついでに『お前の技術力を管理局のために使わせてやる。光栄に思って働け』とも言われそうだな)
その時は管理局を破壊するが、と考えながら彼女達の話を聞く。
「彼の扱うベルト、アレは私達の知らない未知の技術が使われています。そしてその技術がロストロギアと同クラスのもの、という名目で彼の技術力を本部が欲しているだけです」
(ハッ、その言い方じゃ自分は反対していますって感じだな)
幽雅は最後のコーヒーを飲み、どうでもよくなり会計のために歩き出す。
「いたのか、黒崎!」
やはり声をかけられる。声をかけたのは当麻。大声で叫んだせいで周りからの視線に晒される。
「どちら様だ?俺は黒崎なんて名前じゃないが?」
幽雅は白を切る。バレてることは分かっていても、幽雅本来の容姿ではないので、人違いですむ。
「聞いていたんですね、黒崎 幽雅君」
「あなた、半年間もどこへ行っていたの?」
リンディと美優が席に座るように目で訴えかけてくる。幽雅としては他人と貫きたかったが、既に逃げられる空気ではない。
幽雅は座らずに席の端に立つ。クロノは幽雅の事を睨みつける。当然だろう。今や幽雅はロストロギアを創り出せる管理局の敵の一人。執務官であるクロノの敵である。
「楽しい楽しい怪人退治。魔導師じゃ手も足も出ない・・・な」
「・・・ッ!」
遠回しに実力不足と言われて激昂するクロノをリンディが手で制する。
「俺を捕らえたいなら好きにしろ。まぁ、その時は手加減なんてする気はないがな。俺を撃つんだろ?ってことは撃たれる覚悟もあるってことだ」
幽雅の体から殺気が発せられる。事実、幽雅は手加減などしない。手加減や慢心は我が身を滅ぼすことを知っているからだ。
「俺が・・・お前を止める」
当麻が立ち上がり、幽雅を睨む。今の二人では体格差に大きく差があり、幽雅が当麻を見下ろすという形になっている。
「前みたいに引き分け・・・なんて出来ると思うなよ?」
幽雅の体は日々全盛期へと戻っている。足りない分の筋力や体力は戻り、衰えていた対人戦の勘も戻ってきている。
『壊れた幻想』を回避するなど、簡単すぎるほどには。
幽雅はフェイトを一瞥して店を出る。一言も話さず、常に幽雅を見続けていたフェイト。
二人は敵同士。
それをこの場で体現していた。法の番人のフェイト。法を正面から壊す幽雅。立場が水と油のように違う二人。
近いうちに、二人は戦う。お互いの意思をぶつけ合うために。
その前座が、この場で終わった。